14-21 閉会式と交流会
遅れて申し訳ありません。
本日もよろしくお願いします。
全ての競技が終わり、合同体育祭の閉会式が始まった。
開会式とは違って、応援席から直にフィールドへ降りて適当にわらわらと整列が行なわれる。女子高生たちからは、すでに祭りが終わった雰囲気が出ていた。
「優勝旗およびトロフィーの授与。総合得点1位風見女学園。代表者3名は前へ」
司会進行の案内を受けて、生徒会長、生徒会副会長、修行部部長が前に出た。風女で最も有名なのは命子たちだが、役職持ちを差し置いてまで目立つつもりはなかった。今日までみんなを率いて頑張ってきたコンちゃんや生徒会長たちに、花を持たせたいのだ。
新品のかなり立派な優勝旗を生徒会の2人が受け取り、修行部部長のコンちゃんがトロフィーを貰った。
「広げて見せてあげてください」
そう言われて、壇上で生徒会長がポールを持ち、副生徒会長が旗を広げる。その隣でコンちゃんが50cmくらいある金メッキのトロフィーを掲げた。
ワーッと風女の生徒たちが元気に拍手して、他の学校も祝福の拍手をしてくれた。なかなかにスポーツマンシップに則った光景である。
2位は三条が原、3位は黒泉、4位は六花橋、5位は聖姫森という結果になった。リレーで逆転の目はあったものの、全ての高校が精鋭を出してきたので力は拮抗し、大逆転はならず。
2位以下にはトロフィーなどはなく、1位だけ。しかし、ネット社会なので公式記録として残ることになる。
主催高校の代表として、六花橋のオジサン理事長が閉会の挨拶を行なった。
やはり多くの人が感じたように素晴らしい体育祭だったということを告げている。主催なのでオジサン理事長は鼻が高そうだ。
しかし、生徒や視聴者が期待するような、『来年もまた開きましょう』みたいな言及はしなかった。理事長が開きたいと思っても相手の都合もあるわけで、迂闊なことは言えないのだろう。とはいえ、スポンサーについていた多くの企業が大変に称賛しているし、返還して次の優勝校に渡すのが普通の優勝旗も風女に贈られたので、来年も視野に入れているのかもしれない。
「来年は東日本合同体育祭だな」
「ニャウ。毎年規模を大きくするデース。最終的に世界合同体育祭デス!」
「それはもう合同体育祭のレベルじゃないと思うんだけど」
命子たちの能天気なやりとりに、ナナコが呆れながらツッコンだ。
『このあとフィールドエリアが開放されます。各学校で交流を深める場として活用してください。また、アナウンスが入ったら自分の応援席に戻りましょう』
とお知らせが入り、閉会式は終わった。
続く交流会は1時間ほど取られており、フィールドエリアに残された女子高生たちはすぐにキャッキャを始めた。
お淑やかさレベルがそれぞれ違う5校だが、昨晩のホテルでは学校を越えたコラボ配信がたくさん行なわれていたので、そういう子が中心になって交流の輪が広がっていく。
「さ、笹笠さん!」
「あ、水無月さん」
「演武見てました。凄かったです!」
「わたくしも演奏をしている水無月さんを見ましたわ。とても素晴らしかったですわ」
命子のそばでは昔の級友とささらが交流を始めた。
お互いに開会式前に再会した時よりも楽しそうに話している。
「流さん、メモケットさん」
「「何奴!」」
ルルとメリスはシュバッと猫のポーズで声をかけてきた人物を迎え撃つ。
その人物は2人のテンションにたじろいだが、ゴホンと咳払い。どうやら黒泉の生徒のようで、外国人だ。姉妹校留学プログラムなどもあるので、別に不思議なことではない。
「アスレチックでピョンピョンしてた子デスね?」
「ニャウ。あれは良い動きだったでゴザル」
ルルとメリスは覚えていたようで、言われた子は嬉しそうに笑って交流を始めた。
「あ、あの、ナナコさんですよね?」
「え。あ、はい」
「いつも配信を楽しみにしています。わわわっ、ルナちゃん!」
すぐ近くではナナコがファンの子に声を掛けられている。
ナナコの頭に乗った精霊のルナが興味を示したので、ファンの子の目もキラキラだ。
ささらやルルとメリス、ナナコも交流を始めてしまった。
ちょっと離れた場所を見ると、紫蓮も件の暗黒堂ソアラと向かい合って電波を送り合っている。その場に居合わせているクラスメイトのキャルメや犬田は困惑の極みだ。
「ぬぅ、私も何かせねば。かっこ使命感」
「何が使命感だよ。ジッとしてればいいだろ」
命子の戯言に半眼で応えたのは、天邪鬼っ子のヒナタ。
「まあ見てなって。こういう時はこうすれば構ってくれるんだよ」
命子は交流の場の一画に視線を向けた。
そこではコンちゃんとドSメイドが、各学校の修行部部長や副部長と談笑していた。
命子はそこに向けてギンッと殺気を送り込んだ。
5校の修行部部長たちは頭を張っているだけあって強者揃い。命子の殺気を敏感に察知し、ほぼ同時に命子へ向けて構えた。
「バカなの!?」
「シッ! ここからシラを切り通すのもこのゲームなんだから」
「無理だろ。お前の目、ピッカピカだぞ」
ヒナタにそう言った命子はハッとしたような顔をして背後を振り返り、油断のない構え。まるで自分も被害者のような顔である。隣のヒナタは即座に他人のフリをし始めた。
そんな命子はすぐにドSメイドに捕獲され、脇の下に腕を通されてプラーンとしながら連行された。ヒナタはホッとして別のグループに混ざった。
連行された命子は、苦しげな顔で弁明を始めた。
「ち、違うんです。コンちゃん部長は悪くないんです。私が勝手にやったんです!」
「ちょっと待てぇい! 悪くないのになんで私の名前が出てくるの!?」
「あ……っ!」
「しまったみたいな顔すんなし!」
命子のお約束に他の部長たちはクスクスと笑った。それを見た命子は演技をやめて、ニコパと笑った。
「今の殺気は命子っちのだよな?」
「た〇ごっちみたいに言いますね」
三条が原のギャル部長の上盛が問うた。普段はギャルメイクで決めているが、今日は汗をたくさんかいたのですっぴん状態である。
「ちょっとした茶目っ気というか挨拶です」
「す、すみません、ウチの暴走特急が……」
コンちゃんがみんなに謝った。
「驚きました。私も殺気をぶつけることはできますが、羊谷さんはさらに指向性を持たせられるのですね。やはり森山嵐火先生の教えでしょうか?」
そう言ったのは聖姫森の修行部部長。和装に羽織姿でまさに女性剣士といった風体をしており、非常にカッコイイ女性だ。競技ではボール斬りと模範演武で活躍しており、その技術はかなり高かった。
たしかに命子の殺気を受けたのは部長や副部長の集団だけだった。他の生徒は気づきもしない。
「いえ、サーベル老師からは殺気のなんたるかを習いましたが、指向性については、こんな遊びばっかりやってたら身につきました」
「そうですか。遊びから……」
「ちなみにこんなふうに遊びます」
ちょうど見える位置に紫蓮と暗黒堂ソアラがいたので、命子はギンッ!
その瞬間、ソアラはハッとして深く身を屈めて髑髏の杖を構え、紫蓮は小さな火が灯った指鉄砲を命子へ向けてからゆっくりと視線を向ける。
「まあっ!」「ほう!」「おー!」とお嬢様の驚き方にはバリエーションがある様子。上盛は「すっげー!」だった。
「あ、有鴨さん、今のは?」
「殺気当てゲーム。羊谷命子の悪戯」
「ふ、ふぉおお、達人の遊び!」
一方、とうの紫蓮たちの話題に花が咲いた模様。
「さすがに名を馳せるお二人ですね。羊谷さん、我々の反応速度はどうでしたか?」
六花橋の京極総長が尋ねた。
「みなさん素晴らしい反応速度でしたよ。普通の子の反応ではありませんでした」
「なあ、命子っち。ちょっとアイツらにもやってみてよ。あたいの妹なんだ」
「いいですよ」
上盛が指さす先にいるのは、ギャルな見た目の上盛と違って真面目そうな子がいた。妹さんは周りで数人とお喋りしている。命子はギンッとした。
その場にいる4人の子たちが揃ってピクンと反応して、周りをキョロキョロと見回し始めた。だが、何が起こったのかはいまいちわかっていない様子。
「あれが普通の子の反応ですね」
「うーん、あれだけはっきり分かったのに、アイツもまだまだだなぁ」
「面白いですね!」
命子の説明に部長や副部長たちが揃って興味深そうにし、上盛は妹の練度にやれやれとして、聖姫森の部長は目をキラキラさせた。
「羊谷さん。それではあの子はどうでしょうか? 我が校の1年生です」
京極総長が言った。
「あの子はボール斬りに出ていた望月さんでしたっけ。たしか23個斬ったんだったかな?」
「まあ、記録まで覚えていてくださったのですね」
「ちょうど公式配信の解説役をしていたので、二刀流捌きに感心したんです。あとネコミミのインパクトが強かったです。じゃあちょっとやってみましょうか」
望月さんは二刀流のネコミミアクセをつけたロリっ子である。
その周りには他の学校の1年生もおり、楽しく交流をしているようだ。だが、命子は修羅なので楽しいとかキャッキャとか関係ねえ! ギンッ!
その瞬間、望月さんと黒泉の女の子が深く腰を落として構え、鋭い目つきで周りを警戒し始めた。他の子も何かを感じ取って周りを見回し、2人に遅れて念のために構え始めた様子。
「どこから殺気が来たのかはわからなかったようですね。でも、即座に構えられるだけ良い練度をしていますね」
「へえ、奥田さんはあれほどの腕前だったのか」
即座に構えた黒泉の生徒は奥田さんというようで、黒泉の修行部部長が初めて知ったと言ったように驚いている。
「ねえ、もしかして殺気でも飛ばされたの?」
一方、そんな望月さんたちに風女の2年生が話しかけた。
「殺気……は、はい、たぶんそうかと思います」
「じゃあ犯人はアイツね」
風女の生徒は的確に犯人を指さした。
そこには命子と、笑顔で手を振る京極総長や他部長たちの錚々たる面々。
望月さんはワーッと走って京極総長に駆け寄った。
「京極お姉様、お呼びでしょうか!」
その姿はネコというよりもまるでイヌ。
「ごめんなさいね、呼んではいません。でも、いま、羊谷さんにテストをしていただきました。素晴らしい反応で、みんなでとても感心していたのですよ」
「わぁ、じゃあ今の殺気はテストだったんですね!」
京極総長に駆け寄った時点でキラキラしていた目が、さらに輝きを増した。言っている内容は完全に頭がおかしいが。
それからも各校の部長たちにお願いされて、数組の集団に殺気を送る命子。美少女型殺気製造マシーンである。
「すごーい!」
近くで見学している望月さんのグループは、色々な人の反応速度を見てキャッキャ。各高校の修行部が試してほしいと紹介する子なので、みんな反応速度は物凄く早い。あまり察知できなかったのは、初めにお願いされた上盛の妹たちくらいだった。
「私もその技術を覚えなくては」
聖姫森の部長は清楚系キリリ剣士なのにこの遊びをとても気に入った様子。世の中に迷惑な人が増える予感。
「五円玉を糸で吊すんです。それを貫けるギリギリの距離で刺突の構えを取って、五円玉の穴に集中します。そうしたら武器をどんどん小さくしていって、シャーペンや楊枝で構えて殺気を放出できるようになると、最終的に無手でも殺気に指向性を帯びさせられます」
「秘伝の修行ではないですか」
「いえ、中二病の修行です」
それから部長たちがスマホで連絡先を交換し始めたので、命子もついでに交換してもらった。
地球さんがレベルアップする少し前に買ってもらったスマホだが、今では多くの人の連絡先が登録されている。命子はそれが嬉しかった。
『集合時間になりました。生徒たちは各学校の応援席まで戻ってください』
交流会の時間はあっという間に過ぎ、アナウンスが入った。
「もうそんな時間ですか。最後になりますが、みなさん、本大会にご参加くださり、誠にありがとうございました」
京極総長が深々と頭を下げた。
「こちらこそ良い思い出ができました。素晴らしい大会を開いてくださり、ありがとうございました」
「良い勉強になりました。来年も開くのなら、ぜひ本校にも声をかけてください」
黒泉と聖姫森の部長たちが挨拶を返す。
「場違いじゃないかなって少し不安だったけど、凄く楽しかったよ。京極っち、ウチを誘ってくれて本当にありがとう。みんなに良い思い出ができた」
上盛の素直な言葉に京極は嬉しそうに微笑んだ。
命子とドSメイドは期待を込めた視線で、最後となったコンちゃんを見つめた。
「凄く楽しかったです! また誘ってください!」
元気いっぱい!
「コンちゃん部長、小学生かよ!」
「これはお仕置きですね」
「アドリブに弱いんだよ!」
風女勢の騒ぎに京極総長は上品に微笑んだ。
「それもまた石音さんが見出した、人を引き付けるあなたの魅力なのでしょう」
コンちゃんはちょっとポンコツなところがあったが、ドSメイドを筆頭に多くの生徒と教師が盛り立てるように動いてくれた。
京極総長はそれをしっかりと理解しており、コンちゃんの手を握った。
「改めて、優勝おめでとうございます。お互いに来年は卒業してしまっているかと思いますが、また胸を貸してください」
「は、はい! 来年も頑張るようにウチのもんにしっかりと言っておきます!」
コンちゃんの元気なお返事と共に、2日間にわたる合同体育祭は幕を下ろした。
そして、この大会で特に得るものがあった生徒たちがそれぞれの高校に帰ると、マナ進化を始める光景が見られるのだった。
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