2-24 その日、世界は驚愕の渦に包まれた
本日もよろしくお願い致します。
黄昏が始まり、いよいよ3人は帰ることにした。
金色の渦の前で命子を中心に3人は手を繋ぐ。
「それじゃあ、帰ろう! ささら、ルル!」
「ですわ!」
「ニャウ!」
3人は渦の中に飛び込み、渦の中でサイドの2人がお互いに手を繋ぎ、3人は円になる。
金色の光が増す中で、3人は笑い合った。
光が収まると、そこは見覚えのある桜のお社だった。
ただ、入った時と様子が全然違う。
山の背後に陽が沈み、薄暗くなった境内に照明がいくつも灯っている。
そこには、何人もの自衛隊員がいた。
その周囲、お社の敷地から外れた木々の間には、根性を見せる数組の報道陣が。
さらに、山の上空には報道のヘリが飛び、山の静けさを掻き乱している。
「ご、ご覧ください! 行方不明だった少女3名が黄金の光の中から現れました!」
ガッツで森から中継する報道リポーターの声が、びっくりするほど明瞭に響いた。
カメラマンも身を乗り出し、この事件の顛末を決して見逃すものかとカメラを向ける。
はっ!
これはあれだ!
すでに経験者の命子は、すかさずリュックを下ろすと、ぽかんとする自衛隊員たちの前でサーベルを抜き放つ。
「魔導書士・羊谷命子!」
名乗りを上げて、頭上に剣を掲げる。
2冊の魔導書を剣の周囲でくるくる回すのも忘れない。
「ニンジャー! ナッガーレ・ルル!」
命子の突然の名乗りにハッとしたルルが、すぐさま忍者刀と短刀を抜き放ち、コイツスピード型だな、と一目瞭然のポージングを命子の右側面で決める。
「み、みなら、ゴホン! 騎士・笹笠ささら!」
2人の突然の名乗りに慌てたささらは、自分もやらなくちゃと抜剣して名乗りを上げる。
サバを読まずに馬鹿正直に『見習い騎士』と言いそうになるも軌道修正して、コイツは突き技主体だな、と予想されそうなポージングを命子の左側面で披露した。
2人が名乗り終わると、命子が口上を読み上げた。
「我ら3人! 封じられし古の龍を死闘の果てに打ち倒し、妖魔蔓延る無限鳥居のダンジョンを攻略せりっ!」
「ニンニーン!」
「で、ですわ!」
古の龍は幻影体だし妖魔は夜にしか出てこないが、ウサギや人形をしばき倒しまくったと宣言するよりは聞こえがいい。
報道陣のフラッシュが瞬き、3人のカッコいいポーズが激写される。
「みなさん、ご心配をおかけしました!」
この前とは状況が全く違うので、命子はそこら辺の礼儀は果たしておいた。
剣をしまい、3人でペコリと頭を下げる。
この後、自衛隊員に保護された。
しかし、今回はそのまま仮設テント送りにはならなかった。
命子たちが案内される中、それは起こった。
不意に聞き覚えのある声が命子たちや自衛隊員たちの耳に降り注いだのだ。
『ピーンポーンパーンポーン! みなさん、地球さんニュースのお時間です!』
地球さんニュースのお時間だった。
あの大告知の日以来、初めての告知である。
この時間帯に起きている国の人々は、息を飲んだ。
『たった今、人間さんの女の子3人によってダンジョンがクリアされました! おめでとう! 初めてのクリアは練習用ダンジョンかと思っていたけど、難易度変化型ダンジョンをクリアするなんて……やるね!
初めてのダンジョンクリアを記念して、彼女たちの旅の様子は、この1時間後から人間さんのネット上にある地球さんTVで配信されます! 3時間の長編です! これを見て、他の人間さんもやる気になってくれればいいんだけどね!
それではしょくーん、また会おう! え、いつも会ってるって? そりゃそうだね、ウケるぅ!』
世界が驚愕の渦に包まれた。
同時に、命子たちが撮影した映像の価値がちょっと下がった瞬間でもあった。しゅん。チートはズルい。
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【緊急事態】我らが天使が行方不明な件 PART45【新ダンジョン発見】
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(2-19裏、掲示板より続く)
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784、名無しのダンジョントラベラー
おっと自衛隊に動きがあったぞ。
これから突入かな?
785、名無しのダンジョントラベラー
やっとかよ! あーもう、頑張れよ!
786、名無しのダンジョントラベラー
クソー! 俺もダンジョンでレベル上げられていれば有志でも募って入るのになぁ!
787、名無しのダンジョントラベラー
>783 入信の方はちょっと……
788、名無しのダンジョントラベラー
いや、待て。
おかしい……突入しないっぽいぞ?
789、名無しのダンジョントラベラー
はっ?
なんで?
790、名無しのダンジョントラベラー
いや、だけど整列は始めたぞ。
791、名無しのダンジョントラベラー
どういうことだ?
792、名無しのダンジョントラベラー
なんか緊急事態が起きているっぽいな。
整列している連中とどっかに電話してる連中がいるぞ。
793、名無しのダンジョントラベラー
社の神様:騒がしいのじゃ……
794、名無しのダンジョントラベラー
神様は幼女が基本だからな。
795、名無しのダンジョントラベラー
すまん、俺はキツネシッポのお姉ちゃんを想定しえええええええええええええ!?
796、名無しのダンジョントラベラー
ふぁっ!?
797、名無しのダンジョントラベラー
き、キター――(゜∀゜)――!!
798、名無しのダンジョントラベラー
ききききキター―――(゜∀゜)―――(゜∀゜)―――ッ!!!
799、名無しのダンジョントラベラー
す、凄く見覚えがある光景(;'∀')
800、名無しの命子教信者
みなの者、御降臨なされるぞ。
801、名無しの命子教信者
刮目せよ、刮目せよ、刮目せよ!
802、名無しの命子教信者
おぉおお、おぉおおお、おぉおおおお!
803、名無しの命子教信者
なんと神々しい光……っ!
804、名無しのダンジョントラベラー
ちょ、ちょっとテレビに釘付けになっている間にコイツラは……
805、名無しのダンジョントラベラー
そして、命子たんの登場でピタリと止む(;^ω^)
よく訓練されているぜ。
806、名無しのダンジョントラベラー
ひやぁああああ、なにこの子たち! カワーッ!
807、名無しのダンジョントラベラー
やっば! 全員超可愛い!
808、名無しのダンジョントラベラー
なんなのこのキャワワ装備!?
809、名無しのダンジョントラベラー
っていうか命子ちゃんと忍者の子の恰好エッロ!
あっ、誰か来た。今良いところなのに!
810、名無しのダンジョントラベラー
奴らはそれどころじゃないだろ、俺もそれどころ、う、うわぁああああ、今度は3人で名乗ってるぅカワ―――(゜∀゜)―――ッ!
811、名無しのダンジョントラベラー
ウサミミニンジャ・ルルちゃんは俺の嫁な。
812、名無しのダンジョントラベラー
圧倒的ささらちゃん派。
813、名無しのダンジョントラベラー
命子たん命子たん命子たん……うぁっ!
814、名無しのダンジョントラベラー
は、え、古の龍?
815、名無しのダンジョントラベラー
よ、妖魔蔓延る?
816、名無しのダンジョントラベラー
無限鳥居のダンジョン!?
817、名無しのダンジョントラベラー
く、クリアしちゃったの?
818、名無しのダンジョントラベラー
ルルたーん!!!
てめえこら、俺のルルたんに汚い手で触るんじゃねえ!
819、名無しのダンジョントラベラー
写真集が出たらみんな教えてな。2万でも買う。
820、名無しのダンジョントラベラー
DVD切にキボンヌ(´Д`)
821、名無しのダンジョントラベラー
うえっ!?
822、名無しのダンジョントラベラー
ち、地球さんニュースのお時間らしいぞ(;^ω^)
みんな静粛に!
823、名無しのダンジョントラベラー
スレの減速はんぱねえwww
824、名無しのダンジョントラベラー
あ、あれ。書き込んでるのって俺だけ?
825、名無しのダンジョントラベラー
め、命子たん(^ω^)ペロペロ! ペロペロス!
ささらたん、クンカクンカ!
ルルたんルルたん!
826、名無しのダンジョントラベラー
誰も反応しないってウソだろ……
827、名無しのダンジョントラベラー
ヤバい、完全に英雄が誕生したな。
828、名無しのダンジョントラベラー
なに!? どうしたの!?
829、名無しのダンジョントラベラー
1時間後か。
830、名無しのダンジョントラベラー
なになに!?
831、名無しのダンジョントラベラー
問題は尺だな。
3時間……3回は見るだろうから、明日会社休むまである。
832、名無しのダンジョントラベラー
ねえ、地球さんなんて言ってたの!?
833、名無しのダンジョントラベラー
変なのがいるけど、コイツ、地球さんの言葉聞かないとか正気か?
834、名無しのダンジョントラベラー
みんなで押しかけて、サーバーが落ちたりしないかな?
835、名無しのダンジョントラベラー
前回、レベルアップを祝福した人に魔力10点くれた地球さんの話を聞かないのは脳みそがヤバいな。
836、名無しのダンジョントラベラー
>834 同時視聴者数がヤバそうだしな。
まあ地球さんがやるんだし、大丈夫なんじゃない?
837、名無しのダンジョントラベラー
1時間後か、今のうちに準備しなくては。
838、名無しのダンジョントラベラー
え、え、どういうこと?
何があったの!?
839、名無しのダンジョントラベラー
ちなみに、今の告知で魔力アップ試した奴いるか?
俺は上がらんかった。
840、名無しのダンジョントラベラー
俺も上がらなかったお。
841、名無しのダンジョントラベラー
答えを知っていたらやはりダメか……ッ!
842、名無しのダンジョントラベラー
まあ、凄い下心ありありだしね(;^ω^)
―――――
地球さんニュースが終わり、命子たちは境内の下にあるスペースに作られた仮設テントへ連行された。
その途中、命子帰還の報を聞いて馬場が駆けつけた。今までどこかへ電話を掛けていたようで、軍用携帯をその手に持って仕舞うことすら忘れていた。
「め、命子ちゃん、無事でよかった!」
「あっ、馬場さん! ご心配おかけしました!」
「ううん、いいのよ。それより本当にダンジョンをクリアしてきたの?」
「はい!」
「そ、そっか。頑張ったね、さすがだわ」
「はい! 2人が居たからです!」
馬場に褒められて嬉しそうにする命子は、しかしてハッとした。
どんなことにも先んじて、これだけは確認しなくてはならなかった。
「だ、誰かダンジョンに入っちゃいましたか!?」
「いいえ、まだ入ってないわ。救助に向かうかどうかの判断を上層部に仰いでいたところよ」
「良かったぁ」
「あそこ、難易度変化型ダンジョンなんだってね」
「はい。知ってるんですか?」
「ええ、時間で渦の色が激変するダンジョンは世界でも2か所見つかっているわ。ここが3か所目ね。ほかの2か所は、分からないことが多すぎて危険だから今のところ誰も入っていないはずだわ。そんな場所に落ちたって知った時は、正直ダメかもって思ったわ」
「へぇ、渦の色も変化するんですね。ふふっ、馬場さん。この系統のダンジョンはコツが必要みたいです。良い情報をたくさん持ってきましたから、期待しておいてください」
命子の発言に、馬場は苦笑いした。
「命子ちゃんたちが帰ってきたのが一番の朗報よ。頑張ったわね、おかえりなさい」
「はい! ただいま戻りました!」
笑顔で答える命子の頭にポンと手を置き、馬場は撫で繰り回すのだった。
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