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14-7 大小龍姫祭4 石音元部長の活躍

遅れてしまって申し訳ありません。

本日もよろしくお願いします。


 キャルメたちと合流してご飯を食べていると、屋台料理を持ったナナコが駆け込んできた。


「てぇへんだてぇへんだ!」


 その慌てざまに、時代劇を見るルルは『おっ、これはネタフリデスな』と猫目をキュピン。これから始まる寸劇にワクワクしながら、呆れた様子を演出して言った。


「なんでぇなんでぇ、ご飯時だってのに騒々しいデスぞ、ナナベエ」


「えっ、ネタフリじゃないんですけど!?」


「じゃあちゃんと大変っぽく来るデス!」


「全力で大変そうだったよ!?」


 ネコ、がっかりである。

 カリーナが「食うか?」と料理に入っていたピーマンを勧めて、キャルメに頭を引っ叩かれた。


「ニャーコ、それでなにが大変なんでゴザルか?」


 メリスの問いかけに、ナナコはハッとした。


「六花橋が敵情視察に来たの!」


「「「な、なにぃーっ!」」」


 女子高生たちは腕まくりした。

 だけど、怖いのでみんな腕まくりだけして、もぐもぐタイム継続。


「あー、本当だー」


 私服なので気づかなかったが、六花橋女子高等学院の生徒たちが校庭にいる様子が見られた。彼女たちもフォーチューブで自分たちの活動を宣伝しているので、知っている顔は多い。


「あの人たちも屋台で買うんだねぇ」


 普通に屋台で買い物してキャッキャし始めた。


「雷雲寺さん。そこんところどうなの?」


 命子はなんちゃってお嬢様のささらではなく、近くにいた大企業のライジング自動車の娘に尋ねた。

 生産部連合の子たちは中学校でグッズの即売会をしているが、交代で祭り巡りをしているのである。


「え、えっとー。少なくとも、私は先輩たちと鎌倉ダンジョンへ行った時に初めて屋台で食べ物を買いました」


 それを聞いて、そこら中で「ガチだ」と囁かれた。


「その時はなに食べたの?」


「イカ焼きです。美味しすぎてホタテも食べちゃいました」


「イカ焼きは美味しいデスなー」


「さっきのイイダコも美味しかったでゴザル。じゅるり」


 雷雲寺やルルたちの話を聞いて、女子高生の頭の中が海鮮醤油焼きに支配され始めた。幸い今日はお祭。その欲求は割と簡単に叶えられるはずである。


「そうすると、あの子たちもダンジョンに入り始めて買うようになったのかな?」


「みんながそうだとは言いませんけど、そういう子は多いと思いますよ。ダンジョンから帰ってきて、あんなに美味しそうな匂いをさせていたら買ってみたくなっちゃいますし。それに、親の目もありませんからね」


 先輩の疑問に、雷雲寺はそう答えた。


 ダンジョン付近には屋台が多い。普通の飲食店も多いが、屋台は滅茶苦茶美味しそうな匂いをさせていて、とても卑怯。命子たちもあの罠に掛かったのは一度や二度ではない。


「なるほどねー。ところで、コンちゃん部長、何人いける?」


 命子が修行部の現部長であるコンちゃんに問うた。

 メイド女子に屋台料理を食べさせてもらっていたコンちゃんは、もぐもぐゴックンとしてから、ニヤリと笑った。


「ふっ、全員倒してしまっても良いけど、みんなにも残さないとね。3人だけにしておこうかな」


「さすが部長!」「言うよねー」「これは全員倒しちゃうやつだ!」と女子たちはキャッキャ。コンちゃんは、ふふんと得意げ。


 それは冗談として、六花橋の女子たちが来たからといって特に何かするわけでもなく、話題が体育祭のことに変わるくらい。


 そうしてしばらくすると、スマホへ一斉にお知らせが入った。

 広報部隊がお知らせをよく入れるので、そこまで重要視しない生徒も多数だが、今回のお知らせは瞬く間に女子高生たちを激しいキャッキャへと陥れた。


 命子たちがイートスペースを作っている時に業者さんが組んでいた特設ステージ。そのステージには大型液晶があったのだが、先ほどから風見町の町紹介や本日のお祭りの生中継をしていた。


 お知らせを読むなり、そのステージの前に女子高生の群れがワチャワチャと移動する。命子もカリーナを日向に合体させ、キャルメ団の子たちと一緒にステージ前に行く。


 そこにはすでに情報を聞きつけたメディア関係者が何人も待機しており、命子たちはお仕事の邪魔にならないようにその後ろで待機。


「あっ! ろ、六花橋の」


 六花橋の女子たちもわらわらと集まってきていた。

 これは偶然ではあるまい。おそらく、これから始まるイベントが目当てでここに来ているのだろう。


 修行部の現部長であるコンちゃんがメイド姿の女子高生によって前へと出された。


「ちょ、ちょっとなんで私なのーっ」


「さっき大口を叩いてましたよね?」


「ひんひん!」


 コンちゃんは小声で抵抗するがメイド女子はドSだった。だが優しいところもあり、隣で見ていてあげる。特等席とも言う。

 相手も六花橋の修行部である六花騎士団の二代目総長が出てきた。


 女子高生界の二大巨頭がいまぶつかり……合わない!


「こ、こんにちは。初めましてコンちゃんです!」


「初めまして、京極です。とても賑やかで、素敵なお祭りですね」


「え、えへへ!」


 普通だった。


 だが、ギラギラした目で見てくる生徒もいる。一番になりたいという欲求は新時代になっても当然ある。自分たちが頑張っていればなおさらだ。

 その視線は風女全体だけでなく、新時代の旗を振る命子やささらにも注がれている。ルルやメリスは猫ちゃん枠なので注がれない。紫蓮も気配を消しているのでセーフ。


 しかし、そんなギラギラな目、コンちゃんのクソザコムーブ、京極のお嬢様然とした佇まいなどなどは、このあとすぐに終わることになった。


「始まった!」


 画面の映像が一旦終わり、『水星堂』という企業名が表示された。


 それからすぐ、特設ステージの上に、肌面積多めな冒険者ルックをしたキャンペーンガールやスーツ姿の女性と共に、2人の人物が現れた。


「「「キャーッ! 石音部長ーっ!」」」


「「「ひゃーっ! レオナお姉様ーっ!」」」


 現れたのは、石音元部長と六花騎士団の初代総長だった。


 六花騎士団の初代総長は、星天せいてん玲緒奈れおなと言った。

 石音元部長とほぼ同じくらいの背丈で、カリスマ性のあるキリリとした美しい顔立ち。日本人の父とセイス人の母を持ち、明るい茶色のロングヘアをしている。


 石音元部長は黒と赤のローブ、レオナは白い騎士鎧とそれぞれがダンジョンに挑む冒険者装備だ。

 どちらもメイクアップアーティストによって化粧がされており、その美しさに女子高生たちが黄色い声を上げ、観客の男性たちから串焼きを手からポロリと落とす人が続出する。

 さっきのパレードの時から大化けした石音元部長を見て、命子は化粧って凄いなと思った。


 石音元部長ははにかんだ様子で女子高生たちにピースをし、レオナは六花橋の生徒たちに微笑む。


 まずは、石音元部長がマイクを片手にご挨拶。


『みなさん、こんにちは。石音縁です。この度、水星堂から発売されている洗髪料ヴァルキュリアの20XX年秋冬のCMガールに、こちらの星天玲緒奈さんと共に就任したことを、母校と大小龍姫祭の場を借りてご報告させていただきます』


 続いてレオナが挨拶する。


『星天玲緒奈です。ご存じの方も多いかと思いますが、水星堂の現社長の娘です。その関係で今回のCMガールに就任させていただきました』


 これにはコンちゃんと京極さんも手を取り合ってピョンピョン。


 そう、この特設ステージはこのイベントのために作られた物だった。

 本日初めて一般公開されたこの情報は、一瞬にしてSNSで拡散されて大変なことになった。


 なお、命子は石音元部長から相談を受けていたので、元から知っていた。守秘義務があるので誰にも言わなかったが、パレードの際に彼女と話していたのは、このことだったのだ。


 さて、ヴァルキュリアは去年の夏頃に発売された戦う女の洗髪料である。

 冒険・修行ガールズコスメの先駆けとも言える商品で、昨年には業界内の様々な賞を取った超人気商品だった。


 洗髪料として修羅系女子もニッコリな薬効成分を持っていることもさることながら、何よりも、剣術を習っていた女優を起用し、女剣士の剣舞と共に髪を魅せる手法のCMが上手かった。そりゃ修羅系女子小中学生児童もママに欲しい欲しいとおねだりもする。

 逆に高校生になると通ぶってネット通販なんかで買う子も多くなるが、ヴァルキュリアはそういったお高い洗髪料になんら引けを取らない素晴らしい薬効成分を持っていた。

 なお、修羅系男子は特に興味なし。リンスインシャンプーの『お日様っ子』とか使っている。


 この場の女子にもヴァルキュリア愛用者は多い。何を隠そう、命子と紫蓮も使っていた。シャンプーとかよくわかんないし、有名なのを使っておけばいいだろという理由で。


「カリーナちゃんちはなに使ってるの?」


「お日様っ子」


 お日様っ子も良い感じの商品だ。この熾烈なる業界で40年間も生き残っているのには、愛される理由があるのだ。命子と紫蓮も以前はお世話になっていたし。


「でも、カリーナもヴァルキュリア使ってお姉さんになりたい」


 カリーナはチラッとキャルメを見た。キャルメは仕方ないなぁみたいな顔をした。

 こうやって女子はお日様っ子を卒業し、母になるとまたお日様っ子を買うようになるのである。子供のお肌に優しいし。


 スーツの女性の司会進行で2人はトークする。


『わぁ、その子はツクヨちゃんですよね?』


 女性は、石音元部長の頭に乗っかる精霊さんを見て、言う。


『はい。残念ながらCMには出ていませんが、相棒のひとりです』


 ツクヨは頭の上で腕組みして仁王立ち。その背中でロングコートがバサバサする。飼い主の真似だ。


『滅茶苦茶可愛いですね!?』


 司会の女性が言うと、レオナがコクコクと頷く。


 石音元部長は、多少はにかみつつも緊張した様子はない。

 時には風見女学園の話も振られて、共通の思い出を持つ女子高生たちは大感激。

 レオナへのインタビューでもそれは同じで、レオナの口から高校時代のことが語られると六花橋の生徒たちは感激した。


 現部長のコンちゃんや二代目総長の京極などは、この2人の背中を追いかけていたこともあり、目がうるうるだ。この2人は憧れの先輩がいるという点で似ていた。


『今回はどういった経緯でお二人の共演ということになったのでしょうか?』


 レオナが答える。


『ヴァルキュリアのCMでは、これまでにお二人のCMガールを起用させていただきましたが、どちらの方も剣士でした。ですから、次は魔法使いということで縁さんにオファーをしたそうです』


『はい。私がオファーをいただき、水星堂ということもあって『レオナさんも一緒ならいいですよ』とお返事したんです。私は演技が素人ですし、レオナさんもたぶん素人だろうし丁度いいでしょって感じで。そうしたら、あっさり決まっちゃいました。もしかして、親に出てほしいってお願いされちゃいましたか?』


『ふふ、いいえ。縁さんからお誘いが来たと聞いて、すぐにオファーを受けました。縁さんとは一度お会いしたかったので、誘っていただけてとても嬉しかったです』


 2つの女子高を日本の頂点にしてみせた2人の女性のことを、世の中ではライバルだと勝手に考えている。しかし、実際のところは違う。

 レオナは、風見町防衛戦で人々を守るために魔法少女部隊を率いて魔物と戦った石音元部長の大ファンだった。


『『それではヴァルキュリアの新しいCMをご覧ください』』


 しばらくトークが続いて区切りがついたところで、石音元部長とレオナが声を揃えて言うと、大型液晶にCMが流れ始めた。


 クラシック調のメロディの中、星が瞬く暗い空間を背景に、石音元部長が両手に水を宿して演武する。その格好は髪が目立つようにか、普段の黒い冒険者装備ではなく、肩と背中が大きく開いた青いドレス姿。


 場面が換わり、やはり同じタイプの赤いドレスを着たレオナが剣に炎を宿して演武を舞う。普段は重騎士として盾役をしている女性だが、重い鎧から解き放たれればその動きは軽やかだ。


 洗髪料のCMなので、当然、髪の美しさを強調した構成であり、魔法や剣舞はわき役である。しかし、青や赤の魔法の光に照らされる度に、体の動きに合わせて弧を描く長い髪が鮮やかに煌めく。その瞬間を切り抜くように映像は一瞬だけスローに。

 それらは全て画面外でスタッフさんが頑張っていたり、CGを使っているわけではなく、2人が自前の体術によって作り上げていた。この映像でCGなのは背景だけなのだ。


 やがて2人の演武が交じり合い、くるりと体の位置を入れ替えた際には、長い髪が半円を描くようにさらりと広がる。それを真上からスローッ、購買意欲も上乗せズドンッ!


 最後に、マナを思わせる翡翠色の輝きが足元を控えめに照らす中。

 石音元部長は後ろ首に入れた右手を大きな動きで広げ、その隣に並んで立つレオナは左手で同じ仕草をする。艶めかしく素肌を晒した背中を背景に、瑞々しく煌めいた2人の髪が弾力を持って腕の上を滑る様はキューティクルの暴力。


 後ろからの髪の美しさを見せたところで、画面はダイナミックな動きで正面に移動し、不敵に笑う石音元部長とレオナの顔へ。メイクアップアーティストの手で施された化粧により、元々綺麗だった2人の顔が一層と輝きを増していた。


 先ほど髪をかき上げた白くて長い指が揃ってパチンと鳴らされると、風の魔法で2人の髪がふわりと背後へとたなびく。正面からの髪の美しさを見せているのだろう。


『その美しさは魔法と共に深淵へ。戦う女の洗髪料ヴァルキュリア』


 そんなナレーションと共に2人の体からドレスが光になって消えていく。もちろん裸体を見せるはずもなく、そのままシルエットへと変わり、ヴァルキュリアのロゴの一部に組み込まれた。すんごく足が長くて素敵。

 CMの余韻を残すようにして、最後にマナの粒が湧きあがる星空の中で商品が登場した。


「「「はうぅ……」」」


 風女と六花橋の女子たちがうっとりし、ささらたちも腕をブンブン。カリーナはふぉおおとし、天邪鬼属性持ちの日向ですら憧れ光線を放出する。


「めっちゃカッコイイですやん」


 命子もほえー。

 自然と手が後ろ髪に行き、持ち上げてみる。もちゃプルン。ショートヘアにはキツイ。


『滅茶苦茶カッコイイですねぇ! このCM映像が完成した時には、社内ではそれはもう大騒ぎだったんですよ!』


『そうですか? へへっ! 好評だったってさ、レオナさん』


『嬉しいですね、縁さん』


 自分が出たCMが先行上映されたとあって、石音元部長のはにかみ度が上がる。


 それからも後半のトークが続き、普通は一般人があまり見られないCMのお披露目を見られた観客は大満足。


 この場で上映されたCMは1分と長かったが、時と場合で15秒や30秒のバージョンになる。この日の18時から地上波や動画サイトで流れ始め、本日に限って全てフル尺。お茶の間でご飯を口に運ぶ箸を一斉に止めさせたCMとして世の中を騒がせるのだった。

 そして、2人のシルエットのロゴが入った秋冬バージョンは、発売と同時に店頭から消えることになる。




 お披露目会が終わると、美しいものを見た後ということもあってか、風女と六花橋の女子たちには奇妙な連帯感が生まれていた。


 コンちゃんと京極さんが向かい合う。

 その後ろにはそれぞれの学校の生徒たちが数十人ずつ。


 命子たちもその中に混じり、相手の気配を探る。

 マナ進化している子もいるし、そうでなくても強者の気配を漂わせる子は多数いる。しかし、それは風女の生徒も同じ。命子の影響で早い時期から頑張ってきただけあって、その練度は全く負けていない。


 CMのお披露目会を見ていた観客はゴクリと喉を鳴らす。すわ、いよいよ決戦の時かと。そんなわけあるか。

 同じく、お披露目会の取材に来ていた記者の人たちも興味津々。


 そんな状況なので、コンちゃんは内心であわあわ。

 しかし、石音元部長から修行部を任されたのだ。みんなに恥を掻かせるわけにはいかない。だから、むんと気合を入れて京極さんの前に立つ。


 京極さんが言う。


「次に会うのは体育祭ですね」


「その際にはお互いに全力を尽くして楽しみましょう」


 コンちゃんがキリッと返答し、2人は固く握手をした。


「あっ。ですが、お祭りを見て回るので、この後に会うのはノーカンでお願いしますね」


「ふふっ、もちろんです。楽しんでいってください」


 誰かが拍手した。見れば、石音元部長とレオナの2人だった。

 その拍手は一瞬で観客に伝播し、女子高生たちは体育祭が楽しいものになる予感を覚えるのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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「あっ! ろ、六花橋の」 何処かで既出かも知れませんがりっかじゃなくてろっかなんですね。ろっかばし?ろっかきょう?
イカ焼きといいつつ多分焼きイカだな。 イカ焼きやと小麦粉と混ぜて焼くアレやし。 と思う大阪人。
一触即発の事態にはならんから良いですよねー。そっちの時空はw
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