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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第13章

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13-16 ネズミ原人

本日もよろしくお願いします。


 森の出入り口付近に到着すると、そこにはすでに複数の班がいた。

 命子たちは特に寄り道などしていないので、先に来ている人たちが早いのだ。


「すみません、馬場さん。待たせちゃいましたか?」


「ううん、私たちもいま来たところ」


 デートのお約束みたいなセリフを言う馬場。

 馬場はわざわざ言わなかったが、命子たちを待たせるわけにはいかないと、どのチームも競歩気味でこの集合地点まで来ていた。森の中に出てくる敵が強くないからこそできる芸当だ。普通に攻略したら、命子たちと同じくらいのタイミングで到着したことだろう。


 距離的な問題であと2つのチームが来ていないため、しばらく待つことに。

 その間に命子たちは、10年くらい前の馬場を驚かせたクソガキの正体を教えることにした。


「えー! あの時の子はルルちゃんだったの!?」


「ニャウ。なんで洞窟に行ったかまではわからないデスけど、ママだと思って大学生くらいのお姉さんを驚かせて泣かせたデス」


「いや、泣いてないわよ? それはルルちゃんの記憶違い」


 ルルの肩に手を置いて、馬場がにっこりと言った。

 これにはルルも「にゃ、ニャウ! ちょっと間違えちゃったデス!」とビビった。

 命子と馬場は少し似ているところがあり、カッコイイお姉さんに憧れていた。だから、クソガキに驚かされたくらいで泣いてはいけないのだ。


「それにしてもそうか。世の中は案外狭いものねー」


 数年後に超有名になった人と町中ですれ違う人は、世の中に何万人、何十万人といることだろう。あとは、それを覚えているかどうか。

 コミックの祭典で迷子になった経験のある命子だってそう。「ロリっ子がおる!」と命子を見つけたオタクもいたことだろうが、まさかそのロリっ子が数年後にレア度∞のハイパー荒ぶり系女子高生に大変身するとは夢にも思わずに、勿体ないことに記憶を薄れさせたのだ。

 今回のルルと馬場は印象深いイベントがあったので覚えていたが、世の中なんてそんなものである。


 そんな話をしていると全てのチームが合流し、作戦の最終確認。


「このダンジョンは連れだって歩くと魔物の出現数が増える傾向にあります。ですので、各々、一定距離を保っての行動を心がけてください」


 ダンジョンは試練の場なので、楽はさせてくれない。まったり攻略したいのなら、最初から低レベルのダンジョンに行くのがベターだ。魔鼠雪原のB、A級ルートを数の暴力で攻略できないのは、これが理由である。


 事前のミーティングでルート分けはされているので、命子たちは地図で確認しながら、ふむふむと頷いた。大人たちとは違って命子たちは女子高生なので、部活動のミーティングのノリである。


「最後になりますが、ホイッスルと無線のバッテリーのチェックを各チームで定期的に実施してください」


 命子たちはいそいそと胸元からホイッスルを出した。よしっ!

 このダンジョンに潜る人は、冒険者も軍人も関係なくホイッスルを所持する。コイツを一発吹けば、近くを探索しているチームのキスミア猫が高確率で聞きつけてくれるのだ。


 ミーティングが終わり、各チームは魔鼠雪原に広がっていった。

 命子たちも少し時間をズラして、出発。


「それじゃあ馬場さん、またあとで」


「ええ、頑張ってね。何かあったら言うのよ」


「「「はーい!」」」


 お母さんみたいなことを言われ、命子たちは素直にお返事をして、いざネズミ狩りに出陣。


 魔鼠雪原はキスミア盆地を舞台にしているわけだが、非常に広大だ。埼玉県くらいある。しかし、森林や川、雪の壁などで移動範囲が限定されており、実際には埼玉県ほどあるわけではない。


 なんにしても滅茶苦茶広いわけだが、昨今の人々にとってこのくらいの移動はそこまで珍しくなかった。江戸時代の人は日に40km移動したというが、冒険者もダンジョンの中でそれをやるのだ。もちろん、ハイパー荒ぶり系女子高生の命子たちも同様に。

 逆に言えば、長距離を歩くのが嫌いな人は致命的に冒険者に向いていなかったりする。


 森から雪原へと足を踏み入れてからが魔鼠雪原の本番だ。


 遠くではさっそくキスミア軍のパーティがネズミ型の魔物と戦い始めていた。


「オープンワールドのオンラインゲームみたい」


 その光景を見て、紫蓮がちょっと興奮気味に言う。

 前回は空戦をしたが、陸と空ではやはり似て非なるものなのだろう。


 すると、すぐに命子たちも敵とエンカウントした。


 魔鼠雪原はその名が示す通り、遭遇する魔物の9割はネズミ型だ。少しだけ例外がある。

 命子たちが遭遇したのはやはりネズミ。


「ネズミ原人だ!」


 ダンジョンマニアな命子が一瞬にして正体を見破る。


 ネズミ原人はネズミの原始人だ。人間にも原始人の時代があったように、ネズミ原人が高度な文明を築いた世界もあったのかもしれない。

 四足走行と二足歩行を使い、武器を掴む手を持つネズミである。二足歩行時の身長は1m程度で、全ての個体が何らかのジョブについていると考察されている。

 ちなみに、ネズミ原人という名称だが、持っている武器は文明的な金属製だ。


 今回出てきたのは4匹。さっそくなかなかの数である。

 前衛2匹、遊撃1匹、後衛1匹。まるで勇者パーティのような構成だ。


「行くよ!」


 命子の号令が終わるが早いか、ささらとルルとメリスが飛び出した。

 3人の頭の上を命子の火弾が飛び、後衛の魔法構築を阻害する。


 相手の遊撃ネズミはそんな命子を脅威と思ったのか、命子の下へ素早く移動してきた。むしろバッチコイの命子。

 しかし、こちらは6人。後衛守護で残っていた紫蓮が相手をしてしまった。正しい判断ゆえに命子は文句を言えない。ぐぬぬ。


 遊撃ネズミの武器は獣のくせに金属製の鈎爪。すでに武器としての爪を持たないのだろう。


 紫蓮は龍命雷の石突で中段突きを放つ。

 格闘家タイプの遊撃ネズミはこれを回避して、それどころか足で雪を蹴って、目くらましをしてきた。

 紫蓮は表情を変えず、お気に入りの黒いマフラーからぶわりと炎を放出させた。ゾッとする光景だが、自分の魔力で作り出した炎は自分を燃やさないのだ。

 紫蓮が目くらましを回避すると考えて動き出していた遊撃ネズミだったが、紫蓮はむしろ攻撃のモーションに入っていた。

 遊撃ネズミは大きな隙を作り、迫る紫蓮の龍命雷に無茶な体勢でガードを滑り込ませる。しかし、それでは紫蓮の攻撃を防げるはずもなく、続く連撃により討伐された。


「甘い」


 雪景色の中で炎をふわりと消す紫蓮は、最高に中二病していた。ゲレンデ効果は中二病も平等に輝かせるのだ。


 一方、ルルは後衛ネズミに向けて走っていた。

 後衛ネズミは魔法使いタイプ。氷、水、火魔法のいずれかを専門で操り、使われるまでどの魔法を使うのか区別はつかない。


 初撃は命子の魔法で阻止されたが、次からの魔法がルルに向かう。氷の礫を使ったので、氷魔法使いだ。

 このレベルの魔物になると、魔法の構築が人間の魔法使いジョブ並みに早い。高速の氷の礫が構築された端からタンッ、タンッ、タンッと放たれるが、そこは時代の最先端を爆走するにゃんこ系女子高生。氷の礫は雪原を乱すことしかできず、ルルはどんどん接近していく。


 焦ったように魔法を放ちまくる後衛ネズミの頭が、唐突に大きく弾かれた。

 イヨの矢だ。相手も防具をつけており、通常の矢では突き刺すまでにはいかない模様。

 しかし、再び魔法を阻害されたのは致命的だ。ルルの接近を許し、瞬く間にぶった切られた。


 前衛ネズミと戦い始めたささらとメリス。

 相手は剣と盾の剣士タイプだが、2人ともあっさりと勝利した。


 そんな命子たちの様子を遠くから馬場たちが見ていた。


「さすがに危なげない戦いですね」


「ええ。命子ちゃんたちは天空航路で、ペガサスナイトやマンティコアを倒しまくっていましたし、魔物の等級としては余裕がありますね。問題は不慣れな雪で少し戦力ダウンしていることですかね」


「雪は厄介ですからね。まあそれは我々にも言えることですが」


 馬場はチームメンバーとそんな評価をした。


 そう、天空航路に出てくるナイトとマンティコアよりも強い魔物は、ボスを抜かすと、このD級ルートには出てこないのだ。というのも、天空航路は6人制限がないため、少数で出てくるタイプの魔物が総じて強かったのだ。

 そんな相手をぶっ飛ばしてきた命子たちにとって、ネズミ原人たちは油断しなければ問題なく倒せる相手であった。


 戦闘が終わり、不満げな人がひとり。

 命子である。今回の戦いで魔法を開幕に一発しか撃っていない。あとは、むむむっとしながら周辺の警戒をしていただけ。


「敵が4匹じゃ少ないと思う」


 頭おかしいことを言い始めた。


「ええ、そうですわね」


 しかし、常識人のはずのささらもこれを真面目な顔で肯定。

 他のメンバーも同意見だった。女子高生は頭がおかしいが新時代のマメ知識。


「敵が増えるまで、相手の人数と同じ人数で順番に戦うのがいいと思う」


「うん、それがいいだろうね」


 紫蓮の意見が妥当なところだろう。


 というわけで、命子とイヨと紫蓮で2人ずつ、ささらとルルとメリスで2人ずつの計4人で戦うことにした。残りは見学。相手の数が増減するようなら臨機応変に変更。

 この分け方にしたのは、毎戦闘に最低でも1人は遠距離攻撃が得意なメンバーが入るためだ。


 しばらく進むと、周りに他のチームが見えなくなった。迷ったのではなく、このダンジョンは広いのでこれが普通なのだ。


「むむっ!」


 魔物が現れ、今回は命子のターン。

 命子は魔導書を浮かせながら、わーいと走り出した。


【セカンドジョブ】を得た命子の今のジョブは、『龍姫』と『見習い剣士』。

 世界中のデータによって、種族名と同じ名称のジョブは確定で凄く強いとわかっているので『龍姫』を。

【セカンドジョブ】は強いジョブと強いジョブの組み合わせができないため、もう片方は体力と近接攻撃アップのために『見習い剣士』を。


 2つの魔導書から魔法を放ち、1本の魔導剣を浮かせながらのダッシュである。

 後衛っぽい見た目の命子が武器をたくさん浮かべて接近してきたものだから、ネズミ原人たちは「やべえヤツが来た!」みたいな感じで狼狽えた。しかし、そこは魔物、すぐに立ち直って襲い掛かってくる。


 命子の放った魔法によって後衛ネズミが倒され、命子はそのまま前衛ネズミと戦い始める。

 4対4の戦いだったのに命子が2匹を相手取ってしまったため、ささらがやれやれとしながら見学に回った。


 命子が戦うのは二刀流剣士タイプのネズミ原人。


「二刀流だと!? おのれ小癪な、私だって見習い剣士だぞ!」


 命子も負けじと予備のサーベルを抜いて二刀流……否! 魔導剣1本と魔導書2冊をプラスして三刀二冊流。完全にズルい。


 諸手突きの要領で二刀突きを繰り出してきたネズミの攻撃を、命子は瞳を光らせながら両手のサーベルでいなす。それと同時に空中に浮いた魔導剣がネズミ原人に切りかかる。


 ネズミ原人の太ももに傷を作るが、致命傷には至らない。

 しかし、軸足にするには深手だったようで、次なる攻撃の軌道を単調なものにした。

 命子はその攻撃を華麗に躱すと同時にカウンターで胴体を斬り払い、さらに魔導剣ですかさず刺突を入れる。


「ハッ! スラッシュソード!」


 見習い剣士もスラッシュソードを覚えるので、命子は嬉々として使った。

 色々なジョブを研究する命子なので、実のところ初めて使ったわけではない。


 カウンターからの流れるような連撃に、ネズミ原人は光になって消えていった。


 ネズミ原人に「良い戦いだった」と心の中で別れを告げていると、ささらが言った。


「お見事ですわ」


「あ、ささら、ごめんね。敵を取っちゃって」


「いいえ。それよりも、まだ魔導剣の攻撃力が低いですわね」


「さすがにささらにはわかるか。やっぱり補助系の武器だね。ガチ剣士の斬撃には当分追い付かないかも」


 魔導書の魔法よりも魔法使いが杖で放つ魔法の方が幾分か強い。これは魔力パスで繋がっている分だけ、魔法の威力にロスが生じているのではないかと考えられている。

 その代わりに、魔導書は多角的な魔法の発射が可能で、熟練者なら本人がどんな行動を取っていても魔法を放てた。


 魔導書で起こっている現象は、魔導剣でも起こっていた。明らかに剣士系ジョブの斬撃の方が強いのだ。ささらなら一撃で致命傷を与えられるところを、命子の魔導剣ではそこまでのダメージは与えられなかった。

 しかし、その代わりに、魔導書と同様に剣士ではできないトリッキーな攻撃が可能だった。


 命子は割と王道ではないジョブ構成に進んでいたりする。

 とはいえ、命子は効率的に強くなりたいわけではない。

 このプカプカ浮いて自分の意のままに操作できる武器が好きなのだ。コイツらを極めたいから使っているのである。

 まあ人生はまだまだ長いし、命子はボチボチやるつもりだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
金ぴかさんに魔導剣もたせよう! ネズミ原人も人型ではあるけど嬉々として殲滅されてる。人間味は薄いからかな笑
結局馬場ちゃんだったのかw 泣いちゃったの隠しやがってー、教授もこの場に居てくれたらお姉さん辱め萌えが見れたかもしれないw 命子ちゃんには将来100本くらい武器を浮かせて戦ってほしいw
[一言] 三刀二冊流はたしかにずるいw
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