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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-27 魔法の訓練

本日もよろしくお願いします。


 模擬戦を終え、命子たちはミツメから魔法技術を教示してもらうことになった。

 自分たちの知らない技術を教えてもらえるとあって、命子たちは当然のこと自衛官のテンションも高い。


 ミツメの正面にはカメラが備えられ、その左右に半円状に生徒たちが広がる。


「まずはお礼を。大変に面白い経験をさせていただきました」


「いえ、こちらこそご指導ありがとうございました」


 ミツメの言葉に、馬場がお礼を返した。

 ミツメは口角を上げて小さく頷く。


「魔法が介在しない時代に培われた古の武術、やはり私が知る武術とは違いますね」


「やっぱり、魔法世界の武術と違うんですか?」


 命子が問うた。


「人としての形がほとんど同じなので、必然的に似る部分も多くあります。しかし、私が魔法ありきの武術を学んできたのに対して、あなた方は魔法世界の日の出を歩いています。違うのは当然と言えるでしょう」


「まあ、それはたしかに」


「もうひとつ違う点があります。この目を見てください」


 ミツメはトントンと額の目の横を叩いた。


「この目は万物の魔力運動をとてもよく見通すのです。クジャム人は生まれた時からこの目を持っているので、魔力の乱れによって周りで起こることや、生き物がどのように動くのかがなんとなくわかるのです」


「だから老師の動きがわかったんですか?」


「はい。とはいえ、この視覚も所詮は情報のひとつなので、戦闘のために使うには相応に訓練が必要ですけどね」


「私も【龍眼】を使っていっぱい修行しました」


「そうでしょう。しかしです、この目を得た代わりに、我々クジャム人は殺気を感知する能力が退化しました」


「え、それはおかしくありませんか? それすらもマナ進化でまた宿すことができるでしょう?」


「もちろん、そういったことも可能です。あくまで種族的なベーススペックの話ですね」


「ふむふむ」


「この目は便利すぎるのですよ。そのせいで、殺気の感知は意識的に学ばなければ得るのが難しい技術となりました。連鎖的に、皆さんが使うような殺気をコントロールした闘法となると、もっと高度な技術となります」


「魔法世界で生まれたあなたから見ると、我々は技術習得の順番があべこべになっているのか」


 教授が納得したように言う。

 ミツメは頷いた。


「まああくまでクジャム人に限った話ですが。とにかく、そんな興味深い戦いを見せていただいたので、ひとつ魔法の練習方法をお教えしましょう」


 ミツメはそう締めくくって、話を変えた。


「みなさんで私の周りに円を作ってください。左右の人に手が触れない程度に離れ、前後の列は作らないようにお願いします」


 ミツメの指示に従って、一行は円形に広がった。

 ラジオ体操でも始めそうな陣形だ。


「それでは両手を前に突き出し、親指と人差し指の先で三角を作ってください」


 命子たちは言われた通りにした。

 命子は【龍眼】を発動しながら、なんとなく三角の中にミツメの姿を入れるが、特に効果もないし意味もなかった。


「あなた方に教えるのはこれです」


 ミツメが自分の周りに無数の火の玉を出現させる。パッと見て、人数分あるように思えた。

 簡単にそんな魔法を使うので、やはり手加減していたのがわかる。


「これらに攻撃性能はありません。これからあなた方に放つので、手で受け止め、着弾と同時に手でかき混ぜてください」


 見た目が炎の塊なので明らかに怖いが、命子たちは恐れない。これがファンタジーっ子。むしろ馬場たちのほうが狼狽えた様子だ。


「ではいきます」


 ミツメが軽く手を振ると、火の玉が全員にひとつずつ、正確に飛んできた。

 その魔法コントロールに瞠目したのも一瞬のこと、命子は言われた通りに手で受け止め、それと同時に炎を手でかき混ぜた。


 かき混ぜ方に指定はなかったので、命子は手のひらを前に向けて混ぜ混ぜ。その背後に二足立ちするネコが憑依しているような動きだ。


「むむっ!」


 しかし、瞳に宿っているのは龍。

 命子は、その炎にわずかに引っかかりがあるような気がした。だが、そう感じたのも束の間、炎は霧散していく。


 周りを見れば誰の前にも炎はすでになく、真剣な顔をする者、首をかしげる者、ドキドキする心臓を押さえる者と反応は様々だ。


 命子は考える。

 どうやらミツメは、最初に命子の魔法を剣に変えてしまった技法の基礎訓練方法を教えようとしているのだろうと。


「それでは何回か続けましょう」


 ミツメはそう言って、どんどん火の玉を投じてきた。

 それを受け止める一行は、命子が【龍眼】を使うように、自分の持てる能力を全て使い、何かを学ぼうとしている。


 ミツメはヒントやアドバイスなどを一切口にしなかった。ただ定期的に炎を飛ばすだけだ。


 しかし、何回か続けていると差が生まれ始めた。

 受け止めた火の玉が消えるまでの時間が、人によって変わり始めたのだ。


 命子は一回分を放棄して、他の人の分析をしてみた。


 紫蓮や魔法系自衛官は明確に長く、逆にサーベル老師や剣士系自衛官は全然維持できていない。

 魔法使い系が上手いのかと思いきや、ささらもかなり長く火の玉を維持している。そして、教授とイヨが一番長く維持できていた。


 ここから導き出した答えは、魔法使い系が長いのは確定であり、もう一つの要因として他者の魔力を操ったことがある人は上手いのがわかった。ささらは属性付与のルミナスブレイドを何度も練習しているし、教授やイヨは精霊を通して魔法で遊ぶことがある。

 これらの差が適性をわけているのがわかった。


 そして、これが分かったことで命子は頷いた。

 今はどうでもいい情報だったと。


 というわけで、命子はまた頑張って練習した。


 さらに何回かやっていると事件が起こった。

 教授の精霊のアイがミツメの火の玉を操って、地面に『むーっ』と投げたのだ。


「さすが精霊ですね。コツを掴むのが上手い」


『むー!』


『なんなん!』


 アイがそんな活躍を見せるものだから、イザナミもやる気を漲らせてトライ。

 すると、イザナミもすぐに『な~ん!』と火の玉をペイッと投げてみせた。


『なん~、なんなん!』


「わかった、わかったのじゃ。頑張ってるからちょっと待つのじゃ」


 イザナミになにやらアドバイスを貰うイヨも、火の玉の維持が長い。


 過去に、命子は魔法についてひとつの法則を見つけていた。放出系の魔法は、必ず術者と魔力パスで結ばれているのだ。今のところ、この法則が崩れた事例を見たことがない。


 ミツメの魔法も同じで、ミツメから命子に飛ばされた火の玉は魔力パスで結ばれていた。


 命子はこの魔力パスに自分の魔力を注ぎ込むことで火の玉を長く維持する方法に気づいたが、ある一定まで行くとミツメの魔力パスがプツリと切れて、炎も霧散してしまった。


 しばらく練習をしていると、魔法を止めて、ミツメが言う。


「みなさん、これが他者の魔法を自分のものにするための基本的な練習方法です。魔法から攻撃性能を抜き、それをぶつけてもらうのです。攻撃性能を抜く方法はご存じですか?」


「はい、知ってます!」


 命子たちは魔法で遊んでいるので、すでにその技を体得していた。今までは見せ技だったが、結構重要な技法らしい。


「素晴らしい。しかし、この練習は段階を上げるごとに危険が伴いますので、その際には覚悟して行なってください」


 段階とは、本番と言い換えてもいいだろう。

 その危険性は理解できるので、一行は真剣な顔で頷いた。


「今の練習でなにかを掴んだ人もいるでしょう」


 命子がシュバッと手を挙げた。とても積極的な姿勢である。

 しかし、それはミツメによって止められた。


「ストップです。私にあなた方が感じたことを言う必要はありません。答えはひとつではないのです。私が知っている方法はベストかもしれませんが、あなた方が導き出す方法もまた別のベストに繋がるかもしれませんから」


 シュバッと腰の後ろに手を隠した命子は、以前、天狗が言っていたことを思い出した。

『自分が全部教えたら、行きつく先はジョカ人である』と。

 天狗もミツメも、自分たちと同じマナ進化をしてほしいとは思っていないようだった。


「地球人なりの答えを見つけていけということですね?」


「その通りです」


 命子の言葉に、ミツメは笑みを湛えて頷いた。


「というわけで、ここから先は皆さんで研究してください」


「紫蓮ちゃん、帰ったら魔法の飛ばしっこしようぜ!」


「うむ。我らの遊びも無駄じゃなかった」


 すでに魔法の威力を抜くことができる命子たちは、そんな修行方法を話し合う。

 そんな命子と紫蓮をミツメはニコニコして見つめた。


「さて、すっかり長居をしてしまいましたね。そろそろお別れの時間です」


 ミツメが言う。

 すると、ここで馬場が言った。


「最後にひとつよろしいでしょうか?」


「なんでしょうか?」


「ミツメ様の本気の力を見せていただけないでしょうか?」


 馬場は、老師だけでなく、いずれ命子も天狗に挑むだろうと予想していた。この2人だけじゃなく、自衛官の中にもそういう気質の人はいる。

 だから、現状でどのくらいの差があるのか調査しておきたかったのだ。


 この問いかけに対して、ミツメは少し虚空を見つめてから答えた。


「少しだけならばいいでしょう」


 ミツメはそう言うと、右腕を横に伸ばした。

 その手が何もない場所で消えていく。


 命子は【龍眼】を光らせて必死にその現象の解析を試みた。

 仕組みは全然わからないが、どうやら空間に手を突っ込んでいるのがわかった。そして、それを見ていると、体の中でざわつくものがある。それは、【小龍姫】ゆえか、『見習い空間魔法使い』ゆえか。


 そうして引き戻された手には一本の長剣が握られていた。

 マナのような翡翠色の光を刀身に宿した美しい剣だ。


「「「っ!」」」


 その剣を見て、職人の紫蓮、剣を使うささらや老師、自衛官たちが肌を粟立たせた。


「では、またいつの日かお会いできる日がくることを期待しています」


 ミツメはそう言って、その場から消えた。


「上じゃ!」


 老師がハッとして斜め上を見ると、上空にミツメが浮かんでいた。


 その場で構えたミツメが、次の瞬間、消えた。そして、20mくらい離れた場所で剣を横薙ぎにした状態で現れる。2点の間には翡翠色の残光が残っており、霞のように消えていく。


 さらにミツメが手を振ると、周りに無数の魔法が現れた。

 その魔法が消え、また別の場所に現れる。やはりその2点の間には光の線ができており、ふっと消えていった。


 ミツメはそれで演武を終えると、剣や魔法を消し、恭しくお辞儀をした。

 その姿が背景の空色に溶けるように消えていく。


「……見えた?」


「悔しいけど見えなかった」


 紫蓮の問いかけに、命子はそう答えた。

 しかし、言葉に反して、その表情は悔しさとは正反対の嬉しそうなものだった。

 なぜなら、『魔物とはその時代に生きる人が努力を続ければ、いずれは倒せる身体能力』とミツメは言っていたのだから。

 つまり、あの動きはできないかもしれないが、見切り、防ぐ程度のことはできるようになるはずなのだ。


「面白い。実に面白いのう」


 命子と同じように目を煌めかせるのは老師である。

 夢で見た戦いに似た演武を見て、心ときめかせている様子。


「まったく、高みが凄まじいレベルね」


「翔子、話はそう簡単じゃないぞ。この距離で君らが目で追えないスピードとなると、音速でもおかしくない。それなのに衝撃波が発生していないんだ。……音速までは出ていないのか、それとも物理法則を抑え込む秘密があるのか——」


「わかったわかった」


 なにやらぶつぶつ言う教授と、そんな教授の隣で『むーむー』言いながらミニ手帳にメモを取るアイを置いて、馬場は全体に指示を出した。


「全員、練習は後にしなさい。速やかに撤収します」


 わいのわいのと例の魔法訓練をしている一行は、馬場の指示を聞いて動き出す。


 命子たちも帰還の準備をするが、そんな中でルルが言った。


「メーコ、最後に記念撮影するデス!」


 命子はハッとして廃城を見上げた。

 たしかにウィンシタ映えするかも!


 というわけで、廃城を背景にして命子たちは記念撮影をしておいた。

 1回目は命子たちや教授だけだったが、いつの間にか自衛官も集合して、みんなで記念の1枚。


 これぞ冒険の醍醐味だと、命子は笑うのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告もありがとうございます、助かっています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 中島くんがカツオを野球に誘うように 「紫蓮ちゃん、魔法の飛ばしっこしようぜ」 こういう気楽な遊び感覚のところがいいですね 最後の記念撮影とか [気になる点] 野球とかスポーツはどうなってる…
[良い点] パワーインフレを起こした漫画みたいなムーブが出来るようになると実証された以上、より一層修行に励む修羅が増えそうですね。 [気になる点] しかしここまで強くなると修行場が大変な事にになるんじ…
[気になる点] 教授してもらう 教示ではないかと思い調べたところ 一定期間の間教えてもらうことを教授 その場で一時的にで教えてもらうことを教示というようです。
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