14-1 風見女学園生徒役員会議
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命子たちが行なった旅の末、イヨとアリアによって転移装置が日本とキスミアを繋いだ。
それは世界中で報道されるほどの大きなニュースになったものの、一般人が恩恵を受けることは今のところない。なにせ両国ともに、非常に重要な場所に転移装置があるため、毎日何百何千と人が行き来できるはずがないのだ。
とはいえ、一部の人や物が行き来できるだけでも国家としては大変価値があるものだった。
お祭り騒ぎが過ぎ去ってみれば、設置が難しい転移装置よりも、命子たちが旅に使ったような大型飛空艇の方が一般人からの注目は長く続いていた。
大型飛空艇で一般人の旅行が可能になった国も、まだ大型飛空艇がない国も、その注目度が衰える様子はない。
そんな世間の話題の中に大きな石がポチャンと投げ込まれたのは、命子たちが帰ってきた日だった。
『六花橋女子高等学院主催 5つの女子高校による合同体育祭』
である。
さて、夏休みが終わる少し前、風見女学園のとある教室。
そこでは風見女学園・生徒役員会議が開かれようとしていた。
そんな中で、命子は四天王の中でも随一の実力者みたいな顔で腕組みをして参加。あとはささら。ルルたちはこういう会議は全くの戦力外なのでいない。
メイド服を着た生徒が、一人一人の前にお茶菓子を配膳した。学生なのでごっこ遊びのはずなのに、メイド生徒の所作は様になっていた。
「羊谷様方から頂いたキスミア銘菓になります」
「ほう。萌え萌えビームで美味しくして」
「かしこまりました。ではご唱和を」
「え」
「今日のお口の恋人はー、甘そな君にきーめた! それ、美味しくなーれ! 美味しくなーれ! ズッキュンズッキュン美味しさフィーバー! 一期一会のこの出会い、全力ラブを注入注入! それ、美味しくなーれ! 美味しくなーれ! ズッキュンズッキュン美味しさフィーバー! さあ、やれ」
生徒の無茶ぶりにメイド生徒はすぐさま対応してみせた。
そのやべえテンションに、無茶ぶりした生徒は顔を覆って「すみませんでした」と謝った。他の生徒は指を差してキャッキャ。
配膳がすっかり終わり、定刻の少し前にアネゴ先生と滝沢先生が入ってきた。
アネゴ先生は安請け合いして、わけわからん修行部の顧問になった命子たちの担任である。今では日本中に影響力を持つ部活の顧問でもあった。胃が痛い。
滝沢は自衛隊から出向している先生で、命子たちとも仲良し。可愛い子に囲まれて日々楽しそう。
2人とも、生徒からの人気は極めて高い。
今日は立ち会いこそするが、あまり口出しするつもりはなかった。
定刻になった。
議長席で修行部部長のコンちゃんが、どこぞの司令官みたいに合わせた拳に顎を乗せて言う。強者風をビュービュー吹かせた劇画調の顔から、マナ進化で得た魔眼をギラリ。
「ついに我々に挑戦状を叩きつけてきた愚か者共が現れた。我々はヤツらに風見女学園の恐ろしさをわからせなければならない」
「向こうの修行部部長に今の言葉を伝えておきますね」
「やめてやめて」
メイド生徒に言われて、コンちゃんはポンと顔を戻して涙目になった。修行部幹部の陰の支配者はメイド生徒なのである。
「前置きは終わり! チーちゃん、概要の説明をお願いします」
生徒会長のチーちゃんが立ち上がり、説明を始めた。
風女はなにかと修行部が強いが、生徒会だってあるのだ。
生徒会長のチーちゃんは武闘派ではないがフォーチューブチャンネルを持っており、真面目な優しいボイスのASMRでお耳をこちょこちょし、世の人々の睡眠を管理してあげている。
「お手元の資料の1ページ目を開いてください。みなさんもすでに知っているかと思いますが、六花橋女子学院が合同体育祭のご案内を送ってきました。この申し出に、すでに学校側は参加を承諾しております」
1ページ目には今回の合同体育祭の趣旨が書かれていた。
なお、六花橋の正式名称は六花橋女子高等学院。
曰く、この1年半の間に女子高校生がどれほどの能力を身につけたのかを体育祭という形で世間に公開し、みんなに希望を与え、勇気づけるのが目的である。
また、学術研究のために映像とデータを残したいというのも目的のひとつとしてあるようだ。
開催予定日は10月中頃の土日。全て屋根がついている場所で行なわれるため、雨天でも決行。ただし、台風の場合は移動するだけで危険なため中止。
「新国立競技場を2日間貸し切り……さすが金持ち」
そう、貸し切りにされた施設の内のひとつは新国立競技場であった。
とはいえ、新国立競技場は新時代に入ってから使用の機会が少なくなったので、貸し切り料金はそこまで高くなかった。
他にも競泳場や、魔法射的場などが貸し切りにされているようである。
また、1日目は宿泊用のホテルも用意されているので、当日はみんなでお泊まりになる。
「めっちゃ金持ってるじゃん」
「スポンサーがヤバいよ。最後のページに一覧があるけど、私でも知ってる企業ばっかり」
冊子の最終ページには、この体育祭を開催するにあたってのスポンサー企業が名を連ねている。
「この大会に招待されたのは、私たちだけではありません。聖姫森女学院、黒泉大学付属女子、三条が原女子高校の3つの高校も参加することになります。六花橋と風女を合わせて5つの学校の合同体育祭となるわけです」
生徒たちがゴクリと喉を鳴らした。
「姫森と黒泉って六花橋と並ぶくらいのお嬢様学校ですよね?」
「はい。そして、それぞれに親たちの強力なバックアップを得た修行部が存在します」
「これがマネーパワー……っ!」
それに比べて風女と三条が原は雑草。
みんなでお金を稼いでいろいろしている。
なお、三条が原は海のすぐ近くにある高校で、G級のダンジョンも近くにある。そういった立地なので、浜辺を使った非常に大規模な青空修行道場があった。
そのため、三条が原は風女と同じようにヤバい能力を持った女子が多いことで有名である。
腕組み命子は目を瞑りながら呟いた。
「ドキッ女子高生だらけの体育祭か……」
強者ぶってるくせに、口から出た言葉は訓示めいたことではなく、果てしなく俗っぽい。昭和か。
「体育祭の競技は、シンプルな100m走や水泳競技もあれば、1000mリレーなど旧時代ではあまり聞かなかったけど理解できる競技も多くあります。一方、新時代ならではの競技も多数あり、これらはルールを把握しておかなければまともに勝負できないものです」
パルクール系の競技、魔法射的、武術競技、集団演武などなど。なにせ2日間もあるので、その競技種目は非常に多い。
「特に集団演武は今から練習しなければまともなものに仕上がらないでしょう」
「集団演武ってなにするの?」
「吹奏楽部の演奏に合わせて、集団で武術演武をするみたいですね。曲目はクラシック1曲にアニソンを含めたJポップ1曲を、8分から10分の間で終わるように組み立てるようです。アレンジも可ですね。演武に使う武器の種類は自由なようです」
「武器自由って言っても、ある程度の統一性がないとなぁ。衣装もちゃんとした物にしたいし」
すぐにあれこれ話し合いが始まったので、チーちゃんはそれを制して続ける。
「また、グッズ販売スペースも用意されています。ウチの振り分けは6スペースです。何を売るかはそれぞれに一任されていますが、武器防具類と我々が使っていた中古品の販売は不可です」
「未洗濯のささらちゃんののびのび体操着はダメなのか……」
「だ、ダメに決まってますわよ!?」
女子の悪だくみに、ささらが驚愕の抗議。
「学校行事なので、まあ健全な商売をしてくださいということですね。そこまで時間はないので、生徒がネット展開しているグッズを再販するなどでも良いかもしれません」
風女の生徒はネットで活動しているわけだが、ファングッズを展開している子も多い。そういった品物のデザインデータはすでにあるので、業者に発注すれば間に合うだろう。
「食べ物の販売は可能ですか?」
「食べ物の販売は残念ながら不可です。おそらくは火事や食中毒を心配しているのだと思います。飲食は競技場内にフードコートがあるようなので、そこで食事ができます」
料理部の部長はシュン!
DRAGONの時は屋台料理をみんなが絶賛してくれたので、今回もできるかもととても楽しみだったのだ。しかし、無理なものは無理なので仕方ない。
そこで腕組み命子が口を開いた。
「グッズ販売をするってことは、一般のお客さんも呼ぶの?」
「その点は12ページ目をご覧ください。一般の方というか、各生徒に10枚ずつチケットが配られるそうです。そのチケットを持っている人のみ各競技場での観戦ができるということです。またチケットのオークション販売は禁止されています。ですから、お客さんのほとんどは生徒の関係者という形になるんじゃないですかね」
「なるほどなー。うーん、10枚かぁ」
命子はイヨや家族の他に、萌々子の友達なんかも招待してあげたいと思った。到底足りない。他の生徒も10枚の配り相手を指折り数え始めている。
「10枚って結構貰えるのね」
「新国立競技場だけでも6万人は観戦できるらしいですからね。他の魔法射撃場や競泳場も合わせると、10枚配ってもかなり席は余ると思われます」
「めっちゃ大規模じゃん」
「OGは招待しますか?」
「はい。でも、それは別枠でチケットを頂いているので、みなさんのチケットを渡す必要はありません」
元3年生たちが見に来てくれると知って、みんなテンションが上がった。
「ライブ配信とかはしていいんですか?」
「はい。ライブ配信は可能です。ただ、いくつかのテレビ局がスポンサーになっているので、カメラもきます。想定するよりも配信が盛り上がらない可能性もあります」
チーちゃんは議題を進める。
「とりあえず、早急に集団演武の参加者と内容を決めなくてはなりません。演武者の人数は各学年から40人を選出します。演奏者は吹奏楽部や軽音部まるまるで良いそうなので、そちらの選出は必要ないでしょう」
「全部で120人!?」
「そうなりますね」
ざわざわする中、腕組み命子がクールに提案した。
「要は剣の型とか槍の型を曲に合わせて踊るんでしょ? なら、使っている武器のタイプで選出するのが良いんじゃないかな。武器種を複数にすれば、ある程度実力が拮抗した人を選出しやすいと思うし、表現の幅も増えるんじゃないかな」
「一時的に踊り子系のジョブにしてもらうのもいいかも」
書記の生徒がそれらの案を黒板に書き、案を募っていく。
「衣装の統一はどうするの? あと1か月半くらいだから、今から取り組まないとカッコいいのは間に合わないよ。あとは予算とか」
「予算として、先方から400万円をいただいています」
チーちゃんの説明に「マジですか!」と女子たちは目をお金マークにした。
「はい。ただし、当日、私たちは八代スポーツ、ライジング自動車、冒険やろう、カイザードラッグの大きな旗を持つことになります。他の学校はまた別の旗を持ちます」
「400万円のために我々に尻尾を振れというのか……面白い!」
「振る振るぅ、振っちゃう!」
「いま挙げた4つの企業は風女が担当しているので、覚えておいてください。ちなみに、その4社の社長の娘が風女の1年生にいます」
「マジでか。じゃあ今度からそこの商品をコンビニで見かけたら買お」
「あんまりコンビニに売っているようなものを作っている企業ではないと思いますが、まあ応援してあげてください。逆に、スポンサー企業以外の品を使ってはいけないなどの縛りもありませんので、あまり気にしなくていいです」
昨年までの生徒は良くてそこそこのお嬢様程度だが、今年入ってきた生徒の中にはガチの金持ちのお嬢様もいる。偏差値とか度外視で新時代の可能性にベットした連中だ。
世界で初めて学生で飛空艇を作ったのは風女の生徒だが、その製作チームの中にはライジング自動車の娘もいたので、さっそく良い経験をしているようである。
「話を戻しますが、生産部は衣装の見積もりを出してください」
生産部の部長は電卓を弾き、うーんと難しい顔。
「120人かー。武器もこっちで用意するの?」
「いえ。演武に使用する武器はDRAGONで使用したレプリカが貸し出されます。それ以外に武器を使用する競技のいくつかは実物の許可が下りています」
「マジで金かかってるね」
「レプリカの武器についてはイベント毎に使えますから、大きな出資というわけではないと思いますよ。所有している企業からの貸し出しという形になっているみたいですから、色々なイベントに名前も載りますし」
「たしかにそうかも。なるほどねー」
「武器を用意してもらえるのなら、大丈夫かな。既存の衣装を買って改造するから、そこまでお金はかからないと思うよ。まあちょっと考えるから、明日にまた連絡するよ」
「承知しました」
「演武の振り付けはどうするの? あたしたちが考えるの?」
ダンス部の部長が発言した。
「はい、そうなります。申し訳ありませんが、休み明けまでに振り付けは考えたいです」
「忙しいねぇ。でも武術演武か……」
フームと考えるダンス部の部長に、腕組み命子はまたも提案する。
「キャルメちゃんを頼るといいよ。あの子は格闘技の天才だし舞踏も上手いから。あとはサーベル老師だね。あの人はエンターテイナーの一面もあるから、たぶんそういうのが得意だと思う」
「キャルメちゃんはともかく、老師は命子ちゃんが顔繫ぎしてよ。あたし喋ったことないし」
「オッケー」
そんなふうに女子たちはかなり真剣に話し合った。
下手な会社の会議よりもポンポン決まっている。
「それと羊谷さん」
腕組み命子は片目を開いて、ギラリと目を光らせた。
強者オーラむんむんだが、本性を知っているチーちゃんはスルーした。
「羊谷さんには選手宣誓のお願いがきています」
命子は顔をポンと戻して、驚愕した。
「マジで? 命子ちゃんやぞ?」
「なにが『やぞ』なのかわかりませんが、羊谷さんだからじゃないですかね? 合同体育祭は初めてですし、前回優勝者とかいませんから、初回に羊谷さんがお願いされたんだと思いますよ」
「なーほーねー」
命子はぽわぽわーんと昔のことを思い出した。
今までスポーツ大会の類で選手宣誓なんてしたことがなく、いつも最前列で見る側だった。そんな自分が選手宣誓とは。
「いいよ、やりましょう」
これも経験。一度くらいはあそこで宣誓するのも面白い。
「では、先方に伝えておきます」
こうして、風見女学園は体育祭に向けて動き出すのだった。
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