12-22 ペガサスナイト
本日もよろしくお願いします。
レーダー内に新しく浮遊島を発見したウラノスは、巨大浮遊石に注意しながら接近し、いよいよ視界にその姿を捉えた。
命子たちはその光景を操舵室の大きな窓から見ていた。
それは天空の島に佇む廃墟の古城の姿であった。
「ラピュータだ!」
命子の叫びを聞いて、幼き日より金曜夜の映画劇場で情操教育されてきた管制官たちの心に電流が走る。
思い出すのは海を燃やすような夕日を背景にしたシルエットたち。物悲しくも高らかに鳴り響くトランペットの音が脳内で流れる。ワクワクしながら、今から始まるアニメ映画のタイトルコールを夕日の中に待った幼き日。
時を越えて大人になり、今から始まるのは自分自身で繰り広げる大冒険。
「むっ、さっそく歓迎だぞ!」
教授が叫ぶ。
浮遊島から魔物たちが飛び立ったのだ。
船長や管制官たちはハッと我に返った。
「命子ちゃん、待ちなさい!」
今にも駆けだしそうな命子を馬場が引き留めた。
ウラノスの最大戦力と言える命子たちだが、引き留める理由があったのだ。
魔物たちが接近し、その姿形がはっきりする。
それはペガサスに乗った全身鎧の騎士だった。
そう、人型なのである。
「今から行っても混乱を招くだけよ!」
馬場はそう言うが、それは事実でもあったが、それ以上に別の意図があった。
全身鎧の中身は、どうなっているのか。
もし肉が詰まっていたら、魔物とはいえ、命子たちに殺人をさせてしまうのではないか。馬場はこれを恐れた。
命子は、すぐに馬場の懸念を理解した。
今まではよくわからない形状や獣型の魔物ばかりだったが、人型の魔物もいずれは出てくるという予想が世界的に語られている。当然、命子だって耳にする。
その裏付けはすでにあり、天狗のようなコミュニケーションが取れる魔物の存在である。
そして、人型の魔物と戦う段階が、多くの冒険者が篩に掛けられるポイントになるだろうと言われていた。
だが、命子はもう覚悟ができていた。
というか、あの日、敵か味方か判然としなかったバネ風船を背後から強襲したように、命子には戦いに対してドライな一面があるのだ。巷では「カワヨ」と言われているロリっ娘は修羅だった。
とはいえ、馬場の心情も理解できる命子である。
ひとまず一戦目は見学することにした。
紫蓮やイヨたちとむぎゅむぎゅと顔をくっつけ、一緒に丸窓から外を眺める。
ペガサスナイトは、ペガサスとナイトから構成される2体の魔物だった。
その両方が紫色のオーラを放出していた。つまり、スキル覚醒相当の力を持っているのがわかる。
持っている武器は剣で統一。
さらに盾を持っている個体もいるが、全てではない。
ペガサスも頭に突撃角を装備し、鐙もつけられた騎乗仕様。
空から強襲してくるペガサスナイトを、戦闘員らの魔法で迎撃する。
何体かがその攻撃で墜落するも、甲板までたどり着く個体が現れた。
ナイトが滑るように甲板へと着地し、それに遅れてペガサスが羽根を広げながら着地する。
これに対して、乗務員たちは息を呑んだ。
ウラノスの乗務員は、自衛官と航空会社の社員による混成。
この双方ともに、人との殺し合いの経験がなかったのだ。魔法での遠距離攻撃はできても、剣で攻撃することができなかったのである。
それどころか、一緒に甲板に降りてきたペガサスに対しても今までのように攻撃ができなかった。他国の人からすれば甘いと言わざるを得ないことだが、つい数秒前まで人が乗っていた物という認識がモラルの高い日本人の動きを瞬間的に鈍らせたのだ。
その隙を狙って、ペガサスが光弾の魔法を構築する。
だが、その魔法が発動する前にペガサスの首が真上からの斬撃で深々と傷つけられ、紫色の血飛沫を上げる。
それをやったのは、袴姿の老人。
サーベル老師である。
頭上からギロチンのように降ってきた老師は、着地と同時にゆらりと動く。
その刹那、今まで老師がいた場所に、紫の尾を引く斬撃が通過した。
ナイトが繰り出した斬撃だ。
ペガサスが倒されてからの反応速度、踏み込みと斬撃の速さ、どれを取っても剣術系のスキルを覚醒させた者が見せる鋭いものであった。
ナイトは攻撃が空ぶったと理解するやいなや、即座に足を動かし、次なる斬撃に繋げる。
「あっ!」「ぴゃ!」「むっ!」
その光景を丸窓から見ていた命子たちは、声を上げた。
返す刃の斬撃を繰り出したナイトだったが、幻歩法を使う老師と相性が悪かった。
老師がいつのまにかナイトの傍らに立っており、甲冑の切れ間、首の部分にサーベルを突き刺したのだ。
あの人、何人か殺ってるな、と丸窓から戦いを見ていた命子は思った。
それくらい躊躇なく突き入れたのだ。
ところが、ここで老師は後方に跳んだ。
首を刺されたナイトだったがダメージを負っておらず、懐に飛び込んだ老師の腹に向けて膝蹴りを繰り出したのだ。
「これはリビングアーマーだね」
「うむ。鎧が本体か、核があるのか。魔力パスがないから操り人形ではなさそうだけど。それにあれが持っている剣は魔剣」
瞳を光らせて見つめる命子と紫蓮の発言を受けて、すぐさま船長が船内放送で、ナイトの仕様を共有する。
一方、中身に人が入っていないことを悟った戦闘員たちの心は軽くなっていた。
元からある程度の覚悟はできていた人たちなので、正気に返るのは時間の問題だったはずだが、やはり中身がないというのは重要だったのだろう。
しかし、このナイトに対してで言えば、彼らの出番はなかった。
紫の尾を引く高速の斬撃をひらりひらりと躱していた老師が——
「攻める!」
——命子の言葉と同時に、敵の背後に立っていた。
老師の顔はすでに別の獲物を探しており、そんな老師の背後でナイトの鎧が唐竹割で両断されていた。得物はサーベルなのに。
「つえーっ!」
「ぴゃわー。アニメの世界」
「なんも見えんかったのじゃ! 命子様の師匠はつおいのう!」
ナイトの手から魔剣が飛び出して背後から攻撃を仕掛けるが、老師はサッと回避して魔剣の柄を握ると、床に切っ先を添えて刃を足で踏み割った。
そして、嬉しそうに次なるナイトを求めて走っていった。元気いっぱいである。
後に残ったのは、やべえジジイの後ろ姿を畏怖の視線で見つめる乗務員と、一刀両断された全身鎧だった。
鎧と魔剣は光の粒子に変わり、かなり多めの金属を残した。
「あれが東洋の怪の本気か。凄まじいな」
別の窓から見ていた教授が呟いた。
「あっ、それ老師が昔呼ばれていた二つ名! 教授も昔の老師を知ってるんですか?」
「ああ、私だけでなく世界中の国の上層部もね」
「有名人!」
「元々その筋では有名だったようだが、君らの師匠だから顔が割れたんだよ。まあ君らは師弟関係なのだから、私の口から語ることでもないだろう。知りたければ本人から聞きたまえ」
「よし、じゃあそろそろ聞くか。エギリスに行くみたいだし」
この旅の始まりに少しだけ昔話をしてもらったが、未だにほとんど知らないようなものだ。
「それで、今のはなにをしたんだい?」
「一瞬だけ足とサーベルに魔力を籠めて、素早さと攻撃力を上昇させてましたね。老師は魔力が低いですから、極力無駄にしないように立ち回ってるんです」
「なるほど。やってることは単純だが、幻歩法を混ぜることで容易には見切れない攻撃にしているのか」
老師はマナ進化した際に肉体的に若返ったが、その代償として魔力が大幅に減少した。現在は復活しつつあるが、それでも無駄にはできない。
そうこうしている内に、戦闘が終わった。
「雷神で一人負傷よ」
雷神からの連絡を受けた馬場が言う。
「死んではいないんだね?」
「ええ。人型の敵に怯んで先手を許したみたい」
「今の私たちなら対応できない敵ではないはずなんだがなぁ」
教授と馬場の話を聞いて、船長が小さくため息を吐く。
船長が言うように、ペガサスナイトの強さはマンティコアと同程度だった。むしろ獣の特性を持つマンティコアのほうが苦手という人は多いかもしれない。顔が怖いし。
「このタイプの敵ならば仕方がないでしょう。しかし、今回の戦いで躊躇がなくなったはずです」
雷神は自衛官だけで構成されているが、そんな人たちでも人型と戦うのは躊躇する。
覚悟を決めていると自分では思っている命子だったが、そんな会話を聞いて、いま一度、自分にその時が訪れた場面を想像して、自問自答を繰り返そうと思った。
「ケガをしたのがこのタイミングで良かったかもしれないな」
教授はもう間もなく到着しようとする浮遊島を見て言った。
中級回復薬を飲めば結構深い傷でも治るが、その分、魔力が消費される。飛空艇は乗っているだけで全ての乗員の魔力が減っていくので、落ち着いて休める場所で回復薬を飲むのがベストなのだ。
大人たちの話を聞きながら、窓の外を眺める命子たち。
その視線の先には廃墟の古城が佇んでいた。
イヨが「バ〇スなのじゃ……」と呟いた。乗り込む前に滅ぼすスタンス。
11島目の浮遊島の湖に着水したウラノスと雷神。
午後一番から探索を開始したので、本日はこの島で一泊することになる。
命子は甲板に出て、外の空気を吸いながら伸びをした。
「問題はあの廃城ね」
会議に参加する雷神の船長が来るのを待ちながら、馬場が言う。
「はい! 探索っ、したいっ、ですっ!」
命子が元気に手を上げた。
馬場はそれをスルーしつつ、教授へ視線を向けた。
命子はスッと手を下ろして、お願い光線を視線に混ぜ込んで馬場の視界の中でうろちょろした。
「まあ命子君たちも出すべきだろう。甲板で戦うよりも地面があるこの場で戦いに慣れたほうがいい」
教授の言葉に、命子は、うんうん、と頷いてお願い光線にウェービングをかける。
「でも相手は剣持ちよ? 腕とか吹っ飛んだらどうするのよ」
「マンティコアと戦っているのだから今さらだろう。あれなんて頭を丸のみにする大きさじゃないか。それに魔剣とも戦っているし。世界中で検証されている新時代の防御力を信じたまえ」
というわけで、命子たちも探索に行けることになった。
雷神から船長がやってきて馬場たちが会議を始めたので、命子は仲間たちとお喋りする。
「ささらたちはペガサスナイト見た?」
「はい、見ましたわ。参戦しようと思って入口まで行ったんですの。邪魔になりそうだったので外には出ませんでしたけど」
休憩に入った命子たちの穴は交代要員が埋めていたので、先ほど馬場が命子へ言ったように、後から行っても邪魔になるのだ。
「人型だけど戦えそう?」
「はい、中に人も入っていないようですし。強さ的にもそこまで問題なさそうですわ」
「ニャウ。ワタシも大丈夫デス」
「拙者も平気でゴザルよ。龍宮で戦った氷の戦士たちと同じようなものでゴザル」
「あー、たしかにメリスの言う通りかも」
龍宮では、氷で作られた戦士たちと戦った。
あれも武術を使う相手だったので、ペガサスナイトと変わらないだろう。
「あっ、老師だ! 老師老師ぃ!」
老師は女子高生のテンションに若干怯むも、可愛い弟子の呼びかけに応えた。
「ナイトはどうでした?」
「なかなかの相手じゃったよ。まあお主らの方が強いじゃろうな」
「やっぱな!」
「だが油断していい相手でもない。慢心してはならんぞ」
「はい!」
師匠からのお墨付きを得て、命子たちはふんすとした。
「これからあのお城に行くんだけど、老師も行きますか?」
「ほう。では同行させてもらおう」
馬場たちの指示で、自衛隊の探索隊が出発していく。
探索隊は最初から油断せずに編成されてきたが、今回は新しい敵が出てきたことでお互いの探索範囲の間隔を狭める様子。
相手が人型になったこともあって拠点を守る人員も厚く、その中にはパパたちも含まれていた。
命子たちも準備を整え、岸辺に集合していた。
今回の探索では命子たち6人に、馬場、教授、サーベル老師、命子パパ、紫蓮パパ、ルルママ、4人の自衛官が加わる。16人の大所帯だ。自衛官は盾職2人に近接職2人の、何かあった際の殿要員である。
さすがに人数が多いので8:8で分かれて行動するが、木々の合間に互いの姿が見える程度の距離感だ。
『こちら3班。騎乗していないナイトと遭遇。これより交戦します』
『了解。4班はその場で待機して援護要請に備えなさい』
教授の下にそんな情報がもたらされる。
命子とは違う班に馬場がいるので、無線からは馬場の声も聞こえた。
ちなみに、自衛隊の探索チームも命子たちのように2班セットで行動している。3班と4班は足並みを揃えてお互いをカバーリングしているわけだ。
「お城の騎士って設定なんでしょうかね?」
命子は教授に問うた。
「そうかもしれないね」
「騎士デスかー。ここが異世界にある場所をモデルにしてるのなら、何と戦っていたんデスかね?」
「ルル君、それはとても良い着眼点だよ」
「んふふぅ!」
教授に褒められて、ルルは命子にドヤ顔を向けた。
命子はすかさずルルのわき腹に刺突を入れ、代わりにネコパンチを食らった。相打ち。
「カルマベースの世界で人同士の戦争が起こりうるのか。それとも魔物と戦うための組織なのか。我々は文明が発展した段階で地球さんがレベルアップしたが、中世のような時代でレベルアップしたのなら文明の形成はどのように変わったのか。また色々な議論が巻き起こりそうだ」
「にゃ、にゃん!」
しかし所詮は猫。
教授がペラペラと喋り始めるので、ルルは命子を生贄にして近くの葉っぱにネコパンチをして知らん顔を始めた。
『ウラノス観測班より伝達。城からペガサスナイト2騎が飛び立ちました』
再び教授の無線に連絡が入る。
「ババ殿から停止命令デス」
ルルが言うように、向こうの班もその場で止まって警戒態勢に入っていた。
無線に続報が入る。
『第1探索隊のラインを通過。第2探索隊へ向かっています。注意してください!』
それを聞いて、命子はピョンと小さくジャンプした。
キタキタと。
ちなみに、自衛隊だけで構成されているのが第1探索隊。命子たちの2つの班は第2探索隊と呼ばれている。第2探索隊は他にはいない。
「合流するデス」
「了解!」
ルルから伝達され、2つの班は混戦にならない程度に距離を狭めて陣形を作る。
「魔法用意! 盾職は魔法掃射と落下攻撃に備えて!」
馬場の指示が肉声で届く。
「来るデス!」
ネコミミが風切り音を捉え、ルルが鋭く叫ぶ。
木々の切れ間からペガサスのシルエットを見つけた命子は、真上に来るタイミングを読んで土弾を放った。それと同時に、イヨも矢を放つ。
ペガサスからも光弾が射出され、樹冠を貫通して一行を襲う。
光弾は、直撃コースのほうが助かる一面があった。
この場にいるのは凄腕ばかりなので、盾や武器で対処ができるのだ。
それよりも地上や木の幹に当たった光弾が厄介で、土を巻き上げ、木を穿ち、戦闘環境を変えてしまうことのほうが事故を生み出す結果になりうる。幸いにして、今回はその心配はなさそうではあるが。
一方、命子の魔法とイヨの矢が2体のペガサスの腹を穿った。
バランスを崩したペガサスからナイトが飛び降り、葉っぱの上から降ってくる。
さすがにスキル覚醒相当の強さを持つ敵だけあって、ナイトの運動能力は高い。
葉を茂らす樹冠を物ともせず、剣を振りかぶった状態で命子の頭上へと降ってきた。
命子の瞳がギラリと光り、即座に状況を判断する。
目の端には自分を庇うべく飛び込んでくる父の姿。
後方へ!
命子パパの腕の力を借りつつ命子は背後へ転がった。
命子と入れ替わりで、ナイトとの間に命子パパが割り込んだ。
ナイトの落下斬りと命子パパの盾、紫のオーラを纏った剣と盾がぶつかり合う。
それは常人なら吹っ飛ばされるほどの衝撃だったが、スキル覚醒のオーラを纏った命子パパは不動。だが、その一撃の強さを表すように命子パパの足元の地面が少しばかり沈み込んだ。
一方、背後にコロンと転がった命子は高速で移り変わる世界を見つめ、自分の役割を探す。そうして受け身を取りながら、セットしてある水弾を後方斜め上の方向へ射出した。
水弾は遅れて降ってきたもう1体のナイトの横顔に当たり、落下斬りを決めようとしていたナイトの行動全てをキャンセルさせ、子供に放られた人形のように宙に舞わせる。
大きな枝を天地逆転の状態で蹴りつける一つの影。
ルルだ。
「ネコキック!」
枝を蹴りつけて加速を得たルルが、空中で無防備なナイトの背中に強烈な蹴りを入れる。
ドガァと地面に叩きつけられたナイト。
その衝撃で木の葉が舞う中で、薙刀型の武器・龍命雷を振り上げるのは紫蓮だ。
紫蓮はわずかにバウンドしたナイトに向けて、龍命雷を振り下ろした。
手ごたえを感じた紫蓮だがそこで油断はせず、新装備の魔導盾を思い切り振り下ろして角の部分で魔剣の刃を砕いた。
「ウチの娘と娘の友達が強すぎる非日常について」
紫蓮パパは娘たちの戦闘能力の高さにおののきつつ、空中で持ち直そうとするペガサスの方に魔法を当てて撃ち落とす。
新しい敵との戦いではないが、これもまた重要な役割だ。
一方、ナイトの落下斬りを防いだ命子パパ。
落下斬りを防がれたナイトはバランスを崩しながら着地する。
命子パパは盾の奥で構えていた短槍を素早く突き出すが、このナイトは魔盾持ちだった。
命子パパの攻撃もまた防がれ、攻守一撃ずつの一合目が終わる。
今まで戦ってきたザコ敵の中で一番の強さだと、命子パパはキッとナイトを睨みつけて隙を探す。
その時、イヨの矢がナイトのこめかみを貫いた。
それと同時に風のように踏み込んできたささらが、ナイトの胴体を両断する。
さらには魔盾がメリスによって破壊され、その背後ではついでとばかりにささらが魔剣を破壊していた。
「……」
地面から舞い上がった木の葉が落ちるよりも一瞬の出来事だった。
寄ってたかっての容赦ない暴力を目の当たりにして、命子パパはヒュンとした。
ささらたちに新しい魔物を倒して浮かれる気持ちはなく、全員が周辺の警戒を怠らずに修羅修羅する。
最後のペガサスが倒されたことで戦闘が終わり、やっと少女たちの顔がポンと変わった。
「なかなかいい感じの敵だったデスね」
「落下斬りの際に、体幹がしっかりしていましたわ」
「羊谷命子、魔導剣は使わないの?」
「ナイトだと刺さる気がしないんだもん。使うならマンティコアと軍隊ガラスかな。紫蓮ちゃんはちょっと私の投擲術を過大評価しすぎ」
「全然過大評価はしてないが。どうしてそう思ったのか」
「ふぇっ!?」
「イヨの矢で倒してたでゴザルかね? 頭を貫通してたでゴザル」
「どうじゃろ。手ごたえはあったが、仕留めた確信はなかったのじゃ。あー、矢がちょっと曲がっちゃったのじゃ」
「あっ、イヨさん。我があとで直すから捨てないで」
キャッキャキャッキャ!
いや、言ってることは物騒なのだが。
そんな女子高生の集団の会話に、オッサンが踏み込んだ。
命子パパである。
「命子、もしかして俺は戦いの邪魔をしたかい?」
命子パパは落下斬りをするナイトと命子の間に割って入ったが、命子なら簡単にあの状況を打破できたのではないかと思った。自分のしたことは戦いをかき乱すだけだったのではないかと。
「え? そんなことないよ。ありがとう、お父さん」
「そうか。それならいいんだけど」
「ああいう戦いだと、みんなアドリブでやってるし。お父さんが動き出したから、みんな余計な魔力を消費しなかったし、ルルも紫蓮ちゃんも私がもう一体のナイトに魔法を放つって先読みしたんだよ」
「そ、そうか」
命子パパはもう一体のナイトの死にざまを見ていないが、きっと圧倒的だったのだろうなと察した。
「お父さんたちの強さなら、もう戦闘で足手まといなんてことはないよ?」
「それなら良かったよ」
父親に対して上から目線な発言だが、命子パパは自分が娘の後輩であると弁えていた。そして、猛烈な努力をする娘との距離はなかなか縮まらないということも。
命子は、くしゃくしゃと自分の頭を撫でてから紫蓮パパの下へ向かう父親の背中を見つめて、言う。
「やつの覚醒の時は近い」
「我の父も」
「わたくしのお父様もですわ」
「ワタシのママもデス」
戦う親の姿をこの冒険で見てきた娘たちは、劇画調でうむと頷くのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




