13-18 雪玉投げ
本日もよろしくお願いします。
卑劣なる地球さんの罠に嵌ったキリリ系美少女ささら。
しかし、ささらは逆境に打ち勝つため、状態異常克服の訓練を始めるのだった。
というわけで、心眼で目を隠したささらの周りを命子たちが囲んだ。
「「シュババッ、シュババッ!」」
「動きが速すぎますわよー、ふふふふ」
ちょっかい掛けたがりのルルとメリスが、ささらの周りを高速で移動する。ささらは口元を若干にやつかせて、手を中途半端な位置にあげてうろうろ。
その姿を見た馬場は、お座敷遊びに来たお嬢様みたいだと思った。
「こらーっ! ダメでしょー!」
そんなささらたちの様子を見た命子師範がブチギレた。
これは遊びではないのである!
ささらもハッとして居住まいを正し、命子の方を向いた。目隠しをしているのに方向が分かるあたり、すでにかなりの腕前だ。
「では、これからすることを説明します」
「はい!」
「これから私たちが雪玉を作ってささらにぶつけます。ささらはそれを木の棒か盾で防いでください。普通に回避してもいいです」
「わ、わかりましたわ!」
「心を鬼にして厳しくいくからね!」
というわけで、ささらの心眼訓練が始まった。
命子はキュッキュッと雪玉を作り、ささらに向けて投擲した。
自分の足元に雪玉が叩きつけられた。いったいどうして。
命子は顔を真っ赤にして、もう一度雪玉をキュッキュッと作った。
「何の訓練だっけ?」
命子の顔を、んっんっ? と紫蓮が覗き込む。
命子はそんな紫蓮のほっぺに雪玉をギューッと押し付けた。
「手袋が想定していたよりも邪魔してるの!」
命子はポンコツだが、ルルとメリス、イヨは凄かった。
確実に狙った場所に投擲している。
「つめたっ! ひゃん! はう! ひゃーん!」
そして、ささらに全弾ヒットした。
ルルの投げる雪玉は執拗におっぱいを狙う。
凄く楽しそうなので、命子も慌てて参戦した。手袋は邪魔!
えーいと投げて、ささらから少しズレた場所に落下した。
命子はせっせと雪玉を作り、ぽーいと投げまくる。全部変なところに投げ込まれるが、超楽しい!
しばらくプレイし、ささらが待ったをかけた。
「ちょっと待ってくださいまし! 無理ですわ!」
それはそう。
ささらは雪まみれになっていた。
「ふむ、じゃあちょっと私が見本を見せようか」
「また自分から恥をかきに……」
「紫蓮ちゃん。第二のマナ進化をした今の私ならできるはずだよ」
「命子さん、あの、見本を見せてもらっても、わたくしは見えませんわよ」
「ハッ!?」
最も重要なことを命子は忘れていた。
ささらが楽しそうだからやりたくなっちゃったのだ。
そこで馬場が意見を言った。
「殺気が宿っていないから攻撃の方向がわからないんじゃないの? 投げてる物も風を切るほど速くないし」
「そうかも!」
「ふむ。攻撃の気配をわかりやすくすればよいのじゃな? ならば妾が少し相手をするのじゃ」
というわけで、イヨが1人で相手をすることに。
ささらから10mほど離れた場所をサクサクサクと音を立てながら歩く。
すると、ささらは足音を辿ってそちらへ体の向きを変える。
シュッ!
イヨが雪玉を投げた。
すると、ささらは身を屈め、盾を構えた。
雪玉はささらの頭があった場所を通り過ぎた。盾を構えたアクションから、正確には攻撃の軌道がわかっていない様子。
「「「おーっ!」」」
命子たちのみならず、見学している自衛官たちも感心した。
自衛官たちも男の子。かつては心眼に憧れたものだった。クラスメイトと心眼ごっこをしたやんちゃ坊主もちらほら。ちょっと自分もやってみたい。命子のような思考になるのも無理はない。
それからもイヨがシュッシュッと雪玉を投げ、ささらはそれに反応してみせた。
「むしろ凄いのはイヨちゃんか?」
何らかの方法でわかりやすい攻撃をしているようだが、命子たちにはやり方がわからなかった。
「よし、ささら、ちょっと交代しよう!」
「え? 交代とかあるんですの?」
やりたくなっちゃった命子がささらと交代。
「それじゃあイヨちゃんお願いね」
持ってきたネックウォーマーを目隠しにして、プレイボール。
さっそく命子のほっぺに雪玉がヒットした。
「全然わからぬ!」
命子はニコニコしながらササッと警戒。
すぐにお尻にヒット。
「は、速い!」
命子はシュバッと背後を振り向く。
すると今度は後頭部に雪玉が。
「猫ぉーっ!」
ネックウォーマーを外すと、正面で紫蓮が雪玉をシュバッと隠した。
他の場所ではルルとメリスが雪に向かってネコパンチをして知らんぷり。
「もう! イヨちゃんの攻撃の仕方を学ぶためにやるんだから!」
そう、命子はちゃんと考えて交代したのだ。
というわけでテイクツー。
命子は、こぉおおおお、と【龍脈強化】。
すると、ピリッと攻撃の気配!
命子はサッと腰を深くする。
ささらとアクションが同じだが、2人とも、その場から飛びのいて回避するのを恐れていた。
「ふむふむ、なるほど。本当に雪玉に気配がある。でも、これは攻撃じゃない?」
「ほう、1回で気づくとはさすがなのじゃ。これは雪玉に存在感を与えているだけなのじゃ」
「存在感を?」
「うむ。投擲する際に、物へ攻撃の意思を宿すのが重要というのはすでに命子様も知っての通りじゃが、それと同じで、自分が凄い存在なのだと雪玉に言い聞かせているのじゃ」
「はえー、なるほど。だから強い気配があるのか」
「うむ。とはいえ」
命子とささらは空に雪玉が投げられたことを察知した。
しかし、それは途中でなにもわからなくなった。
「物の意思は虚ろ。このように、物はすぐに忘れてしまうのじゃ」
命子はやり方をなんとなく覚え、ささらと再び交代した。
「存在感を与えるか」
命子は雪玉に『お前は凄く目立つ子なんだぞ』とじっくりと念じて、ささらに向かって投擲した。
ささらはハッとして命子の方へ向くが、これは大丈夫だとイヨに集中し直した。
物に存在感を宿すのとコントロールが上がるのは別問題なのである。
ルルたちもイヨ式の投擲術を真似して、ささらに雪玉を投げる。
こういうことは紫蓮がとても上手なので、イヨと紫蓮の投げる雪玉にささらは敏感に反応して回避行動を取った。
一方、ルルとメリスはそこまで上手くはなく、希薄な気配の接近にささらはハッとするように反応した。ヒットするのも2人の雪玉が多い。しかし、この希薄な気配がアクセントになり、ささらの緊張感を高めた。
そして、命子の雪玉は存在感こそ強いがコイツは大丈夫だという軌道のため、スルーされることが最多。だが、命子はキャッキャしながら雪玉を投げまくる。
「ふぅ……」
そんなことを30分ほど続けていると、ささらに雪玉が当たらなくなってきた。
今までは飛んでくる方角だけを察知して着弾地点はわかっていなかったが、それがわかり始めてきたのだ。
1時間ほどすると、ゆらりゆらりと回避し、イヨと紫蓮の雪玉なら手刀で斬り落とすことが度々あった。たまに雪玉を斬られる命子は、ちゃんと投げられて超楽しい!
達人になるとこんなことができるのかと、自衛官たちは心にメモメモ。帰還したら早速試すつもりだった。心眼お嬢様は男子の中二心を刺激していた。
「みんな、もうそろそろ終わりましょう。日が陰ってきたわ」
馬場の制止に、命子たちは手を止めた。
まだ明るいが、土地柄すぐに暗くなるだろう。
「ささら、どうだった? なにか掴めた?」
自衛隊にお湯を貰ってお茶をしつつ、命子は問う。
「はい、今までよりも細かな気配に敏感になりましたわ。ですが、静止した物はやっぱり気配が掴めないですわね」
「まあ、あくまでも心眼は魔眼の開眼を促すものだからね」
「あっ、その通りですわね。わたくし、夢中で気配察知を磨いていましたわ!」
心眼は魔眼の補助輪だ。気配察知を磨くのなら命子のようにネックウォーマーで目隠しすればいい。
とはいえ、いまやった訓練でささらは少しだけ本来の強さを取り戻した。ネズミ原人が近くに来ても、何の抵抗も出来ずにやられることはなくなっただろう。
少し休憩して17時頃には休憩所の中に入っていった。
「では次の訓練に入ります!」
「え!?」
「返事は!」
「は、はいですわ!」
命子師範の厳しい言葉に、ささらはピンと背筋を伸ばした。
命子師範はうむと頷いた。
「今から私が魔導書を浮かせます。私がささらの名前を呼んだら、すぐに心眼を使って魔導書の位置を指さしてください」
「なるほど、命子さんの魔力パスを感じ取れば魔眼の上達も早くなるわけですわね?」
「その通り!」
修行は次の段階に突入した。
「ささら!」
「ですわ!」
ささらは心眼の奥でギンと目を見開き、腕を若干畳みながらピッと白い指で魔導書の位置を示した。人を指さしちゃいけませんと教えられて育った子なので、指差し行為はとても控えめ。
「うむ、正解。それじゃあ不定期に行くからね」
「わかりましたわ!」
そうしていると、馬場がやってきた。
食材を運んできてくれたのだ。
「はーい、バーベキューセットねー」
「あっ、持って来てもらっちゃってすみません。ありがとうございます」
今晩はキスミアの軍人さんが用意してくれていた。
串に刺さったお肉や野菜で、各休憩所にある囲炉裏で各班に焼く感じだ。主食は猫じゃらしパン。外でバーベキュー大会にならないのは、雪が降る可能性があるからだ。
特にやることもないので、命子たちはバーベキューを始めた。
ダンジョンでの料理は主にささらが担当しているのだが、バーベキューなのでそこまでの料理技術は不要だ。
無限鳥居の冒険では火に近すぎて肉を焦がした命子だが、この1年で落ち着きを得た。じっくりとじっくりと。
パンッ!
焦れて伸ばされた命子の手が紫蓮に引っ叩かれた。
命子は料理の分量などをしっかり守るが、火の扱いが下手なタイプの料理下手であった。しっかり見ていれば強火でも平気だろと舐めているのである。
そうして出来上がった串焼きを、みんなでモグモグする。
「うまぁ! 弾力があって凄く美味しい!」
命子はモグモグニコパとお肉を貪った。
「ほう、これはネズミの肉かえ。これほど美味いネズミは初めて食べたのじゃ」
「へー、これネズミなんだ!」
イヨの口から出た肉の正体に、命子は一ミリも嫌がらずにモグモグする。強い。
ダンジョンでは色々なお肉が落ちるが、命子たちは割となんでも挑戦した。
ささらはルルにお世話されていた。
コートに油が落ちないようにタオルで前掛けを作ってもらい、串の一番上をあーんして食べさせてもらう。
「まあ、本当に美味しいですわね!」
「シャーラ、次デス!」
「あ、ルルさん、次からは大丈夫ですわ」
串の持ち手と先端に手を添えられたら、目が見えなくても串に刺さったお肉を探り当てられる。
むーっ、と不満そうなルルだが、ちょっかいをかけるタイミングをよく見極めている子なのでここは大人しく引いた。
ささらは串をハーモニカ持ちして、綺麗に食べ始めた。
「ささら!」
命子が唐突に声をかけると、ささらはモグモグする口を止め、串のそばで腕を畳んだままピッと指さした。
「正解!」
「もむぅ!」
命子の言葉に、ささらはちょっと油でテカる唇をにんまりして、モグモグを再開した。
そう、食事中も命子師範の修行は続いているのだ。
いかなる時でも心眼のオンオフを即座に行なうことで、魔眼を使用するための目を養うのが目的……のような気がしている。
魔眼の正しい育み方なんてわからないので、修行方法も思いつきなのである。
「それにしても、ささら殿はこれほどの強さを持っているのにまだ修行なのじゃな」
「ふふふっ、ここまで来たらどこまで自分がやれるのか試してみたくなりましたの。心眼については仕方ないことですけどね」
イヨの質問にそう答えたささら。
その周りでは命子たちもうむうむと頷いた。
「うむ、自分を高めるために精進するのは良いことなのじゃ」
イヨはその答えに理解を示し、笑った。
こうしてダンジョンでの夜は更けていく。
数時間前に心眼をつけたばかりなので、ささらの開眼はまだまだ遠い。
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