表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第13章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

374/433

13-7 サーベル老師の人生

本日もよろしくお願いします。

初詣の待機時間にでもどうぞ。


 新しい朝が来て、ウラノスがナイル川から浮上する。

 見送りにきたたくさんの人に手を振って、命子たちはカイロを発つ。


「さらば謎と神秘の国エジャト」


 朝日の中で目覚める市街地と、そんな景色の中に悠然と佇む3つのピラミッドを見つめ、命子は感傷的に呟いた。

 出発の際にはいつもどこかセンチメンタルな気分になる。


「さようならー!」


『やーやーっ!』


 測量を頑張っていた萌々子と光子も大きな声でお別れを言った。


「気をつけていくんだよーっ!」


 萌々子は、考古学の先生方からそんな温かな言葉をもらった。


「はー、やっぱり何もなかったかぁ」


 命子は少しがっかりしながら、最後にピラミッドを目に焼き付けようとした。


「いやいや、命子君。君にとっては冒険こそが事件かもしれないが、立場が違う人たちからすれば昨晩の一件は特大の事件だよ。実際に私のスマホには昨晩から問い合わせの連絡が何十件も来ているからね。辛い」


 教授は疲れた顔でそう言った。


「人によっては凄い事なのだから、あまり何も起きなかったとは言ってはいけないよ」


「そうかも。すみません、わかりました」


 教授にそう窘められて、命子は素直に頷いた。

 そんな命子の頭を撫で、教授はクマのある顔で微笑んだ。


 命子は旧時代に人生や仕事の課題を持っていない人間だったため、価値観が新時代過ぎるのだ。だからこそ新時代への適応が早いとも言えるが、このズレから生じる発言は時として人に不快感を与えかねない。


 命子は大切なことを一つ学び、カイロを後にするのだった。




 それからの旅路は大人しいものだったが、地中海沿岸の町を通過する際には多くの人から歓声で迎えられた。


 途中、ローマで一泊と観光をし、いよいよウラノス船団は陸の上空を飛び始める。キスミアは海に面していないため、必ず陸地の上空を飛ばなくてはならないのだ。


 キスミアがあるキスミア盆地は、アルプス山脈が作り上げた天然の要塞のような盆地だ。近代になるまでキスミアを隠し続けていたのは伊達でなく、東西南北のどのルートを通っても、いくつもの険しい山を越えなくてはならない。


 そんな立地なので、登山者にとって歩いてキスミアに行くのはエンドコンテンツみたいな扱いになっていた。いろいろな最高峰の山を登った登山者が、最後に目指すのがキスミアへのルートであり、その道のりはまさに山々のボスラッシュ。

 そうして苦難の果てにキスミアへ到着した暁には、ネコミミガールがニャンッとお出迎えするのだ。頭がおかしくなる。


 ウラノス船団は最後の停泊地、セイスはヌーシャテル湖畔の町ヌーシャテルに停泊した。

 セイスルートだとジュララン山脈を越えるのだが、飛空艇の停泊地となるとこのヌーシャテル湖が一番近いのだ。かなり遠くに、すでにジュララン山脈の険しい山々が見えていた。


「すげぇ、日本のヨーロッパ村みたい」


「うむ。我もここはヨーロッパ村をモデルにしているんだと思う」


「やっぱりそういうことか」


 低空から見える町の様子に、命子と紫蓮は真剣な顔で議論する。それを聞いたささらがクスクスと笑った。


 こういった湖畔の町での飛空艇の人気は凄まじい。水に浮くし、空を飛ぶし、それはそう。湖畔では多くの人が見物に来ており、ウラノスの美しい船体に見惚れていた。


 各国はウラノス船団の停泊に対して、なにかしらの要求をすることがあった。基本的に無茶な要求はなく、そうでないのなら停泊地に選ばないだけだ。

 エジャトの場合はエメラルドピラミッドの鑑定だったわけだが、セイスの場合は子供たちを乗せての遊覧飛行だった。


「「「ふわぁあああ!」」」


 地球さんTVで大冒険を繰り広げたウラノスと雷神への乗船に、子供たちの目は当然キラッキラだ。実際に湖の上を飛ぶので、なおのこと。


「「「うきゃぁああ!」」」


 そこに命子ちゃんご本人の登場ですともなれば、一生の思い出である。


「うむ、キッズは元気があってよろしい!」


 そうお姉さんぶる命子よりも背が高い子はチラホラ。

 だが、にじみ出るキッズ臭を嗅ぎ分け、自分の方が年上だと命子は確信していた。


 人気があるのはルルとメリスの猫コンビだった。

 やはり同じ系統の顔立ちなので、親しみやすいのだろう。ピョンピョンするニンジャへのシンプルな憧れもあるかもしれない。


 命子は、そんなキッズの中にもじもじしている子を発見した。

 胸に色紙を持ち、顔を真っ赤にして命子を見ている。


 その格好はダンジョン産の布と思しき素材で作られた巫女服で、頭にはシカの角を削って作られた龍角を模したカチューシャがついていた。明らかに命子のファンである。


「かわよ!」


 子供が自分のコスプレをしていたら可愛く思うに決まっている。命子とて同じだ。


「サインが欲しいの?」


 命子は胸の色紙を指さしてニコリと笑った。

 すると、少女はコクコクと激しく首を振るって、色紙を差し出しながら頭を下げた。


「おねないしましゅっ!」


 一生懸命覚えたであろうその日本語に、命子は萌えた。

 こうまでされたら黙っておれぬ。


「うん、いいよ」


 しかし、命子は芸能人のように片手で色紙を持って、立ちながらサインを書くことなどできない。そこで命子は甲板にハンカチを敷き、その上に受け取った色紙を置いた。もちろん、自分はジャパニーズSEIZAだ。ハンカチはおもてなし精神である。


 命子は懐からサインペンを出した。念のために他の紙に書いてインクの出を確かめる姿は、慎重さを求める冒険者の鑑。


 そんな命子の前で、なぜか少女も正座をしていた。おそらく、正座には正座で迎え撃つと日本の紹介動画で観たのだろう。


「いざ!」


 命子は【龍脈強化】をぶわりとさせた。宴会芸である。


 そうして、自分の名前を日本語で書いていく。

 さすが集中力が高められる【龍脈強化】を展開しているだけあり、命子が書く文字は美しい丸文字に仕上がった。


 さらに『子』に少し被るように、大判の羊さんスタンプをペッタンと捺す。この羊さんのスタンプは紫蓮に作ってもらったもので、いい感じに可愛らしい。これぞアニメとマンガの国日本の匠の技である。


「What is your name?」


「ハワッ! エレナでしゅ!」


 命子の巧みな英会話に、少女は名前を返した。


「Wow! Elena! That‘s a beautiful name!」


「ひ、ひみゅうーっ!」


 この女、去年までと違う!

 否ッ。キッズ相手なので強気なだけだ。だが、英語で国際交流に挑戦する姿勢は褒められたものだろう。

 命子から名前を褒められて、エレナちゃんは大興奮。


 命子は色紙に、『エレナちゃんへ』と足しておいた。もちろん、『へ』に謎の2本線は忘れない。

 全てが日本語で書かれたサインだ。日本人の自分にサインを求めたのなら、サインもまた日本語を求められているだろうという判断である。


 すっかり書き終わって命子が色紙を渡すと、エレナちゃんは目をキラキラさせて色紙を眺めていたかと思うと、次第にキラキラがウルウルに変化して、ついには泣き始めてしまった。


「どどどどどゆこと!?」


「感極まった感じだと思うが」


「あいがとござマース!」と泣きながら言っているので、紫蓮の言う通りだろう。

 キッズを泣かせたとあっては一大事なので、命子はホッとした。


 ふと、命子は周りの視線に気づいた。

 自分もサイン欲しいなといった感じの子が集まっていた。


 基本的に命子はサインを書かない。馬場やささらママにキリがなくなると教えられたからだ。


 しかし、こうなってはやむを得ぬ!

 飛空艇の遊覧会は、急遽サイン会場にもなった。




 その夜。

 命子たちがホテルのレストランでのんびりしていると、サーベル老師がやってきた。


「あ、老師。これからご飯ですか?」


「いや、ワシはもう食べた。お主らに話があっての」


 命子はささらと顔を見合わせて、師匠からの話なので居住まいを正した。

 老師はささらが勧めた椅子に座った。


「老師、なにかお飲み物は飲まれますか?」


「では、水を貰えるかの」


 ささらは給仕を呼んで、老師の水を注文した。気遣いレベルが命子とは違う。


「ワシはここから別行動になる」


「えーっ! キスミアまで行かないんですか?」


「うむ。キスミアまで行くと旅が長くなりすぎる」


「エギリスまで行くんですよね。帰りは間に合うんですか?」


 老師はエギリスに行くためにウラノスの旅に同行させてもらっていた。命子たちはキスミアに行く国からの依頼があるので、実のところ老師こそが一般客代表みたいなものだった。


「まあ間に合うじゃろう。今の列車は速いからのう。ここからエギリスまでなら2日程度で行ける。ジュネーブまで行くのが少しくたびれるが、そこからは早いもんじゃよ」


 さらっと海外旅行の日程を言える老師に、命子はかっけーと尊敬の眼差しを送った。


「でも、フェレンスからはどうするんですか? 船ですか?」


「メーコ。フェレンスとエギリスはドーバー海峡のトンネルで繋がってるデス」


 ルルに指摘され、命子はささらの太ももをペシンと引っ叩いて制裁を入れた。とばっちりである。


「これからお主たちは夏休みじゃろうし、そんなにすぐに帰るわけでもあるまい。お主らの予定が決まったら戻ってくるから安心せい」


 実は、命子たちの旅は帰りの日程が未定だった。

 いつまでも命子たちを海外に留めるわけにもいかないので、帰国最終ラインは仮決めされているが、場合によってはもっと早く帰るかもしれない。

 これは、転移装置の設置が実際にどのくらい日数が掛かるかわからないため、正確に決められなかったのだ。少なくとも、命子たちは夏休みが終わるまでには帰国することになる。


「でもなぁ、ソフィアさんは老師を帰してくれないような気がするなぁ。あの人、お爺ちゃん子っぽかったし」


 命子は腕組みをしてそんな予想を口にし、ささらたちが頷いた。

 世界的にも有名な薔薇騎士ソフィアは、2月に行なわれたDRAGON東京大会に乱入した。そんな我の強い人なので、借りパクされてもおかしくないと女子たちは思ったのだ。


「実際のところ何しに行くんですか?」


 命子は女子女子した。彼女か。


「ソフィアの実家であるフォーサイス家を訪ねる。あの家には、ワシの孫のような存在の雪子という娘がおるんじゃ」


「まあっ、お孫さんがいたんですの!?」


 ささらが元気な声で驚いた。


「いや、雪子は旅路で拾った娘じゃ」


「えぇ? さらっと凄いこと言いますね。犯罪とかじゃないですよね?」


「世間一般的にどうかは微妙だが、警察内部にシスターガルの息がかかっていた旧時代ではセーフだったんじゃないかのう。ワシ、プラスカルマじゃし」


 老師はホッホッホッと笑って、飄々とした。


「警察の保護が受けられないとなると、いろいろ深い事情がありそうですね。シスターガルの傘下の組織を潰して回ったアレでアレですか?」


 命子は、マンガやラノベで培ったストーリー分析ヂカラを発揮した。

 命子の先読み能力に対して、老師は髭を摩って少し考えると、頷いた。


「良い機会じゃ。ワシのことを少し話そうか」


 その言葉に、命子たちはむむむっと背筋を伸ばした。

 断片的にしか今まで語られなかったので、命子たちにとっては一大イベントなのだ。


「お主らはウィード・エデンという男を知っておるか? シスターガルの最後の総帥だった男じゃ」


「はい。フォーチューブで観ました」


「お主らはなんでもフォーチューブじゃの。まあ正しい知識なら悪いことではないが」


 知識の入手手段がいかにも現代っ子だが、ちゃんとした人が制作した動画ならば十分に勉強になる。命子が観た動画も、しっかりと調べて要点がまとめられた良い動画だった。


 老師は運ばれてきた水を飲んだ。


「硬くて懐かしい味じゃな。日本の水とはやはり違う」


 老師は懐かしそうにグラスの中の水を揺らし、話を始めた。


「ウィードはかつて、ワシの兄弟子だった男なのじゃよ。もう60年くらい前の話じゃがの」


「えーっ、マジですか!?」


 命子たちは目を真ん丸にして驚いた。

 そんな命子たちの驚きとは裏腹に、老師は昔を思い出すように落ち着いて語りを続けた。


「知っての通り、ワシは世界中を旅して回ったわけだが、20歳くらいの時にロンドンに渡り、そこで大道芸人として日銭を稼いでいた」


「パントマイムをしていたんですか?」


「いいや、パントマイムはその頃に出会った。ロンドンに渡った当初のワシは、刀術を応用して枝や紙きれで野菜を切っていたのう。他にも、写真のように人の一瞬の行動を絵にしておひねりを貰ったりしていたか」


「若い頃から多才ですね」


「絵や楽器の演奏は、旅先で出会う人と仲良くなるためのツールになる。宿や船旅でサラサラと描くとウケたんじゃよ。だからいつの間にか上達しておった」


 昔を懐かしむようにそう語った老師は、どこにでもいるお爺さんの顔だった。

 はー、と命子たちは世界を巡った老師の旅を想像した。


「ワシの旅の目的は自身の武術を昇華させるヒントを得ることじゃった。そんな折に、ロンドンでパントマイムをするピエロに出会った。それはもう素晴らしい腕でな。ワシはその技術を学びたい一心で弟子入りしたんじゃ。そして、その師匠の義理の息子こそが、当時十代中頃だったウィードじゃ。ややこしいが、ヤツは年下の兄弟子ということになる」


「ウィードはロンドンの見習いピエロだったって、フォーチューブで観ました。そういう人だったんですね」


 命子が納得すると、老師は頷いて話を続けた。


「ウィードは両親を失っておってのう、師匠に拾われて大道芸の技術を磨いておった。後年に闇の帝王になってしまったが、あやつは両親を失っても健気に技を磨く素晴らしい少年だったんじゃ。日本人であるワシを見下すようなこともなく、ワシが作った日本料理も笑顔で食っておった。気の良い少年だったよ」


「それなのに、なんでそんなことに……」


 真っ当な人生を送っていたであろうウィードが暗黒の道を歩み始める経緯を、命子たちは想像がつかなかった。


「あれはワシが弟子入りして2年が過ぎた頃じゃった。当時のエギリスは他国からエギリス病などと言われるほど経済的に窮地に陥っていたのじゃ。そんな中で、とあるサーカス団がロンドンの興行で大成功を収めてのう。将来への焦りや不安で疲弊した国民の心の癒しになったのじゃろう」


 老師はグラスを手に取り、舌を湿らせた。

 命子も慌ててぶどうジュースをゴキュリとして、続きを待った。


「その余波はロンドンの大道芸人たちにも恩恵をもたらした。まあ要するに大道芸のブームが訪れたわけじゃな。師匠やワシらは腕が良かったから、過去最高のおひねりを連日のように貰ったもんじゃ。しかし、それが不幸を招いた」


 老師の語りに、命子たちだけでなく、同席する馬場や教授、両親やSPたちも真剣な顔で耳を傾けていた。特に政府サイドの馬場たちは内心で驚愕していた。

 ウィードの名はすでにわかっていたが、その人生の大半が分からなかったからだ。それが身近なところで証言者が現れたのだから、驚きは当然だった。


「小金持ちとなった師匠とウィードのアパートに強盗が押し入り、師匠が殺されたのじゃ。幸いにしてウィードは軽傷だったが、3日後にワシに別れの手紙を残して姿を消した。さらにその3日後にピエロの血化粧がされた3人の男の遺体が発見された。当時の新聞を探せばおそらく見つかるじゃろう。ウィードを鬼の道へ堕とした事件じゃよ」


 ニコパ系女子高生にとって、その凄惨な事件は遠いことのように思えるのに、実際にその物語の中心にいた人物が目の前にいることが不思議な感じだった。


「ウィードとはそれっきり音信不通だった。ワシは死んだものかと思っておったよ。しかし、それから15年ほど経って再会した時、ヤツは若くしてシスターガルの幹部にまでなり、人身売買を行なう悪鬼に堕ちていた。それ以来、ワシはウィードを追うために世界中を巡ることになったんじゃ」


 そこまで聞いた命子はハッとした。


「じゃあ、終わりの子になるキャルメちゃんが幻歩法を使ったのは……」


「ウィードは師匠の下で修行していた時から、外に行く際にはピエロの顔をしていたからのう。総帥にまで上り詰めたヤツの素顔を知っていたのは、この世でもうワシだけだったのではないかのう」


「だから、終わりの子は老師と出会ったのか……」


「訪れていない未来ゆえに本当のところはわからんが、まあおそらくそれが正解だろう」


 命子は終わりの子と大きく関わったので、しんみりした気分になった。


「結末は知っての通り、地球さんのレベルアップでヤツは罪を償う旅に出たわけだが……そんな有様だから、ワシの人生もまた決して真っ当とは言い難いものだった。ワシに拾われ、一時共に旅をした雪子も同様。あの娘はシスターガルの被害者での、国籍を持つことができなかったのじゃ」


「そうだったんですか……じゃあ雪子さんに顔見せに行ってあげないと!」


「だから行くんじゃって」


「そうだった!」


 肩をぴょんと跳ねさせておどける命子の態度に、老師は感謝していた。


 闇を追う者は自身も闇の中を歩む。

 命子の屈託ない明るさは、そんな闇を切り裂くものだった。


 馬場が遠慮がちに手を上げた。


「なぜ森山さんは風見町にいたのでしょうか?」


「ウィードといくつかの条約を結んだからじゃ。もうウィードを追わずに日本の片田舎で暮らすことを条件に、雪子の安全と、シスターガルの傘下の組織と揉めていたフォーサイス家から手を引くこと、他にいくつかのことを約束させた。どれほど約束が守られたかはわからんが、少なくとも雪子とフォーサイス家については約束を守ったようじゃな。あやつは、鬼の心を持ってしまったが、人としての最後の時間を共に過ごしたワシに義理を通したのじゃろう」


「……その約束は10年前に交わされていませんか?」


「左様」


 馬場と教授はシスターガルの色々な資料を思い出して、ひとつ腑に落ちたことがあった。


 シスターガルの活動は日本だけ少なかった。

 ないわけではないが、他の国が10だとすると日本は2程度しか活動がなかったのだ。元々文化が特殊過ぎるために活動は少なかったのだが、特に10年ほど前からそれは顕著に見られた。


 資料では、なぜ日本での活動が縮小されたのかが書かれておらず、調査員は推測を立てることしかできていなかった。あの政治家が日本を守っただったとか、ガラパゴス化している日本をそのまま残すことで何らかの実験がされていたとか、そんな推測だ。


 けれど、真実は違った。ウィードが森山嵐火を恐れたからか義理を通したからか。なんにせよ、老師の存在が牽制となり、日本を守っていたのだ。


「老師、なんと言ったらいいかわかりませんけど、お疲れさまでした」


 命子がそう言うと、ささらたちも真剣な顔で頷いた。


「ほっほっほっ。まだそう言われるには早い。立ち止まればお主らに瞬く間に置いていかれよう。師匠としてそれでは示しがつかんだろう?」


「はい!」


 ニヤリと笑う老師に、命子はニコパと笑って返事をした。


「では、ワシは明朝に宿を発つ」


「気をつけて行ってくださいまし」


「老師、やんちゃしないようにしてくださいね。あと門限までには帰ってくるんですよ!」


 昔話を聞いた命子たちは、もう老師を引き留めなかった。


「お主らこそな。お主らはすぐに変なことに巻き込まれるからの。十分に気をつけい」


 命子たちが年中冒険に巻き込まれるのは、あるいは世界中で活劇を繰り広げた師匠譲りなのかもしれない。


本年もお付き合いいただきありがとうございました。


次回の投稿は例年通り1月1日の0時です。


■■お知らせ■■

来年1月1日の0時から、新連載を始めたいと思います。

地球さんの投稿頻度は変わりません。アアウィオル王国の方は頻度が減るかと思います。申し訳ありません。


タイトルは『ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~』

【あらすじ】

 日本の掲示板住民たちが、異世界のネコミミ幼女・ミニャちゃんとネットを通じて交流する物語です。

 掲示板住民たちは30cmの人形に宿って、ネコミミ幼女のために異世界で馬車馬のように働きます。

 掲示板住民たちの制限は多く、1人の力はそこまで大きなものではありません。みんなで力を合わせて、ミニャちゃんのために物事を解決していきます。


 時には穴を掘って竪穴式住居を作り、時には夏のゴミ捨て場のような臭いのゴブリンと戦い、時にはミニャちゃんを楽しませるためにズンズンと踊り。そうして、ミニャちゃんが寝たら掲示板で大会議を始めるような物語です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 雪子は「12-3 空の旅」で触れられているので、ささらの「まあっ、お孫さんがいたんですの!?」という反応はちょっと違和感。
[良い点] サイン書くのに龍脈強化使うとかwww しかも、『美しい丸文字』 丸・文・字www 読んだとき噴き出しました(≧▽≦)丸文字なんか〜い! やっぱ命子たちのワチャワチャは楽しい!!
[一言] 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ