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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-25 模擬戦

本日もよろしくお願いします。


 廃城でミツメという強そうな人と出会った命子たちは、流れで模擬戦をすることになった。

 絨毯をせっせと丸める命子たちに、ミツメが言う。


「それでは私は先に行って、前庭でお待ちしています」


「え、現地集合ですか?」


「あなた方と一緒にいると話が弾んでしまいそうですから」


「そりゃもう女子高生ですからドリンクバーだけで8時間はいけます。でも、会話が弾んじゃダメなんですか?」


「私との会話は少しのことでも様々なことのヒントになりえますからね。対価なく授けるわけにはいかないんですよ。ではそういうことで」


 そんな会話をして、ミツメは窓から出て先に行ってしまっていた。

 それで入り口の魔法が解けたようで、馬場や教授が入ってきた。


『むーっ!』『なんなん!』


 すると真っ先にアイとイザナミが飛んできて、すでに丸め終わった絨毯をさすさすとした。手つきからして、お手伝いしている様子。


「話は大体聞けたけど、最初がわからないわ。どういうきっかけ?」


 絨毯を縛るのを紫蓮に任せて、命子とささらが馬場たちに対応する。


「この本を手に入れてみんなでキャッキャしてたら、あそこに座ってました。あ、本は関係なさそうですね」


 なるほど、と馬場は無線で探索部隊に連絡を入れた。どうやら全員を呼び戻すようだ。


「命子君、戦うんだって? 大丈夫なのかい?」


「模擬戦ですし、大丈夫だと思います」


「天狗の時とは違ってこのあとも冒険があるから、痛めつけられてしまうようなら止めに入るよ?」


「はい」


 帰り支度を終えた命子たちは廃城の前にある広場へ向かった。

 行きのように部屋を調査したわけではないので帰りは早いものだ。


 ちなみに、絨毯は護衛の自衛官の1人が肩に担いでいる。

 自分たちの戦利品を自衛隊に持たせるのも悪いと思ったのだが、このあと命子たちは戦うので疲れさせるわけにもいかない。


 前庭に出ると、すでに探索隊は戻ってきていたが、そこにミツメの姿はなかった。

 探索隊と合流した命子はキョロキョロと周りを見回した。


「まだ来てないんでしょうかね?」


「あまり会話ができる立場でもないだろうからね。そろそろやってくるんじゃないかな? おや、アイ、どうしたんだい?」


「話してたら来ましたね」


『むーっ!』


 命子たちは廃城の入り口に目を向ける。

 そこにはこちらに向かってくるミツメの姿があった。


「普通に来たね」


「毎回驚かされても困りますわ」


 感想を言った命子は、ささらの返しに『それはそうだ』と頷いた。


 警戒を強める自衛官を馬場が手で制して、ミツメに話しかける。


「ミツメ様、お初にお目にかかります。私は次元龍の上にある国の防衛組織に所属する馬場翔子と申します」


「あなたのことも存じ上げていますよ。それと私には堅苦しい敬語は不要です」


「承知しました。それで模擬戦をするということですが、我々は冒険の途中の身です。あまり消耗するような戦闘になるなら承諾しかねます」


「ただの交流戦ですので、大ケガをするようなことはしませんからご安心ください」


「そう……ですか」


 馬場は天狗との組手で命子たちがボッコボコにされたので、とても不安だった。

 しかし、当の本人たちはストレッチをしたりしてすでにやる気。


 馬場は諦めて、庭にスペースを作るように自衛官に指示した。

 自衛官が動き出す中、サーベル老師がミツメに言う。


「ミツメ殿、このあとにワシとも1対1で戦ってもらえぬだろうか」


「構いませんよ。魔法のなかった世界で武術がどのような進化を遂げるのか、実に興味深い」


「おー、感謝しますぞ」


 ワクワクした顔をする老師。

 そんな2人の会話を少し離れた場所で聞く教授は、顎に添えた手の人差し指で唇をウニウニとする。

 なにやら思考する教授をチラリと見て、ミツメは苦笑いした。


「あなたとは話が合いそうですが、こういう立場だと実にやりにくい相手です」


「ということは私の考え通りということですか?」


「ノーコメントで」


「教授、どういうことですか?」


 命子はこしょこしょと尋ねた。


「君や翔子のことを知っているのに、武術のことは知らない素振りの口調だった。つまり、高位の魔物はどこかから情報を得られるが、その情報の取得は取捨選択できるのではないかと思ったんだ」


「ほんまや!」


 命子は似非関西弁でびっくりした。

 仰け反る命子の頭の上で、アイが「むーっ!」とキリリ顔。


「そして、その取捨選択される知識は、おそらく幻影のオリジナルとなった存在の趣味嗜好、性格に由来しているのではないかな。知的好奇心を満たす方法は人それぞれだが、データバンクを閲覧せずに自ら体験したいという人は結構いる。命子君が妖精店の情報を見ないようにしているようにね。ミツメ殿もそういう性格なのではないかと思ったんだ」


「きょ、教授、そんなんだから現地集合になっちゃったんですよ」


「……たしかに」


『むー……』


 ミステリアスな印象があったミツメの性格が、ちょっとの会話で一気に推測されてしまった。


 そんなことをしている内に庭にスペースが空いた。

 中央には命子たち6人と馬場、教授、命子パパ、ルルママ。


「私たちは6人でやっていいですか?」


「あまり多いと却って戦いにくいでしょうから、そのくらいがちょうどいいでしょう」


「ルールはいかがしますか?」


 馬場が問う。


「現在の私はあなた方と同程度の身体能力をしています。ただし、技術力はそのままです。あなた方は全力できて構いません。私も攻撃しますが、致死の攻撃はしませんので安心してください」


「ミツメさんはそれで大丈夫なんですか?」


「さて、それはわかりません」


 という割には自信がありそうなので、命子は『コイツァやべえやつだ』と確信した。


「外からの支援はどうでしょうか? スキルの【かばう】を使ったりです」


「それはなしにしましょう。あと、魔法を使うでしょうから、外へ攻撃がいかないように結界を張らせてもらいます。魔法は結界で防がれますので遠慮せず使ってください」


「勝敗は?」


「どちらかが降参するか、私が満足すれば終わりましょうか」


 と、そんな取り決めがされて、その場には命子たち6人とミツメだけが残された。

 いよいよ模擬戦が始まる。




「さあ、どこからでもどうぞ」


 ミツメはそう言いながら、第三の目を開いた。


「ガードフォース!」


「炎付与!」


 まずはささらが防御の補助魔法を仲間たちに展開する。

 そのささらの武器に紫蓮が【付与術】で炎属性を付与した。


 魔法がかかるが早いか否か、左右から飛び出したのはルルとメリス。少し遅れて正面からささらが走り出す。


「いけ!」


 ささらの両サイドから命子の魔法が2発、飛んでいく。水弾と土弾だ。


 ミツメはゆったりとした服から両手を伸ばす。


 直撃する!


 命子がそう思った次の瞬間、その両手に命子の魔法が掬い取られ、水と土でできた2本の剣に姿を変えてしまった。


「嘘でしょ……っ」


 魔法が相手の武器に変わってしまったと認識する頃にはミツメは剣を振るっており、命子の魔法の陰に隠れて放たれていたイヨの矢とイザナミの土の矢が、切り飛ばされてしまった。


 左右下段からクロスさせて上段へと振り上げられた2本の属性剣。2本の剣が、左右から攻めたルルとメリスの斬撃を防ぐ。片方は水だったはずが、いつの間にか氷へと姿を変えている。


「にゃぐぐっ!」「みゃっ!」


 ミツメは剣の圧を強めてルルとメリスを弾き飛ばすと、半身を切って、前後に一本ずつ剣を振った。


 正面から攻めたささらの刺突が払い落とされ、さらに、攻撃する前に分身して背後に回り込んでいたルルとメリスの攻撃も一刀で止められてしまう。


「素晴らしい連携です」


 ミツメはそう言いながら、ささらの炎の剣を払ったことで溶け始めている氷の剣を、手首のスナップだけで真上へと放る。命子が仕込んだ3発目の魔法『火鳥』が氷の剣に貫かれて相殺された。


 一合目は瞬く間に終わり、二合目は弾き飛ばされたルルが着地と同時に放ったNINPO『氷柱の術』から始まった。


『水芸の術』に氷属性が付与された『氷柱の術』は、魔法には珍しく自分から離れた地点に氷の柱を出現させる遠隔魔法である。

 氷柱の大きさこそ大したことはないものの命中率が極めて高い技となるのだが、ミツメには通じない。

 しかし、通じないのは織り込み済みで、連撃が始まる。


 ささらが素早く斜め前方へ踏み込み剣を薙ぎ、ささらの背後から接近していた紫蓮が入れ替わりで龍命雷を叩きつける。

 それらを防いでみせたミツメの武器は土の剣ではなく、いつのまにか土の短刀の二刀流に変わっていた。土の剣を分割したのだろう。


 一撃を短刀一本で逸らされてしまった紫蓮だが、最近手に入れた魔導盾を操作してミツメの視界から命子とイヨの姿を遮った。


「ぬん」


 紫蓮は、振り下ろした龍命雷から片手を外して、魔導盾の下から火弾を放つ。至近距離から放たれた火弾だったが、ミツメが火弾の中央に刺突を入れると霧散してしまった。


 ルルとメリスが、ミツメの注意を引くように死角から襲い掛かる。

 そんな2人の攻撃に合わせる形で、命子の魔法とイヨの矢がミツメに殺到する。その攻撃は紫蓮の魔導盾に遮られて見えないはずだ。


 さらに、ミツメの横には横薙ぎを防がれたささらが刃を返し、ギラリと目を光らせた。一撃が三連撃に変化する必殺技『フェザーソード』を使おうとしているのだ。


 完全に死んじゃうレベルの暴力の嵐である。これには自衛官たちもドン引きしながら固唾を呑んだ。


「「「っ!」」」


 しかし、この連携は最後まで続かなかった。

 ささらとルルとメリスが緊急回避を行ない、魔法や矢は土の短刀で斬り落とされてしまう。

 攻撃が途切れ、ミツメが笑う。


「いやはや実に素晴らしいですね。二刀だけで防ぎきれると思っていたのですけど、この身体能力ではちょっと無理でした」


 その言葉に、命子は思わず問うた。


「実際に防いでますよね?」


「いいえ、彼女たちには殺気をぶつけました」


 その答えを聞いて、命子はささらたちが緊急回避をした理由に納得した。


「それではもう少し続けましょうか。これからはこちらも少しばかり攻撃させていただきます」


 ミツメはそう言うと、ささらに向かって踏み込んだ。


「っ!」


 その瞬間、ささらはハッとして真横に盾を構えつつ、剣でミツメに対応した。

 ささらの盾が真横から飛んできた風弾を弾き、剣が短刀の攻撃を防ぐ。


「遠隔魔法!?」


 通常、魔法は手のひらや魔導書から放出されるが、ルルたちの『氷柱の術』のように遠くを起点に発動する魔法も存在していた。しかし、風弾の類が遠隔で飛んでくるのは初めてだった。まるで見えない魔導書から魔法が放たれているようなやりにくさがある。


 すぐに他のメンバーがささらの援護に走るが、やはり視覚外からの魔法攻撃に対応することになる。それは後衛にいる命子やイヨも同じだった。


「っ!?」


 命子はゾクリと殺気を感じ、横から飛んできた風弾を剣で受け流しつつ体を反らして回避する。


「ふお、危ないのじゃ!」


「な、なん~!」


 命子たちよりも練度が低いイヨは、辛うじて新装備の魔導盾で受けることができた様子。


「イヨちゃんは無理しないで!」


「わかったのじゃ!」


 そう言いながら、命子は視界の外から飛んでくる風弾を回避する。

 そうして回避と同時に魔導書から魔法を放って仲間たちを援護する。


 幸いにして、ミツメは最初の一回目以降、相手の魔法を武器に変化させる技を使っていない。この技術は命子たちには対応ができないからだろう。


 イヨを抜かした5人の戦闘はミツメからの攻撃が始まったことで激しさを増す。

 それを外から見る馬場や教授、命子パパやルルママはハラハラだ。


 5人の戦闘は今回の冒険の中でまだ見せなかった全力のもので、特に連携技の構築速度が非常に早かった。


 ささらは攻防一体の剣技で攻め。

 ルルとメリスは素早い攻撃の中に氷弾を混ぜ込み。

 紫蓮は龍命雷と魔導盾、そして火魔法を駆使してトリッキーに攻める。


 視覚外から飛んでくる魔法で連携は何度も崩されるが、崩されたそばからルルとメリスが素早くフォローして、連携は変幻自在に変わっていく。

 中でも、魔導盾を持つ紫蓮は遠隔魔法に対して強い防御を誇り、連携の中心になっている。


【龍眼】を光らせる命子は、ミツメの魔法を理解していく。

 やり方はわからないが、魔力パスが空間に走った瞬間、その線上のどこかで魔法が発動するのだ。その際には殺気が放たれるため、命子たちは対応できていた。


 命子とミツメの魔法がそれぞれの隙を窺うように広場を飛び交う。魔法はバリアに当たれば消えていくが、地面に当たれば土を抉る。


 陣形は目まぐるしく変わり、後衛である命子も細い足を忙しく動かして移動し続ける。


「これが世界最高峰のパーティか……」


 探索隊の自衛官が思わず息を呑む。

 彼らも相当なエリートだが、自衛隊は配属替えがあるため、ずっと固定のパーティを組むことはあまりなかった。ゆえに誰とでもすぐに連携はできるが、命子たちのような無限に続くと錯覚するほどの連携はできなかった。


 多くの者が見惚れる連携を繰り広げる5人だったが、次の瞬間、ささらが一気に攻め込んだ。


 視覚外から強い殺気を感じていたささらだが、今回は大丈夫だと知っていた。

 紫蓮たちに混じって攻撃モーションに入るささらに、ミツメの遠隔魔法が迫る。

 だが、それはささらに当たる前に【龍眼】を光らせた命子の放つ魔法によって、ピンポイントで撃ち落とされた。


 ミツメは少し目を見開くが、それでもささらの斬撃をいなしてみせる。


「にゃふしゅ!」


 しかし、今度はルルにも同じことが起こった。

 視覚外からの魔法を恐れず、連携を続けるのだ。


 これに対してミツメは大きく回避行動を取った。

 すかさずメリスが肉薄し、再び連携が始まろうとした瞬間である。


 地面の中から魔導剣がスッと浮かび上がり、ミツメの首に添えられた。


「う……これは……」


 ミツメは笑って、手を上げた。


「降参です」


 そう宣言したミツメの少し後方には命子がおり、その後ろ腰に差さった魔導剣の鞘は空っぽになっている。自分の魔法で空いた小穴の中に魔導剣を転がして土で隠しておいたのだ。


「「「うぉおおおお!」」」


 自衛隊から歓声が上がった。

 そんな中には命子パパやルルママの姿もある。


 一方、勝利した命子たちはドッと息を吐いた。


「でも、すっごく手加減してましたよね? 技術だってそのまま使うって言ってたけど、私たちに合わせてくれてました。その魔導剣だって、きっと刺さっても死なないでしょ?」


 命子たちだって魔剣で斬られても一撃では死なない。そもそも命子は殺気を出さないように動かしたので、魔導剣の攻撃力も知れたものだろう。これで魔物のミツメが死ぬとは思えなかった。


「まあそうですね。とはいえ、私に予想外の攻撃を食らわせたわけですし、降参です」


「技術を全部使ったらどうだったんですか?」


「それは私のほうが遥かに強いでしょう。私はあなた方の知らない魔法技術をいくつも知っていますから」


「ですよねー」


 魔力パスから放たれる魔法は風弾だけで、もっと高威力の魔法だったら反撃に転じることなんてできない。その風弾だって弾幕のように放ててもおかしくない。


「しかし、私自身がこれで勝てると思う能力で戦ったのですから、私の負けです」


 ミツメはそう言うが、命子的にこの勝利は、勝敗の条件である『ミツメが満足したら終わり』だと思った。


「まあまあメーコ。ワタシたちより強い人がワタシたちの勝ちだって言ってるんデスから、ワタシたちの勝ちデス」


「うーん……だな!」


「ですわね!」


「うむ!」


「その通りでゴザル!」


「妾、役に立たなかったのじゃ! すまんのじゃー!」


『なん~!』


 命子たちはひとまずわちゃわちゃと勝利を喜ぶことにした。


「楽しませていただいたお礼に、いくつか技術習得の方法を伝授しましょう」


「本当ですか!?」


「はい。しかし、まずは他の皆さんと勝負をしましょうか」


 ミツメの言葉に周りを見ると、自分も実力を試してみたいというオーラで溢れていた。

 それは馬場や命子パパですら同じで、自然体なのは教授くらいなものである。なお、ルルママは武闘派なので意外でも何でもなく、にゃしゅにゃしゅしている。


 やはり武闘派な命子は、強者と戦う機会に恵まれるのは良いことだと、大仰に頷くのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いつの間にか紫蓮パパが探索班から消えてる!
[一言] 良き戦いであった。
[一言] 俺より強いやつに会いに行くメンタルの人多すぎる件
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