13-30 なにやら怪しいマナ進化
本日もよろしくお願いします。
修行を始めた命子の睡眠時間は6、7時間。本日はダンジョンから帰ってきたばかりなので朝修行をせずに9時間寝たが、それでもささらたちはまだ起きていなかった。
「私が目覚めたのって15時間くらいだったんだっけ」
「うん。そのくらいだったよ」
命子の独り言を拾って、萌々子が答えた。
「じゃああと4時間くらいかー」
朝食やらなんやらしても、あと4時間と少し。
中学生の頃の命子だったら、4時間あったらゲームをしたりマンガを読んで過ごしていただろう。しかし、高校デビューした命子は修行なのである。高校デビューの概念が壊れた世界観。
というわけで、萌々子と剣のお稽古。
お互いにダンジョン装備をつけ、自衛隊が貸してくれた特殊な竹刀を使用。
剣術はささらに劣る命子だが、萌々子よりは強い。
特に【龍眼】による見切りから生み出される防御力はかなりのものだ。全ての攻撃を防ぎ、回避し、時には軽く打ち込む。
萌々子も姉の防御を崩そうと様々な技を繰り出す。G級ダンジョンを攻略している最中ですら見せないほどの激しい攻撃だ。
新時代のロリっ子姉妹は修羅修羅しているのである。
姉を信頼して打ち込んでくる萌々子を見て、命子は感慨深く思っていた。
日々の体験がちゃんと思い出に残るようになった3歳くらいの頃に、命子は、自分に妹か弟ができるのだと教えられた。それがとても嬉しかったからか、命子の幼い頃の記憶は常に萌々子がいた。
母のお腹に耳を当てた思い出や初めて萌々子と出会った日。命子の人差し指を握った小さな手や舌足らずの口で「おねーちゃっ」と初めて呼んでくれた日。
力強い攻撃を竹刀で受けるたびに、そんな思い出が巡っていく。
命子の思い出の旅の中で萌々子が小学校に入学した頃、現実の萌々子の攻撃のキレが一段増した。
命子は姉の背中を見せるために、【覚醒:龍脈強化】を展開する。
萌々子が小学1年生の時、命子は小学5年生。同じ学校に通った2年間、命子はお姉ちゃんとして萌々子の見本になるように頑張ったものだ。
翡翠色のオーラを帯びる命子に怯まず、その防御を崩すために萌々子の集中力がさらに深まる。
斬り、突き、払い。
サーベル老師に教わった技と魔物を想定した対魔の技が萌々子から繰り出され、命子はその全てを捌いていく。
そして、地球さんがレベルアップした1年と少し前、思い出の中の萌々子が小学6年生になった丁度その時。
ぶわりと萌々子の手足に紫色の炎が宿った。
命子の思い出の旅はそこで終わり、口角を上げて、現在の萌々子に向かい合う。
極限の集中状態にある萌々子は自分の変化に気づかずに竹刀を振るい、命子は【龍眼】を使ってそれを受けずに回避する。
いくつかの技を回避したあと、命子は大きく背後に飛びのき、戦いを終えるために構えを解いた。
「モモちゃん。大きくなったね」
「バカにしてんの!?」
「ふぇええええ!?」
姉の心、妹知らず。
羊谷姉妹に身長を連想させるワードは禁句なのである。
「そうじゃないよ。自分の手足を見てみな」
「え? お、おーっ!」
そこでやっと萌々子はスキル覚醒に至ったことに気づいた。気づいた途端に集中力は切れ、スキル覚醒の紫の炎が消えていく。
「あーっ、消えちゃった!」
「一度覚醒したスキルは集中すれば出るようになるよ」
「ふぉおおお……」
「モモちゃん、よく頑張ったね」
「うん!」
命子がそう言うと、萌々子は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
『やーっ!』
「光子! 私、スキル覚醒したよ! ひゃっふーい!」
すぐに光子も飛んできて、萌々子の成長を祝福する。
光子と戯れる萌々子の姿を見て、命子は「本当に大きくなったなぁ」と改めて感慨深く思った。
濃厚な4時間を過ごし、これまた濃厚な時間が始まろうとしていた。
『命子君。ささら君とルル君が目を覚ました』
教授からの電話でそう報告があった。
「本当ですか! 体調は大丈夫そうですか?」
『メーコ、マナ進化したデスよーっ!』
『ルルさん、お電話中ですわよ!』
『ははっ、とまあこんな感じで元気いっぱいだ。ひとまず我々はこのまま病院へ向かって検査をする。そちらは翔子に任せてあるから、君は紫蓮君とメリス君が目覚めたら一緒に病院へ向かってくれ』
「わかりました。ささらたちは病院で待っててくれるんですよね?」
『ああ、病院で合流だ』
『メーコ! 氷雪猫人姫になったデスよーっ!』
『ルルさん、お電話の邪魔をしてはめっですわよ!』
電話口でニャーニャー騒ぐルルの言葉に、命子のワクワクゲージは爆発寸前。
電話が終わり、命子はイヨや萌々子、アリアに教えてあげる。
「ルルたちが目覚めたって! ルルは氷雪猫人姫になったって!」
「にゃーっ! フニャルーみたいなのれす!」
アリアはぴょんぴょんして我がことのように喜んだ。
「紫蓮ちゃんたちとルルたちの誤差は1時間くらいかな」
紫蓮たちはイヨとの訓練がきっかけになったので、その時間の分だけ誤差がある。
命子は紫蓮とメリスが起きるまで、冒険手帳にささらたちのマナ進化のページを作って過ごした。とりあえず、ルルの『氷雪猫人姫』という種族名だけが記入され、命子はこれが埋まるのを今から楽しみにした。
それから1時間経って2人が目を覚ます予定時間となったが、目を覚まさなかった。
さらに15分経っても起きない。
「これって大丈夫なんですか?」
命子は心配して、付き添いの医師に尋ねた。
紫蓮の両親や遅れてやってきたメリスの家族も心配そうだ。
特にきっかけを作ったイヨはずっと紫蓮たちのそばで心配そうにしていた。
「マナの吸収フェイズは明け方には終わっています。この吸収フェイズは羊谷さんの時とほぼ同じくらいの時間でした。羊谷さんは15時間ほどで目を覚ましましたが、個人差がある可能性は十分に考えられます。心配な気持ちはわかりますが、もう少し待ってみましょう」
「個人差……たしかにそうですね」
「はい。神秘的な現象ですが、結局のところは人の体のことですからね。全員がぴったり同じとはならないでしょう」
医師の考え通り、その後も特に身体的な乱れは観測されず、結局、2人は16時間ほどで目を覚ました。
「紫蓮ちゃん、メリス、大丈夫!?」
「紫蓮殿、大丈夫かの?」
「ぴゃ。なにごと」
『お姉ちゃーん!』
『にゃ。なんでメーニャが?』
メリスの妹のメーニャが姉に抱きつく。メーニャは日本語がわからないので、メリスはキスミア語であやしてあげた。
「む? むむっ? ……ぴゃ! もしかして、我、第2のマナ進化した?」
紫蓮は周りの状況を見て、そう推測した。
なにせ紫蓮の記憶ではさっきまで夜だった。
それなのに芝生の上で目を覚まし、周りは天幕で囲まれ、親や命子たちも心配そうにしている。これだけあれば、聡明な紫蓮ならすぐに状況が理解できた。
「そうだよ、紫蓮ちゃん。イヨちゃんに教えてもらってたら、そのままマナ進化が始まったんだよ」
「そうだった。我、マナの世界で祝福の歌を聞いていたら、なにかよくわからなくなった」
「たぶん、私が次元龍の魂でマナ進化したのと同じだよ。強大な魂に引っ張られたんじゃないかな」
「紫蓮殿、メリス殿、すまなかったのじゃ」
イヨが謝ると、紫蓮たちは首を傾げた。
「お主らの適性を見誤ったのじゃ。結果は良かったかもしれないが、少し間違えれば正気を取り戻すのに10日……もしかしたらもっと長く掛かったかもしれんのじゃ」
「イヨ、拙者たちは冒険者でゴザルよ。冒険には危険が付き物でゴザル」
「うむ。未踏の地に入る者はリスクがある。その分、素晴らしい光景を初めて見られる。だから謝る必要はない」
メリスと紫蓮がそう言うと、イヨは小さく笑って頷いた。
「あっ、お医者さんに診てもらわなくちゃ」
お医者さんが控えているので、やり取りを終えて場所を空ける。
検査の結果、特に異常は見られないので、紫蓮とメリスは自分の足で車に乗って病院に向かった。
車の中で命子は問う。
「それで2人はなんて種族になった?」
「我、付喪姫になった」
「魔眼って言葉がまるっきり消えたんだ」
「そうみたい」
「付喪神みたいな感じだね」
「うむ。たぶん、武器に属性を付与したり氷雪の心を扱ったりしたから、物に親和性のある種族になったんじゃないかと思う」
「なるほぉね。メリ——」
「ぴゃわー!」
命子が続いてメリスに尋ねようとしたが、ステータスを見ていた紫蓮が何やら驚きの声を上げて遮った。
冒険手帳のページをめくっていた命子と、ドヤ顔でスタンバっていたメリスが、揃ってほえーとした顔で紫蓮を見た。
「どうしたでゴザル?」
「んぴゃん! あ、あえーっと、なんでもないが?」
そう答えた紫蓮は眠たげな眼をザブンザブン。
「その驚き方でなんでもないことある? なにか凄い種族スキルでも出てた?」
「ぴゃ。う、うむ。そう。あとで教えるから、我、メリスさんの種族を知りたい」
怪しい。
命子たちは顔を見合わせるが、まずはメリスだと気を取り直した。
「それじゃあメリスは?」
「にゃっふっふっ。拙者、氷雪猫人姫になったでゴザル!」
「え? 氷雪猫人姫になったの? ルルもそうなんだけど」
「にゃんと! ……もしかしてサービスされたでゴザル? マナ進化も早かったし」
「うーん、天空航路をクリアしたり、マナの世界に行ったりしたからね。あー、龍道で迷子にもなったか。いろいろやったし、経験値が多かったんじゃないかな。種族名はルルとほぼ同じタイミングだからじゃない?」
「まあ、これでやっと並べたからヨシとするでゴザル」
2人の種族の聞き取りをしているうちに、あっという間に病院へ到着。
紫蓮が驚いた謎を聞き取る暇もない。そんな紫蓮は常にそわそわした感じ。
案内された待合室には、すでに検査を終えたささらたちが待っていた。
「メリス、シレン!」
ドアを開けると、すぐにルルが2人に飛びついた。
ルルはそんななので、命子はニコニコしているささらへロックオン。
「ささら、具合は……うっ、キラキラしとる!」
ささらと出会った頃から綺麗な子だと命子は思っていたが、第2のマナ進化を終えたささらは美しさがさらに増したように思えた。テレテレする姿もキラキラだ。
しかし、それは命子にも言えることで、他の人からすれば第2のマナ進化をした命子を初めて見ると輝いて見えていた。
「まあそれは置いといて。ささら、具合は大丈夫?」
「はい、絶好調ですわ。ご心配おかけしました」
「それなら良かったよ。あっ、教授もありがとうございました」
命子は付き添ってくれていた教授にお礼を言った。
「いいや、こちらも面白かったから礼は必要ないさ」
「忙しそうでしたけど、大丈夫でしたか?」
「私がいなくてもやることはみんな分かっているからね。普通に回るよ。まあもう少ししたら様子を見に行くけどね」
「やっぱり忙しいんですね。ちゃんと寝てくださいね」
「はっはっはっ、君らと付き合っていると面白いことばかりだからね。まあ気を付けるよ」
教授へのお礼もそこそこに、命子はささらとの会話を再開した。
「ささら、私が拍手してたの見えた?」
「え? なんのことですの?」
「ふーむ、やっぱり覚えてないか。あのね、イヨちゃんがね」
命子はイヨがマナの扱いの手解きをしてくれたことを話した。
ささらと教授、それに近くで話を聞いているささらママたちは興味深そうにした。
「そんなことが……。なにか夢を見た気がしますが、全然覚えていませんわ」
「ううん、覚えてないのは当然だと思う。私がマナ進化した時だって覚えてなかったし。イヨちゃんが導いてくれなかったら、今の私じゃ見られなかったものだよ」
マナの流れに溶け込んだあの状態は、幽体離脱みたいな特別な技法だ。簡単に見られるようなものではない。
「三頭龍にぶっ飛ばされた時、ささらも次元龍の魂の上で天狗さんに会ったでしょ。あれに近い体験だった」
「まあ! わたくしも見てみたかったですわ」
「うーん、妾はもうあれはやらぬと思うのじゃ。ささら殿やルル殿には悪いがの」
2人の会話に混ざって、イヨがそう断った。
「龍神の巫女の修行のつもりでやってしまったが、みんな、随分深く世界に溶け込んでしまったのじゃ。命子様が目を覚ましたのは、妾が頬を叩いたからではない。大いなる存在が向こうから返してくれたのじゃ」
「もしかして、私、危なかった?」
「いや、大いなる方々も無碍にはせんじゃろうから、そこまで危なかったことはないと思うのじゃ。しかし、その温情に甘えて繰り返し行なえばお怒りに触れよう。あそこへ行きたければ、己の力を高め、自力で行くのが良いと思うのじゃ」
「1回目は許してくれたってことか」
「うむ。まあゆっくりやれば良いと思うのじゃ。今の人は才気溢れる者ばかりじゃからの」
イヨの言葉に、命子は深く頷いた。
「それよりも、ささら殿はまたひとつ強くなったのじゃろう?」
「はっ、そうだった。ささらはなんて種族になったの?」
イヨが話を切り替えたので、命子は冒険手帳にシャーペンを立ててメモの構え。
「わたくしは剣麗御伽姫ですわ」
「けんれいおとぎひめ。なんかソシャゲに出てきそう」
「最近は皆さんが強くて盾役になることもありませんし、たぶん剣技の方にマナ因子が傾いたのではないかと思いますわ」
「なるほど、たしかにそうかも。ていうか、そうなると私の種族名がシンプル過ぎるんだけど。我、二文字ぞ」
龍姫。
「シンプルでも命子さんは日本を代表する種族だと思いますわよ?」
「それはそうだけど。私も前に何か付いたカッコイイのがいいな」
「では、次に期待ですわね」
「まあそうね。それで何か面白い種族スキルは手に入った?」
「え。あ、その……えーっと」
命子の質問に、ささらは目を泳がせてから答えた。
その態度に命子は首を傾げた。そして、先ほどの紫蓮を思い出す。
「命子さんと同じく【セカンドジョブ】を覚えましたわ。あと【触れ合う心】が【重なる心】に変わって、【武侠】が【剣麗】に変化しましたわ」
「結構変わったね。全体的に性能がアップした感じかな」
「は、はい。そうだと思いますわ」
「ふむふむ」
命子は冒険手帳に書き書きしつつ、チラッとささらを見た。
目が合うと、ささらはちょっとアセアセしながら首を傾げてニコリ。
怪しい。
なにか特殊な種族スキルを得たのか?
しかし、命子には隠していることを暴き立てる趣味はない。
というより、命子はささらが手に入れた種族スキルにある程度の予想がついていた。ダンジョンに対して真摯に攻略しているささらが隠すとなれば、おそらく戦闘能力をマイナスするようなスキルではない。マイナスのスキルなら命子に教えて、一緒に対応策を考えるはずだからだ。
そして、これはそのまま紫蓮が焦ったのも同じ理由なのではないかと推測した。
紫蓮の性格上、良い感じのスキルやジョブが手に入ったら、ゲットした枝を自慢する犬のように尻尾を振って報告してくるからだ。
命子は先読みできる敏感系女子高生なのである。
「紫蓮ちゃんはねー、付喪姫になったんだよ。メリスはルルと同じ氷雪猫人姫」
というわけで、命子は気づかないふりをして、ささらに冒険手帳を見せてあげるのだった。
「ささらは初めて見るジョブは出た?」
「はい、たくさん出ましたわ」
「おーっ、いいね」
命子は再び冒険手帳をささらのページに戻す。今度はジョブを記入するつもりだ。
と、そこで、ルルに絡まれていた紫蓮とメリスが検査を受けに行くことになった。付き添いで教授が席を外し、代わりにルル、イヨ、萌々子、アリアを交えて、みんなでお話しすることに。
「新しく出た『天剣騎士』がたぶん『天騎士』の次のジョブだと思いますの」
「ふむふむ、そうっぽい。天騎士は攻6守4くらいだったけど、『剣』って入ったしもう少し攻撃寄りになったのかな」
先ほどの話ではないが、最近のささらは攻撃寄り。となれば、天剣騎士は守備よりも攻撃に傾いているように思える。
「そうかもしれませんわね。他に強そうなジョブだと、『御伽騎士』と『龍騎士』というのが出ましたわ」
「強そう!『御伽騎士』はジョブ『御伽姫』と騎士系ジョブの複合で、『龍騎士』は騎士系ジョブと次元龍の因子かな」
分析係筆頭の紫蓮がいないので、命子のゲーム知識がきらりと光って場を支配する。
「あとは種族名のジョブの『剣麗御伽姫』と……そうそう『地騎士』も出ましたわね」
地騎士は守り寄りの騎士であり、騎士系のジョブを頑張っていた人は戦闘スタイルに応じて、天騎士か地騎士が1回目のマナ進化を終えると出てくる。
「魅力的なジョブがたくさん出たね」
「はい。セカンドジョブを得ましたが、組み合わせに迷ってしまいますわ」
「まあひとまずはジョブを巡ってみて、ジョブスキルを見てからで良いんじゃないかな。ちなみに、私的には『龍騎士』が気になるかな」
「どうしてですの?」
「そのジョブに、もしかしたら【龍脈強化】があるかもしれないから。私と同じ日本人で、次元龍のマナ因子を十分に持っているささらが【龍脈強化】を覚えられないということはないと思うんだよね。私が【龍脈強化】を覚えたのはジョブ『小龍姫』のジョブスキルだったから、龍人系の種族じゃない人は龍の文字が入っているジョブで覚えるんじゃないかなって思ったわけ」
命子の発想に、ささらは目から鱗がポロポロ。
そんな命子に、ルルが「いつワタシの番デス?」みたいな期待した目を向け続ける。
命子は冒険手帳をめくってルルのページを……出さない! ルルはそのアクションにネコミミを動かして一喜一憂。命子は猫の扱いは下手だが、猫人の扱いは達人なのである。
「次はルルさん、どうぞ」
そんなやりとりを見たささらがニコニコしながら譲った。
「ワタシは『JOU・NINJA』が出たデス!」
「中忍の次は上忍か。まあそりゃそうね」
「なんで驚かないデス! んーんー!」
ルルは命子が驚かなかったので拗ねた。
「だって下、中と来たら上じゃん。松、竹と来たら梅か映画! これは日本じゃ常識だよ。それで他には?」
「むーっ! じゃあこれはどうデス。『雪女』!」
「えー、猫化の次は妖怪化すんの?」
「雪女って妖怪デス?」
「ルル知らないの? 雪女は日本の昔話に出てくる超有名な妖怪だよ。総理大臣の名前を知らない日本人はたまにいると思うけど、雪女を知らない日本人はマジでいないから」
「そ、ソーリー大臣よりも有名人デス!?」
「あの総理はあんまり謝るようなことはしてないと思うけど。支持率も超高いし」
今代の総理大臣はファンタジー化した日本を良くまとめて、レベル教育や冒険者協会の設立、地球さんイベントの防衛システムの構築、マイナスカルマ者の救済政策などかなり良くやっている。なによりもマイナスカルマではない。
「ソーリー大臣はどうでもいいデス。雪女は何をした人です?」
「雪山で遭難した男を助けるんだけど、自分のことを他の人に話したらぶっ殺すって脅した人」
「ただのバイオレンス! それだけデス?」
「その後に男の下に綺麗な女の人がお嫁さんに来るんだけど、おっと、続きは劇場で見てね」
「チュルの恩返しと同じ匂いがするデス……」
命子は説明が面倒くさくなった。
ルルはあとでささらから聞くことに決めた。
「それよりもジョブ! 他には何か面白いの出た?」
「あとは『幻影忍者』が出たデス」
「分身とか残像をよく使うからかな?」
「ニャウ。たぶんそうかと思うデス」
「うーん、これは楽しみだね」
命子は仲間たちの強化が可視化された冒険手帳を見てワクテカした。
「妾、お主らと差をつけられてしまいそうなのじゃ」
イヨがそう心配した。
「そうかな。イヨちゃんのマナの操作能力や弓術は誰も敵わないよ。だから、焦る必要はないと思うよ」
「そうかの。でも、そうじゃな、妾も頑張るのじゃ!」
「ニャウ、その意気デス!」
イヨは前向きに返事をして気合を入れた。
ルルは、そんなイヨをモチャモチャして元気づけるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




