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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第13章

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13-1 再びキスミアを目指して

13章を始めたいと思います。よろしくお願いします。



 命子たちはいま、海上自衛隊の船内倉庫に来ていた。


 カッコ良くカラーリングされた小型飛空艇が並ぶ倉庫の一角が空けられており、その壁際にささらたちは立っていた。

 ささらたちの視線の先には、ビニールシートの上でちょこんと正座している命子の姿が。


 これからダンジョンクリアで手に入れた特殊な宝箱を開封するのである。


「なんかすみません。わがまま言っちゃって」


 命子はそう言いつつも、自分の前にある小さな金色の宝箱さんをナデナデしまくる。非常に白々しい謝罪である。


 なぜ謝罪するかというと、この宝箱はここで開けなくてもいいからだ。

 消費期限が設定されている恐れもあるので早めに開けるのは理に適っているが、さすがに2、3日は持つはずなので、近くの国で倉庫を借りるのが正しい対処と言えるだろう。

 ここで開けるのは、本人の言う通り、命子のわがままだった。


「では命子君。準備は……愚問か。あちら側に口を向けて開けてくれ」


 教授が言う。

 宝箱の背後を取って正座する命子に準備の良し悪しなど聞くまでもない。

 動画撮影されながら、いざ開封の儀。


 宝箱の蓋に手を添えた命子はハッとした。

 これ、オープンする瞬間が自分だけ見えないじゃんと。


「ままならぬ!」


 だーれだ、とやる彼女は悪戯されて笑う彼氏の顔を直接は見られないのだ。


 この世の真理を再確認しながら、命子はパカリと蓋を開けた。

 すると、宝箱から一気にアイテムが溢れ出した。


「雑なんだよな!?」


 命子はあわあわしながら、その様子や馬場たちを交互に見やる。

 馬場もあわあわしながら、教授やこの船の責任者を見やっていた。


 しかし、最初こそ凄い勢いだったものの、倉庫に余裕を残して素材の流れは止まった。

 最後に、命子の身長よりも大きな羽根が6枚と、巨大な爪が6本出てくると、金色の宝箱はキラキラと輝いて虚空に消えていった。


「あぁ……!」


 命子は光の粒になって消えていく宝箱さんに手を伸ばすが、宝箱さんはもう帰ってこない。


「宝箱さんの消える音、諸行無常の響きあり。宝箱さんの消える色、盛者必衰の理をあらわす……侘び寂び!」


 宝箱さんから多くのことを学び、命子はドロップ品の山に視線を向けた。


 2隻でたくさんの人が魔法をぶっ放して、なるべく船に近寄らせないように戦ってきたわけで、甲板に落ちたドロップ品よりも空に落ちたドロップ品の方が多い。

 しかし、基本的に小さい物が多かったので、数はあっても総体積はそこまでではない。

 例外は、ガルーダのドロップ品だ。これが非常に大きかった。


「ほう、これは凄いな」


 紫蓮パパがガルーダの爪を撫で、得たばかりの【魔眼】を光らせて言った。物体の真実の姿が見えているのだろう。【魔眼】にはその力がある。


 マナ進化して魔眼を得た親たちは、いろいろな物を見て子供のようにキャッキャしていた。これもそのひとつだ。

 命子たちはそれを生暖かい目でスルーしつつ、自分たちもドロップ品を見て楽しんだ。


「あっ、馬刺し! 馬場さん、今日、馬刺し食べたいです」


「命子ちゃん、馬刺し好きね。まあいいわ。給養員に言っておきましょう。マナ進化記念よ」


「ひゃっふーい!」


 馬刺しは準レアドロップでそこまで多くはないが、倒した分母が大きいので割とある。

 ちなみに、給養員とは空自や海自のコックさんだ。命子にとって聞きなれない言葉だったが、馬刺しが出てくるのだから悪いようにはされないと喜んだ。


 大切に確保する命子に微笑んでから、馬場は全体に説明した。


「みなさんのドロップは一旦国の預かりになります。旅の途中でも、言ってくだされば必要な分をお渡ししますので仰ってください。ただ、ここに出ている分は日本に一度送られますので、ウラノスに積んである分をお渡しする形ですね」


 ダンジョンで得た物は国がある程度は個数と所在を把握する仕組みだ。それは天空航路のドロップ品でも変わらない。


「分配はどんな感じになるんですか?」


 命子が問うた。


「国8の命子ちゃんたち2で提案が来ているわね。ガルーダの羽根と爪はちょっと待っててほしいわ」


 ガルーダのドロップは金の箱を開けるまでわからなかったので、これから考えることになるのだろう。


「2割も貰っちゃっていいんですか?」


「上が良いって言ってるし良いんじゃない?」


 これは雷神の成果も含まれているので、5割は自衛隊が確定だろう。残りの5割を人数割りした時、自衛官の人数の方が命子たちよりも多かったし、2割は少し多く思えた。ちなみにこれは料理人などのサポート員も含まれた計算だ。全滅した時のリスクは彼らも同じなのだから。


 命子は2割を多いと思ったが、国としてはガルーダ戦のフィニッシュの影響力を考えて、あまり少ない分配はできなかった。


 後日、ガルーダの羽根と爪は国と命子たちで3つずつに分けるということになった。

 命子たちの取り分は国から買い取りたいという申し入れがきたが、これはやんわりとお断りすることにした。


「あと、浮遊島で得た物はどうするつもり? 個数の明細は笹笠さんから受け取ったからもう自由にして良いけど、もし手放すなら冒険者協会の特別オークションを使えるわよ。だけど、あまり日を置くと価値は低くなるわね。自衛隊も似たような物を採取してるし」


「紫蓮ちゃん!」


「ぴゃ。んー、んー、んー……ちょっと待ってほしいかも」


 主に色々な物を採取したのは紫蓮や紫蓮パパなので、判断は2人に任せた。

 紫蓮たちが採取した物の多くは自衛隊も採取しているので、国はそこまで欲しいと思っていない。しかし、企業は注目するかもしれない。廃城で手にいれたレンガひとつとっても、欲しい企業は多いはずだ。


「そういえば、龍神苔はどうなったのじゃ?」


 妖精店がある島で、命子たちは古代に存在した苔を発見した。

 イヨいわく、龍神苔で作った薬を飲めば大抵の病は治ったそうだ。その苔は生き物の唾液に非常に弱い性質を持っており、イヨがいなければ採取するのは不可能だっただろう。


 これには教授が答えた。


「あれは帰還する船に乗せられて、一足先に日本の研究機関に渡されることになるね。研究してみなければどういう効能を持っているかわからないが、すでに絶滅していると見られる苔の採取方法という貴重な情報をイヨ君はくれたからね。これには必ず報いるように言ってあるよ」


 それを聞いて、命子たちはニコパと笑った。

 イヨの冒険が認められて嬉しかったのだ。


「あと、特殊なもので言うと、命子君たちが手に入れた本だ。あれはどうするつもりだい?」


「えっと、あれは『冒険道』で全ページを公開しちゃおうかなって思ってたりしますけど、ダメですかね?」


「日本政府は買い取りたいと言っているね」


 教授から提示された金額を聞いた命子パパたちは、未知の発見ってとんでもない金になるんだなとビビった。


「でも、なにが書かれているかわかりませんよ?」


「それでもさ。魔導書も文字が書かれているが、あれに魔法とは関係ない技術が書かれているとも思えない。しかし、君らが見つけた本なら別だ。大金をはたいて買う価値はある」


「えー、どうするささら」


「えー、命子さんが決めてくださいまし」


「「えー?」」


 キャッキャと相談して、命子が決めた。


「じゃあ、中身だけコピーして日本に売るのはどうですか? これも羊谷ミュージアムのささらコーナーに飾りたいんです」


「君にそんな野望が……それなら、研究したら返却という形でどうだい? 本自体に仕掛けがあったら困ってしまうからね」


「じゃあそれでお願いします」


「ありがとう。では、そのように話を通しておくから、実際の貸出料についてはまた相談させてほしい」


 そうやって粗方のことを決め、今回の冒険でも命子たちはかなりの報酬を手に入れるのだった。




 天空航路から帰還した命子たちは、日本の判断を仰いでから再びキスミアを目指した。なかなかにタフな旅だ。


 ウラノスと護衛船雷神は、紅海に入ると東西に分かれる片側の陸地が見える空域を飛ぶ。


「砂漠!」


 高度400m程度から見える光景に、命子はピシャゴーンと情操教育された。

 近くは海岸線ということもあって海風で砂は飛ばされ、砂岩が多い。なんなら緑もちらほら見える。多くの人がイメージするような砂丘の風景はそれを越えた先に広がっていた。


「ねえねえモモちゃん、見て見て。砂漠!」


 命子は妹に教えてあげた。

 萌々子もアリアと並んで船縁に手を置いて、はえーと世界の大きさにわからされている。


「ほわー、でっかい砂浜なのじゃ……クウミもこんな地を旅したのだろうか」


 イヨもまたスマホで撮影しながら、砂色の世界に感動し、古代世界を旅した友を想った。

 そんなイヨに教授が言う。


「古代世界で叡智と神秘を追ったのだから、砂漠地帯は間違いなく旅しただろうね」


「そうか。妾のために苦労を掛けたな、クウミ」


 しんみりするイヨ。その手にはスマホ。

 古代人のイヨにとって、シリアスの中でスマホ撮影をするのが不謹慎という結びつきはなかった。


「砂漠は清潔だから……か」


 まあ別の場所では、紫蓮が砂漠の風で髪を靡かせながら格好つけた。


「まあ、ロレンスですね」


 それに反応したのはささらママだった。

 人見知り代表の紫蓮は、内心でぴゃっとしながら頷いた。


「昔、衛星放送で観た」


「私も若い頃に観ました。その時はどんな心情でその言葉を言ったのかわかりませんでしたが、こうして実際に見ると心を打つものがありますね」


「うん」と頷く紫蓮だったが、ただの中二病の発作が出ただけだった。


「みなさん、この先にダンジョンを中心に新しくできた村があります。少し速度を落としますので、どうぞ手を振ってあげてください」


 教授が言った。


 地球上には、鎌倉ダンジョンのように海辺にできたダンジョンはかなりの数がある。

 日本のように平地の多くが元から開発されているという国は少なく、ダンジョンができたことでその場所を開発し始めたという国は多かった。ウラノスが通り過ぎるその村もそんなひとつだった。


 海から少し離れた場所にはドーム状の近代的なプレハブがいくつも並んでいる。特に大きな建物は冒険者協会か。何かを売っている市では多くの人が行きかい、かなり活気がある様子だ。


 ダンジョンから少し離れた場所では、修行をしている人の姿も見える。ターバンやローブ、マント姿の彼らはウラノスを見ると元気に手を振ってくれた。

 中には、ラクダにまたがり、自分の成果を見せるように、天へかざした曲刀に炎や水のエフェクトを宿らせる人も見られた。


 命子も【覚醒・龍脈強化】をぶわりとさせて、手を振ってみせた。

 これが強者と強者の遊びなのである。


「あのダンジョン村は日本が開発支援したんだよ」


 教授が命子たちにそう教えてくれた。


「へえ、どんなことしたんですか?」


「ああいった住居の貸し出しと、ダンジョンに入るノウハウなどの技術指導だね。だから、日本の支援を受けた国は冒険者協会のシステムがかなりしっかりしているんだ」


「へえ」


「日本は昔から自立を促すタイプの支援をする国なんだ。農業や漁業の技術指導みたいな感じでね。命子君は一年前に修行論を語ったが、君の実際の考えはともかくとして、表面的にあの思想と日本の支援の性質が似ていたんだよ。だから、支援が必要な国に世界中から支援の申し出がきた際に、多くの国が日本との契約を選ぶことになったんだ」


「マジかよ」


 命子はスッと指遊びを始めた。

 修行せいをやった理由は、『世界が混迷している今この瞬間にぶち込んでおけば、ダンジョンの入場資格が高校生まで引き下がるかもしれない』という足搔きによるものだ。ノリとも言う。

 それがこんな立派な村を作るまでの影響を与えていたのである。


「まあ君が気にする必要はないよ。いずれにしても彼らはどこかの援助が必要だったわけで、多くのことを総合して日本が一番良いと判断したんだしね。君のことも多くのことのひとつさ」


「ウィンウィンになるといいですね。私のためにも」


「はははっ、そこらへんは安心していいよ」


 こういった村のダンジョンからは、多くの食料や妖精店売りの水の魔導書、回復薬が持ち帰られて、国中に行きわたっているのだという。特定の品は海外に輸出され、外貨も得ているのだとか。


 日本は豊かなのでダンジョンからの恩恵はレベルやジョブシステムがメインだが、こういった国ではダンジョンから採取される物の方が、国をもう一度立ち上がらせるために重要なのだろう。


 命子は、浜辺で手を振る褐色肌の少年少女たちの元気な姿を見て、「修行せい」と心の中で応援するのだった。




 ウラノスは行く先々で多くの人から歓迎された。

 ウラノスと雷神は、超巨大なガルーダと死闘を繰り広げた生きる伝説の飛空艇みたいな扱いで、その姿を一目見ようと飛行ルートの海岸沿いには多くの人が集まっているのだ。


 スエズ運河に入ると、人口が増えたためにそれはより顕著になった。


 ちなみに、ウラノス船団のルートや高度、速度には、各国の要請が割と絡んでいた。空域あるいは海域を通らせてもらっているので、再開された旅でも無理のない範囲でその要請は叶えられている。


「ありがとー!」


「行ってきますわーっ!」


「猫に清き一票デース!」


「なのじゃー!」


 手を振る人たちに、命子たちは律儀に手を振り続けた。

 言葉がわからないと見て一匹ふざけている猫がいるが、手のブンブンっぷりはさすが陽キャ筆頭だ。


 ここ一年で有名になった命子たちは、こういったことの加減が苦手だった。

『手を振ってもらえたら嬉しいだろうな』と思う子と、『手を振ってもらえなかったら悲しむかも』と思う子に分かれている。前者は陽キャ組、後者は陰キャ組の考えである。


 スエズ運河ではウラノスにしては遅い時速60kmで飛行し、ゆっくり運河を通過した。


「皆の衆~、また海に出たのじゃ!」


「地中海でゴザルよー!」


 イヨとメリスがフォーチューブ用に動画を撮影しながら楽しげに言う。

 すると、すぐに紫蓮がとんでもない光景を地中海に見つけた。


「ぴゃわーっ! 人がサメに襲われてる!」


「ホントだ!」


 ボートに乗った人の周りをサメの背びれがグルグル回っているのである。

 地中海の穏やかな海面には、かなり大きな魚影がくっきりと見えていた。


「フカなのじゃ。矢で射るかの?」


 イヨが物騒なことを言った。

 これが古代人のマインド。


「待った待った。イヨ君、あれはテイマーだよ。ほら、手を振っている」


 教授が言うのでよく見てみれば、船に乗る人は元気に手を振っていた。


「っそやろ」


 紫蓮は海のテイマーの冒険スタイルに素の言葉使いで恐怖した。


「あれはおそらくシャチだね。シャチは日本だと海上保安庁や海自と一部のテイマーしかテイムが認められていないが、海外だと一般にも普通に認めている国もある。彼らはああやって船舶の護衛の依頼を受けているんだ」


「紫蓮ちゃん、サメじゃないってさ。良かったな!」


「あまり変わんない」


 そう言っているそばから、シャチがかなりの高さまで飛びあがってみせた。


「「「おーっ!」」」


 ド派手な演出に迎えられて、いざ地中海に。


 陸地から少し離れたので、命子は一息つくことにした。

 ベンチに座った命子は、猫たちと一緒に「わーい」と撮影に飛び回っているイヨを眺めながら、すっかり現代っ子だなと思う。


「お疲れ様。人気者は辛いわね」


 一つの要所を越えたので、馬場が船内から出てきた。


「いろいろな地域の暮らしぶりが見られて楽しいですよ」


 命子は笑ってそう返した。

 せっかく歓迎してくれているのに、楽屋の中ではタバコを吸うようなムーブは取りたくなかった。命子はそこらへん、聖属性を宿していた。


「今日はもうそろそろ停泊ですよね?」


「ええ、一旦ナイル川を遡ってカイロで停泊よ」


「おー、カイロ。ピラミッド見えます?」


「え。ちょっとわかんないかも。礼子、ピラミッドは見える?」


「見えるよ。ナイル川の近くだからね」


「おー……」


 命子はぽわぽわーんとピラミッドを想像した。


「命子ちゃん、今回はもう意地でも冒険はしないわよ」


 スフィンクスが動きだし、ピラミッドの頂点からレーザーが天空に向かって放たれたシーンまで想像して、馬場に正気に戻された。


「わ、わかってますって! 大丈夫、だいじょーぶ!」


 ニコパと笑う命子は、何か起こらないかなとワクワクするのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次章第一話のタイトルは「三度キスミアを目指して」かなw
[良い点] 伝説のヒーロー(ヒロイン)達がお手振りしながら通るとか!!絶対見に行くやつだ!!! みんな嬉しいだろうなぁ(*´ω`*) 修行も捗っちゃうね!
[一言] 砂漠といえば、キャルメ団の出身地(ラクートって現実世界で言えば、イラクとクウェートの辺りかな)。 アメリカ、ロシア、中国、イラク、クウェート、フランスなどは実名にしないのにエジプト(カイロ…
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