1-3 思いのほかダンジョンを楽しんでいる
本日4話目です。
よろしくお願いします。
命子のダンジョン行は続く。
魔本を倒してから、すぐに別の魔本とエンカウントした。
この魔本は非常に楽に倒せた。
命子に気づいていなかったうえに、曲がり角のすぐ近くにいたのだ。
ダッシュしてベシッてやってザシュザシュやって終了であった。
2体目の魔本は、紙の切れ端と魔石を落とした。
最初の魔導書に比べると明らかにランクが劣るので、ノーマルドロップだろうか? となると魔導書のほうはレアドロップだ。
紙の切れ端はあまり使えそうにないので、合成することにした。
魔導書が『3/125』になった。
魔導書の合成限界がミニハサミよりも高い。
それに、紙切れ程度でもそこそこ強化できる事実に驚く。
ダンジョン産は地上産よりも効果が圧倒的に高いという話だし、こういったゴミアイテムも捨てずにとっておこうと覚えておく。
「それにしても、ここまで来て、魔石は確実に出てるぞ? 確定ドロップなのかな?」
そもそも魔石じゃないかもしれないけれど、とにかく赤い石が出てくる。
とりあえず、全部ポシェットにいれている。
それから、またもすぐにバネ風船とエンカウントした。
先ほどのバネ風船が命子に気づいていなかった理由を、この戦いで知ることになった。
バネ風船は前後があるのだ。
風船の前部分には顔が描かれていたのである。
漫画的などこかコワ可愛い怒りの眼つきをしており、背後にはそれがない。
このエンカウントでは、がっつり命子を認識された。
先ほどの戦闘で、命子は攻撃らしい攻撃は受けなかった。
バネの先にある丸い手がジタバタした拍子に、足に当たった程度だ。
しかし、それだけでも命子には涙が出るほど痛かった。
アレを万全の状態で喰らったら……内臓が破裂しちゃうんじゃないだろうか?
自慢じゃないが、命子はその見た目に違わず、か弱い女の子だ。
その拳から繰り出される魔手は、男子をキュンキュンさせる以外にダメージは絶無。
パンチがそんな有様なので、当然のこと腹筋などもザコである。
お腹や顔をぶん殴られてへたりこむ自分の姿が容易に想像がついてしまう。そうしてそのままボッコボコにされて最後にはひぅううううっ!
マウントを取れればあまり強い攻撃を受けないのはすでに知っているけれど、それをやすやすとやらせてはくれないだろう。
幸い、バネ風船の移動は遅かった。
余裕で逃げられる。
しかし、命子は戦闘することを選んだ。
そう決めた要因の一つに、魔導書があった。
これは曲がりなりにもダンジョン産の装備である。
魔法性能を上げる役割が強いかもしれないが、引っ叩ける構造をしている以上、それ相応に攻撃力があると思ったのだ。
それに、2メートル範囲内ならば、結構な速度で空中を移動させられるのだ。その速度と魔導書の重量からして、少なくとも命子がパンチするよりもダメージは上だろう。
もう一つの要因として、ダンジョンに割と魔物が多いことが挙がる。
まだ少ししか歩いていないのに、すでに4匹目のエンカウントだ。
コイツがどこまで追いかけてくるか分からないが、挟撃を喰らうと高い確率で殺される。
故に、一匹の場合は戦ったほうが良いと結論付けた。
バネ風船が攻撃範囲内に来たところで、命子は上に待機させていた魔導書を最高速で移動させた。
ベコォッ!
魔導書で思い切り頭を殴打されたバネ風船は、命子が想定していたよりも遥かにダメージを受け、床に派手に転がった。
命子のほうに転がってきてしまったので慌てて逃げ、もう一度魔導書アタックを敢行。
3発目で、バネ風船は沈んだ。完封であった。
「ま、魔導書つおー!」
命子は凄い装備を手に入れてしまったと喜んだ。
今度のバネ風船は、バネと風船の残骸を落とした。やはり魔石も落ちている。
「ふむ……」
バネはハサミに合成して、問題は風船の残骸だった。
考えた末、パーカーに合成してみる。
―――
・ミニハサミ『40/100』
・白いパーカー『3/100』
―――
ミニハサミは、前回のバネ合成で『25/100』になっていたので、前回よりも上がり幅が低い。恐らく、数値が上がるほど上がりにくくなるのだろう。
パーカーはマッチしなかったのか、ミニハサミほどの上昇はなかった。
また、やはり見た目は何も変わらず、強化値は解れども性能は全く分からなかった。
ミニハサミで魔本は倒しているけれど、2体の魔本はどちらも『25/100』のミニハサミで倒しているので、強くなっているのか判別できない。
これで、バネ風船とハサミで戦えば、最初の戦いと比べて性能差が分かるのだが。
まあ、魔導書が強いので、わざわざ接近戦などするつもりはないのだが。
魔導書の強さを知った命子の快進撃は続いた。
バネ風船はすでに雑魚。
自分の周囲2メートルに入り込んだら、魔導書アタックで大ダメージを与えられる。
この一撃でバネ風船はダウンし、もう2発喰らわせて終了であった。
問題は魔本のほうだったのだが、コイツはそこまで頭が良くなかった。
命子に気づくと魔法を使ってくるわけだが、曲がり角に誘導するとノコノコとやってくるのだ。
しかも魔法を準備せずに。
その習性に気づいた命子は、魔本をおびき寄せて角から飛び出し、バッタバッタと倒していった。
未知のダンジョン一層目は、野生に目覚めたロリッ娘の狩場になりつつあった。
気づけばポシェットは魔石だらけになり、レベルが3に上がった。
レベルは謎だった。
レベルが上がっても、これと言って強くならないのだ。
最大魔力量だけがわずかに上がってはいるけれど。
しかし、命子はもしかしたらという推測はあった。
レベルが2に上がり、2時間ほどダンジョンを歩き回った。
歩くことで足を使い、手に持つハサミを魔本に叩きつけまくり、魔導書をすいすい動かし、時には走ったりもした。
そうしていると、レベルアップした瞬間よりも、様々な能力が上がったように思えるのだ。
つまり命子は、『レベルは即効性がなく、人としての限界やトレーニング効率を上昇させる』役割が強いのではないかと考えたのだ。
もちろん、実際のところは分からない。
レベルアップは遅効性で、身体がびっくりしないように徐々に慣れさせているだけなのかもしれない。
まあそういったことは、偉い人が考えることなので、頭の隅に留める程度にしておく。
レベル3になった以外にも、変化はあった。
まず、魔本が2冊目の魔導書を落としたのだ。
試しに装備できるかやってみるが、2冊目は装備できなかった。
1冊目の魔導書に合成してしまおうかとも考えたが、予備としてポシェットに入れておくことにした。
他にもミニハサミがカンストした。
攻撃力が明らかに上がり、魔本をあっという間に倒せるスペックになった。
もはやミニハサミはザコ武器ではなかった。もともと武器ではないのだが。
他の装備は。
―――
・魔導書A『11/125』
・魔導書B『0/125』※予備
・ミニハサミ『100/100』
・白いパーカー『10/100』
・デニムパンツ『5/100』
・ハイソックス『5/100』
・スニーカー『3/100』
―――
となっている。
ミニハサミ以外の装備は、マッチする素材が存在せず、紙屑だとか風船の残骸だとかでお茶を濁している。
白いパーカーに至ってはもう風船の残骸一つでは1も上がらなくなってしまった。カテゴリーが違ううえにゴミだからだろう。
ダンジョン行が始まって3時間が経ち、地図が着々と埋まっていく。
この頃になると、戦闘にも余裕が出てきて、スマホで魔物を撮影してしまった。舐めプしているわけではない。ちゃんと安全マージンを取った撮影だ。
しかし、未だに出口らしきものは見つからない。
代わりに、命子は宝箱を見つけた。
「ふぉおおおおっ!」
行き止まりにひょっこり現れた宝箱。
金と赤の豪奢なもの……というわけでなく、木箱である。
もちろん撮影しておいた。
テンションが上がる命子だが、同時に貰っていいのかなって気持ちにもなる。
現実で宝箱なんて見たことないし、財布を拾えば警察にちゃんと届ける良い子な命子である。
ここで宝箱を発見しても、その所有権が誰にあるのか、脳みそが混乱しているのだ。
しかしながら、取らないという選択肢はない。
敵からのドロップだって全部回収しているので、今更である。
命子は宝箱を開けた。
途中まで開いて罠の可能性に気づくも、何も起こらなかったので結果オーライ。
次からは気をつけよう。
中に入っていたのは、指貫手袋だった。
「こ、コイツは……っ!」
命子のテンションが上がった。
ササッと周りを見回して誰もいないことを確認すると、こっそり手袋を嵌めてみる。
少し大きかった手袋が手に嵌めた途端に大きさを変えてフィットする。
「ふぉおおおお!」
命子は、ササッと顔の前で手を開く。
鏡がないのが悔やまられる。
そうだ、スマホで撮影すればいい。
命子は指貫手袋を大層気に入った。
しかし、効果は未知!
読んでくださりありがとうございます。
本日はあと3話更新します。
次話は22時10分くらいになりますので、ご了承ください。