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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-21 命子ちゃんは案外鋭い

本日もよろしくお願いします。


「よいしょ! お願いします!」


「お疲れ様なのれす!」


 またひとつ空戦が終わり、命子たちは船内にドロップ品を運び込んでいた。

 船内入り口に持っていけば、誰かしらが倉庫へ運んでくれるのだ。今は戦闘に参加していない萌々子やアリアが、ささらママたちと一緒にお仕事をしてくれている。


「モモちゃん、これを厨房に持っていって」


「これは?」


「馬肉! ついに出たんだ!」


「馬肉って言うかペガサス肉でしょ。でも、へえ、いいね。馬肉か」


「「じゅるり」」


 羊谷姉妹は馬刺しの味を思い出してじゅるりとした。


 と命子は言っているが、島での探索で自衛隊はちょくちょくドロップさせていた。今まで食卓に並ばなかったのは、献立にも予定があるからだ。なお、その献立によれば、今晩に大放出されそうな予感。


 お仕事をしていると、船員さんが命子たちに言った。


「羊谷さん、そろそろ交代してはいかがでしょうか?」


「え!」


 驚愕する命子。

 船内にいても暇だし、もっと戦いたい。


 そんな気持ちが一瞬返答を遅らせるも、しかし、わがままを言うわけにはいかない。

 だって、他の船員さんだってきっと戦いたいだろうから。自分たちがずっと居座ったら、それは独占だ。


 と、命子は思うが、そういうことじゃない。人がいるのだから順番に休憩を入れるのは普通のことである。


「わかりました。それじゃあよろしくお願いします」


「はい、任せてください」


 きっとこの人たちもレベルを上げたいんだろうな、と命子はふふふっと微笑んだ。

 だから、そういうことではない。微笑を浮かべるその顔は美少女だが、命子はバトル脳が過ぎた。


「じゃあみんな、しばらく自由行動で」


「ニャウ。食堂でおやつ食べるデス」


「皆さん、その前に汗を拭かなくちゃダメですわよ」


 ささらの言葉に、命子は『なるほど、これが女子力か』と納得のご様子。

 というわけで、一度お部屋に戻って汗を拭いた。


「もぐもぐ。紫蓮ちゃんとイヨちゃんはこれからどうするの? 私はちょっと操舵室に行ってくる」


 命子はコーラグミをお口にぶち込み、尋ねる。


「操舵室。我も行きたい」


「んー、妾は撮影したいのじゃ」


 2人もそれぞれが持ってきたおやつを食べながら、そう答えた。

 紫蓮はポークジャーキー、イヨはサケトバ。酒飲みのオッサンかとツッコみたくなるチョイスだが、冒険者は運動するので塩気が強い動物性たんぱく質を食べたくなることがよくあった。

 コーラグミ布教委員会の命子はコーラグミを分け、お返しに2人からもおやつを分けてもらった。


「じゃあイヨちゃんもひとまず操舵室に行ってみようよ」


「わかったのじゃ」


「ていうか、サケトバうま!」


「じゃろう? 妾、これを初めて食べた時、腰を抜かすかと思ったのじゃ」


「そこまで?」


 コーラグミで口を甘くして、サケトバでしょっぱくする。人体を使った禁断の遊びである。


 小休止した命子たちは、操舵室に向かった。


 命子と紫蓮の後ろで、イヨがスマホを両手で持ちながら撮影。その視線は素人らしくスマホの中の映像に固定されていて危なっかしい。


 ウラノスの中で操舵室は命子たちがあまり近寄らない場所だった。大人の仕事場という認識が強いのかもしれない。


 そっとドアを開けて、中を覗き込む。

 中の様子を見て、覗き込む命子の頭の上で紫蓮がぴゃわーと呟き、顎の下でイヨがスマホを必死に操作している。


 手前には大きな机があり、その奥には操縦席や管制席がある。

 さらにその先に目を向ければ、針金状の金属が入ったガラス窓から外の様子が見えていた。基本的にウラノスの船体はほぼ魔物素材で出来ているため、このガラス窓も最新のファンタジー技術なのだろう。


 その大きな机の周りに、教授と馬場、それから船長がいた。


「あら命子ちゃん」


「馬場さん、お疲れ様です」


 バレたので、命子はドアを開けてお邪魔した。


「ええ、命子ちゃんたちもお疲れ。休憩に入ったの?」


「はい」


「無理しないでね」


「もちろんです。それで、いまどんな塩梅ですか?」


『こちら雷神。敵影発見』


 命子が問うと、馬場が一旦それを手で制して、丁度入ってきた無線に耳を傾けた。

 どうやら外で戦闘が始まったようで、問題なく対処できる旨が連絡される。


 窓から見える前方の雷神はすぐに戦闘を始め、ウラノスでも戦闘が始まった。

 わぁー、と目を輝かせる命子に、馬場が言う。


「ごめんごめん」


「こんなふうに連絡が入ってたんですね」


「そっ。それで規模が大きかったら船内放送を入れたり、一時的に戦闘員を増やしたり判断するわけ」


「へえ!」


「それで航行の塩梅だっけ?」


「はい」


「うーん、巨大な浮遊石が邪魔してるわね。速度が思ったよりも出せないのよね」


「あー、やっぱりそうなんですか? ちょっと遅いねってみんなで話してました」


「結構な数があるみたいだからね。ほら」


「この船に搭載されているレーダーだ」


 馬場が説明しながら机の端にあるモニターの頭を指でトントンと叩き、教授が補足した。ちなみに操舵席と管制席にも同じ物が設置されている。


「こんな最新なメカも搭載しているんですね」


「最新というわけではないよ。魔導技術に干渉してしまうから、サイズを重視したコンパクトなレーダーになっている。索敵範囲も狭く40km程度しか索敵できない。地上だと必要な情報は外部から得られていたからね」


「なるほど、プイッターですね」


「プイッターからの情報はさすがに使わないかな」


 ウラノスは最新の魔導技術が使われた船だが、科学的な面で言えば、そこまで凄い機器を搭載しているわけではなかった。

 というのも、航空機がほとんど飛ばなくなったため、今まで航空ルートを運営していた各国の管制塔や衛星がウラノスに味方してくれたのだ。その理由には政治的な話ももちろんあるだろう。飛空艇がそこら中で飛ぶような世界になればその限りではないだろうが、少なくとも今は多くの国から情報が入る。

 このため、ウラノスは通信設備さえ充実していればよく、軍艦やジェット機に搭載されているようなごっつい機器は必要としなかったのだ。


「でだ、これがこの空域に散らばっている浮遊石だ」


「外でも結構目視できましたけど、こう見るとかなり多いですね」


 レーダーには、そこら中に無数の光点が輝いていた。


「ああ。我々が選んだルートだけなのか、後半は全体的にこうなのかはわからないがね。問題はこのダンジョンの雲が電波を著しく減衰させることなんだ。ここを見たまえ」


 教授が指さしたモニターの一部を命子たちが見ていると、そこで光っていた点が横から流れてきた雲の影によって隠れてしまった。


「もともと雲は電波を散らしやすいものなのだが、このダンジョンの雲はそういった性質をさらに強めている。つまり、雲に隠れた巨石や魔物はその所在を一切ロストしてしまう。これが船旅を遅らせている原因だ」


「雲が多いルートを避けてるわけですか」


「その通り。ほかに岩があるルートも避けているね」


「じゃあこれからずっとこんな感じですか?」


 命子がそう問うと、教授からバトンタッチして馬場が答えた。


「浮遊石と魔物次第かな。前半の様子から予定では3日後に最後の島に到着する見積もりだったけど、もう少し余計にかかるかもしれないわね」


「ほーん、私は全然オッケーですよ?」


 むしろバッチコイ。それがダンジョン狂い命子である。

 そんな命子を、船長以外の全員が「そうだろうよ」という目で見た。船長だけは、「これが世界の英雄か」と評価を上書きする。付き合いが足りない。


「それで命子ちゃん。何か用事でもあったの? 状況を聞きに来ただけ?」


「あー、そろそろこのダンジョンに誰か乗り込んできたんじゃないかなって思いまして」


「命子君、なぜそう思ったんだい?」


「ほら、一応凄いダンジョンだし、無限鳥居の時とはみんなの力も違いますし。ウラノスや護衛艦って、日本にはまだあるんですよね? なら、このダンジョンに乗り込んでくる人もいるかなって」


「鋭いね。実は丁度その話をしていた」


「礼子」


「まあいいじゃないか。聞かれて不味いことでもない」


 馬場が肩をすくめるので、教授が続ける。


「あくまでも推測だが、君が言う通り、そろそろ日本とシュメリカの連合飛空艇団がこのダンジョンに突入するかもしれない」


「ぴゃ。連合飛空艇団」


「聞くからにカッコイイ!」


 命子と紫蓮は興奮した。

 琴線がわからない子たちである。


「通信とかないんですか?」


「命子君、無線通信は中継基地がなければそこまで長距離でやりとりはできないんだ。シュメリカの軍艦とかだと世界の裏側とすら通信をしている印象があるが、あれは中継基地ありきの話だね。それに先ほど言った雲の件もあるから、なおさら通じにくいだろう」


「そうなんですか。じゃあ合流するんですか?」


「いや、するつもりはない。そもそも本当に来るかもわからないし、合流も難しいだろうからね」


「書置きとか残して……あー、24時間ルールですか」


「その通り。一応これまで辿ってきた全ての浮遊島にメッセージを残してきたが、ダンジョンの24時間ルールで消失している可能性が高い」


 24時間誰も触れなかった物はダンジョンに飲まれてしまう。これは最初期から発見されている現象で、冒険者免許試験でも注意されている。

 ただし、テントの中に置かれている物などはこの限りではなく、人がテント内で寝泊まりしていれば、その中の全ての荷物が24時間ルールのカウントをリセットできる。

 このため、ウラノスの倉庫の奥にある物が消えることもなかった。

 しかし、教授が残してきたというメッセージはアウトだろう。


「なるほど、メッセージを見なければ私たちが辿ったルートがわからず、合流は難しいってことですか」


 命子は馬場たちが囲んでいる机に置かれた地図に目を落として言う。

 前半と後半の地図が合わさり、浮遊島の配置が菱形になっている。命子たちはいま、11島目に向かっている形になる。


「まあ合理的に考えれば、我々がこのルートを通ると推測すると思うけどね」


 教授は、真ん中付近のルートをなぞった。

 ウラノスは、奇数番目の島では地図の正中線にある島、偶数番目の島では正中線から少し外れた左右どちらかの島、というルートを取ってきた。


 この理由は、地図の端に近づくほど地図の外に出てしまう可能性が増えるからだ。

 地図の外に出たら最悪なのは言うまでもなく、一方で真ん中付近のルートを通れば1つ島を見逃してもその後ろに続く島を発見しやすくなる。初見の探索で、端っこのルートを通る理由は薄いのだ。


「この地図って、復活してるんですか? 1つ目の島の宝箱でしたよね?」


「隠し宝箱の地図はともかく、この地図はさすがに復活しているだろう。正直、この地図がなければクリア難易度が何段階も跳ね上がる。あとは功を焦って最初の島の探索を手抜きしていないことを祈るだけだね」


 これもいま説明した端っこルートの怖さと同じ理由だ。

 島の配置図がわからなければ地図の外に飛び出たのに気づかずに、ずっと進んでしまうかもしれないのだ。


「我々は今まで通りに進んで、合流できたらする、程度のスタンスで良いと思う」


「わかりました」


「みなさん、2時の方向に浮遊島の影を捉えました」


 命子たちが話していると、管制官が声をかけてきた。

 命子が窓の外へ目を向けるが、そこには速度を落として魔物と戦う雷神の姿があるだけ。その魔物ももうすぐ片付きそうだ。


「命子君、レーダーのほうだ」


「こっちか!」


 そう教えられて机の上のレーダーを見ると、画面の右上に少しだけ島の影が見えた。


「おー、こんなふうに探索してたんだ」


「休憩はいらんかったかもしれんのじゃ」


 命子たちが休憩に入ってまだ30分くらいしか経っていない。その程度の時間を戦うくらいの元気はあった。


「でも、まだ島の発見に立ち会ったことのない船員さんもいるかもしれないし、今日は譲ってあげよう」


「たしかにそうじゃの。お空の上の島は絶景じゃしの」


 ウラノスは雷神と連絡を取りつつ進路を調整し、発見した浮遊島に向かう。

 船内放送でも新しい島の発見がお知らせされ、自由に行動している仲間たちも窓から見ていることだろう。


 やがて肉眼でも窓の外にその姿を捉えた。


 それは今までと同じように、下部はむき出しの礫岩、上部には湖と森林がある浮遊島だったのだが、ひとつだけ今までにはなかった目を引くものがあった。

 浮遊島の上に、廃城が佇んでいたのだ。


「ラピュータだ!」


 命子が叫ぶと、紫蓮とついでに管制官の若い男性の胸がトクンと高鳴った。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告、助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皆が避けたがる雲の中に隠れている大きな魔物とかもいたりして…。
[一言] ボス「見ろ、人がゴミのようだ!」 まあ即死系の落とし穴トラップは無いでしょうし、このセリフの出番は無いか。
[一言] そういえば、命子ちゃん(とゴリラ自衛官)に布教されて以来、アップなコーラグミをたまに買うんですが、ボトル型ですっぱい粉つきのやつは見当たらないんですよね…… 王とかタフとかゴリラに浮気しがち…
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