13-6 ピラミッド見学
本日もよろしくお願いします。
引き続きカイロの観光。
ピラミッドを前にした命子は、その大きさに圧倒された。
「はわー……」
高さは139m。まさに見上げるほどの大きさだ。
対する命子は150cmない。ちっちぇ。
これほどの差があっては、さすがの命子もつま先立ちになって虚勢を張ることもない。
「凄いですわ。まさに古代人の叡智ですわね」
ささらも悠久の時を想って感動している様子。紫蓮もぴゃわーと頷いている。
「これがヤマトよりも前に作られたのかえ……凄いものじゃなぁ」
古代人であるイヨも120cm強しかない。もっとちっちぇ。
「でもヤマト文明もテレポート装置を作ったし凄いでゴザルよ」
「ニャウ。その頃のキスミアなんてみんなニャーニャーしてたデスからね」
そんなふうに情操教育されるキッズたちがいる一方、親たちはキャッキャであった。
「ほら、ルル、みんなも! ママの隣に並んで!」
「あなた、見て見て! ラクダ! 私、ラクダって初めて見たかも!」
「ホントだ!」
「うぅうう……覚醒した右目がうずく……っ!」
「あなた、大丈夫ー? ピラミッドパワーなのー?」
ひでぇ有様だ。
おかげでささらママは少し恥ずかしそう。
「それにしても……」
命子はそんな親たちからスッと視線を逸らし、馬場に質問しようとした。しかし、馬場もピラミッドを背景にして自撮りしていたので、そのまま視線を教授に移した。だが、教授も目をキラキラさせてピラミッドを見上げている。
命子は「それにしても」の行き先が無くなりそうになったので、紫蓮にぶつけておいた。
「それにしても、あまり人がいないね?」
別になんてことのない質問だった。
「ピラミッドの観光は夏だと18時まで。だからこれから我らの貸し切りになる。まあ日の入りまでそこまで時間はないけど」
博物館観光でかなり時間がかかったので、現在時刻は18時になろうという頃。
ピラミッドの周りからはすっかり観光客の姿はなくなり、遠くの道路に帰る姿が確認できた。
人がいなくなり、夕日の中に佇み陰影を深めるピラミッドは、神秘さよりもどこか郷愁を感じさせた。
「なんだろうこの気持ちは。侘び寂びというのかな。私は夕日に燃えるピラミッドの光と影に沙羅双樹の花の色を学んだのでした。羊谷命子西方見聞録、永遠のピラミッドより抜粋」
「メーコはたまに賢そうなこと言うデスよね?」
「まあね。ちょっと本気を出すとこうなっちゃう。いけないいけない、ガソリンをローにしなくちゃ」
「ひゅーっ、完全にバカになったデス!」
命子がバカになったところで、イヨが言った。
「ふむ、やはりこの地は龍気に満ちておるのじゃ」
イヨは足元の砂をすくって、手の中でもみもみした。
命子たちも瞳を光らせて神秘の世界を覗き込む。
すると、たしかにマナの巨大な流れがいくつも大地を流れていた。
その流れは砂丘の向こうに消えたり、市街地の方へ広がったりしている。
「あっちはたしか、ダンジョンがありますよね?」
「ああ、ピラミッドダンジョンだね。有名なE級ダンジョンだ」
命子が問うと、教授がそう教えてくれた。
ピラミッドダンジョンという名称は、ピラミッドの近くにあるという意味でつけられたものだ。内部構造がピラミッドなわけではない。
「やっぱりモグラ妖精さんが言っていたことは本当なんだな」
以前、風見ダンジョンのお宿で光子がお風呂に流された時、モグラ妖精はダンジョンと魂魄の泉の関係を教えてくれた。
ダンジョンで使われている水は地上に流されて、マナの運び手として水循環させられる。ダンジョンによって水の行く先は様々だそうだが、中には神獣の強い力が作る魂魄水を薄めて魂魄の泉を形成させる場合もあると言う。
「ピラミッドは魂魄の泉……当時だと魂魄水を守っていたのでしょうか? いえ、守っていたのは精霊石?」
ささらがそう考察し、命子も頷いた。
「これだけ派手な建物だとそう感じるよね。ヤマトやキスミアはどういうコンセプトだったの?」
「ヤマトが龍道を塞いでいたのは、人や獣が入らんようにするためなのじゃ」
「キスミアはペロニャが山向こうの悪魔たちから隠したそうなのれす」
命子の質問に、イヨとアリアがそう答えた。
「やっぱり、いまのところ魂魄の泉っていうのはそういう扱いなんだよね。ピラミッドもそうなんじゃないかな? 海や山脈で隔離されていない分、古代エジャトの危機感の方が強かったと思うし」
「我はそれだけじゃないと思う。ミイラは精霊になりたかった人たちみたいだし、当時の魂魄水がマナの光を出していたのなら、その光の粒の上昇地点に自分のミイラを設置したいと思う王族がいても不思議じゃない」
「ニャウ。現代人でもタカギ柱に入りたい人は多いでゴザルからね」
「あー、なるほど。それはあるかも。考えてみれば敵から守るには目立ちすぎるしね」
「絶対に掘削できないようにするという観点で見れば大成功だと思う」
そんなふうに考察しあう命子たちに惹かれて自然に考古学者たちも集まり、その中の一人から話しかけられた。
「面白い考察ですね。私はタカギ柱を映像でしか見たことがないのですが、それほど神秘的なのですか?」
「ニャウ。タカギ柱も魂魄の泉もすんごく神秘的デス。ねー、メーコ」
「はい。古代の人がマナの光を神聖視しても何ら不思議じゃないですね」
「メーコ。ぶわりをやってあげるデス!」
「良かろう!」
命子は【覚醒・龍脈強化】をぶわりとした。
ルルは緑色のオーラを纏う命子を体育座りさせた。覚醒体育座りである。
「この頭の上から先の色の光が地面からふわふわ出て柱になるデス」
英雄を使った謎の喩えを受けて、先生方は苦笑いだ。
「精霊は物を透過すると聞く。地下の様子を見ることはできないのだろうか?」
別の先生が尋ねた。
命子たちは、教授を見た。
「教授。たしか、地面の中だと方向感覚を失っちゃうんですよね?」
「いや、命子君、それは契約したての精霊だよ。この場にいる精霊ならば私たちの魔力をしっかり覚えているから、方向を見失うことはないね」
「あー、そういう感じか。じゃあできる感じですか?」
「それならば妾がやるのじゃ。ひとつお主らに精霊使いの奥義を見せてやろうかの」
「そ、そんな技が!?」
ズイッと出てきたイヨに、命子たちのワクワクゲージがギュンと上がった。
「えーと、葉っぱのついた枝はないかの?」
しかし、そこは砂漠。ない。
「こんなのならあるでゴザル」
メリスが日本で買った猫の手を取り出した。掛け紐の部分には猫の顔のストラップがついている。
「ふむ、飾りがいい感じなのじゃ」
イヨは猫の手を借りて、逆さに持った。
フリフリして確認すると、猫のストラップがペチペチと動く。
命子は、龍神信仰は雑なんだよな、と再確認した。
イヨとイザナミが向かい合って座り、猫の手と枝をフリフリしあう。
「この技は精霊の視覚を得る術なのじゃ」
「へえー、そんな技があるんだ」
「テイマーにもテイムした動物の視覚を見ることのできる技があるでゴザル」
「人形使いにもある」
感心する命子に続き、メリスと紫蓮が言った。
その2つのジョブにも、対象の目を借りる技が存在した。『テイマー』の鳥の目を借りる技は地球さんイベントでかなり重宝され、『人形使い』の方は消費魔力が多いため使いこなせる人が少ない。
「そういえば精霊使いには今のところなかったね」
萌々子が言うと、教授が顎を撫でて考察を述べた。
「おそらく、他のジョブが扱うものの視覚と違い、精霊の視覚はマナの世界に近すぎるからではないだろうか。イヨ君、それはマナの世界に入り込んでしまうのではないかい?」
「その通りなのじゃ」
「となると、その技の習得にはかなり上級のジョブか、マナの扱いに長けるなどの条件が必要なんじゃないかな?」
「ジョブについてはわからぬが、この技の修行は決して一人では行なってはならんのじゃ。引きずり込まれれば、七日七晩はまともなものを見ることができなくなるのじゃ」
イヨの言葉に、魔眼使いの命子たちや精霊使いの萌々子たちはゴクリと喉を鳴らした。
「では始めるのじゃ」
イヨは猫の手をフリフリして明鏡止水に入った。どこかのパチモノではない信頼感がある。
半眼をスッと開き、イヨが術の名前を口にする。
「八咫鏡」
『なんなん!』
「「「っっっ!?」」」
いきなり飛び出した三種の神器の名称に一行が驚く中、イヨの目が光り輝く。
「イザナミよ。少し大地の中を飛んでくるのじゃ。龍道のような場所を見つけるか、妾が呼んだら戻ってくるのじゃ。良いか?」
『なんな~ん!』
イザナミは枝をフリーッと頭上に掲げると、地面の中に入っていった。
すると、すぐにイヨは、目の周りに虫が飛んでいるけど瞼を閉じられない状況にいる人のような目をし始めた。
「い、イヨちゃん、大丈夫?」
「地面の中だから凄くうっとうしいのじゃ!」
「あ、あー。確かにそうなるか」
マンガやアニメのようにカッコ良くはいかない模様。
「どう? なにか見つかりそう?」
「うむ。どうやら何かを感じ取っているひょわ!」
「どどどどした!?」
いきなりシュバッと体を横に傾けたイヨに、命子たちもハラハラだ。
「四角い石がいきなり出てきてびっくりしたのじゃ」
「それ遺跡じゃない!?」
命子のテンションが上がる一方、考古学者の先生たちはうむうむとそこまでの反応は見せない。この場で遺跡が見つかるのはさほど珍しくないのだろう。
イザナミの視覚に慣れて緊急回避をしなくなった頃、イヨはクワッと目を見開いた。
「地下通路を見つけたのじゃ!」
「「「おーっ!」」」
「間違いない。精霊魔法で作られたものなのじゃ」
「そそそ、それはどんな様子ですか!?」
「ちょ、落ち着いてくださーい!」
考古学者の先生たちがワーッと詰め寄るので、馬場とSPがそれを止めた。
「道幅はこれくらいで、高さは妾2人分くらい。壁には人の絵がたくさん描かれているのじゃ」
「「「うぉおおおお!」」」
学者先生大興奮。そんな中には教授と萌々子の姿もあった。
イザナミは見つけた通路の中で、『なん!』と一声鳴いて戻ってきた。
「ご苦労だったな、イザナミよ」
『な~ん!』
イヨは労りの言葉と魔力を送り、イザナミはフリーッと枝を振り上げた。
そんなイザナミに精霊たちが群がり、わちゃわちゃとなにやら情報交換。
「それでその地下通路っていうのは、どっちにあるの?」
「妾はわからぬのじゃ。イザナミ、わかるかの?」
『なんな~ん!』
イザナミはフリーッと枝を振って、あっちと示した。
「うむ。それでは案内するのじゃ!」
一行はイザナミや精霊たちの後を追った。
そこはクフ王のピラミッドから真東の方角。
クフ王のピラミッドの東側には、王妃の小さなピラミッドや葬祭神殿の跡地などがある。そのさらに外側には墳墓群が広がっていた。
『なん! なんなん!』
「ふむふむ。どうやらこの真下にあるようじゃの」
そこは硬い石場になっていた。
「教授、ここってなんですか?」
「ここは貴族の墳墓群とされているね」
命子と教授が話していると、考古学者の先生が手を上げて発言した。
「地下通路というのはどの程度下にあるのでしょうか?」
「すまんが、それはわからんのじゃ」
「精霊と視覚が同化しているため、地面の中だと視界や速度感が奪われるのだと思われます。あと方向感覚も術者は失っているはずです」
イヨの答えを教授が補足した。
そこで教授は実験をすることにした。
イザナミにもう一度地下へと向かってもらい、通路に到着するまでにかかった時間を計るのだ。もちろん、速度はある程度覚えてもらうことになる。
そうして計測した結果、地下90m前後の場所に地下通路があることがわかった。
「きゅ、90m……」
「いや、クフ王の地下玄室が地下30mだと考えると、そのくらいの地下にあるのは頷ける話ではありませんか?」
「しかし、それだけ深いとなるとエジャト政府の発掘許可は到底下りんぞ」
などと考古学者たちは議論し合う。
チラッと同行しているエジャト政府の役人に視線を送ってアピールプレイをしてみたり。
「でも、ちゃんとした入り口は地下90mじゃないですよね。きっと」
命子が首を傾げた。
それに考古学者の先生が丁寧に答えてくれた。
「砂漠の遺跡というのは砂に埋もれるんです。そうして砂に埋もれた遺跡の上に、さらに遺跡があるということもザラにあります。おそらく、入口は何m、下手をすれば何十mも砂が積もり、その上に遺跡がある状態でしょう。入口を特定できなければ雲をつかむような話になってしまいます」
考古学者の先生たちは捨てられた子犬のような視線をチラッとイヨと馬場に送った。
「妾は別に構わんが」
そう言ったイヨが視線をパスすると、馬場はむむむっとした。
「この案件には神獣が関わっている可能性が高いです。下手に刺激すればシークレットイベントが発動する恐れがあります。人命が失われたり、ピラミッドを一部破損させる事態になれば、国際問題になってしまいます。ですので、これ以上は……」
馬場の返答に、考古学者とついでに命子と萌々子は意気消沈した。
そこで教授が助け舟を出した。
「精霊はある程度、不思議な人工物を見分けられる。この場には4人の精霊がいるので、一度地下通路の魔力を覚えれば、地上から三角測量が可能かもしれない。翔子、それでどうだろうか?」
「うーん、危険は?」
「あるとすれば精霊が地下通路の魔力を覚える瞬間だけだ。それ以外にこの地の神秘に触れることはないだろうし、危険は少ないはずだ。あとはもう神獣の気分次第としか言えん」
「うーん……オーケー。それでいきましょう」
結果、それでいくことになった。
まずはイザナミに連れられて、アイ、光子、アリスが一度地下通路を見に行った。
特に問題なく帰還すると、教授が説明を始めた。
教授の周りには考古学者たちから貸してもらった備品が転がっていた。
「どこに地下通路が通っているかはすでにわかっています。ならば、あとは観測点の距離とそこから地下通路への角度さえわかれば深さは導き出せます。精霊の感覚に頼るので、これを複数個所で行ない、精度を高めましょう」
説明を聞いた命子はうむうむと頷いた。しかし、その手はしっかりと指遊びをしている。
「ぬぅっ、これは我、一生の不覚」
「ど、どした、紫蓮ちゃん。海の軍師みたいな顔をして」
「誰が五つの車星か。この発想は学生ならできた。我は気づけなかった」
「ま、まあ、そういうこともあるさ! 私もニアピン差で気づけなかったな! 学生なのにな、惜しいっ!」
命子は未だにわからなかった。砂で作った山をにゃんこハンドで蹴散らしているルルやメリスと同類だ。これが本来の風見女学園の実力である。
しかし、考古学者たちは違う。考古学に於いて測量は基本中の基本だからだ。
教授の説明を完全に理解しており、さっそくイヨ、萌々子、アリア、教授のグループに分かれて、自ら測量器具を手に取り、野帳(※測量のノート)に結果を記入していく。
学者は自分の学説を持っているため、時には他の学者と意見がぶつかる。この場に集まった考古学者も同じで、同じ学派でもない限りは全員がライバルだ。しかし、今日ばかりは全員が一致団結して測量を行なっていた。
「光子、この方角で合ってる?」
「やぁ……やーっ!」
光子は30cmほどの棒を持って、地下通路がある方角を示す。
萌々子に問われて再確認し、オッケーの「やーっ」が出た。
「先生、これでいいみたいです!」
「ちょっと待ってくれ。オッケーだ。次のポイントへ行こう!」
相棒の先生は光子が示す棒の角度を測り、水平距離と共に野帳へ記入。
「ほら、お姉ちゃん、次行くよ!」
「はい、ボス!」
萌々子や先生が凄く生き生きしている。それに付き合うお姉ちゃんは測量ポールを持ってダッシュした。
突如始まった測量大会に、他のメンバーも荷物持ちや巻き尺班として大忙し。
気づけば日は沈んでいるが、どこから持ってこられたのか大型のライトで照らされ、作業は続く。
命子たちが有名考古学者たちとそんなことをしていれば、嫌でも注目を集めるというもの。ピラミッドのすぐ近くには多くのホテルがあることだし。
いつの間にか遠巻きにテレビクルーが撮影をしており、馬場は遠い目をしながら掛かってきた国際電話を取った。お前ら何してんだと。そんなのは馬場の方が聞きたかった。
多少の誤差を許容して見えてきたのは、地下通路の姿。
イザナミが発見した最初の地点は深さ90mであり、ピラミッドに近づいてもほとんど深さは変わらない。
しかし、ピラミッドから離れると、次第に地下道が地表に近づいていることがわかった。それがある地点に到達すると一気に急勾配となり、階段があることがデータから予想できた。
教授のパソコンから送られてきたデータを、先生方がそれぞれのデバイスで凝視する。
「この高さの誤差のばらつきが通路の床と天井の差と見て間違いなかろう。イヨ様の背の高さの倍という話だから、ほとんど一致する」
「葬祭神殿の下を通る精霊の参道! これは考古学史上類を見ない発見になるぞ!」
と、どこもかしこもワイワイしている。
命子たちは初めての測量に冒険以上にお疲れである。
「エメラルドピラミッドと精霊スフィンクスの位置関係と、実際の入り口の場所が完全に一致している……」
「本当ですね」
考古学者の先生がうなり、そのパソコンのデータを一緒に見ている萌々子もむむむっとした。そんな萌々子を見る親と姉はあわあわした。
精霊測量によって入り口と思しき場所は特定できた。
深さは23mの位置にあり、ピラミッドからの距離は先ほどのエメラルドピラミッドと精霊スフィンクスの位置関係と一致していた。
「そうなると、猫の歌も何か関係があるんでしょうか?」
「世界の始まりや終わり、再生はエジャト神話ではよく聞く文言なんだ。だからあまりあてにはできない。しかし、それを抜きにしてスフィンクスの動きに注目すると、この参道の内部構造がそのまま当てはまるのではないかと思う」
「朝はこの場でニャーと鳴いて、昼になると世界を巡る……ま、まさか、先生! ピラミッドの下に世界の巡りを模した迷宮があるってことですか?」
「あくまでも可能性だけどね。しかし、実際に精霊スフィンクスが示した直線道は存在することがわかった。あり得ない話ではない」
その話を聞いて、萌々子は目をキラキラさせた。
そんな萌々子に残酷なお知らせをしなければならない。
馬場はポンと萌々子の肩を叩いた。
「萌々子ちゃん、私たちは明日にはエジャトを発つわよ」
「「えーっ!」」
萌々子と先生が揃って声を上げた。
先生の助手は日雇いだった模様。
というか、すでに23時を回っている。
もうとっくの昔にホテルに戻る時間であった。
「ゴホン。とにかく、掘ってみないとこれ以上はわからないだろう。発掘というのは時間がかかるものだから、君が大人になる頃まで発見されないかもしれない。もし、その時までこの地のことを忘れなかったら、またおいで。歓迎しよう」
先生はそう言って慰め、萌々子はしゅんとしながら頷いた。
そろそろホテルに戻ろうという空気になり始めた時のこと、イヨが先生方に問うた。
「ところで、古代エジャトの技を受け継ぐ巫女はおらんのかの?」
すると、考古学者の先生たちは一斉にしゅんとした。
代わりに教授が答える。
「古代エジャトは何度も他国から征服され、その都度、宗教が変わったんだ。それによって古代エジャトの宗教は完全に途絶えている。言語も同じ理由で消滅してしまったから、古代の巫女の技はもう全く残っていないんだよ」
「はー、そうなのじゃな……。それなら命子様のように、この地の神獣の試練を乗り越えた者を育てた方が良いと思うのじゃ。そうしなければ封印を解く時に困ることになるのじゃ」
「イヨ様はその辺りのことは不可能なのでしょうか? いえ、ご足労頂きたいなどということではなく」
一人の先生が慌てて言葉を足しつつ、そう問うた。
考古学者にとって、イヨとはかなり恐れ多い存在なのだろう。
「わからん。妾はあくまで龍の巫女なのじゃ。この地の神獣にご挨拶できれば開くことも可能かもしれんが……」
イヨはそこで言葉を切り、先生方を見回した。
「しかし、そういった封印を解く者は、この地を愛している者であるべきだと思うぞ。それはこの地に生きる者であり、この地を研究しているお主らのことなのじゃ。外の者である妾が行なうべきではないと妾は思う」
イヨの巫女らしい言葉を聞いて、アリアと考古学者は揃って大変な感銘を受けた。
命子は、はぁ、これが本物の巫女かぁ、と格好だけ巫女な自分とは違うなと感心した。
結局、命子たちはエジャトの地で大冒険をすることはなかった。ピラミッドがビームを出すことも巨大ロボに変形することもなかったのだ。
しかし、イヨや萌々子たち精霊使いの大活躍によって、古代エジャト考古学会を激震させるほどのヒントをいくつも残すことになった。
教授が考案した精霊を用いた精霊測量も、地味ながら物凄く注目されることになる。
そして、後年、というか1年ほど後に、クフ王のピラミッドの地下90mから大規模な精霊洞窟が発見されることになる。
そこに行くまでに次元龍の『無限空間道』のような試練があり、この試練を乗り越えるために猫語が大いに活躍したという。
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




