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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-20 後半の冒険の始まり


 前回までのあらすじ。

 浮遊島のダンジョンへ例の如く落ちた命子たちは、中間地点である妖精店で2泊3日の休息を摂るのだった。




 今日は妖精店での最終日。

 命子たちは朝に少しだけ狩りをして、今はドロップ収集場で集まっていた。


「ぴゃわぁー!」


 紫蓮が目をキラキラさせて、ビニールシートに置かれたある品物を見ていた。

 その隣では命子が自慢気に胸を反らしている。


 紫蓮が何を見て驚いたのか。

 それは魔物が落とした一本の短剣だった。


 そう、命子は朝の狩りで自分が倒した魔剣から魔導剣をドロップさせたのである! それはドヤ顔も極まるというもの。


 敵で出てくる魔剣は刃渡り80cmほどの曲刀なのだが、ドロップとして落ちた魔導剣は刃渡り30cmほどの短刀だった。


「これねぇ、こうやるんだよ」


 命子は腰に魔導剣を鞘ごと差すと、西部劇のガンマンのように腰を落とした。

 そして、シュバッと早抜きしつつ下投げで投擲!


『ボール投げはクソ』という一家言を持つゴミコントロールの持ち主である命子の投擲は、その一家言が示す通りに斜め上に飛んでいった。


 かつてだったら、そのままボールの受け手の脚力を育むような酷い結果になっていただろう。だが、レベルアップし、かつ魔法のアイテムを投げた今の命子の投擲は違う。

「むんっ」と気合を入れると魔導剣は上空から不自然すぎる下降を見せて、地面に突き刺さった。


「ぴゃわーっ! 『馬鹿め、どこに投げているのだ』の遊び!」


 命子はうむとドヤった。

 その近くで、戻ってきた魔導剣がふわふわと浮かぶ。


「基本は魔導書と同じように近くで使う感じだね。でも魔力パスの延長ができると投擲して遠距離攻撃にも使える感じ」


「魔力消費は?」


「普通に使う分には全然。遠距離は速度に体の力を使えるから、魔導書を遠くまで飛ばすよりもずっと少ないよ。ただ、遠くで操作するには相応に消費するね」


 ふむふむと紫蓮は命子から魔導剣を受け取りながら、その内部に潜んだ魔導回路を観察した。


「それで誰が使う? 我は魔導盾があるから今はいい」


 紫蓮の質問に、命子たちは顔を見合わせた。


 前日の探索では、運良く魔導盾が2つ出た。

 魔導盾は紫蓮とイヨが装備することになったので、さて、魔導剣は誰が装備するか。


 魔道盾は遠慮した命子だったが、魔導剣は使いたい。小さいので持ち運びが楽だし、装備の入れ替えも簡単だ。なによりカッコイイ。


「シャーラ使いたいデス?」


「いえ、わたくしは今度もし魔導盾が出たらいただけたらと思いますわ」


「じゃあメーコ使っていいデスよ」


「ニャウ。メーコでいいでゴザル」


「おいおいおい、今日は命子ちゃん接待デーか!?」


 命子が喜ぶ様子を、ささらはニコニコして眺める。


「ルルたちはいいの?」


「ワタシたちは分身するデスから、コントロールが難しくなりすぎるデス」


「ニャウ。それよりも『シュルケン』シュッシュでゴザル」


「じゃあ貰う! ありがとう!」


 というわけで、命子は魔導剣をゲットした。




 妖精店での2泊は早いもので、あっという間に旅立ちとなった。


 ウラノスと雷神では船員たちが忙しそうな様子。そんな中に混じって命子たちもわちゃわちゃと自分の荷物を運びこんでいく。


「命子は何を買ったんだい?」


 命子パパからそう問われたので、命子はみんなにお土産を買ったことを教えてあげた。


「作業着のレシピとねぇ、ゴーグルのレシピとぉ、あと空飛びクジラの笛のレシピ」


 命子はそんなラインナップだが、他のメンバーも話し合って、風女や青空修行道場へ色々なお土産を買っている。


「学校の子たちへ?」


「うん」


「そういえば、工作部の子たちがラビットフライヤーを飛ばすんだったね」


「そ。きっと成功しているから、そのお祝い」


「高校生なのに凄いなぁ」


 命子パパは、というかMRSは風女がラビットフライヤーを飛ばす情報を手に入れていた。親たちは海外出張なので、社員さんが取材に行ってくれている手筈である。


 すっかり準備が完了すると、残るはいつものお別れであった。

 いつものお別れとは違って、お店ではなくドックの中でのことだ。


「それじゃあペンギンさん、お世話になりました」


「ペンギンさんまた会おうデス」


「とても素敵なお宿でしたわ、ありがとうございました」


「ペン。頑張っていくペンよ」


「ペンギンさん、とっても素敵な時間でした。お世話になりました」


 子供たちの挨拶に続いて、母親たちもお礼を言う。

 相手はファンタジー生物だが、母親たちの挨拶する様子は家族旅行でお世話になった旅館の女将に対するそれと変わらない。


 いつもなら宿から少し歩いて振り返り、手を振るような旅立ちだが、今回は船上からお見送りに応えることになる。


 ドックの中でポツンと見送ってくれるペンギン妖精。

 ドックの上部が開いて光が差し込む様は絶好の旅立ち日和だが、それだけに残されるペンギン妖精の姿が印象的に映った。


「ペンギンさん、一人ぼっちなのれす……」


 一緒にお見送りを受けるアリアが、その様子を見てしょんぼりした。


「大丈夫だよ。これからとっても忙しくなるから」


「本当れす?」


「うん、人が踏み込んだダンジョンはどこも大繁盛だもの」


 時代の最先端を行く命子は、アリアが感じたような光景を何回か見た。でも、これまでに出会った彼らの今は大忙しだ。


「ペンギンさん、きっとすぐに大忙しになるよ! 頑張ってね!」


「頑張ってなのれすーっ!」


 命子とアリアが甲板から手を振ると、ペンギン妖精は「ペン!」と手を振り返してくれた。


 果たして彼らに寂しさという感情があるのか、そもそもダンジョンにはサーバーがあるわけで本当に一人なのかはわからないけれど、命子は世界中の仲間たちが宿を盛り上げてくれると信じていた。


 ドックから垂直に浮上するウラノス。

 それと同時に周りの壁が下がっていく光景は、何とも言えないワクワク感があった。


 命子はドックの下でお見送りしてくれるペンギン妖精に、最後に一度大きく手を振ってお別れをした。

 きっと空が好きな世界中の人たちがやってくるダンジョンになるよ、と思いながら。


 こうして、ドックを出たウラノスと雷神は、新たな浮遊島へ向けて進路を取るのだった。




「今頃、ソラ先輩たちも空の上かな?」


「もう終わっちゃったんじゃないデス?」


「時差があるうえにダンジョンの中だと時間感覚がぶっ壊れるでゴザルね」


 命子たちは甲板で魔物に備えながら、地元に残した仲間たちを想った。


「きっと成功してますわ! ねっ、紫蓮さん?」


「うむ。我の目から見ても全部の魔導回路がちゃんと機能してた」


 ふんすとするささらから話を振られて、紫蓮も太鼓判を捺す。


「みんな若いのに凄いのじゃなー。みんなが熟練の巫女衆みたいなのじゃ」


「みんなが魔法を使える時代だからね」


「それでも努力せねば力にはならんのじゃろう? フォーチューブとか楽しいことがたくさんある今の世で、それはとても凄いことなのじゃ」


「まあ、努力が実りやすい世界になったからね。自分が凄くなっていくのは、最高の娯楽だったんじゃないかな?」


「なるほどのう、そういうものかもしれんな」


 そんなふうに子供たちが青空を眺めながら遠き地の友を想っている一方で、近くでは父親たちがキャッキャしていた。


「さあ、かかってくるがよい……」


「ちょ、それ無敵じゃない!?」


「有鴨君かっけぇ!」


「有鴨君、強者が重力魔法を使うムーブで手をクイッてして! いいね!」


 紫蓮パパが魔導書、魔導盾、魔導剣の三種の神器を装備して、無駄に覚醒オーラを放出させてポージング!

 その周りで、ほかのパパたちが大はしゃぎ。なおルルパパは甲板に寝転がり、ローアングルから激写しまくっている。


「私、昔から男の子ってバカだなって思う瞬間があるんだ」


 そう呟いたのは羊谷萌々子さん13歳、タイプ:ロリ。


「それは事実デス。ネコのほうが賢い時はままあるデス」


 近くでお守りしてくれているルルママ37歳も同意の様子。


 女子の世論が『男の子はバカな時がある』で傾いたので、紫蓮パパかっけぇと思った命子は言葉を飲みこみ、紫蓮は顔を赤くした。


 ちなみに、パパ勢も森で狩りをしたのだが、魔導盾と魔導剣をひとつずつゲットしていた。魔導盾は命子パパが、魔導剣はルルパパが使うようだ。紫蓮パパが現在使っているのは、そういう遊びである。


「お父様があんなに子供みたいに楽しんでいる姿、初めて見ますわ」


 ささらも己のパパがはしゃぐ姿に驚いている。

 家では父でも友達と遊べばアホになるのはよくある話。しかし、大人に幻想を抱いているささらには珍しく思える光景だった。


 と、その時、命子がハッとした。


「むっ、みんな見て!」


 命子が前方を指差すと同時に、ウラノスの速度が落ちていく。


「あれは……魔物?」


「ただの大岩の可能性もあるデス。障害物みたいな感じデスね」


「なるほど、その線もある」


 紫蓮やルルが分析するように、前方に複数個の大岩が浮かんでいた。

 比較物がないので距離感が掴めず、実際の大きさはいまいちわからない。


 しばらくすると馬場と教授が甲板に上がってきて、馬場は各員に指示を出し、教授は命子たちの下へ来た。


「いやはや後半に入って早々に変なものが現れたね」


 そのセリフとは裏腹に、教授がウキウキした様子で言う。


「ですね。これからなにかするんですか?」


「ああ、調査をね。魔物かもしれないから、君らも気をつけてほしい」


 雷神が先行し、少し高度を下げながらウラノスが追随する。

 両船共に小型飛空艇が発進準備する様子を命子が観察しているので、教授が調査方法を説明してくれた。


「大型船で近づくのは危険だから小型飛空艇で調査をするのさ。メインは雷神、ウラノスはもしも調査で小型飛空艇が墜とされた時のリカバリーだ」


「え。もしかして空中でキャッチするんですか?」


「新時代ならではの荒っぽいやり方だが、彼らならできてしまうからね。まあ私じゃ無理だが」


「あー、風見ダンジョンにいた戦闘犬がふわふわと滑空しますよね。あんな感じですか」


「そうそう」


 新時代の飛空艇乗りはマナ進化やスキルによって、空から落ちた時の生存能力が格段に上がっていた。さすがに空を自由に飛べる者はまだ出ていないが。

 ちなみに、命子が言っている滑空する犬は世界で初めてマナ進化した犬である。命子が夜な夜な夢テロしていたので、ムササビのように滑空する犬になってしまった。


 そうこうしていると、雷神から小型飛空艇が飛び立ち、さっそく調査が始まった。ウラノスは高度を下げているので、命子たちは見上げる形だ。


「案外でかいね」


「あんなのに当たったら船に穴が開いてしまいそうですわ」


「世界初の空中タイタニックは勘弁してほしいね」


 命子たちには、魔物でも障害物でも厄介そうな代物に見えた。


「むっ、ペガサスが来たデス!」


「マンティコアもセットかな?」


 調査の邪魔をするように、魔物が現れた。

 雷神をメインに狙い、少しばかりウラノスにも流れてくる。


 今回は小型飛空艇が出撃しているわけだが、浮遊島以外で小型飛空艇が空で戦うのは今回が初めてだった。

 しかし、かなり訓練されているようで、本船からの支援を受けつつ、自身は魔法攻撃で敵の数を減らしていく。


「龍命撃! 無駄! ふん!」


「なのじゃ! わっ、んー、こうじゃ!」


 マンティコアと戦う紫蓮や、ペガサスと戦うイヨはさっそく新しく装備した魔導盾を使って攻撃を防ぐ。

 すでに前日に手に入れ、今朝の狩りでも使っているので、少しぎこちなさは見られるものの十分に使えていた。特にイヨは弓を使うので、魔導盾との相性が非常に良い様子だ。


 一方の命子は。


「やあ! シュバッと! 水弾! せや!」


 紫蓮と一緒に戦うマンティコアを魔導剣で翻弄しつつ、サーベルと魔導書でどんどんダメージを与えていく。

 世間では魔導書の達人と言われる命子だけあって、飛ぶ武器の扱いは非常に上手い。

 魔導書アタックと名付けられた本を鈍器のように扱うテクニックが、いま刃を持った武器に変わり猛威を振るっていた。


「魔導剣の使い方うま」


「でしょ、そうだと思った!」


 すっかり戦闘が終わり、紫蓮が褒めてくれた。

 命子は即座に良い気持ちになった。


「あっちも終わりそうだね」


 命子は上の方で戦っている雷神を見て、言う。

 それから間もなく上でも戦闘が終わり、調査が再開された様子だ。


 しばらくして、無線で連絡を受けた教授が言った。


「やっぱりか」


「あれがなんだかわかったんですか? 魔物じゃあなさそうですけど」


「あれは浮遊石だ」


「マジで!? すんごい大きいですよ? 浮遊石ってたしかこんなんですよね」


 命子は『こんなん』と手でサイズ感を出した。


「そうだね。あー、訂正させてほしい。正確には浮遊石に似た性質の石だ。まったく同じかはちゃんと調べないとわからないな」


「ふむふむ。上位互換か下位互換の可能性もあるんですね」


「メーコ、学校のみんなにお土産に持って帰るでゴザル!」


「よし、蒼穹10号くらいまで作って風女空挺部を立ち上げてもらおうぜ!」


「君らの学校はどこに向かってるんだい?」


 命子とメリスの話に、教授は苦笑いした。


「とりあえず、ここでの採掘は許可できないな。この後の浮遊島でも見つかるかもしれないから、状況を見てからにしよう。なかったらなかったで今回は諦めよう」


「わかりました!」「ニャウ!」


 命子たちのお返事を聞いて、教授は頷いた。


「しかし、浮遊石の採掘地が増えるのはいいことだ。オーストレイリアでは凄まじい好景気になった反面、無茶な探索計画が急増した。それでもなお品薄ときたものだからね。多少景気は落ち着いてしまうかもしれないが、産出場所は多い方がいいだろう」


「うん。日経ファンタジーで読んだ」


「はい、何回か特集してますわよね。冒険は計画的にやらなくてはなりませんわ」


 教授の説明を聞いて、紫蓮とささらが頷く。2人は日経ファンタジーを読む系女子だった。

 命子は自分の知らない日系のファンタジーがあるのかと、世界の広さを知った。


 こうして、新しいギミックが増えつつ、命子たちの後半の冒険が始まった。



本日もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 国名はリアルのものと多少変えていたかと思いますが(日本以外)、オーストレイリアがオリジナルなのはなぜなのか、ちょっと気になりました。
[良い点] >君らの学校はどこに向かってるんだい? 風の向くまま気の向くまま、行ける所まで全力で [一言] 空中タイタニック…飛空艇が一般的になったら、そのうち誰かが船首で例のポーズをキメて周囲から縁…
[気になる点] 命子派です。かっこいいと思ってしまいました。仕方ないじゃん!!かっこいいでしょ!?
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