2-20 桜さんのプレゼントと4日の成果
よろしくお願いします。
「メーコ、メーコ。朝デースよ」
朝、命子はルルに起こされた。
それはキスミア流の独特な起こし方だった。
眠っている命子の上半身を起こし、その背後に自分の身体を入れる。
そうして、お腹に手を回してゆっさゆっさするのだ。主にママがちっちゃい子供にやる。
「ふねっ!? にゃ、にゃにぃ!?」
その効き目は凄く、命子は混乱しながら覚醒した。
目をクシクシするその姿は、お姉ちゃんに抱っこされながら起きる子供のよう。
そうして覚醒して周りを見れば、ルルだけではなく、すでにささらも起きていて、ご飯ももうすぐできるころだった。
「あっ、ごめんね。寝坊しちゃった」
「メーコは、夜に合成してたって、シャーラから聞きマシタ。だからイイんデスよ」
「そうですわ。せめて朝だけはゆっくりしてもらいたいって、こっちが勝手にやったことですもの。それより、おはようございます、命子さん」
「うん、おはよう、ささら、ルル」
「おはようデース!」
2人の気遣いに感謝しつつ、4日目がスタートした。
「とりあえず、ルル。離して。ゆっさゆっさされて軽く吐きそうになってきた」
寝起きにゆさゆさされるのは、命子にはきつかった。
敵は4体同時に出現するようになり、これまで以上に過酷になる。
朝の支度を終えた3人は、セーフティゾーンのお庭で準備体操をし、ふんすと気合を入れた。
「ルル、水1、2斬り、4撃破!」
「ニャウ!」
「ささら1撃破、2!」
「分かりましたわ!」
簡略化した指示が飛ぶ。
今までは出たとこ勝負での連携でもどうにかなったが、敵の数が上回り、1人当たりのやることが増えた戦闘で、指示が大切になった。
魔導書に魔法を用意させている間のものの5秒程度で、指示を終える。
鳥居がトンネル状になっているこのダンジョンは、前か後ろからしか敵が来ない。
だから、手前から1、2、3、4と番号を振り、各々の受け持ちを決めているのだ。
挟み撃ちに遭う場合もあるが、それは片方へダッシュして撃破してしまえば残るはもう片側だけなので、むしろ楽なため指示は必要なかった。
今回の場合。
ルルは、水芸で1番目の市松人形を驚かせて、そのまま2番目の杵ウサギに斬撃を入れ、それを倒していなくても4番目のタヌキを相手する意味。
ささらは、ルルが驚かせた1番目の市松人形を倒したのちに、2番目の杵ウサギに行く。
命子は、ルルが水芸をやっている間に2番目の杵ウサギから杵を弾き飛ばし、3番目の杵ウサギと対峙する。この時、ルルが2番目の杵ウサギを斬り飛ばしてくれているので、それも隙をみて相手する。メインは3番目の杵ウサギだ。
「とどめですわ!」
ささらが杵ウサギを撃破して、戦闘が終了する。
「攻撃は喰らった?」
命子の質問に、2人は喰らってない旨を伝える。
「今回は上手いこといきましたわね」
「ルルをタヌキに通せれば、安定するね」
「ニャウ。タヌキは接近戦が弱いですから、一気に倒せマスね。2人が他の敵を相手してくれてマスから安心して倒せマス」
そんな風に意見を交換する。
今回の戦闘は非常に上手くいったが、この指示はド素人の命子が即興で行なっているため、決してばっちり決まる采配とは言い難かった。被弾することもままあったのだ。
けれど、確かに効果はあり、前日に比べると戦闘に掛ける時間が減っていた。
尤も、それは各々の戦闘技術が上がったのも大きな要因ではあっただろう。
剣の腕前が上がった、というよりも自分たちよりも敵の数が多い戦闘に慣れてきたのだ。
全員が敵を見つめる視野の隅で、戦況を把握することができるようになってきたのだ。
この戦況の把握が最も上手にできたのが命子だった。
2冊の魔導書を携えて戦う命子は、元々2人よりもそういう土台ができていたのだ。度重なる戦闘により、立体的に戦場を見渡す目が開花しつつあった。
他にも、武器や防具が強化されたことも要因の一つだ。
ささらはサーベルと短刀の二刀流で速やかに先頭の敵を倒せるようになった。
ルルも通りすがりで斬りつける攻撃が、かなりのダメージ量になり、今回の2番目の杵ウサギもささらを待つことなく、命子が片手間で倒してしまった。
命子の水弾、火弾の威力が上がったのも戦闘に大きく貢献していた。
また被弾しても、大したことがなくなったのも大きい。
さすがに市松や杵ウサギに顔面を攻撃されれば分からないが、少なくとも防具がある場所に当たっても、2回や3回程度では戦闘に支障をもたらすほどではなくなっていた。
総合的に、3人は格段に強くなっていた。
結果的に一回当たりの戦闘時間が短縮されて疲労も軽減された。
命子たちは順調に山を登っていく。
時には洞窟に入り、時には小川に架かった小さな橋を渡り。
昨日ほど辛く感じないので、綺麗な風景ではウィンシタ映えもしちゃう。
ちなみに、命子は前回のダンジョン行の経験から、モバイルバッテリーを購入しておいた。
ルルはスマホ歴が長いようで、元から持ち歩いている。
ささらは持っていなかったが、スマホが3人とも同じだったので、モバイルバッテリーを回して使っている。
『ワタクシもモバイルバッテリー買いますわ』とは、ささらの言。
どうやら、またダンジョンに入るのを視野に入れているらしかった。
3人はついに山頂に辿り着いた。
山頂にはやはり桜の巨木が立っており、命子たちは撮影する。
そして、一昨日のように手を合わせてお祈りを始めた。
「メーコとシャーラと、ずっと友達でいられマスよーに!」
桜の木に手を合わせて、ルルが無邪気に願い事を口にする。
「おっ! じゃあ、私もルルとささらとずっと友達でいられますよーに!」
「ふふふっ。それならワタクシも、命子さんとルルさんとずっと友達でいられますよーに、ですわ」
2人もそれに乗っかって、お願いした。
すると、宝箱が現れた。
キタコレである。
この3人の中で、これを期待していた奴が1人いる。
さっそく、その1人が蓋を開けると、中には一枚の羊皮紙が入っていた。
表面に書かれている文字を見てみるが、全く読めない。
新しいアイテムが手に入ったので、せっかくなのでここで鑑定大会を行うことにした。
恐らく、これがこのダンジョンで最後の鑑定になるだろう。
というのも、この先は明らかに終盤っぽかったのだ。
2つ目の山の頂であるこの場所からは、まっすぐに麓へ伸びる階段があった。このダンジョンのスタート地点から、丁度、反対側に位置している。
階段は雲海のすぐ上まで降りると平らな道に変わり、その果てにある学校の運動場ほどの広い敷地へと続いていた。
神社を囲う玉垣のような柵で囲われており、敷地内に意味ありげな8つの巨岩が置かれていた。その8つ全てに注連縄が巻かれている。
普通に考えて、あそこで何かが起こるだろう。
故に、ここが最後の装備チェックになると命子は予想したのだ。
命子は鑑定玉『50/50』を使用して、羊皮紙から鑑定を開始した。
――――
レシピ《絆の指輪》
スキル【レシピ読解】を持つ者のみが理解できる。
これを読むことで、アクセサリー《絆の指輪》の製作方法を取得できる。
レシピは読んでもなくなることはない。
――――
「おー」
とりあえず、報告は後にして、別の装備品に移った。
以下、ステータスと合わせて各人の詳細。
――――
羊谷命子
15歳
ジョブ 見習い魔導書士
レベル 13
カルマ +1640
魔力量 78/104
・スキル
【合成強化】
・ジョブスキル
【魔導書解放】
【魔導書装備時魔攻 小】
【魔導書操作補正 小】
【魔導書装備枠+1】
【魔導書作成・入門編】
【魔導書士の心得】
・称号
【地球さんを祝福した者】
【1層踏破者・ソロ】
【修羅級・真なる無限鳥居のダンジョンへの挑戦権】
★★装備★★
※ 攻・防の数値は『前回の数値』→『今回の数値』
・水の魔導書『125/125』物攻35 魔攻82
・火の魔導書『73/125』物攻24 魔攻56
・サーベル『55/125』攻38→53
・ミニハサミ『100/100』攻6
・桜の狩衣『77/125』防36→53
・桜の艶袴『77/125』防36→53
・桜の長足袋『77/125』防13→20
・桜の厚底草履『70/125』防14→20
・指貫手袋『125/125』防30
・桜のチョーカー『60/125』防13→17
・タヌキミミ『25/125』防?→防4
【バフ効果アップ 極小】魔力量-1
―――――
笹笠ささら
15歳
ジョブ 見習い騎士
カルマ +1792
レベル 12
魔力量 14/30
・スキル
【防具性能アップ 小】
・ジョブスキル
【騎士技】
【騎士剣の術理】
【筋力アップ 小】
【自動回復 極小】
【騎士の身体つき】
・称号
【地球さんを祝福した者】
★★装備★★
・サーベル『125/125』攻77→95
・短刀『30/125』攻?→28
・杵柄ソード『100/100』攻14
・桜の着物『80/125』防46→55
・桜の袴『77/125』防36→53
・桜の長足袋『77/125』防13→20
・編み上げブーツ『125/125』防22→48
・ウサミミバンド『125/125』防12
【敏捷アップ 極小】魔力量-1
・ウサシッポ『25/125』防4
【お尻保護】魔力量-1
・ハチガネ『55/125』防16→32
・手甲『55/125』防21→45
・指貫手袋『125/125』防12→30
・桜のチョーカー『77/125』防12→20
――――――
流ルル
15歳
ジョブ 見習いNINJA
カルマ +1935
レベル 12
魔力量 18/45
・スキル
【見習いNINPO】
・ジョブスキル
【NINJA技】
【NINJAの術理】
【敏捷アップ 小】
【目立つ】
【NINJAの身体つき】
・称号
【地球さんを祝福した者】
★★装備★★
・忍者刀『103/125』攻33→69
・小鎌『81/125』攻31→46
・短刀『50/125』攻?→36
・桜クノイチの着物『80/125』防46→55
・桜クノイチのスパッツ『77/125』防36→53
・桜の長足袋『77/125』防13→20
・桜の草履『70/125』防14→20
・ウサミミバンド『125/125』防12
【敏捷アップ 極小】魔力量-1
・ウサシッポ『125/125』防12
【お尻保護】魔力量-1
・手甲『55/125』防21→45
・脚甲『55/125』防21→45
・指貫手袋『125/125』防12→30
・桜のチョーカー『77/125』防12→20
・かんざし『15/125』防3
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いつも通り、ささらに最後の記入を担当してもらい、命子が読み上げていく。
指貫手袋やささらのブーツがカンストしたのは、革製品に高い親和性のあるツチノコの皮や猫蝙蝠の飛膜がかなり手に入ったからだ。
衣類系も、タヌキやウサギの毛皮、市松の着物や帯が高い親和性があった。タヌキの毛皮が最も経験値は高かった。多く手に入る素材だったので、満遍なく上げられた。
逆に、武器防具共に金属製品の物は、市松人形のカタナの破片しか親和性の高い物がなかったので、各装備でバラツキがある。猫蝙蝠の牙はそこそこ高かったのが救いだ。
作業が終わり、ルルが数値を見て言う。
「どれも1回強化する時の倍、倍……ば、倍率が決まっているんデスね?」
倍率という言葉が出てこなかったようで、少しつっかえたルル。
しかし、その言葉に命子はハッとした。
「ほ、ホントだ!」
よく見れば、確かにそうだった。
今まで、へぇ強くなったなぁ、程度の認識で手帳に書かれた数字を見ていたけれど、非常に単純な計算方法で防御力は割り出せてしまった。
例を挙げれば、命子たちの着ている衣服系は、初期値が防御力15で、合成強化1点あたり0.5ずつ上昇していたのだ。小数点以下は切り捨てなのか、鑑定できないのかは分からない。
あとは倍率さえ分かってしまえば、数値を知るために鑑定玉は使う必要がなかったのだ。
今回の鑑定にも2個使い、残りは3個になってしまっている。昨晩の時点で気づいていれば、新規アイテム分だけ鑑定すれば良いので、消費は1個で済んだのだ。
「まあいいじゃありませんこと」
「うん、やっちゃったことは仕方ない。ルルも良く気づいてくれたね」
「ニャウ!」
惜しいことをしたと思ったけれど、良い勉強と思って諦めるほかない。
「それにしても随分強くなりましたわね」
「うん」
「メーコのおかげデス!」
「まったくですわ。合成強化がなかったら、きっと何回も痛い想いをしていたはずですもの。いいえ、きっと死んでしまっていましたわ」
「ま、まあね! んふふぅ!」
2人に褒められて、命子はニコニコした。
最初のダンジョンではほとんど実感できなかったけれど、今回のダンジョンで【合成強化】の凄さを見た気がした。
命子は、【合成強化】を最初に得られて本当に良かったと今では思っている。
装備は、【合成強化】してこそ真価を発揮する。
労力さえ厭わなければ装備を何倍も強くできるのだ。
それを成せるこのスキルは、初期スキルとしては超大当たりだと命子は思った。
ただ、武器防具については合成強化以外にも、強化値は上げられるようだった。
それは装備した者が敵を倒すことで、少しずつ武装もレベルが上がるという特性がダンジョンにはあったのだ。
これは今回の探索で気づいた。
しかし【合成強化】に比べると効率は今まで気づかなかった程度には悪い。
その後、命子はレシピについて2人と情報を共有した。
「マー! 仲間の指輪なんデスね!? 欲しいデース!」
「わ、ワタクシも欲しいですわ!」
2人が目をキラキラさせて訴える。
「だけど、【レシピ読解】がないから、持ってる誰かを探すか、自分たちでジョブチェンジして覚えるか……まあ、なんにしても今は作れないね」
「ダンジョンを出たら方法を探すデス!」
「そうですわね」
「私に心当たりがあるよ。教授っていうダンジョンの駐屯地にいる人なんだけど、その人に頼めば、もしかしたら自衛隊の人を紹介してくれるかも」
自衛隊は、命子が知る限りでもかなりの早さでダンジョンを攻略している。
ロリッ娘ダンジョンだけに集中もできないので、全国のG級、F級ダンジョンに分散されてはいるが、個々人の戦闘力は今や世界一であろう。
猫妖精の話では、ロリッ娘迷宮で妖精店も発見したという話だし。
尤も、これは単純にスタートが早かったのが理由なので、そのうち、戦闘力は他国に抜かされるかもしれないけれど。
当然発見されているジョブやスキルのデータベースも充実している。
だから教授なら自衛隊内で誰がどんなスキルを持っているかくらい調べればすぐに分かるだろう、と命子は考えていた。
1つ目の山でもそうしたように、プレゼントをくれた桜の巨木にお礼を言い、3人はしばし山頂で休憩する。
少し遅めのお昼ご飯を食べ、食後の休憩。
その間も、命子は【合成強化】をして、さきほど調べた数値を上書きしていく。
そんな風にして、しばしの休憩をして、時刻は15時。
この先はきっとゴールだ。
そして、学校のグラウンドほどもあるあそこにはきっとボスがいるのだろう。
危険は伴うだろうけれど、この2人とならやってやれると命子は思った。
「頑張ろうね、ささら、ルル」
「もちろんですわ!」
「ニャウ! 何が来ても負けないです!」
すっかり魔力が回復した3人は、桜の巨木にお別れを告げ、推定ゴールに向けて歩き出した。
読んでくださりありがとうございます。
今更ですが、ステータスや武具の詳細は好みが別れそうなので、重要度の高い場面でしか載せないつもりです。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます!
いつも誤字報告くださる方も、本当にありがとうございます!