14章 お正月特別編
明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
大小龍姫祭を明日に控えた命子は、ちょっと早めの就寝をすることに。
電気を消してベッドに座ってカーテンの隙間から窓の外を眺めてみれば、遠くダンジョン地区の方ではいつもより夜を照らす光が明るく見えた。お祭りの実施エリアを飾っている提灯の光だ。
「ふぅ……大小龍姫祭ってなんだよ」
コロンとベッドに転がった命子は、祭りの名称にツッコミを入れつつ、目を閉じた。
すやー。全力で生きている命子は3秒で眠りに落ちていった。
「……しょい……しょい」
気持ち良く眠っている命子の耳に、どこか遠くから賑やかな声が聞こえてきた。
「「……しょい……しょい!」」
それはどんどん近づいてきて、声も大きくなっていく。
「うにぇ……?」
「「「わっしょい! わっしょい!」」」
命子はハッと覚醒して飛び起きた。
慌てた命子がカーテンをシュバッと開けてみれば、提灯の怪しげな光の中で女子高生神輿がわっしょいしていた。
「は、始まっとる!」
命子は大慌てでベッドから抜け出すと、部屋を飛び出した。
「羊谷命子遅い」
「紫蓮ちゃん、ごめん、寝過ごしちゃった!」
部屋の前には紫蓮と数名が馬をしている女子高生神輿(小型)が待機しており、命子はすぐにそれに飛び乗った。
「「「わっしょいわっしょい!」」」
別に広くない羊谷家の廊下でわっしょいが始まり、命子も全力で掛け声をあげる。
すぐに階段に到着し、命子は神輿から降りて、自分の足で階段を降りた。階下につくと再びわっしょいスタート。
玄関の下駄箱の上には謎の九官鳥がいた。
「ワッショイワッショイ。アケオメ、ワッショイ」
「羊谷命子、九官鳥飼ってるの?」
「うん! よく喋るんだ。なっ?」
「ワッショイワッショイ、テンチソウゾウ、ワッショイ」
自信満々で答えた命子だが、果たして本当にそうなのでしょうか?
玄関をぶち破り、命子神輿はお外に飛び出した。
そこはなぜか大勢の人がわっしょいする風見女学園の校庭であった。いったいなぜ。
「見切った! これ夢だ!」
そこで命子は見切った。
「紫蓮ちゃん、さっき九官鳥飼ってるって言ったけど、あれ嘘だったわ」
夢特有の謎のこだわりで、命子は嘘を吐いたことを白状した。
ところがこれを紫蓮は否定した。
「ううん。羊谷命子は九官鳥を飼ってるよ」
「本人が飼ってないって言ってるのになんで!?」
「我、羊谷命子よりも羊谷命子のこと知ってる」
「いや、なんも知ってないよ!? 飼ってないって!」
「わかったわかった」
「全然わかってない人のわかっただよそれ!」
「ほら、くだらないこと言ってないで、わっしょいして」
「ハッ! わ、わっしょいわっしょい!」
任務を思い出した命子は必死にわっしょいした。
すると、校庭のど真ん中でささらが何かをしていた。
命子はお神輿の舵を取って、ささらの下まで向かった。
「ささら、なに遊んでるの? わっしょいだよ!」
「いま忙しいんですわ」
「冷たいこと南極の風の如し! ハッ、さては夢だな!?」
友人の冷たさに再び夢だと認識して、ささらが何をしているのか見てみた。
ささらはロープをうねうねと波打たせて、その先端にいるルルとメリスをからかっていた。2人はネコのようにゴロニャンとロープへネコパンチをお見舞いし、そうかと思ったらビョーンとジャンプする。
「なにしてんのそれ」
「ヘビごっこですわ」
ニッコリと微笑むささらの姿に、命子はゴクリとした。
周りを見ればみんな恥ずかしそうに顔を手で隠して、指の隙間からささらたちのヘビごっこを見ている。
「だ、ダメだよ、そんなことしちゃ。風見町の憲法でヘビごっこは二十歳になってからって決まってるんだから」
命子はささらからロープを奪い取った。
その瞬間、ネコ共が命子に襲い掛かる!
「や、やめろー!」
コロンと転がされた命子はロープで捕縛された。そんな命子を見下ろしてルルとメリスがニヤリと笑い、ささらと紫蓮は命子の鼻先で短いロープをうねうねさせた。
「にゃっふっふ、罠にかかったデスね」
「所詮はメーコでゴザル。これで大小龍姫祭は超猫姫祭に変更でゴザルな」
「お、おのれぇ」
焦る命子、このままでは大小龍姫祭の開催の危機。
その時であった。
「命子様、惑わされてはならんのじゃ! それはロープに非ず! 正体を現せぇいなのじゃ!」
人垣を飛び越えてすちゃりと着地したイヨが、捕縛された情けない姿の命子をスマホで激写しながら叫んだ。
撮影していても衰えないイヨの神通力が、命子を捕縛するロープやささらたちがウネウネさせているロープの真の姿を暴き立てる。
それはヘビであった。命子に巻きついているのは超巨大。
「わおわーお」
ロープのままの方が良かった説。
さしもの命子も勢いを失い、大人しくした。
ヘビに巻きつかれた命子は、校庭にできた小山の天辺へと運ばれた。
「もー、次こそは猫が支配する時デスよ?」
「それまで精々安寧を貪るでゴザルよ」
にゃーと残念そうなルルとメリスが、命子とヘビの間にナスビをねじ込み、頭に九官鳥をセッティング。そんな2人は、いつの間にか振袖を着ていた。
「テンチソウゾウ、アケオメ。アケオメ」
頭の上で九官鳥が騒ぐ。
「はいはい。いつものね。わかってるよ!」
そのグッズを見た命子は全てを理解した。
これは大小龍姫祭の夢に非ず。定期的に見るいつものアレだ。
「命子様、いまなのじゃーっ!」
スマホで激写するイヨが叫び、捕縛命子はひとつのお願いをしながら息を吸いこんだ。
「これぞ、天地創造なり!」
命子が魔法の言葉を口にすると、小山はどんどん大きくなり、やがて校舎ほどの大きさのミニ富士山になった。九官鳥は立派な鷹にクラスチェンジし、光子やアイたち精霊さんを乗せて飛行する。
「あけましておめでとうございます!」
「「「あけましておめでとうございます!」」」
巨大なヘビを体に巻き付けた命子が下界に向かって叫ぶと、何千、何万という人々からお祝いの挨拶が返ってきた。
「あけましておめでとうございます!」
割と大きな声で寝ぼけた命子は、自分の声にハッと目を覚ました。
「お祭りが大成功する夢を見た……」
お祭り大丈夫かな、ちゃんと人が来てくれるかな、と命子はちょっと心配だった。なにせ、町の人は頑張って準備していたし、命子としても報われてほしいのだ。
そんな気持ちが不思議な夢を見せたのだろうと命子の頬肉をにんまりさせる。
「正夢になると良いな」
命子はそう祈りをしつつ、朝が来るまでもう一度眠るのだった。
読んでくださりありがとうございます。
良いお正月をお過ごしくださいますように。