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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第14章

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14-20 学校対抗異種混合1200mリレー

本日もよろしくお願いします。


 新時代の乙女たちのお披露目会もいよいよ最後の種目になった。

 最終種目は、学校対抗異種混合1200mリレーだ。


 3学年混合で12人を1組として、それを3レース分の36人がひとつの高校の選手となる。1人100mを走り、12人で1200mを走るという塩梅だ。


 当然、ただのリレーではない。

 スタートはコーナーから始まり、まずは魔導書士によるクッション運び。種目でもあった魔導書にアイテムを挟んで走るアレである。魔導書に挟むクッションはバトンとは別物だ。


 2番手はアスレチックゾーン。向こう正面にあるアスレチックを使用したもので、見たままのエリアである。身軽なジョブが活躍しそうな予感。


 3番手は40kgのリュックを背負って走るゾーン。体力や筋力がつきやすいジョブに有利っぽいエリアだ。


 4番手は特にギミックや特殊ルールのないシンプルな走力勝負のエリア。陸上部が活躍する時。


 さらに、この競技は応援による選手へのバフ魔法が可能だった。特に音楽団の演奏は全体にバフを掛けられるので効果はかなりのものだ。


 これを3周分行なうのが1レース。それを3レース行なう。


 学校対抗リレーは最終種目なので、やはり花形的なポジション。

 設定されている得点も別格で、1位には150点、2位以下は20点ずつダウンしていく。それが3レース行なわれるので、総合順位がかなり入れ替わる可能性があった。

 いま、総合得点は風女がトップだが、風女が3レース全て5着の場合は普通に逆転される。


 そんな種目なので、どこの学校もメンバーは本気の選出だ。

 音楽団以外にもバフ魔法を使える人も重宝されるので、選手待機エリアへ一緒に入る。


「みんな、ここが正念場だよ! 気張っていこう!」


「「「おーっ!」」」


 自身も選手であるコンちゃん部長が、他の選手たちに檄を送る。


 各区間の走者が入場し、リュックを背負うような準備が必要な場合はセッティング。そして、バフ要員の子たちは、選手たちにそれぞれの手段でバフを掛けていく。


 紫蓮が生産魔法で武具に対して付与をする魔法を発見したように、世の中ではサポート系の魔法を覚えられるジョブがいくつか発見されていた。これはマナ進化していなければ解放されないジョブなのだが、例外もある。そのひとつが花魔法を操るヒナタだった。


「花よ、力を貸してくれ」


 花魔法は花から魔法を生み出すスキルだ。花から生み出される魔法は特殊なものが多い。

 ヒナタが持つカモミールの花が光り輝き、リュックを背負った走者を包み込む。


「わぁ、綺麗……」


 そう言ったのは聖姫森の生徒だった。おっとりとした見た目なのに重量区間を担当するらしい。


 そんな声を聞いたヒナタは照れくさくなったが、花魔法を覚えるに至った過去に囚われず、俯かずにグッと胸を張った。尤も、現在はジョブ『ファーマー』も花魔法を覚えるので、どういう経緯で覚えたかなんて相手からはわからないのだが。


「頑張れよ」


「は、はい!」


 ヒナタに声をかけられた1年生は、リュックを背負ってふんすぅ!

 さっきのおっとり女子に限らず、か弱そうな少女たちが重そうなリュックを背負っているので、ビジュアル的には心配になるものだ。


 カモミールから摘出される魔法の力は、進む力の増強。特に体に負荷が掛かっている時ほど効果を増す。リュックを背負って長距離を歩くことになるダンジョンでは、結構重宝される効果である。


 素晴らしい効果だが、他の学校のバフ使いも負けていない。筋力や体力を上げる魔法などが使われ、花魔法と効果は互角程度。

 一般系ジョブからダンジョンジョブに進化させた子もおり、チアダンスを踊ってバフを掛けている子もいる。


 フィールドエリア中央で5校の旗が一斉に上がった。

 それと同時に各陣営の応援席の最前列にいる音楽団の指揮官がキリッと表情を引き締めた。5本の旗が同時に振り下ろされると、各学校の指揮官が音楽団に演奏を始めさせた。


 曲は統一されている。5つの学校でバラバラに演奏したらよくわからないことになるからだ。

 ジョブの力を借りて腕を磨いた各学校の音楽団の演奏は大変に素晴らしいものだった。その演奏が選手たちに降り注ぎ、赤いオーラを身に纏わせていく。

 幸いにしてバフが掛からずに涙目になるような子はおらず、どの学校も生徒同士で絆を深めている様子。

 また、応援に来た観客席にもオーラが灯っている人がいる。親御さんやOGだ。こっちは娘や後輩とたしかな絆が結ばれていることにほっこりである。バフがかかってないお父さんなんていねえよなぁ?


 準備が整い、いよいよレースがスタートした。




「がんばれーっ!」


「「「フレフレ、黒泉! 頑張れ頑張れ、黒泉!」」」


「差せぇ! そこだ、いけーっ!」


「きゃーっ、抜かした!」


 音楽団のバフと個別バフを掛けられた選手たちが、たくさんの声援の中で凄い勢いでトラックを走っていく。生徒や観客だけでなく、教師も夢中で応援している。


 このリレーは普通のリレーよりも順位が逆転するポイントが多い。特にアスレチックゾーンはハラハラだ。

『走る』という効率的な答えが見つかっているものとは違い、アスレチックはどの選手も答えを見つけていないので順位が逆転しやすい。例えば、ジャンプによって生み出された運動エネルギーを次の動作へどのように変換するかなど、選手ごとにかなり違うのだ。


 1レース目は風女が1位。

 この時点で風女は総合得点が4位以下になることは絶対になくなっていた。


 音楽団が3分ほどの休憩を挟み、2レース目が始まった。


「我が軍は圧倒的じゃないか」


「うむ」


 後方腕組みをしている命子と紫蓮は、このあとの第3レースの魔導書区間で出場予定。


「やはり風女は強い」


 命子たちの背後でそう言ったのは、三条が原の中二病患者・暗黒堂ソアラだった。

 話に入ってくるとは思わなかった命子が顔を向けると、ソアラはもじもじした。彼女も第3レースの走者らしい。


「悔しいですが、2位以下を競うゲームになってしまいましたね」


「あ、高橋さん。さっきぶりです」


 さらに話に入ってきたのは、魔法射撃の会場で仲良くなった六花橋の高橋さん。これには紫蓮が人見知りを発動して、ソアラと一緒に並んで気配を薄くした。

 一方、陽の者である命子は普通に対応。


「風見女学園は田舎にありますからね。修行する場所には困らないんですよ。あとはまあ始めたのが少し早かったんでしょうね」


 悲報、羊谷命子さん、実は風見町が田舎だと知っていた!

 いや、違うのだ。命子も認めたくはないのだ。しかし、気軽にバカなことを言える間柄ではないので、仕方なく世間一般の意見を採用したのである。


 同じく修行場所がたくさんある地方女子高の三条が原や、お嬢様学校だけど大学と連携している黒泉も強い。

 風女を含めたこの3校は満遍なく育っており、手札が多いのだ。それに対して、六花橋と聖姫森は一部の生徒が突出している傾向がある。


「おそらく、来年にはもっと差が開いてしまうでしょう」


「やっぱり土地がなくて、修行が大変ですか?」


「はい。放課後に親に頼って移動するといったことをしていますから」


 サッカークラブなどに通うため、放課後に遠くまで移動するようなものだろう。午前中に行った魔法射撃場も、場所がない六花橋にとっては大事な修行の施設なのだ。


「これから入学する子の未来を考えるなら、もう少し土地を使える場所に移動させるべきなのでしょうけど。そうでなければ、六花橋はそのうち入学者が居なくなってしまいそうです」


「……もしかして、六花橋の学校を別の場所に移動させるために、今回の大会を催したんですか?」


「さすがですね」


 ふと思ったことを命子が口にすると、高橋さんは『やはり全てお見通しか』みたいな感じで小さく笑った。命子はポイントをゲットしてちょっと嬉しくなった。


「名門だから、親がその学校に通っていたから、そんな理由で人が来るような時代はもうすぐ終わります。全員を戦士のように教育するのはさすがにナンセンスですが、修行によって手に入る力は健康や美貌、多くの能力開発に結びつき、寿命や子孫の能力にすら影響しかねません。多感な時期にそれらを育む土地が身近にない学校というのは、これからの時代、魅力に欠けるものになると私たちは思っています。私もあの場所に3年間通った身ですので、少し残念ではありますけどね」


 命子は、はえーとした。

 自分たちが広々とした土地で駆け回り、棒をぶん回し、遠征土産の漬物をモグモグしている間に、六花橋の女子は自分たちの学校の未来を憂いていたのだ。これがお嬢様学校……っ!


「こんなことを言っていたのは内緒ですよ?」


「わかりました」


 悪戯っぽく笑う高橋さんに、命子は全てを理解している感じでキリリとした。こういう細かいところでポイントを稼ぐのだ。


 そうこうしていると、ドSメイドのミクノンが1着でゴールした。この組には韋駄天少女のえっちゃんもおり、圧勝である。

 風女はまたも1位。2位は三条が原。

 この時点で何があっても風女が総合得点1位から転落することは無くなった。


 ドラマチックを求める命子としてはつまらない展開だが、それだけ風女は強かった。

 高橋さんの言う通り、総合得点は2位を競い合う展開に。

 現在、2位は三条が原、3位は黒泉、4位は六花橋、5位は聖姫森。三条が原と黒泉の順位次第で、どの学校も2位になる可能性があった。




 音楽団の休憩が終わり、選手のスタンバイが始まった。


「紫蓮ちゃん、手ぇ抜くんじゃないぞ」


「うむ。全力でいく」


 3組目のレースのスタートは紫蓮から。


 命子は競技場を見回し、各陣営の最終組の面子を確認した。


「高橋さん。六花橋は最終レースに一番強い人を集めたんですか?」


「はい。順位はこのようになると想定していましたから。ですから、せめて世界トップクラスのあなた方と競うために、六花橋で最も冒険と修行を頑張った子をこの最終レースに集めました。どうやら他の学校も考えは同じようですね」


 高橋さんが言うようにそれは他の学校も同じで、体育祭の最後となるこのレースに精鋭中の精鋭を投入してきた。その面子を前の1、2レースに投入すれば総合得点的に優位に立てたかもしれないのに、なかなか漢気のある女子たちである。


 紫蓮が大外のレーンに立つ。

 大外なので他の選手よりも前にいる形だ。

 2冊の魔導書にクッションをしっかりと挟み、少し振って確かめる。


 音楽団の演奏が始まり、紫蓮の体にも赤いオーラが宿った。


「「頑張れ頑張れ、紫蓮ちゃん! へいっ! 頑張れ頑張れ、紫蓮ちゃん! はっ!」」


 風女のダンス部がチアの格好をしてボンボンをフリフリ。

 それによって二重のバフが掛かる。

 他の学校の1年生も同じように何らかのバフが二重掛けされて、ふんすぅと気合を入れる。


 レースがスタートした。

 その音と共に紫蓮の眠たげな瞳がギラリと光り、矢のように飛び出す。


 選手たちには陸上走りと冒険者走りの二通りの走り方があると命子は解説したが、紫蓮は完全に冒険者走り。それもアニメのような体を前傾にした戦闘走りだ。


 こ、これが有鴨紫蓮……っ!

 他校の1年生たちは紫蓮の背中に食らいつこうとするが、その差は少しずつ開いていく。まるで魔導書なんて操っていないような速さだ。


 大外でコーナーを曲がり、直線の入り口へ。

 アスレチック区間の入り口で待っているのは、キャルメ。4校が最終レースに精鋭を集めたように、風女も最後に情け容赦ない布陣をしていた。


「任せた」


「はい!」


 ノールックで後ろ手にバトンを受け取り、キャルメが走り出す。

 すぐさま傾斜の三角ブロックが左右に連なった飛び石ゾーンに入る。飛び石の下はふわふわキューブが埋め尽くされており、落ちてしまえば大幅なタイムロス!

 しかし、ここで落ちた子は誰もいない。もちろんキャルメも凄まじい速さで飛び越えていく。


 向こう岸に着くと同時に前回り受け身を取り、ほとんど速度を落とさずに走り出す。


 キャルメは背が低いので高低差のあるアスレチックは不利。しかし、その不利を覆すほどに、キャルメは体術の天才だった。

 アスレチックの最速の攻略に正解はまだ見つかっていないが、キャルメの動きは限りなく正解に近かった。


 自分の背丈よりも高いブロックを跳ぶように駆け、長さ10mの平均台を全力で走り抜ける。


 1年生で紫蓮とキャルメが出るのはズル!

 特にキャルメは、SNSで世界最強を語る時に必ず名前が上がるほどのチビッ子修羅。紫蓮が作ったリードにキャルメがさらに上乗せした。

 なお、世界最強を語る際のSNSは現代では珍しく滅茶苦茶荒れる。


「お願いします!」


「任せて!」


「頑張れぇ!」


 キャルメが1位通過でバトンを受け渡す。

 次は荷物持ち走者の1年生。自分が強化した1年生が走り出し、ヒナタが声援を送る。


 もうすぐ到着するバトンを見つめ、第5走者の命子は最後のストレッチ。頭の上にはクッションを挟んだ魔導書が浮かんでいる。


「命子ちゃん頑張れぇ!」


「転ぶんじゃないわよーっ!」


 チアダンサーがバフを掛け、命子はぴょんぴょんと状態を確認した。


「力が漲りおるわ!」


 第4走者との距離が10mを切ったところで命子は走り出す。


「お願いします!」


「オッケー!」


 パシッとバトンを受け取り、魔導書と一緒に全力疾走。


「シュタタタタッ!」


 短い足を忙しく動かし、コーナーを駆ける。

 やはり命子も戦闘走り。腕は振るものの、サーベルを差していればすぐにでも踏み込みから抜剣できてしまいそうな隙のない走り方だ。もはや語る必要もないほど巧みな魔導書制御により、その走りを妨げる要素は一切ない。


 命子が向かう先にはルル。

 ネコミミをピョコピョコしながら、大きな口をにんまりとして待ち構える。


 別のコースには4校の生徒がそれぞれ待機しているが、大外を通過していく命子の疾走を見ながらも、自分のチームメンバーの到着を今か今かと待っている様子。


 ルルがクルンと尻尾を向けて、走り出す。


「尻尾が邪魔なんですけど!」


「仕様デス!」


 そんな軽口を叩きながら、バトンが受け渡される。


 キャルメは体術の天才ゆえにアスレチックの正答を導き出したが、ルルは忍者系にゃんこの本能でアスレチックを踏破する。


「にゃしゅしゅしゅ! しゅばーっ、にゃしゅ!」


 金色の髪が激しい動きに合わせて弧を描き、お尻からにょっきり生えた尻尾があらゆる体勢のバランスを補助してクルクルと動く。


 長い足を躍動させてピラミッド型の3段ブロックを3歩でクリアし、魚雷のように頭から一気に下へと落ちていく。一番下のマットで華麗に受け身を取り、再び走り出す。


 風女の全力によって1位独走。

 一方で、2位から5位は大接戦だ。三条が原や黒泉が強いのは満遍なく育っているからであり、六花橋や聖姫森の突出した生徒、つまりこのレースに出ている生徒たちは、他の学校のトップ層と遜色ない能力を持っていた。


 第7走者のささらは荷物持ち。


「花よ、力を貸してくれ!」


 花魔法を掛けたヒナタだったが、ジーッとささらの胸を見た。

 このリュックは両肩といくつかの紐でしっかり背中に固定されているのだが、それによって胸がちょっと強調気味。どうなってんだこれ、とヒナタは思った。


「ヒナタさん、ありがとうございます」


「お、おう。まあ頑張れよ」


「はいですわ!」


 そんなことをしているとルルにバトンが渡り、ぴょんぴょんとアスレチックを飛び越えてやってきた。


「シャーラ!」


「ですわ!」


 ルルからささらにバトンが渡され、バシュンと加速する。

 いまのささらにとって、40kgのリュックを背負って100mダッシュをすることなんて、どうということはない。


「あんなおっぱいレギュレーション違反だろ」


「ヤバイな、ささらちゃん」


「横とか下からビンタしてみたい」


「チョップしたら谷間で真剣白刃取りされそう」


「こんなん快走やない、パイ走や!」


 風女の席では、40kgを持って快走をしている姿よりも、リュックの紐で浮き出したものに恐れ戦いた。

 そんなふうに思われているとは夢にも思わない真面目少女は一生懸命走り、次なる選手にバトンパス!


「メリスさん!」


「ま、任せるでゴザル!」


 メリスはおっぱいすげぇと思ったが、親しき仲にも礼儀あり。気持ちを勝負モードへ切り替えて、走り出す。


 第8走者のメリスはシンプルな直線区間。

 やはり戦闘走りをするメリスだが、忍者系は特にカッコイイ。世の中では忍者走りと言われる超前傾姿勢の走法だ。

 長い足で生み出される一歩は大きく、それでいて前傾姿勢なため、まるで地面スレスレで飛んでいるようにすら見える。そして、そんなメリスのお尻からは尻尾がにょろんと伸びて後方でたなびく。


「ネコバイクや!」


「あれがニャンWD!」


「メリス殿、頑張るのじゃーっ!」


「メリスお姉様いけーっ!」


 直線区間は風女の応援席があるエリアなので、たくさんの声援を受けながらメリスは疾走する。応援の中にはイヨや萌々子たちの声も混じっている。


 時代の最先端である命子のパーティメンバーとキャルメによって、2位との差は1区間分にも及んでいた。

 この後の3年生でこの差を縮められてしまうかと言えば、答えはノーだ。


 命子たちが作ったリードを3年生になった途端に縮められては、3年生の沽券にかかわる。だから、9走者目からアンカーまで、どの学校でもトップパーティに入れるくらいの能力を持った生徒たちが集められている。


 5校合同で行なわれるバフ合戦の音楽は折しもサビに入り、どの学校の音楽団も汗びっしょり。戦っているのは走者だけではないのだ。


 さらに半周して、11走者目の荷物持ち区間では風女の生徒会長チーちゃんがリュックを背負っていた。

 奉仕したい性格なのか責任感が強いのか、生徒会長はとっても頼りになる騎士系ジョブ。最近シックスパックがくっきりと出来ちゃったことがちょっぴり悩みの18歳の実力は確か。自由過ぎる修行部を御すために、そしてお小遣いを稼ぐために、生徒会長だって修行するのである!


 自分の体重とそう変わらない荷物を背負い、コーナーを激走する。


「コンちゃん!」


「はいよーっ!」


 ラストは修行部部長のコンちゃん。

 風女一足が速いわけではないコンちゃんだが、アンカーはやっぱり風女のリーダーでなければならないという意見によって、この場所を任された。


「いけーっ!」


「コンちゃん部長頑張れぇーっ!」


「「「きゃーっ!」」」


 応援席のテンションも最高潮。

 多くの声援がコンちゃんの背中を押し、1位でゴールテープを切った。


 コンちゃんはみんなが繋げてくれたバトンを高々と掲げる。


 それを見ていた命子はニッコリ。

 命子と同じ魔導書区間を走った風女の子たちも大はしゃぎ。


 だが、声援は終わらない。着順によって総合順位が大きく変わるのだから。


 特に六花橋と三条が原が接戦だ。

 六花騎士団の総長である京極が重い荷物を背負って11区間を快走したことで2位に。しかし、三条が原のアンカーはリーダーである上盛天子。見た目は完全無欠のギャルだが、この新時代にひとつの学校のリーダーをしているだけあり、その実力は現役女子高生のトップレベル。


 京極総長が繋げてくれたリードを守るために必死に走る六花橋のアンカーに、ギャルがじりじりと迫る。庶民もお嬢様も関係なく、応援の声が飛び交う。


 続々と他の高校のアンカーたちがゴールインしていく。4位は黒泉、5位は聖姫森という結果だが、2位と3位がほぼ同時となって写真判定に。


 六花橋と三条が原はドキドキだ。

 2校の生徒たちは真剣な顔で大型液晶を見上げており、この最終レースに挑んだ生徒たちへの信頼が厚いことが窺える。


 大型液晶に写真判定が表示され、2位が六花橋、3位が三条が原で決まると、六花橋の生徒たちはお嬢様とは思えない歓声を上げた。


「うきゃーっ!」


 魔導書区間の終わりで待機している命子のそばで、高橋さんが喜びの声を上げた。

 命子はビクとして、お嬢様もこんな声を上げるんだなと思った。


「あげっち……無念……」


 一方、三条が原の暗黒堂ソアラはしゅん!

 上盛の敗北に心の底から悔しく思っている様子である。


 命子が観客席や選手たちを見回せば、嬉しくてあるいは悔しくて泣いている子もいる。

 たかが体育祭。されど、みんなで頑張ってきた1年半をぶつけた戦いだったのだ。決して冷やかせるような軽い涙ではなかった。


「紫蓮ちゃん、良い体育祭だったね」


「うむ、楽しかった」


 命子と紫蓮はそんな生徒たちの様子を眩しく見つめるのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
学校移転を目論んでるけど、お嬢様学校(親OB含む)の権力・財力・知名度と現在の冒険者の財力(配信益)で周辺の地上げして回ったら案外大丈夫なのでは? 風女ほどではないかもだが多分配信登録者数や収益はえげ…
>全員を戦士のように教育するのはさすがにナンセンスですが つまり全員を魔法少女化しようとした風女はアタオカなのか、それくらいだからこその強さなのか。 最初から戦士志向の子を募集するのもありかと。 …
>我が軍は圧倒的じゃないか 何だろう、来年位に負けそうなフラグが立った気がする。 客観的なデータを踏まえつつも、それ以上に推したい感情をぶつけ合うのが最強議論だから基本荒れる
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