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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-23 廃城探索

本日もよろしくお願いします。


 廃城が佇む浮遊島の探索をする命子たちは、廃城の前に到着した。


 廃城を囲むのはレンガ塀。

 元々は完全に城を囲んでいたのだろうが、ところどころが崩れており、長い歴史を感じさせた。

 崩れた原因は主に樹木の侵食だと見られ、一部の塀を取り込む形で大きな木が生えていた。


 そんなレンガ塀の外側にはすでに第一探索隊が到着しており、半日だけの簡易ベースキャンプが出来上がっていた。


「ふーむ、文明度がわからん」


 紫蓮がレンガ塀を観察して言う。


「レンガ塀だしナイトも出てきたし、中世ファンタジーみたいな感じじゃない?」


 命子は首を傾げた。


「そうかもしれないけど、使っているレンガが物凄く整っているし、強度もかなりのもの」


「ホントだー」


「地球の中世期じゃこんなレンガは作れなかったと思う。カルマ式ステータスシステムの世界は、我らがアニメで見るような綺麗な中世風の世界になるのかもしれない」


「たしかに【生産魔法】やジョブがあれば文明の作られ方も違ってくるかもね」


「うん」


 紫蓮はそう言って、近くに落ちていたレンガの破片を集め始めた。


「どうすんのそれ」


「風女とか青空修行道場へのお土産。解析できれば、いい感じの建材ができるかもしれない」


「生産脳はわからん」


 と命子は言いつつも、お土産を持ち帰るのは好きなので、紫蓮と一緒にレンガを一か所に集めておいた。帰りに持ち帰る予定だ。


「むっ、紫蓮君もか」


 同じことを考えている人が自衛隊組にもいた。教授もお土産に持ち帰るらしい。

 そんなことをしていると、馬場から集合がかかった。


「軽く廃城を調査したけど、敵の強さは変わらないみたいね」


 先に第一探索隊が調査をして、その結果を命子たちと共有した。


「うーん、じゃあ私たちも入ってみますぅ?」


 命子はコテンと首を傾げた。

 一見すると消極的な疑問形だが、言外に入りたくてしかたがない強い熱意が感じられる。あの手この手、あらゆる角度から切り込む交渉術が命子流なのだ。なにが「うーん」か。


 ここで撤退指示を出したらどんなアクションを取るのか。そんなことを考える馬場だが、グッと我慢して言った。


「まあいいでしょう。嫌な予感もしないし」


 ジョブ『冒険者』は【生存本能】というスキルを持つ。

 命子や馬場たちは明らかにレベルが違う場所に立ち入ると、このスキルのおかげで直感的にヤバいと感じるのだ。まあ全幅の信頼を置けるわけではないので、経験を積み、常に注意は必要だが。


「とりあえず目的は明確にしましょう」


「はい! 風女と青空修行道場にお土産を持って帰りたいです!」


 命子の発言に馬場が頷いた。


「自衛隊と同じような感じね。じゃあ戦闘をしつつ、そんな感じでいきましょう」


 というわけで、第一探索隊と手分けして廃城を見て回ることになった。


 廃城はそこそこ大きく、一般的な小学校くらいの大きさがあった。尤も、学校のように部屋が綺麗に並んでいるわけではなく、あくまで大きさの話である。


 先に入った自衛隊の班が庭でナイトと戦っていた。

 6対2の戦いだが、戦闘環境がしっかりしていることもあって適正レベルと馬場が判断する。

 命子たちは流れ弾やターゲット変更に気をつけつつ廃城に近づいていった。


「廃墟探索なんて久しぶりね」


 馬場のセリフに命子がすかさずキュピンとした。


「馬場さんは廃墟探索をしたことがあるんですか?」


「ええ、昔ね」


「あー、やっぱり。だからかぁ」


「なにが?」


「前から思ってたんですけど、馬場さんが1人で写っている写真を撮ると、たまに黒い女の人が腕に縋りついてるんですよね」


「え、なにその衝撃の新情報。やめてくれる?」


 いきなり奇妙なことを言い始めた命子に、馬場はビビった。

 それから少し考えて、教授をポカァと引っ叩く。

 教授は「別に見せてもいいじゃないか」とブツクサ文句を言った。


 廃城の中に入ると、まずは2階部分までぶち抜きの広いエントランスホールだった。

 大きな窓や崩れた壁から光が入ってきているので中は明るい。

 植物が侵食しており、特に樹木によって大きく建物が崩されている。これらは風雨や日当たりにかなり影響を受けているようで、それらを満たす場所とそうでない場所では生えている植物が違う様子だった。


 命子はさっそく冒険手帳にササッと地図を描き、ルルはスマホで撮影する。そんなルルの撮影に反応したイヨがルルの前でうろちょろした。映りたいのか、自分も撮影したいのか。


「シレン、そんなのも持ち帰るでゴザルか?」


「うん。布類は貴重」


 紫蓮はカーペットの残骸を採取した。

 そんなふうに各々が楽しむ中で、ささらは警戒中。


「1階は自衛隊が調べているから、2階の左手を回りましょうか」


 馬場の提案で、命子たちはエントランスホールにある階段を上り、2階部分を探索することにした。


 エントランスホールの左右には部屋が並んでおり、ほかに左右と奥へと続く廊下もある。一行はひとまず左側の部屋を調べることにした。ちなみに、右手側は自衛隊が探索している。


 最初のドアに近づくと、命子が映画で見る特殊部隊の真似をしてササッと壁に背中をつける。すると、すぐにサーベル老師が注意した。


「コレ、命子嬢ちゃん。不用意に壁に背をつけるでない。離れるんじゃ」


 命子はササッと離れた。


「ダメですか?」


「うむ。向こう側から刺されるぞ」


 命子はハッとして壁を見た。

 塗料が剥げて見えている中身の材質はなんらかの石材だった。

 これを見た命子は、目を真ん丸にしてビックリ仰天。


「たしかにできるかも!」


 石材でも斬れるとロリッ娘が判断してしまう、それが新時代。


「壁を安全なものと思ってはならん。これは石造りで比較的頑丈そうだが、破壊できる術があるということに注意しなければならんぞ」


「わかりました!」


「あとはドアを横切る際にも注意するのじゃ。ドアの造りにもよるが、隙間ができるものは人が通れば影が出てきてすぐにわかる」


 老師の教えを受けて、命子たちはふんふんと頷いた。


「じゃあ、こういう時はどうやって開けるんですか?」


「基本は殺気を読む。壁を隔てて待ち構える者は特に殺気を出しやすい。確実に先手を取るという殺気が出おる。逆に先ほどのお主のように壁に背をつけるような行動は、緊張を相手に伝えてしまう」


「想像できるかも」


「殺気は攻撃手段すらも語る。今のお主たちならば判別が利くはずだから、気にしてみるといい」


 ふむふむと頷く命子たちの後ろで、どんな世界観なのよと馬場は心の中でツッコんだ。とはいえ、そんな馬場も殺気については理解できてしまう。


「今の時代ならば便利な魔法も多くあろう。盾職の【かばう】やささら嬢ちゃんの【ガードフォース】じゃな。そういった保険をかけておくのも良い」


「ふんふん、たしかにその通りですね」


「では問題じゃ。この部屋に敵はいるかの?」


「いるデス!」


 老師の問題に、ルルが即座に手を上げた。

 自分もわかっていたのに先に答えを言われた命子は愕然とした顔をルルに向け、ルルはドヤ顔で迎え撃った。


「では攻撃手段はどうじゃ?」


「遠距離攻撃でゴザル!」


 さらなる質問にはメリスが答えて、答えがわかっていた命子ははわーとした。


「では開けてみよう。ちょっと退いておれ」


 老師は命子たちをドアの前から退かすと、ドアをガンッと蹴破った。

 そして、即座に抜刀。


 老師のサーベルが部屋の中から飛んできた軍隊カラスの羽根攻撃を両断した。そのまま部屋の中へと駆けだすと、中にいた軍隊カラスを倒してしまった。


 戦闘を終えた老師は軽くドアの構造をチェックすると、興奮する命子たちの下へ戻った。


「老師すげぇ!」


「映画みたいでゴザル!」


 老師は女子高生のキャッキャにダメージを負いつつ、語り始めた。


「待ち構えているとわかっているのなら対処はしやすい。あとは実際に対処できる腕があるかどうかじゃな」


「はへぇー。ためになる。ねーっ?」


「はい、勉強になりますわ」


 命子たちはまた一つ賢くなった。修羅みが増したとも言う。


「じゃあ実践してみます! お父さん、【かばう】使って」


「あ、ああ。気を付けるんだよ?」


 命子は隣の部屋のドアで実践することにした。


 ドアの前をササッと通過。

 その瞬間、命子はドアの向こう側で殺気が動いた気配を感じた。おそらくはナイト。

 むむっとした命子は、中で待ち構えていることをみんなに目でお知らせする。みんなも敵がどんなタイプか理解した様子。


 スッと移動してガチコン!

 初手を水弾で妨害してザシュッ!


 命子はドアの前に移動して即座にドアを蹴破り、魔法を交えつつサーベルでザシュッとする自分をイメージする。よし、いける!


 命子はドアの前にスッと移動して、ポックリで蹴りを入れた。

 ガコン、とドアを蹴る音が響く。

 が、蹴破れない!


 これはいかんと命子は即座にコロンとドアの前から退避した。


 片膝をついて仲間たちにキリッと視線を向けると、ルルと紫蓮が命子を指さして声を立てずに笑っている。命子は憤慨した。


 じゃあ2人がやってみなよ、と命子はアイコンタクトする。

 すると、ここはワタシがやるデス、とばかりにズイッとルルが前に出た。自信ありげな様子。


 ルルはシュッと移動して、ガンと蹴りを入れる。

 が、やっぱり蹴破れない!


 これはいかんとルルはシュバッと命子の隣に移動した。

 2人してドアドンしただけである。


「ほらねぇー?」


「こんな時だっていうのに生来の上品さが出ちゃったデス!」


「わかる! 私たち女子高生だもの、蛮族みが足りないよ」


 女子高生とは。


「まあドアを蹴破るのも一つの技術じゃからのう、コツを知らん者には難しかろう。要は開ければいいんじゃから他にもやりようはある。例えば」


 老師はそう言うと、ドアの前を素早く通過した。

 しかし、命子たちは老師がただ通過しただけではないと見切っている。


「なにを斬ったんですか?」


「ドアのカチャカチャする部分じゃ」


「はーん、にょきにょきする部分ですね」


 正式名称はラッチという。長年生きている老師もさすがに名称を知らなかった。


 老師がラッチを破壊したことでストッパーが無くなり、ドアが部屋の中へとひとりでに開いた。


 一拍の静寂。


 そして次の瞬間、ナイトが廊下に素早く踏み込んできた。


 ナイトの構えはドアを潜る都合で脇構え。

 命子はナイトの姿が見えた瞬間には剣の軌道を予測し、水弾を撃ち込む。

 水弾は狙い違わずナイトの腕に当たり、攻撃をキャンセルする。


 攻撃はそれで終わらず、命子とルルがナイトの左右両側を駆け抜けざまに切り裂き、さらに素早く振り返って斬撃。


 2人が残心する前で、ナイトがガシャンと床に倒れ込んだ。

 残った魔剣をバキンと砕きながら、老師が言う。


「うむ。見事じゃ」


「でも、やっぱりささらほど攻撃力は出ないですね」


 命子も武器に魔力を宿らせて攻撃力を上げることができるようになったが、防御力が高そうなナイトを一撃で倒せるほどの攻撃力ではなかった。このナイトを素早く倒せたのは、ルルの攻撃力があってこそだっただろう。


「多くのものを得るには時間が必要じゃ。努力が実りやすい新時代になってもその道理は変わらんのだろうよ。だからこそ人は役割分担をする。まあぼちぼちやるといい」


 老師の言葉に、命子たちは頷いた。




 敵を撃退したので、2つの部屋を手分けして探索することに。

 部屋は15畳程度と結構広く、天井の隅が大きく崩れてしまっている。下草は生えていないものの壁にはツタが茂っている。


「ないか……」


 ボソッと呟く命子。宝箱はない様子。


 それどころか目を引くものもない。正確に言えば、素人でも『これは!』と思う物がないと言った方が正しいか。

 なので、命子は紫蓮のお手伝いをして採取を進めた。

 ちなみに、教授は隣のお部屋の採取物指導をしている。


「もっとこう、本とか魔道具とかあればいいんだけどね」


「ほかの部屋にはあるかも」


「たしかに、ここはなにかを保存するには環境が悪そうだね。無事な部屋に期待か」


「うん」


「でも、本だと地球さん的に強めのネタバレになっちゃうのかな?」


「程度によるかと思うけど。例えば、見つかった本が地球上にない言語だったら、それを解読するのは凄く大変なことだし、全然ネタバレじゃないと思う」


「ほう、続けて」


「いや、特にもう言うことはないが」


 紫蓮はそう言いながら、命子が持つ布袋に採取物を突っ込んだ。


「次はバルコニー」


「オッケー」


 紫蓮の指示で、2人はバルコニーへ向かった。


 バルコニーには撮影係を買って出たイヨとボディガードの馬場がいた。


「いい感じの動画撮れてる?」


「うむ。妾も慣れたものなのじゃ」


「イヨさん。建物の造りを重点的に撮ると喜ぶ人が多いかも」


「そうなのかえ?」


「うん。我には判別がつかないけど、地球にない建築技術が使われているかもしれない」


「ふむふむ。どこら辺を撮ればいいのかの?」


「壁とか天井とか、あとはああいう隅っこの出っ張りとか。そういうのを撮影しとけば、建築家がいろいろ考察してくれると思う」


「わかったのじゃ!」


 そんなふうに教えてあげる紫蓮。


「聞きましたか、馬場さん。これがウチの紫蓮ちゃんです」


「ねー、しっかりしてるわ。私なんてプイッターが繋がればなーとしか思ってなかったわ」


「それヤバいですね……とっ」


「私がやるわ」


 話をしていると、すぐ近くの森から3羽の軍隊ガラスが飛び立った。こちらを狙っているようだ。


 馬場は【鞭技:マジックフック】で自分で放った風弾を捉え、空中に飛び出す。

 空中で鞭を振り、魔法を放ち、軍隊ガラスを倒していく。


「馬場さんだけ別ゲーだな」


「うむ、CRAZYとか表示されてそう」


 一度も地面に降りることなく瞬く間に敵を倒した馬場は、バルコニーに戻ってきた。


「馬場殿カッコ良かったのじゃ!」


「えー、そんなことないですよー。あっはっはっ!」


 イヨから褒められて笑う馬場を見て、めっちゃ気持ち良さそうだなと命子は思った。


「戦闘ですの?」


 隣の部屋からささらがバルコニーに出てきた。教授も一緒にいる。


「問題なく倒したよ。でも、森から襲撃があるみたいだから部屋の中にいても気をつけたほうがいいかもね」


「そうなんですのね、わかりましたわ」


 そんな会話から、ちょうど教授もいるので簡単な報告会が始まった。

 どうやら、隣の部屋も大した発見はなかったようだ。


「馬場さん、教授。それで次はどうします?」


「ここから見た限りだと、あの辺りの部屋は状態が良さそうに思える。そこを目標に据えて、余裕がありそうなら他の部屋も調べる。2時間後には城を出る感じでどうだろう」


 教授はバルコニーから見える他の部屋を指さして言う。その意見を聞いた馬場は、時計を確認して採用した。


 ウラノスに今後の予定を無線で告げる馬場の姿を見ながら、命子は、『一泊はさすがにないか』と残念に思うのだった。




読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドア開かないの草 ささらがやったらいけそう
[一言] 馬場ちゃんは、プイッターが繋がっても「ラピュータなう」みたいな投稿する姿しか思い浮かばないですね。 それでも守秘義務的なやつに抵触する投稿をやらかさないなら弁えてる方か。
[一言] 自然に入り込んで巣食ってる可能性のあるカラスはともかく、ナイトがいるという事はこの廃墟を守ろうとしている何かが存在していたという事かな。
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