14-16 コラボ配信
本日もよろしくお願いします。
体育祭の夜、ファンタジア秋葉原の多目的ルーム。
そこでは女子高生と風女に雇われている撮影スタッフさんがテキパキと配信の準備を進めていた。20時から風女と六花橋のコラボ配信があるのだ。
風女からの出演は——
修行部部長、コンちゃん。
修行部永世名誉部長、羊谷命子。
修行部ペット枠、流ルル。
——以上、3人である。
この配信は六花橋が主導で行ない、それ以外の4校とそれぞれ25分ずつコラボする。
準備が進む中で、3人は少し離れて台本の最終チェック。
台本といってもどんな質問がされるかという程度のもの。25分なので大した質問はされない。
「コンちゃん部長、どんなノリでいけばいいの?」
「ウェーイってするデス?」
「相手はお嬢様だからウェーイなんてしたらビックリしちゃうよ。2人とも普段通りで良いからね」
「となると、修羅谷命子ちゃんモードか。むんっ!」
「劇画調デース!」
「なに食ったらそんなことできるの!?」
「部長、5分前です。スタンバイをお願いします」
コンちゃん付きのドSメイドから案内が入ったので、命子たちは席を移動した。
カメラのすぐそばにはディスプレイがあり、そこにはすでに六花騎士団の総長である京極と、副総長の子が座っていた。
『こんばんは、みなさん。本日はよろしくお願いします』
「あ、あ、あ。こ、こんばんは、よろしくお願いします」
「「ウェーイ!」」
緊張気味のコンちゃんの両隣で、命子とルルがすかさずダブルピース!
「それやっちゃダメって言ったでしょーっ!」
コンちゃんがすぐに2人のふとももを引っ叩いた。
そんな様子を見た京極はクスクスと笑う。
『とても仲が良いんですね』
「なんかすみません、コンちゃんがはしゃいじゃって」
命子が言うと、コンちゃんがむきーとした。
『それではお互いに準備が整ったようなので、そろそろ配信前の告知を行ないます』
両陣営ともにスタッフさんがSNS上に告知を飛ばし、チャンネルの待機場に視聴者が続々と集まってきた。
六花騎士団の公式チャンネルで行なわれる配信のため、命子たちにとってはそのコメント欄は見慣れないスタンプが流れていき、新鮮だ。
「このラーメンを食べてる京極さんのスタンプはなんなんですか?」
命子が問うと、京極は顔を赤らめた。
『それはその、私がラーメンにハマッてしまいまして……』
「ラーメン美味しいですからねー」
「ワタシは魚介醤油とんこつが好きデス」
『まあ、流さんは魚介醤油とんこつが! 私も煮干しや鰹節が利いたとんこつは大好きです!』
「私もとんこつ系かなー。そういえば、鎌倉の方では魚介系の魔物素材を使ったラーメンが増え始めたみたいですね」
『あっ、行きました行きました! 私はラーメンと出会ってまだ1年も経っていないのであまり通ぶったことは言えませんが、やはり魔味を含んだラーメンは別格に美味しいですね』
:総長がまたラーメンの話してる。
:すぐにラーメンの話するんだから。
:わかる。鎌倉近隣の魚介系ラーメンはガチで美味い。
:【京極のラーメンスタンプ】×5
:風見町のカラコロニワトリの鶏系ラーメンも美味すぎて泣いた。
いつの間にか配信は始まっており、視聴者さんたちからそんなツッコミが入った。
『きゃーっ、始めるなら始めると言ってください!』
顔を真っ赤にして慌てる京極を見て、命子は「あー、これは人気が出るわ」と思った。
顔を赤くしたまま京極は咳ばらいをして、配信を始めた。
司会進行は副総長の子が行なった。
『皆様、六花騎士団円卓会議にようこそおいでくださいました。議長は皆様ご存じ京極総長が、司会進行はわたくし氷室がお送りします』
六花騎士団円卓会議は、要するに六花騎士団の公式チャンネルである。
『本日は2時間スペシャルです。合同体育祭に参加してくださった六花橋以外の4つの高校とコラボ配信となっております。どうぞ最後までお楽しみください』
『それではさっそくになりますが、一番目のゲストはこちら風見女学園の皆様です』
視聴者さんの画面が二分割され、片方に六花騎士団の2人が、もう片方に命子たち3人が映された。
すかさず命子が自己紹介した。
「羊谷命子です! 好きなラーメンはとんこつ系です!」
「流ルルデス! 好きなラーメンは魚介醤油とんこつデス!」
両隣で即座に流れが作られ、コンちゃんはふぇええとした。
「修行部部長のコンちゃんです。す、好きなラーメンは牛乳ラーメンです!」
「おいおいおい、コンちゃん部長、めっちゃ通ぶるじゃん」
「べ、別にいいでしょ。好きなんだから!」
『ぎゅ、牛乳ラーメンですか? そんなものが存在するんですか?』
京極が食いついた。
『総長総長。ラーメン談義の配信ではありませんからね』
『はっ、そ、そうでした。あとで団員さんに教えてもらいます』
気を取り直して、ここからは京極が話し始めた。
ちなみに『団員さん』とは視聴者のことである。本当の団員は普通に生徒だ。
『まずは皆様、体育祭一日目お疲れさまでした』
「「お疲れさまでした」」「お疲れデス!」
『やはりお三方は大活躍でしたね』
これに対して、コンちゃんが答えた。
命子たちも誰が風女のボスなのか弁えているのだ。
「ありがとうございます。でも、今日みなさんと競い合って、どの高校も凄く頑張っているんだと実感しました。正直、そこまでの差はなかったかなと思います」
『そう思ってくださったのなら、それは風見女学園と羊谷さんのおかげだと私は思っています』
「私たちのですか?」
『はい。これは私個人の意見ですが、羊谷さんが修行せいしなくても、結局はレベル教育や冒険者制度はできたと思っています。ですが、それは賛成意見と反対意見が二分した遅々として進まない議論の末に決まる流れだったでしょう。おそらくは、これらの制度は日本ではなく別の国から始まったでしょうね。ですから、少なくとも我々がこの時期にこれほどの力を得ることはなかったでしょうし、合同体育祭を開けるような状態でもなかったはずです』
「そうですね。命子ちゃんが修行せいして、次の日には世界中が一気に動き出しましたからね。あんな雑魚そうな子でもあれほどの大活劇ができるのかって」
うむうむと聞いていた命子は、うむ? とコンちゃんを見た。
その向こう側では、ルルが命子を指さして声を立てずに笑っている。命子はその指を逆エビぞりにしつつ、コンちゃんに詰め寄った。
「ねえ、コンちゃん部長、いま雑魚って」
『レベル教育と冒険者制度が整備され、そのあとに風見女学園と風見町の皆様がその効果を世界中に知らしめました。私たちの学校でも、その頃には初代総長のレオナお姉様が私や学友を率いてダンジョンに潜り始めていましたが、風見女学園はそんなものとは規模がまるで違いました。風見町防衛戦の日、私はレオナお姉様や仲間たちと一緒に固唾を呑んでテレビを見ていたのですが、仲間を率いて戦った石音縁さんの姿は本当に衝撃的でした』
コンちゃんは石音元部長が褒められて、むふぅとした。
「コンちゃん部長? ねえ、いま雑魚って」
だから、命子からウザ絡みされても気にならない。
「うむぅ、風女は自分たちでライバルを作ったデスな」
『そうですね。今日、風見女学園と競い合えるのは、他ならない風見女学園の皆様のおかげだと私は考えています。そして、昨年度にレオナお姉様たち先輩方と青春を駆け抜けられたことを、私はとても感謝しているんです。皆様がきっかけを作ってくださらなかったら、ただ地球さんがレベルアップしただけの普通の学校生活を送っていたことでしょう。ですから、お礼を言いたかった。ありがとうございます』
それを聞いた命子はハッとした。良い感じのセリフを言うチャンスだと。
命子はコンちゃんの追い込みをあとにして、一瞬にして良い感じのセリフを構築して吐き出した。
「それは違いますよ。たしかに、きっかけは風女だったかもしれませんが、京極さんと一緒に青春を作り出したのは六花騎士団の子たちです。お礼なら一緒にいっぱい頑張ってくれている仲間たちに言ってあげてください。今日の活躍を見る限り、1年であれほどの練度になるにはたくさん努力をしたはずですから」
『羊谷さん……はい、その通りですね』
:これが大英雄……。
:いいなぁ、俺も誰かにお礼を言えるような青春を送りたかった。
:団員はみんな凄く頑張ってるからな、命子ちゃんの言う通りだ。
六花騎士団を応援している団員さんも、これには思わずジーンとした。
一方、ルルとコンちゃんは、マジで口が上手いなと思いつつ、こういう場でこれほど頼もしい味方はいないと思った。
氷室が言った。
『それでは、ここからは本日の振り返りをしていきましょう』
『そうですね。皆様、本日を振り返っていかがでしたか?』
それじゃあまずはワタシから、とルルが言った。
「ワタシは救助走が面白かったデス。特に最後にマットを置いた人は天才デス。百合百合でニャーッてなったデス」
:めっちゃわかる。
:今日はあれだけで白米4杯食べた。
:推しカプがガチで大声出した。
:あとは共学が真似しないのを願うだけだな。男女混合救助走とか絶対に見たくない。
『あれは視聴者さんにも人気の種目でしたね。また合同体育祭を開けるようでしたら、ぜひとも続けたい種目のひとつです』
「ニャウ。続けるべきデス。百合百合なのもそうデスけど、ケガをした仲間を見捨てずに逃げるのを想定しているのはとても素敵だと思ったデス。あれは誰が考えたデス? シェフを呼べデス」
『しぇ、シェフ?』
「ルルの言うことは気にしないでください。たまに変なこと言うんで」
『そ、そうですか。あの種目は1年生の子ですね。ダンジョンで熱が出た際に、先輩が励ましながらずっと背負って運んでくれたそうです。その経験から発案したようですね』
:あれは感動した。
:あの動画は千回見て二千回泣いた。
:素敵な先輩やん。
「にゃんと。良い先輩に出会ったデスな」
ルルはうむぅと頷いた。
次に隣のコンちゃんが感想を言った。
「私が印象に残ったのは自分も出場したボール斬りですね。近くで見ていたというのもありますが、やはりみんな高い技術を持っていて、うかうかしていられないと実感しました」
『ボール斬りですか。あれは2年生、3年生ともに大活躍でしたね』
「はい、やはり一日の長でまだ1年生には負けませんね。ですが、ああいう競技に出ただけあって1年生も凄く頑張って修練を積んでいるのだとわかりました。今の難易度のままだと、来年……というか半年後にはパーフェクトでしょう」
『と、言いますと、やはり簡単でしたか?』
「はい」
『あの種目は難易度調整に手こずってしまったんです。六花騎士団の一番の剣士はこれでは簡単だと言っていたのですが、難しすぎた場合に困ってしまいますので、あの難易度に落ち着きました』
:マジで女子高生が修羅な件について。
:レベル10剣士の俺氏、クリアできる気がしない。
:みんな凄かったよねー。
「まあ初開催ですし、そこは仕方ないと思います。来年も開催してくださるのならその時に調整すればいいかと思います」
『来年にはいまの3年生はいませんが、ぜひ開催してほしいですね。その際には今年のデータを見て、難易度も調整できるかと思います』
「お互いに卒業ですからね。でも、自分の代から始まったイベントがこの時期の風物詩になったらとても嬉しいです」
:京極総長の卒業とか泣いちゃう自信ある。
:コンちゃん、留年しよ?
:昨年度の卒業式思い出して泣けてきた。
:ぜひ毎年続けてくれぇ。
視聴者のコメントをしんみりさせつつ、最後に命子の番になった。
「私は集団演武が印象的でした」
『風見女学園の演武は素晴らしかったですね』
「ありがとうございます。でも、どの学校もバフなんかの光の使い方が上手くて感心しました」
『そうですね。ですが、ああいった神秘の光の遊びも、羊谷さんや有鴨さんの影響が大きいと思います』
「中二芸デス」
「中二芸だね」
ルルとコンちゃんがうむうむと頷いた。
「ちょっと話が脱線しますが、ひとつ聞いても良いでしょうか?」
『はい、なんでしょうか?』
「今回の大会で称号は手に入りましたか? ウチの学校だと1年生が【風見女学園】の称号を手に入れたみたいです」
そう、風女の1年生は、ホテルに着くとほぼ同時に称号【風見女学園】を手に入れていた。命子も紫蓮からチャットが来て知った。
『まあっ、風見女学園の皆様も! 六花橋の1年生からも【六花騎士団】という称号を手に入れたと報告がありました』
「やっぱりですか。じゃあ逆に言うと、この体育祭をするまでは称号を手に入れてなかったということですよね?」
『そうなんです。この称号は東京大激闘を一緒に戦った2、3年生しか得られていませんでした』
「ウチの子たちも風見町防衛戦を戦った子たちだけでした」
東京大激闘は東京で行なわれた地球さんイベントだ。
都会なのでその範囲に入った学校は多く、六花橋もそのひとつだった。風見町防衛戦からしばらく経ってから行なわれたイベントなので、自衛隊や冒険者は八面六臂の大活躍だったが、ただのお嬢様学校だったはずの六花橋の活躍も目覚ましいものだった。
みんなで力を合わせて戦ったので、生徒たちは【六花騎士団】という称号を手に入れていた。
だが、いまの1年生はまったく関係ない。風女にしろ六花橋にしろ、そこに入学しただけでは称号を得られなかったのだ。
だから、今日それらの称号を手に入れた1年生はとても喜んでいた。
「学校全体でイベントを行なうだけで獲れたという話は聞いたことがありません。だから、今回の合同体育祭の何かがトリガーになったんでしょうね」
『こういった素敵な結果も出て、私たちも合同体育祭を企画したかいがありました』
そう言う京極は目を細めて嬉しそうにした。
:これ、凄い発見じゃね?
:これは来年もやらなくちゃダメですね。(チラッ)
:スポンサーさん、生徒さんが称号を得たって!
:しょうがねえな。スポンサーさんの商品買うか!
それからいくつか雑談を重ね、予定の25分はあっという間に迫ってしまった。
「そろそろ時間ですね」
コンちゃんが水を向ける。
『あっ、そうですね。楽しくてあっという間でした』
:もう終わり!?
:一瞬の25分だった。
:次は黒泉か。
「こちらこそ楽しかったです。明日も力いっぱい頑張りましょう」
『はい、お互いにベストを尽くしましょう』
このあとにコラボ相手が待っているので、終わりはスピーディだ。
「それではコンちゃんと」
「命子ちゃんと」
「ルルちゃんがお送りしたデス!」
『風見女学園の皆様でした。本日はありがとうございました!』
バイバーイと手を振る命子たち。
「ハイ、カーット。お疲れさまでした」
スタッフさんに言われて、命子たちはふいーっとした。
先ほどまで見ていた画面では風見女学園修行部公式のグッズ紹介が流れており、次のコラボ相手が来るまで待機中。六花橋の公式チャンネルだが、コラボ相手のCMを流してくれているのだ。
「いやー、緊張したー」
「コンちゃん部長、良い感じだったじゃないですか」
「ニャウ。ボス猫3級くらいの威厳があったデス」
「それいいの?」
「当たり前デス。ボス猫3級は国家資格デスよ?」
「さすがのキスミアでもそれは冗談だよね?」
命子が怪訝な顔をした。
キスミアならありえなくもないと思っているのだ。
すると、ルルは大きな口をにんまりとして、「冗談デス」と笑った。
「命子ちゃん、ルルちゃん、一緒に出てくれてありがとうね」
「いいんですよ。なにせ永世名誉部長ですからね。たまにはそれらしいことしないと」
こうして、お仕事が終わり、命子はお部屋に帰ってコラボの続きを見たりして、ホテルの夜を過ごすのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。