14-5 大小龍姫祭2 力自慢とパレード
本日もよろしくお願いします。
——文化会館に併設された町民広場。
パレードが始まる前のそこには大勢の人が集まっています。
その中でひときわ目立つ集団が。
風見女学園の生徒たちです。
彼女たちは大変可愛らしい見た目をしており、キャッキャが仕事です。彼女たちは主に雑食性で甘い物を好み、基本的に群れで生活します。群れは、お姉様や妹といったように位がある縦社会ですが、極めて優秀な妹たちにお姉様がひやひやするという光景がしばしば見られる謎の生態をしています。
さて、この場でもいくつかのコロニーを形成してキャッキャしていたお姉様と妹たちですが、それに動きがありました。まるで砂糖に群がるアリのように、お姉様が一か所にワッと移動を始めたのです。
いったいなんでしょう? さっそく見てみましょう。
おやおやぁ。ご覧ください、レジェンドお姉様です。
ところが、レジェンドお姉様の存在感に妹たちは委縮してしまったようです。
でも安心してください。
「ほら、紹介してあげるからおいで!」
「は、はい!」
怖がる妹たちを引っ張るお姉様たち。お姉様はポンコツですが、優しいのです——
「こんな感じ」
ナレーション・羊谷命子。
聴衆であるささらたちはクスクスだ。
女子高生の引率をする滝沢が感心したように言う。
「羊谷さんはよくそんなにスラスラと言葉が出てきますね」
「そりゃ大言壮語の命子とはよく言われたものですからね」
「貶されているじゃないですか」
とまあそんな遊びをしているわけで、命子たちは乱痴気騒ぎを外から見ていた。
自分たちが行ったらたぶん石音元部長の注目は引けるが、逆に話すチャンスを失う子が現れるから。
騒ぎが落ち着くまで、命子は他の有名冒険者に話しかけてみることにした。陽キャである。
というのも、ささらママに招待された彼らだが、ギャラが発生しているわけではない。強いて言うなら交通費が支給される程度だ。
それでも多くの人が来ているのは、名を売るためや神秘に触れる機会のためや思い出作りのためなど、各々に何らかの思惑があるわけだが、少しでも来て良かったと思えるように、命子は女子高生の接待ヂカラを発揮することにした。
というわけで、命子は石音元部長の下へ行かなかった女子も引き連れて、インタビューに向かった。
女子高生の魔の手が迫るのは、少女の眼力をモチーフにした『龍覇双眸』が描かれたコートを羽織る集団。アイズオブライフ、またの名を命子教信者という。
この団体は学校系を抜かすと日本で最も構成員が多い巨大なクランだが、本日来ているのは30名程度。風見町防衛戦ではそんなに参加していなかったが、お祭りなのでその辺は関係ない。
近寄ってきた命子たちに気づいた団員が思わず平伏しそうになって、隣の団員から腕を掴まれるといった光景がそこかしこで見られた。毎朝『修行せい!』という掛け軸に拝礼しているので、パブロフの犬のような感じになっているのだ。
しかし、命子の前ではそういうことはしてはいけない。信仰すれども迷惑かけず。それはアイズオブライフの鉄の掟。
「こんにちは。撮影しているんですが、お話いいですか?」
「ももも、モチろんでス!」
声を裏返らせて答えるリーダー格。
そんな姿をイヨや女子高生たちのスマホが激写する。複数のチャンネルが生放送でお届けだ。しかし、彼らはネットの愛されキャラなので、コメントはみんな凄く好意的。
「二階堂さんですよね? DRAGON以降のみなさんの活躍は風の噂で聞いています」
「ふひゅ!? あ、ありがとうごじゃいましゅ! なま……」
嬉しさのあまり、『名前を憶えていてくださり光栄です』と続く言葉は続かない。
人選を間違えたかと命子がチラリと思っていると、小柄で女性と見間違うほど可愛らしい顔をした人物が覚悟を決めたような感じで口を開いた。
「あ、あの!」
「一之宮さんですね。なんでしょうか?」
自分の名前も憶えてもらえていて、一之宮は顔を赤くした。
「そ、その、あの、に、二階堂君はDRAGONからも一生懸命頑張ったでござる!」
「むむぅ!」
一之宮の語尾を聞いたメリスが奇声を上げた。
命子たちはそちらを見るが、注目を集めてしまったメリスは手をスッと一之宮の方へ出して続きを促させた。同じゴザルキャラに反応してしまっただけだった。
メリスに気勢を削がれた一之宮は「え、えっと」と再び気持ちを高ぶらせて言う。
「だ、だから、二階堂君の、せ、拙者たちの今の力を見てほしいでござる!」
拙者という一人称にメリスがビクンとするが、それをルルとささらが止めた。いまはそういう空気じゃないと。
「こ、こら、同志一之宮!」
「う……っ、で、でも! みんなあんなに頑張ったから……」
命子様へお願いをするなど万死に値する行為。
咎める二階堂。しゅんとする一之宮。それを見たギャラリーな女子高生たちの肌と網膜をBLの風が焼く。気のせいだ、たぶん。
「いいですよ」
ところが、命子はこれを快諾した。
理由はどうあれ、自分が彼らの力を見れば今日来て良かったと思ってもらえるのなら、このインタビューは成功なのだから。
命子がOKならアイズオブライフも断ることはない。
大急ぎで間隔をあけて準備する。
「よう、二階堂。俺たちも見て良いか?」
「赤い槍氏ですか。好きにするといいですよ」
周りの冒険者たちも話を聞きつけ、力自慢を見学させてもらうことに。それどころか、冒険者にインタビューに来ていたTVクルーまで参加する始末。動画サイトと地上波の双方でお茶の間にお届けである。
「相変わらず面白いことしてるじゃない」
「縁部長」
「私たちも見学させてもらうわよ。みんなも見学させてもらいなさい。日本有数のクランのトップ陣よ。彼らの力を肌で感じるのも勉強になるわ」
部長が引き連れてきた女子高生たちの群れが、陰キャ集団を取り囲み、良い匂い指数が急上昇!
果たしてそんな状況で真の力を引き出せるのか……答えは是だ。陰キャ死ぬ死ぬ病を激しく疾患していた彼らだが、すでに心の寄り処を見つけた者ばかり。もはやこのくらいの注目はなんてことないのだ、たぶん、知らんけど。
命子たちも少し離れ、ギラリと目を光らせて待機した。
それを合図にして、アイズオブライフたちの魔力が一気に集中状態に入る。
「「「せいっ!」」」
謎の掛け声とともに、見学者たちの間に突風が駆け抜ける。
「ほう!」
命子の口から感嘆の声が零れるが、それは周りも同様だ。
風女の一年生はその気迫に尻餅をつきそうになるが、お姉様に支えられてトゥンクとしながら、見学再開。
龍覇双眸を背負っているだけあり、彼らは小龍人が多かった。
そんな戦士たちの体から、命子がよく使う【覚醒:龍脈強化】の光が溢れだしていた。それはしっかり鍛錬を積み、新世界の神秘を探究してきた者の証である。
それ以外の人も、攻撃性能を抜いた炎や風を体に纏ったり、髪の毛の先に煌めきを宿したりと鍛錬の成果を命子に披露した。
腕組みをした命子は、うむぅと大きく頷いた。
「天晴なりっ!」
何様か。命子様である。
親愛なる命子様から褒められたアイズオブライフの面々は披露を終え、涙ぐみ、肩を叩きあう。二階堂と一之宮も肩を抱き合い、笑いあった。
そんな光景を見た女子高生たちは、慈母の眼差しでうんうん。全部わかってる。良かったねと言いたげだ。
「羊谷さん。俺たちも見てくれるかい?」
そう言って声をかけてきたのは、赤い槍の人。
あー、そういう流れね、と命子はこれも快諾した。それで来て良かったと思えるのなら安いものである。1年生の勉強にもなるし。
赤い槍もまた小龍人。
同じ小龍人の二階堂はどこか学者風の印象を受けるが、赤い槍は武人のようながっしりとした体つきをしていた。
「その槍はレプリカですよね?」
「そうだよ。赤いのを用意してくれたんだ」
というわけで、赤い槍とその仲間たちの力自慢も見てみることに。
命子が【覚醒:龍脈強化】の道筋を冒険道で公開しているので、半年前に小龍人になっている赤い槍もまた使用できるようになっていた。
槍を構えた赤い槍の前に、ささらとルル、メリスが立つ。
赤い槍はめっちゃ可愛いなと思いつつも歯列をギラつかせて笑い、本気の構えを取った。
「シャーラ。相手してやるデス」
「え?」
自分から目立とうとはしないささらだが、命子が自分の母親の顔を潰さないためにインタビューをしてくれているのだと察しているので、ここは娘として頑張ることにした。
赤い槍の前でささらはレプリカのサーベルを抜き、目をギラリと細めて構えた。
「武技スキルはなしで想定していいかい?」
「ではそれでお願いしますわ」
今にも切り結びそうな雰囲気に滝沢や馬場はハラハラしたが、両者はその場から動かない。
「……構えを変えたい」
「どうぞ」
赤い槍が構えを変え、それに合わせてささらも構えを少し変える。
やがて赤い槍は構えを解いたので、ささらも構えを解き、2人で礼をした。
「いやー、勝てんな! さすがに強い!」
陽キャな笑顔でカラッと笑う赤い槍の額には汗が浮かんでいた。
陰キャ気味なささらはこれに対して何と答えていいのかわからず、微笑む。
「ささらちゃんは強かったですか!?」
さっそくフォーチューバーな女子高生が傷口を抉りに行った。
「強いな。どうやって攻めても三合以内に懐に入られて劣勢になるビジョンしか浮かばなかった。世界最高峰の剣士の一角ってのは伊達じゃない」
「武技スキルのありなしを確かめてましたけど、ありなら?」
「ありでも同じだよ。魔法使いならともかく、近接の勝敗は術理の完成度なんだから」
それを聞いた女子高生は我がことのようにむふぅ。
そんなことをしていると、係員の人が拡声器で案内をした。
『出発まであと15分です。参加者の皆様は所定の位置に移動をお願いします』
「ハッ、時間だ!」
「みんな移動するよー!」
女子高生の群れがわきゃわきゃと移動を開始した。
「それじゃあ今日は楽しんでいってください」
命子たちも交流した冒険者たちに挨拶して、女子高生の群れの中に混ざっていく。
そんな命子は、ようやっと解放された石音元部長に話しかけた。
「久しぶりですね。部長、それにツクヨも」
「まあスマホで連絡とってるし、そこまで久しぶりって感じでもないけど」
ちなみに、ツクヨは石音元部長の精霊である。
風見町で起こった精霊事件で、石音元部長も精霊をゲットしているのだ。
ツクヨはまだ喋れず、他の精霊と同じように命子のお角に興味津々の様子。
「それでどうなんですか、例のあれは」
「大変だったわよー。命子ちゃんもやるなら覚悟した方が良いわよ」
「一回くらいは良いかなとも思っています。それじゃあ、あの風女の校庭にあったのもそうですか?」
「うん、そう」
「これはお祭り騒ぎになるなー」
なにやら風女の校庭で石音元部長に関連したイベントが行なわれるようだ。
「すみませーん、通りまーす」
命子たちは人だかりをかき分けて、とある物の前までやってきた。
「おー、立派なもんじゃのう」
「まあ私たちの敵だったんだけどね」
イヨが見上げる物は、山車である。人力ではなく車で移動するタイプだ。
風見町防衛戦で命子たちが倒した三頭龍の飾りがでかでかと乗っており、その周りに搭乗スペースがある。
「おう、命子ちゃん。おせーぞ」
「違うんです。紫蓮ちゃんは何も悪くないんです! 私が全部悪いんです!」
「ぴゃわー。唐突に我の名前が出てきた」
「それじゃあ、もう時間だ。みんな乗ってくれや」
おっちゃんが言うと、ルルとメリスがシュバッと軽やかに搭乗。
「みなさん、応援しているのれす!」
「うん、行ってくるね!」
イヨについてきたアリアはここで一旦お別れ。馬場や滝沢と一緒に行動だ。
命子たちは梯子から山車に上った。
「おっ、みんなも頑張ってな」
「「「うん!」」」
梯子を上る命子は、下段のスペースにいる和太鼓を叩く小学生たちに挨拶した。
「じゃあメーコとイヨは真ん中デスね。ワタシたちは両サイドにいるデス」
三頭龍の時にメリスとイヨはいなかったが、祭りなのであまり関係ない。ここで乗る人を限定してしまうと、命子たちが卒業して町から飛び出したあとに困ることになる。
「了解。じゃあそんな感じで」
そんな取り決めをしたところで、町内放送が流れた。
『これより、第一回大小龍姫祭を開催します。ご来場の皆様、町を練り歩くパレードにご注目ください。なお、各団体の旗持ちをしてくださるのは風見中学校の生徒たちです』
その放送が終わると、風見女学園の吹奏楽部が賑やかな鼓笛の音を奏で、行進を始めた。
出入り口の沿道に陣取っていた観客は、可愛らしい衣装で統一した吹奏楽部の登場を見て、ワッと大きな歓声を上げる。
吹奏楽部の完成度は非常に高く、体の芯に響く音に観客はテンションを一気に上げる。
続いて風見女学園の生徒たちがワッショイしながら発進。
「すんごい人じゃん!」
「こいつぁ腕が鳴るわ!」
「「「わっしょいわっしょい!」」」
特製うちわを武器にして、わっしょいわっしょい!
これにはお祭りに来たキッズも大はしゃぎだし、キッズでないおっきなお友達も大はしゃぎである。
そんなパレードの様子を、修行部の広報部隊が生配信でお届けする。
続いて出発するのは冒険者たちのグループその1。
メディアやフォーチューブで活動している人も多いため、冒険者の人気も高い。
そんな彼らのグループ名が記載された幟旗を中学生たちが持って、先導した。
「「「せいっ!」」」
とある集団はパフォーマンスで【覚醒:龍脈強化】を披露して、観客たちを熱狂させる。
またある者は軽くステップを踏んだり、アクロバティックな体術の魅せ技を披露したりして、一般人を楽しませる。
そして、吹奏楽部の演奏の音が遠ざかった頃、いよいよ命子たちが乗る山車が出陣した。
風見町で昔から奏でられる和太鼓の演奏が奏でられるその上で、命子たちが祭りのウチワを振る。
命子たちの登場に、観客は今日一番の歓声を上げる。スマホを構える人が多いのはファンタジー化したとはいえ、いかにも現代人。
「凄い人じゃの!?」
「30万人は伊達じゃないね!」
「それじゃあ妾も祭りに花を添えるのじゃ!」
イヨはウチワを胸の前でフリフリ。頭の上でイザナミもウチワをフリフリ。もはや道具は何でもいい様子。
「なのじゃ!」『なんなーん!』
ウチワをフワッと仰ぐと、キラキラとした光が観客に降り注ぐ。光を浴びた観客の満足度は天元突破だ。
山車が通り過ぎると、冒険者のグループ2。
こちらもグループ1と同様に観客を飽きさせない。
このグループには石音縁たち風見女学園のOBグループも多数いた。
修行部初代部長である石音縁の世間の人気は卒業しても衰えない。精霊のツクヨもいるので、なおさらである。
手を振ればもちろん黄色い声が上がるし、手から炎の蝶を出そうものなら大歓声が上がる。純粋な魔法使いとして腕を上げる縁は、命子とはまた違ったルートで魔法の深淵に向かっていた。
その仲間たちの人気も一人一人がアイドル並である。
山車の太鼓の音の代わりに再び鼓笛隊の音が聞こえ始めた。
やってきたのは風見町町内会の人たち。
地味……ではない。
きらりと光る存在も多い。
特に金髪碧眼ネコミミ和服サムライ人妻であるルルママの人気はバカ高い。
パフォーマンスで無刀式アクロバティック抜刀術を決めようものなら、その美しい所作に少年たちの性癖に深刻なエラーを負わせようというもの。
他にもサーベル老師のエンターテイナーヂカラは抜群だ。
子供の前でパントマイムを披露し、帽子を取ってお辞儀したと思えば帽子が消失し、背中から現れたり。一見すれば武とは関係ないが、それを武に昇華してしまった存在こそがサーベル老師である。その動きは魔法と見紛うようだ。
そして最後に、町内会の行進を彩っていた風見中学校の生徒たちによる鼓笛隊。
命子が修行せいしたことで政府が頑張って実現した『レベル教育制度』のおかげで、中学生たちの演奏もかなり高い完成度だ。
パレードは文化会館広場から大通りを選んで通り、駅前商店街やダンジョン区の入り口前を通過する。それらはパレードが入れるほどの幅がないので、入り口付近だけだ。
青空修行道場をやっている河川敷付近ではたくさんの屋台が出ており、すでに大繁盛の気配。とはいえ、有名過ぎる人物たちが織り成すパレードが通れば人はそちらに注目するので、今は嵐の前の静けさの様相。
パレードは風見町を2kmほど練り歩く。
風見中学校や風見女学園の前も通り、やがて終点である風見第二小学校の校庭へとたどり着いた。ちなみに風見第一小学校は農産物の物品市場になっている。
最後の中学生の鼓笛隊が敷地内に入ると、参加者たちから大きな拍手が鳴らされた。
これにてパレードは終了。
しかして、このパレードは祭りの始まりを告げる合図にすぎない。
各種イベントはこれからなのである。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




