14-6 大小龍姫祭3 チームクララの様子とカリーナ
本日もよろしくお願いします。
パレードに参加した人たちは、小学校で解散して自分たちが行きたい場所へ三々五々散っていく。
ある者はダンジョン区。
プロの飲食店が立ち並ぶその区間では、研究された味の特別メニューがお祭りの宣伝価格で食べられるのが魅力。
ある者は中学校。
校庭にはグッズ店が集まっており、いろいろなお客のニーズに応えている。武具フェスのようなことはしておらず、あくまでもグッズ屋さんだ。
ある者は自衛隊駐屯地。
以前からも自衛隊主催の祭りは全国で行なわれていたが、新時代では魂の繋がりによってバフの付与ができるようになったので、こういったイベント事にはかなり積極的に参加するようになっていた。
ダンジョンで食べられている自衛隊キャンプ飯や、演武会などが行なわれる。
ある者は風見女学園。
校庭では学生グルメ大会が行なわれているのもそうだが、言わずと知れた伝説の女子高の敷地内に公然と入れる機会なので、来場者は非常に多い。
創立者の銅像が謎のウィンシタ映えスポットになっていたり、お客さんのテンションは高い。
パレードの解散場所とは別の第1小学校は、冒険者には若干不人気か。
ここは農産物市場になっており、形が良くない風見町ブランドの野菜が安く売られているので、風見町や周辺地域の人たちが集まっていた。
風見町の農産物で冒険者にも人気があるのは、漬物や餅などの加工品だ。こういった物は駅前商店街で売られており、来場者は帰りに寄ろうと目をつけていたりする。
他にもそれらのイベント会場を結ぶ大通りには屋台が並び、パレードが終わってからというもの、客の流れが変わってどこも盛況な様子。
「頑張ってね! 応援してるよ!」
「「「ありがとうございます!」」」
『やーっ!』
ここは中学校。
本日の萌々子はパレードには参加せず、チームクララとして活動中。
たったいまもグッズを買っていったお兄さんに、萌々子たちや精霊さんたちが元気にご挨拶。なお、鳴き声を出す精霊さんはまだ光子だけだ。
朝に命子と話した心配も始まってしまえば杞憂に終わり、お祭りの合図でもあったパレードが始まった瞬間から、商品は飛ぶように売れた。
店の列に並べば良い場所でパレードが見られないのは必定だが、そんなことは関係ないと販売会を選んだ訓練された者たちである。萌々子たちのお店は精霊もたくさんいるので、あるいはパレードと同等の価値があると判断したのかもしれない。
「大変にゃー! モモミッチャンのアクリルスタンドがもう50個切っちゃったにゃん! クララーナのも50個切りそうですにゃん!」
あざとい語尾の女子がわたわたする。ネコミミニットを被った頭の横では精霊さんもわたわた。
モモミッチャンのアクリルスタンドは、アニメ調の萌々子と光子の物だ。クララーナも、クララと精霊のラーナのアクリルスタンドである。
同じ商品を2つ購入してはいけない制限にしているが、どちらもやべえ勢いで売れていた。というか、全商品を1つずつ買っていく人が割と多い。
「モモミッチャンのアクリルスタンドがあと50個を切ったですニャ!」
「クララーナのアクリルスタンドもあと50個くらいでーす!」
ネコ語尾女子は仲良しの子と手を繋いで、列を成すお客さんに報告へ向かう。その姿を見て尊いとそこら中でほのぼのする。この2人と精霊さん1体がセットになったアニメ調のアクリルスタンドも人気な様子。
チームクララには精霊さんをゲットできなかった子もいるが、今では仲良しの子と精霊さんを一緒に育てている気分だった。そういった子にも精霊さんはとても懐き、そんな姿がファンにぶっ刺さっている。
その時である。
『あたしに斬れぬ物はなし! スラッシュソォード! シュバンッ!』と勇ましいボイスと効果音が鳴った。
ネコ語尾女子の精霊さんが、お客さんに向けてボイスキーホルダーのボタンをポチッと押したのだ。向けられたお客さんは胸を押さえてガクリと膝を突いた。精霊さんという凶器とお客さんの狂気がぶつかりあう。
『っっっ!』
お客さんをやっつけて、精霊さんも大満足。
次のお客さんにもボタンをポチッ。
『お兄ちゃんのザッコぉ。ザーコザーコ』
『ううん、お兄ちゃんはザコじゃないですにゃん。凄い人にゃん。頑張れにゃん!』
ランダムで鳴るボイスなわけだが、今回は範囲攻撃だったようで、複数のお客さんが胸を押さえて膝をガクリと地面に突いた。ザコしかいない。
『っっっ!』
ザコお兄ちゃんたちをやっつけて精霊さんも大興奮! こいつぁすげぇ!
なお、今のボイスはネコ語尾女子とその仲良しの子。飴と鞭担当。いや、飴と飴かもしれない。
ボイスキーホルダーは最初から売れていたが、購入に対する意欲が先ほどまでとはがらりと変わった。狡猾な商売だった。
「全部で45000円になります!」
「これでお願いします」
「5万円お預かりします。5千円のお返しになります」
商品全部買いのお兄さんとお金のやり取りをするクララ。
しわのない5千円札を手のひらでスッとひと撫でして、ニッコリとお兄さんに渡す。お兄さんはこの5千円札はお守りにしようと思った。5万円を消費して、素敵な商品と思い出のお守りの5千円をゲット。実質5万円を全て使ったと同義。クララは天才であった。
「それではマグカップの確認をお願いしまーす」
お兄さんは横に移動し、萌々子と一緒に複数のマグカップの確認。
その隣では割れ物ではない商品が特製紙袋に丁寧に入れられていく。
「クララちゃん、クララーナのマグカップがあと10個!」
女子の1人が在庫を見て報告した。
マグカップシリーズはどれもアニメ調な2頭身キャラが描かれた物である。これでコーヒー牛乳を飲むと適合者なら2倍美味くなる素敵アイテム。
マグカップ系は最初からあまり発注していなかったが、やはりぽんぽん売れていた。
「クララーナのマグカップがあと10個ですにゃーん! アチキたちのマグカップもあと20個くらいですにゃん!」
ネコ語尾女子がててぇと報告しに行った。
精霊さんがボイスキーホルダーをポチッと押し、お客さんをやっつけまくる!
「いらっしゃいま……アリアちゃん!」
しばらく販売をしていると、アリアが馬場と一緒にやってきた。
パレードを見終わったので、萌々子の下へやってきたのだ。
「すんごく繁盛してるのれすね!」
「うん。超忙しいの!」
丁度その時、レジでは3万円のお買い上げがあった。
すでに売り切れ商品が多数あり、いまある商品の全部買いである。
3万円が普通に支払われる様子を見た馬場は、中学生たちに恐怖した。
パレードを終えた女子高生の群れは、風見女学園に大移動。
パレード通りは交通規制がされているので普段は歩かないような道の真ん中を練り歩く。秋晴れの日差しを浴びてキューティクルがキラキラ光る女子たちが通る道は、自然と人が左右に分かれて道が開いた。
しかし、風見女学園の2、3年生は烏合の衆属性を持ち合わせている。
チョコバナナが売っていればフラーッとそちらへ足が向き、わたあめを見れば「買うしかないか……」と諦める。
女子高生たちが1組、また1組と屋台のおっちゃんの魔の手にかかって離脱していき、風見女学園に辿り着いた頃にはパレードが終わった時の半数になっていた。
「イイダコうまぁ」
「んー、これは美味なのじゃ。ほっぺが落ちそうなのじゃ」
命子たちも烏合の衆属性を持っていた。
イイダコの串焼きを買って、脇道で立ち食いモグモグ。
「ちっちゃいタコさんはズルいデス。こんな醤油の焦げた匂いをプンプンさせて!」
「足がクリンってなっちゃうのはあざといでゴザルよなー。うみゃー」
「決死のあざとさ」
「んー、美味しいですわー!」
同じく脇道で立ち食いするお客さんたちは、ささらちゃんもイイダコを立ち食いするんだとドキドキ。命子たちがあまりに美味しそうに食べるので、その姿を目撃したお客さんたちは命子たちが出発した後に海鮮串焼き屋に急いだ。
食べ終わった命子たちはちょっと急ぎ足で風女に戻る。
そんな命子たちを含めて風女に戻った女子高生たちは、そこで思い出す。
そういえば、校庭で学生グルメ大会をしていたんだ、と。烏合の衆である。
そこら中から良い匂いが漂い、若々しい声のお礼がそこかしこから上がっている。どこの店も列ができ、屋台の子たちはせっせとそれを捌いていた。
命子たちが設営したイートスペースはすでに満席に近く、何種類もの屋台料理が長テーブルに並んでいるところもある。きっと仲間と協力して買い集めたのだろう、そういった長テーブルはちょっとしたご馳走パーティみたいになっていた。
校門前で配っていた店舗配置図の紙を見て女子高生たちも手分けして並び始めたので、命子たちも分かれてそれに混じった。
「おっ、日向ちゃんじゃん」
「よう、羊谷」
前に並んでいたのは御影日向。
命子のクラスメイトで、天邪鬼っ娘だ。
「もう何か食べた?」
「朝飯抜いてきたからな。さっきすいとんが入った豚汁を食ったよ」
「へえ、すいとんか。名前は聞いたことあるけど食べたことないな」
「ツルンてしてて美味かったぞ」
「餅の親戚の友達の兄貴の彼女くらいのヤツでしょ?」
「そこまで行くと、もうピザとかだな。親戚の友達くらいだ」
日向とそんな話をしていると命子は、ハッとした。
その3秒後、「それでパレードはどうだったんだ」などと次の話題に入ろうとする日向の前で、命子がシュバッと高速で移動した。
今まで自分がいた場所に幼女が飛び込んできたのだ。回避した命子は、素早くその幼女を背後から捕獲した。
「ふはははははっ、私の背後を取ろうなどとは100年早いわ」
「おのれ!」
両脇の下を掴まれて持ち上げられた幼女は、ジタバタ。
それはキャルメ団の最年少者、カリーナだった。どうやらキャルメに連れられて遊びに来たらしい。
ポカーンとする日向を見たカリーナは、ジタバタを止めてプラーンとした。
大人しくなったので命子はカリーナをリリースした。すると、カリーナはすぐに日向に抱き着いた。
「しゅきぴ」
「お、おい、羊谷。コイツ、キャルメのところの幼女だろ。どうにかしろよ」
「キャルメちゃんを助ける時に【花魔法】を使ってくれたからしゅきぴなんだって」
「しゅきぴ」
「なんだよしゅきぴって。ギャルかよ」
「カリーナちゃんはギャル語の使い手なんだよ」
「ウチ、パリピなん」
「時代に逆らうスタイルじゃん」
そんな会話を繰り広げる女子高生と幼女の姿に、後ろに並んでいる男性客のコンビはグッと唇を噛んだ。なお、しばらく会わないうちに、カリーナの一人称がウチになっていた。
「それでカリーナちゃん、キャルメちゃんたちは?」
「キャルメお姉ちゃんたち迷子になった。キャパい」
「またかよキャルメちゃん、仕方ねえな」
「ほんそれ」
「よし。カリーナちゃん。目立つように日向ちゃんと合体だ!」
「ウチ、初見だけどいいんか?」
「大丈夫でしょ、カリーナちゃんだし」
「全て理解した」
「あたしは全然理解できないんだが」
命子はカリーナの脇腹から持ち上げて、日向の肩口まで持ち上げた。カリーナはそこからヨジヨジと日向の肩に足をかけ、合体!
カリーナはダブルピースをほっぺの横にくっつけてコテンと首を傾げ、その下では日向が不貞腐れたような顔をした。女子高生たちはそんな合体を指差して笑った。
みんなでカリーナを猫可愛がりしていると列は進み、屋台メシを買って女子高生たちが集まっている場所へ。
「イヨ様だ! しゅきぴ」
そこでイヨと出会ったカリーナはしゅきぴした。
「おっ、この童はカリーナちゃんじゃな」
イヨはスマホっ子なので初対面のカリーナを知っていた。
「うん。ウチ、カリーナちゃんなのじゃ」
「妾の真似っこかえ? めんこいのう。ほれ、いっぱいあるから食べるのじゃ」
「モグちになります(※ごちそうになります)」
「配信に映っちゃってるが大丈夫かの?」
イヨはいつものように生配信をしていた。
カリーナは口をモグモグしながら、スマホに向かってダブルピースをほっぺに添えてコテンと首を傾げる。これには視聴者もバカウケである。
「カリーナ、これも食べるでゴザルよ」
「カリーナさん、わたくしのもとっても美味しいですわよ」
「モグちになります」
親戚のおばちゃんの如く、みんながカリーナを餌付けする。
モグモグして「ほっぺないなった」と言うカリーナに、日向が問うた。
「そういうのどこで覚えてくるんだよ」
「風女ちゃんねる」
「お前らのせいじゃねえか!」
大爆笑。
世の親御さんに「風女ちゃんねるは見ちゃダメ」と言われる日が来ないことを祈るばかりである。
「「「あ……」」」
キャッキャしていると、女子たちが人混みの中からやってくるキャルメを発見した。
キャルメはニコニコしながらもゴゴゴゴゴッと音が聞こえそうな覇気を宿している。
カリーナは慌てて日向の背後に回り込み、ギュッと抱き着いた。日向の背中からチラッと顔を出し、ササッと隠れる。
「みなさん、カリーナがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「ちょ、超楽しかったよ! ねー!」
「うん、カリーナちゃん可愛いねー!」
帰ったら完全に怒られるヤツだと経験上理解した女子たちは、一致団結してカリーナを擁護した。カリーナは再びチラッ、ササッ! まだだった模様。
「ほんとちゃんとお礼が言えて、偉いねーって話してたんだよ!」
「あたしたちが子供の頃なんて、何か貰ってもスンッてしてたからねー」
「いやー、これは将来大物になるね!」
口々に褒めていると、カリーナは日向ガードから出てきた。どうやらキャルメの怒りが収まったと判断したらしい。
「キャルメちゃん。もし良かったら他の子も呼んでおいで。一緒に食べよう。男の子にはちょっと辛い空間かもしれないけど」
「そうだよ。連れておいでー」
「それは……いえ、ですが……」
命子の言葉に、女子たちも賛同した。
キャルメは風女に入学したが、キャルメ団の子はあまり関わりがない。キャルメは申し訳ないと思いつつも、子供たちを楽しませてあげたいと思った。
だけど男子を連れてくるのはなぁとも思っていた。
風女はファンを大変に抱えた集団である。だから、同年代の男子と触れ合うのがファンは嫌なのではないかと賢いキャルメは考えたのだ。
キャルメが逡巡していると、カリーナがててぇと走り、遠目に見ていたキャルメ団のお姉ちゃんを2人引っ張って連れてきた。
まだ小学生なお姉ちゃんたちはすぐに女子高生に絡まれて、もじもじしながら楽しそうにし始めた。
キャルメはやれやれと、他の子たちも連れてくることにした。
お姉様方にリードしてもらってすぐにキャッキャとする女子たちと、お姉様ヂカラを目の当たりにしてもじもじする男子たち。
半年前にキャルメを救った命子は、楽しそうにするキャルメ団の子たちを見て、改めて良かったなと思うのだった。
呼んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。