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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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356/433

12-30 巨大鳥 前哨戦

本日もよろしくお願いします。


「では、そのように!」


「「「了解!」」」


 船長とオペレーターたちに指示を出した馬場は、教授と共に操舵室から慌ただしく飛び出す。


「それじゃあそっちは任せたわよ!」


「ああ!」


 馬場と教授もまた二手に分かれる。馬場は甲板へ行き指揮を執りに、教授は食堂へ行き親御さんへの説明に。


『ランク不明の巨大な鳥類を観測しました。これより本船は第一級警戒態勢へ移行します。全ての乗組員は所定の位置にて待機。本船に被害を与える魔物以外は全て無視してください。また非戦闘員の乗客は食堂に集合してください。繰り返します——』


 船内放送が鳴り、乗員が慌ただしく移動し始める中、馬場は走る。


 出入り口付近の壁際には、交代要員の自衛官たちが緊迫した面持ちで待機していた。


 馬場は彼らの横を通り過ぎて甲板に出ると、各員はすでに持ち場についている様子。ウラノスに4隻配備されている小型飛空艇の横にも操縦者が待機しており、転落などの有事に備えている。


 馬場はすぐに船尾楼甲板に上がった。


「命子ちゃん!」


「ばばば、馬場さん!」


 すると、命子がはわーとした顔で出迎えた。

 こんな状況なのにそんな顔をする命子に、馬場は苦笑いする。


「安心しなさい。引っ込めたりしないから」


 それを聞いて命子はニコパァと笑った。武者震いなうな本人的にはギラギラと獰猛に笑ったつもりである。


 船が墜とされたら命子たちも助からない。

 ならば、最初から命子たちにも出てもらった方が良いという判断だ。特に【龍眼】で、敵の力がある程度わかる命子は最初からいてもらったほうが良い。


「今後の予定はどうなってるんですか?」


「相手の出方次第ね。あれがただのボスの出現演出の可能性も捨てきれない」


「実際に戦うのは20島目って感じですか?」


「そうよ。まあ見ての通り、全力で逃げてはいるけどね」


 今もウラノスは速度を上げてザコ魔物を振り切って逃げている。

 今までは雷神が先行して魔物の露払いをしていたが、現在はウラノスの1kmほど後方について巨大鳥への囮になっていた。


「もし、戦うようなら理想を言えば、次の島18島目で迎え撃ちたいわ」


「みんなの魔力の都合ですね?」


「うん」


 飛空艇は乗員乗客に負担のない魔力で飛ぶことができる巡航速度から、速度を上げれば上げるほど、魔力への負担が大きくなっていく。いまも、命子たちの魔力は少しずつ減っていた。


「相手は、私たちが空と地上のどっちにいた方が都合がいいんでしょうかね?」


「それなのよね。鳥の気持ちなんて考えたこともないからわからないわ」


「むっ、馬場さん!」


「来ちゃったわね……っ!」


 命子たちは、ギラリと瞳を光らせて後方を見つめる。

 後方から巨大な鳥が迫ってきているのだ。

 両翼を広げた横幅は100mほどもありそうだ。


『後方より敵影! まもなく雷神と接敵します!』


「目視できる人は相手の戦い方をよく見ておきなさい!」


 船内放送に続いて、馬場が声を張り上げた。

 馬場は『見習い指揮官』をマスターしており、その効果によって広い甲板に万遍なく届く。


 ウラノスは少しだけ右舷方向へ進路を変え、雷神での戦闘が見えやすい位置取りを取った。


「あれは……火炎龍! 炎撃砲も!」


 自衛隊でも変化の魔導書は手に入れており、さらに命子と同じようなジョブビルドの人員はいた。時代の象徴のようなビルドなので、戦力と宣伝の両面で自衛隊も採用しているのだ。

 なお、炎撃砲は集団魔法である【火魔法融合】や単体魔法合成の【合成魔法】で使える強力な火魔法である。


「おそらく突進を嫌ったんだと思う」


 紫蓮の見立ては正しく、雷神は巨大鳥からの突進を一番恐れていた。

 巨大鳥は雷神の船尾甲板から射出された強力な魔法を見るや否や、翼の角度を変えて船底の真下へ潜り込む。魔法は長い尾羽を燃やすが、大きなダメージは与えていない。

 雷神の船底にある小窓から魔法が放たれて巨大鳥の背中に着弾するも、強力な魔法とは言えず、効果はかなり低い。


「雷神に緊急命令! 面舵一杯!」


 焦った口調で馬場が無線で指示を出す。

 船底と巨大鳥の体が上下で重なった瞬間、雷神が船首を右に傾ける。

 それにわずかに遅れる形で巨大鳥は翼を畳んでグルンと体を回転させた。しかし、すぐに翼を広げ、雷神から距離を取る。


 巨大鳥がなにをしようとしたのか不明だが、馬場の指示によって危機が回避されたのは間違いなさそうだった。


「待機員の中で強力な魔法が使える者は直ちに船底の守備に向かいなさい! 下を狙ってくるわ!」


 馬場はさらに無線で指示を出す。

 すると、足元の出入り口で数人が移動するのを感じ取れた。


「アイツ、守備の脆い部分を探してるんだわ!」


 馬場のセリフを聞きながら、命子は【龍眼】を光らせて巨大鳥の行動をじっと見つめた。


「魔法科部隊は上級魔法の構築を開始! 命子ちゃんは火炎龍を構築して維持! こちらのほうが狙いやすいとは思わせないで!」


「わかりました!」


 ウラノスの甲板に馬場の指示が轟く。


 巨大鳥は大きく羽ばたき、一気に速度を上げた。

 そして、雷神の前方へと出るとバク宙するように激しく縦回転し、再び戦線から離れる。


 今回は謎の行動などではなかった。

 かぎ爪から巨大な3つの飛ぶ斬撃が生み出されたのだ。飛ぶ斬撃は雷神の盾職によって防御されるが、範囲が広すぎて一部が船体にダメージを与える。


 しかし、雷神も負けておらず、反撃の魔法がいくつも巨大鳥にヒットした。巨大鳥の羽が燃え上がるが、大きく体を回転させると炎は鎮火してしまう。


『雷神より伝令! 人的被害軽微! 船体、魔力ダメージ2点観測!』


「むぅ!」


 無線から流れてくる報告を聞いて、馬場は呻いた。


 飛空艇へのダメージは、搭乗者全員の魔力ダメージになる。何十人も乗る雷神に対して2点ものダメージを与えるのは相当な威力だった。盾職が防いでこれならば、直撃ならばさらに上がることになるだろう。実際に今までのザコ敵からの攻撃は、小数点以下のダメージでしかなかったのだから。


「こっちに来るデス!」


「重要なひと当てよ! 気張っていきなさい!」


「「「おう!」」」


「命子ちゃん、席を外すわ。みんな死んじゃダメよ!」


「死なないことには定評がある命子ちゃんたちです!」


「それなら死なないわね!」


 馬場は命子と別れ、鞭をマストに引っかけて操舵室の真上の船首楼甲板へと乗り移る。

 巨大鳥は大きく迂回して、前方からウラノスへと接近する。


「船首防衛隊、構え!」


 お互いに高速で接近する光景に、船首を守護する自衛官たちは恐怖を抑えてその時を待つ。


「カウント3、2、1、撃てぇ!」


 馬場の号令に船首守備隊が構築していた魔法が放たれる。

 ウラノスは取舵を取って左舷側へ船首を傾け、巨大鳥も右舷側へと体を傾ける。


 ウラノス右舷船首付近からも強力な魔法が順番に放たれ、通り過ぎる巨大鳥の体にダメージを与えていく。

 しかし、巨大鳥もただではダメージを負わない。

 すれ違いざまに錐もみ回転し、片翼を振るった。

 羽根から生み出されたのは複雑に渦巻く突風。突風は甲板を叩きつけ、それでいて撫でるように吹き抜けて、船体を激しく揺らす。その風の中には小さな魔法の羽根が無数に混じっており、甲板にいる戦闘員に襲い掛かる。


 その攻撃が放たれた瞬間、甲板で構築されていた魔法が全てキャンセルされる。そういう能力というよりも、集中力が乱されたのだ。


「まずっ!?」「なのじゃ!?」「うにゃーっ!」


 体が軽い命子とイヨは突風によって足が浮く。

 その足元では猫のジューベーも、前足の爪を床に立てて吹き飛ばされそうになるのを堪えている。お尻はすでに宙に浮き、いまにも爪が床から外れそうだ。


「羊谷命子!」「イヨ!」「ジューベー!」


 すかさず紫蓮とルルとメリスが、それぞれの腰や胴に抱きついて救った。


「ありがとう、紫蓮ちゃん!」


「ルル殿、助かったのじゃ!」


「うにゃにゃーんっ!」


 それぞれのお礼を聞きつつ、ルルとメリスは片手に持った武器で、紫蓮は魔導盾を操作して、突風の中に混じっていた小さな羽根を必死に弾いていく。

 命子たちの前方では、ささらや命子パパたちが盾を構えて小羽根の攻撃の多くを防いでくれていた。


 甲板に混乱を巻き起こした巨大鳥は一瞬にして通り過ぎ、遥か後方で旋回する。


「被害報告!」


『人的被害は軽微! 落下者はいません! ウラノスの魔力ダメージ3点観測!』


 無線で連絡を取りながら、再び馬場が命子たちの下へやってくる。

 突風に混じった小羽根が甲板や船側を乱打し、ダメージを与えた様子。


「次がきますわ!」


 ささらの見据える先には、力強く羽ばたき加速する巨大鳥の姿。

 機械的に真っすぐ飛ぶ飛空艇とは違い、風を掴んで飛ぶ鳥らしく少し曲線を描くように加速していく。


「羊谷命子、火炎龍は!?」


「ごめん、キャンセルされちゃったよ!」


 さすがの命子もいきなり体が浮いたら集中力も乱される。あるいは、船尾側ではなく、船首側に配備されていたら放つこともできただろう。なんにせよ、火炎龍による大きな魔力消費がなかったのは不幸中の幸いか。


 命子とイヨは、船尾楼甲板の手すりに片方の足の甲を引っかけた。命子たちの足腰は強いので、これでもう体が浮くなどということはないはずだ。


「ジューベー。お前は船内に戻るでゴザル」


「うにゃ、あむあむなー」


「相性というものがあるでゴザル。今回は引き下がるでゴザルよ」


「にゃー……」


 ジューベーは相性が悪すぎるのでここで離脱。大人しく船内に駆けていった。


「ケガはない?」


「大丈夫です!」


 馬場が戻ってきた。

 巨大鳥に合わせて移動しているのだ。かなり忙しいが、魔法空戦はタイミングが最重要だ。レーダーや映像からでは、そのタイミングは測れないのだ。


 巨大鳥は再びウラノスへと接近するが、今度は背後からの攻撃をせずに並走し始める。


「マジで怪獣デス……」


 改めてその巨体を間近で見て、ルルが思わず呟く。


 赤と青の羽毛で覆われた顔は猛禽類に似ており、頭部に長い冠羽がついている。

 嘴から尾羽までの大きさは100mほどあるが、尾羽が半分ほど占めているので、胴体は4、50mといったところか。

 翼の幅は100mを少しばかり上回り、片翼は40m前後ありそうだ。

 体全体は青と赤をベースにして縁取るように金色が使われた極彩色。襲われていなければ美しく思える威容だった。


 ウラノスと並走する巨大鳥は、何か罠を張っているようにも見えるし、射程範囲を見極めているようにも見える。あまりの巨体に攻撃が届きそうに思えてしまうが、巨大鳥は魔法の射程範囲外を飛んでいた。


 命子も火炎龍を再度構築していつでも放てるようにしているが、ギリギリ届く程度の距離。放った瞬間に逃げられてしまうだろう。


 巨大鳥は、ぶわりと羽根を羽ばたかせて再び加速する。背後から雷神が接近してきたのだ。


「まったく忙しいわ」


 馬場は再び巨大鳥がよく見える場所へ移動した。


 巨大鳥の動きに合わせているのは馬場だけではない。ウラノスと雷神も、巨大鳥やお互いの位置を見て動いていた。甲板にいる命子たちにはわからないことだが、操舵室ではいくつもの指示が飛び交っていた。


 前方に2つの巨大浮遊石が浮かんでいるのを目視できた。

 そのさらに奥で旋回する巨大鳥の動きとレーダーの情報を見て、両船は巨大鳥が旋回するのとは反対方向へ進路を取った。

 2つの浮遊石を越えると直ちに船首を傾けて、進路を調整する。


 両船の船長は、巨大鳥が2つの浮遊石と自分の動きを使って、雲が多い空域にウラノスと雷神を誘導しているように感じたのだ。敵の意図を読み取ってすかさず船を操る船長たちは、さすが重要任務に選ばれたプロ中のプロと言えよう。


「上からきますわ!」


 しかし、雲が頭上に最接近した瞬間、ザコの魔物たちが降ってきた。

 ウラノスは速度を上げて雲から離れるように移動しているため、その多くが下の雲海に消えていくが、一部が甲板に乗ることに成功する。


 命子たちがいる船尾楼甲板には羽根蛇が数匹とナイトが1体。


「火弾!」


 上段に振りかぶった体勢で落ちてくるナイトに向かって、紫蓮が火弾を放つ。

 ナイトが落下斬りのために構えていた剣で火弾を切り裂いたので、強力な先制攻撃のキャンセルに成功した。


「フェザースラッシュ!」


「むんっ、強打!」


 着地と同時に、ささらと紫蓮がすかさず武技を使い、ナイトに斬りかかる。

 ルルとメリスは、床を這うほどの低い姿勢で羽根蛇たちを斬っていく。


 命子とイヨはザコ敵の処理を任せ、巨大鳥から目を離さない。命子とイヨに限らず、複数の自衛官が魔物の処理を仲間に任せて、巨大鳥の警戒に当たっていた。


 巨大鳥は両船の周りを少し旋回する。

 命子は、そんな巨大鳥と目が合った気がした。


「強い魔法を使えるのがバレてる?」


 遠目にそう見えただけなので、思い過ごしかもしれないが。


 巨大鳥はやがて分厚い雲の中に消えていった。


『巨大な鳥は雲の中にロスト! 各員、警戒態勢を続けてください!』


 ウラノスのレーダーで雲の情報を観測するが、このダンジョンの雲は電波を大きく散らしてしまう。そのため、正確な情報は掴み切れない。


 強襲がひとまず落ち着いたので、命子は火炎龍の待機状態を解いた。


「アイツも魔法射程の原理から逸脱することはできないみたいね。みんなの意見は?」


 そう言って、仲間たちに問いかける。

 周りでは親たちが真剣な面持ちで話を聞く。


「あの小さな羽根を盾で受け止めた感触ですが、大ケガをするほど威力のある魔法ではありませんでしたわ。乱打と攪乱系の技に思えますわね」


「我、翼……というか体かな? 船体にぶつけるのを嫌っていたように思えた。あの大きさで甲板に乗り上げられたら一発で壊滅状態になるのにしないということは、白兵戦に対する防御力はかなり低いんじゃないかと思う」


「ワタシの【猫目】で風の動きが読めたデスよ」


「そういえば、【猫目】は風を読めるのでしたわね」


「ニャウ。でも、言葉でみんなに伝えるのは難しいデス。言い終わる頃には吹き抜けてるデス」


「まあルルとメリスがわかるってだけでも大きな発見だから、覚えておこう」


「妾は翼を羽ばたかせて速く飛ぶたびに、かなりの魔力を使っているように思ったのじゃ」


「最初に雷神の下でギュルンってしたのは、たぶん爪の直接攻撃でゴザルね。フォーチューブで同じ攻撃をしているテイム鷹がいたでゴザル。その鷹が使ったのはかなり強力な技だったでゴザルよ」


「マジで? さすがテイマー。見てんねぇ」


「というかジューベーが勝手に見ちゃうから、検索履歴で発見したでゴザル」


「猫ぉ。可愛い猫の動画とか見てなかった?」


「ジューベーのコカンに関わるからそういうことは言わないでゴザル」


「メリスさん、沽券ですわよ!」


 命子たちは意見を出し合って、巨大鳥を分析していく。

 特に紫蓮のいう『白兵戦を恐れているかも』というのは面白い考察である。


 巨大鳥がロストした雲にわざわざ接近する必要もないので、ウラノスと雷神は雲が少ない方へと進路を取る。

 罠の可能性もあるが、雲からいきなり出てこられるよりはよっぽどマシだ。


 その後、巨大鳥からの攻撃はピタリと止み、ウラノスと雷神は巡航速度まで速度を落とす。

 すると、やってくるのはザコ敵だ。


 今までも問題なく倒してきた敵だが、巨大鳥がいる以上は戦闘方法も変わる。巨大鳥からの強襲を警戒しながら、速やかに倒さなければならない。


「ガルーダは今までのボスにない狡猾なタイプっぽい」


 紫蓮が言う。


「ガルーダで押し通すつもり?」


「うむ。地域的にも」


「そうか。じゃあ続けて」


「さっきイヨさんも言ってたけど、ガルーダは飛ぶのに魔力を消費してた。だから、我らの弱点をよく観察して機を狙っているんじゃないかと思う」


「なるほど。ありえるね」


 不気味なボスの気配を感じながら、やがてウラノスと雷神は18島目へと到着するのだった。


 そして、紫蓮の言う『狡猾』という推測は18島目で正しいものだと知れることになる。



読んでくださり、ありがとうございます。


4周年のお祝いの感想をたくさんいただきました。ありがとうございます!

楽しい作品になるように精進しますので、どうぞよろしくお願いします。


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[良い点] > 「死なないことには定評がある命子ちゃんたちです! > 「それなら死なないわね! こう軽口を言って励まし合う感じがいいね! 悪く見ると死亡フラグだけどもw [気になる点] 強大な敵と手探…
[良い点] 爪付きバレルロールされるだけで割と洒落にならんダメージうけそうね [気になる点] コカンはいかんでござるよジューベー! [一言] これは魔力削りの消耗戦になりそう
[気になる点] コカンが普通に読めてスルーしてた 沽券(爆笑)
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