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地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第12章

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12-18 家族と団欒

本日もよろしくお願いします。


 廃墟から出てきた命子たちは、宿の脇にある小道から自衛官たちがやってくるのを発見した。


「裏の森に行った調査隊が帰ってきたようだね」


 教授が言う。


「早いですね」


「いや、一回目の探索なのさ。暗くなってからも夜間の調査を軽く行う予定だ」


「なるほど、ご飯を食べに来た感じですね」


「まあそうだね」


 お疲れ様です、と挨拶するつもりで宿の前に並んだ命子たちだったが、その中の1人を見て、挨拶どころじゃなくなった。


「魔導盾だ!」


「ぴゃわーっ!」


 そう、彼らは浮遊する盾を手に入れていたのだ。

 命子たちはこの盾を勝手に『魔導盾』と名付けた。浮かぶ本が魔導書だからである。


「「「わぁーっ!」」」


 命子たちはまるで芸能人に群がる女子高生のように、魔導盾を装備する自衛官に駆け寄った。


「それどうしたんですか!?」


「ドロップしたデス!?」


 ワキャワキャ! ワキャワキャ!

 女子高生の圧に押されて戸惑いつつ、自衛官は答える。

 とりあえず、お触りしたら死ぬ!


「こ、これかい? これは例の飛ぶ盾の魔物からドロップしたんだ」


「やっぱりドロップするんだ! すっげぇ!」


 手をブンブン振る命子に、紫蓮が耳打ちする。「動かしてほしい」と。人見知りが発動していた。


「動かしてください!」


 紫蓮の代わりに命子がお願いすると、自衛官は快く動かしてくれた。


 しかし、その動きはかなりぎこちない。

 盾なので表面を外側に向けなければならないわけだが、横向きや斜めになってしまっている。


「基本的に魔導書と同じなんだけど、面を維持しながら移動させるのが難しい。自分の正面で動かすのは簡単なんだけどね」


「正面だと簡単ということは、そこら辺も魔導書と同じですね」


「うん。ただ、これを装備すると魔導書装備可能数が1枠減るね。あとは盾職が装備すると他のジョブよりも明らかに性能が上がるね。現在わかっているのはそのくらいかな」


「ふむふむ。装備可能枠は魔力パスのせいで、盾職が優位なのはジョブスキルのせいかな?」


 命子は現在、魔導書を3冊まで浮かせられるがそれが1枠無くなるのは結構痛い。


「使ってみるかい? サンプルだからあげることはできないけどね」


「使ってみたい!」


 というわけで、命子は魔導盾を使わせてもらった。


「正面からの攻撃! ハッ、上から攻撃が来る!」


 命子はそんなことを言いながら、魔導盾をすいすい動かしてみせた。

 その操作力はさすがで、常に表面を外側に向けて移動させている。

 この場にいる自衛官は全員男だったので、魔導盾の操作力よりもちょこまかしながら一人芝居する命子に、クッソ可愛いな、とニヤケそうになった。


「我も我も」


 飛ぶ武具に対して興味津々な紫蓮も使わせてもらう。

 紫蓮もある程度魔導書慣れしているので、上手だ。


「でもまあ、魔導盾が手に入ったとしても私はパスかな。魔導書の枠が無くなるのは痛すぎる」


 紫蓮に続いて他のメンバーが使う様子を見ながら、命子はそう感想を言った。

 命子の場合、防御力を上げたいのなら自分で盾を持った方が良いと考えたようだ。


 魔導盾を楽しんで、命子たちは自衛官たちと別れた。


「やっぱり魔導盾が落ちるんだね」


「うむ。そうとなれば明日は裏の森でガチャを回す」


「飛空艇の上だとドロップの所在が曖昧になって貰いにくいからね」


「教授、あとで魔物の構成を教えてくださいね」


「それはもちろん。おっと、それじゃあ私は龍神苔の件があるからここで」


「はい。お風呂は18時からですからね」


「はははっ、わかったよ」


 教授はさっそく龍神苔の採取の準備をするようだ。

 採取の道具は飛空艇にあるようで、ドックに向かう。


 一方、命子たちはこれから個別に行動だ。


 紫蓮は工房へ。紫蓮パパがすでに行っているらしい。

 イヨはルルとメリスを連れて魔法射撃場へ。ルルとメリスは手裏剣を使いたいらしい。

 そして、命子とささら、萌々子とアリアは釣り堀に行ってみることにした。


 釣り堀は宿の隣にあり、結構広い。

 そこでは命子パパとささらパパが釣りをしていた。


「こんにちはー、調子はどうですかー?」


「入れ食いですよ」


 命子の白々しい挨拶に、命子パパが顎でバケツを示して言った。

 そこには謎の魚がうじゃうじゃ泳いでいた。


「凄いじゃん」


「たぶん釣りをするやつがいないから、魚がすれてないんだよ」


 羊谷父娘の隣で、ささらもパパのバケツを見て驚いた。


「まあお父様もいっぱいですわ!」


「はははっ、ずいぶん久しぶりだから心配だったけど」


「お父様も釣りができるんですのね」


「まあ僕も勉強ばかりしていたわけじゃないよ」


 そんなことを話しているうちに、ささらパパが一匹釣りあげた。


「わぁ! お父様凄いですわ!」


「まあね!」


 パチパチパチと愛娘から拍手されて、ささらパパは大変良い気持ちになった。


 これを見た命子パパは、よし自分も、と竿に集中するが、今まで簡単に釣れていたのにピクリともしない。ぐぬぬ!


 ボヤボヤしているうちに、萌々子とアリアがどこかから釣竿を持ってやってきた。強力なライバルの登場である。

 案の定、妹ラブな命子の意識は萌々子たちに向いた。


 萌々子とアリアが釣り堀に糸を垂らすと、すぐに当たりがきた。


「フィッシュオンなのれす!」


「こっちも!」


「俺もきた!」


 同時に命子パパも当たりがくるが、妹ラブな命子の耳には届かない。

 自分のほうがおっきな謎の魚を釣り上げたのに、拍手が送られたのは萌々子とアリアの方だった。ぐぬぬぅ!


 しかし、この男は魚釣りが得意である。

 素人が苦手そうなことも熟知しているので、作戦を変えてすかさず萌々子たちにすり寄った。


「萌々子、いいサイズじゃないか。針から外せるかい?」


「うん。自衛隊の人に教えてもらったから大丈夫だよ」


 そう言いながら、萌々子とアリアは手際よく針から魚を外してバケツに入れた。ぐぬぬ!


「わっわっ、お父様、おっきいですわ!」


「おっ、そうしたら竿をこうやって操るんだ」


「こうですの!?」


 一方、ささらパパは竿をささらに預けて遊ばせてあげている。さっそく掛かったようで、とっても楽しげだ。


「命子もやってみるかい?」


 それを見た命子パパは期待に目を輝かせて命子に聞いた。

 命子は、あー教えたいんだろうな、と付き合ってあげることにした。接待である。


 命子は竿を両手で握り、意識を武器に集中した。


「命子、光ってる光ってる」


 集中するあまり、命子の目と角がうっすらと光った。


 命子はぶんぶんと顔を振るってほどほどに集中するも、すぐにキュピンと目を光らせた。


「フィッシュオン!」


 そう叫んで勢いよく竿を引くが、水面から飛び出したのは糸と針だけ。


「み、見えない魚!? お父さん、新種だよ!」


「現実を認めて! 命子、竿を引くのが早すぎるんだよ。命子は修行して反射神経が良くなったけど、竿に振動があってもすぐに竿を立てちゃダメなんだ。その時はまだ魚が餌をツンツンしているだけかもしれないからね」


「ふむふむ。魚を釣ること雲の如しか」


「林か山で良くない?」


 命子はパパに餌をつけてもらって、もう一度トライ。


 肩の力を抜き、目を細めて明鏡止水った。

 明鏡止水る命子は、見えない水中で餌をツンツンと突く魚の姿を鮮明に感じとる。


 だが、命子の餌は人気がなかった。


「なんでさ!?」


「命子さん、殺気が竿に乗ってますわよ」


「あっはーん。そゆこと?」


 ささらのアドバイスを聞いて、命子パパとささらパパが困惑した。


「人影で魚が警戒することはあるけど、殺気って」


「いやしかし、彼女たちくらいになると武器を選ばず殺気を乗せられるかもしれないよ」


「たしかに」


 父親たちが話している横で、ささらのアドバイスの通りに殺気を霧散すると、すぐに命子の竿に当たりが来た。


「フィッシュオン!」


 長靴! などというオチはなく、みんなも釣っている謎の魚が水面から飛び出した。


 が、そこで素人あるあるが発動した。命子は釣った後にどうすればいいかわからなかったのだ。

 釣り糸に吊るされた魚があっちこっちへ行く気配を察知した命子パパが、すぐに命子の背後から釣竿を支えて釣り糸をキャッチ。


「おー、これは大きいな!」


「ビチビチしとるわい!」


 キャッキャキャッキャ!

 魚と一緒に、父娘のハートフル体験もゲット!


 その後も少し釣りを楽しみ、命子たちはお暇することにした。


「楽しかったですわ!」


「今日は自分の釣った魚の塩焼きだね」


「まあ、素敵ですわ!」


 宿に到着してまだ少ししか経っていないのに、命子たちはとても楽しんでいた。




 18時になり、再び集合した命子たちはこれからお風呂に向かう。

 その前に、命子は神妙な顔をささらたちに向けた。


「ささら、ルル、メリス。重大な話があるんだ」


「なんですの?」


 3人は顔を見合わせた。


「実はね、お風呂での洗いっこで体の前側も洗うのは一般的じゃないんだ……っ!」


「「「え、えーっ!」」」


 ピシャゴーンと命子が打ち明けると、ささらたちもピシャゴーンと衝撃を受けた。


「ワタクシ、初めてやった時は凄く恥ずかしかったんですのよ!?」


「道理で学校のみんなはやってないわけデス!」


「拙者、ナナコにやっちゃったでゴザルよ!」


「イヨちゃんバリア!」


「なのじゃ!」


 3人に詰め寄られた命子は、イヨちゃんバリアを使った。


「大丈夫、大丈夫だから! 女子高生はなにやっても可愛いから!」


 命子は強引な論法でその場を収めにかかった。


「だ、だからね、お母さんの前でやっちゃダメだよ。ビックリしちゃうから」


 そう、今回は母親も一緒に入るのだ。なので、命子はあらかじめ注意しておいた。少女漫画でヒロインたちがさまざまなポカをやらかす姿を見てきた命子は、危機回避能力が育まれているのだ。


「でも、ワタシ、ママに教えちゃったデス」


「えーっ!」


 ルルの衝撃的な発言に、今度は命子が仰け反った。


「い、いや、待てよ、ルルママはセーフか」


「アウトだが」


 ツッコミを入れてきた紫蓮にンーッと鉄拳制裁をして、命子は思案した。


「ならば、よし、女子高生のトレンドということにしておこう。友チューをするやつらだし、いけるでしょ!」


「じゃあ今日は背中だけにしますわ」


「いいと思います」


 それでも洗いっこするんだ、と思いつつ、命子はささらの提案に頷いた。


 というわけで温泉へ。


「あっ、もうママたち来てるデス」


 18時くらいに待ち合わせだったので、脱衣所にはすでに母親たちの服が籠に入っていた。


 命子は脱衣所の空気が好きじゃないので、シュババと服を脱ぐと足早に浴場の扉を開けた。


 すぐ目の前には観葉植物があり、左右どちらかへ回り込む造りになっているようだ。

 風呂場の景色がすぐに目に飛び込んでこないのは日本ではあまり見ないスタイルなので珍しく思いつつ、右側へと回り込む。


 観葉植物の生け垣を越えて全景を見た命子は、ドキンとした。


 浴場はアラビアンナイトにでも出てきそうな石造りの上品な佇まいで、そこかしこに飾りの観葉植物が植わっていた。


 そんな場所で、ささらママがルルママに洗われているのである!

 さらに、その隣では己の母が紫蓮ママに洗われているのである!


 その瞬間、先ほどのルルの言葉がフラッシュバックした。


『でも、ワタシ、ママに教えちゃったデス』


 原因は明白!

 しかし、両者ともに背後から髪の毛や背中を洗ってもらっているだけなので、ただの仲良し!


 アンパイア命子はその場で片膝をついてセーフのポーズを取ってから、母親たちに近づいた。


「来たよー!」


 命子が元気にご挨拶すると、ささらママがビクンと肩を揺らした。命子はそれを見ないふりした。


「あっ、メーコ。お疲れデース!」


「ルルママもお疲れ」


 ルルママも元気に命子を迎える。

 そんなルルママの裸体を見て、命子は内心でぐぬぬとした。


 自分の母親の隣で洗うのもなんだか気恥ずかしいので、命子は適当な洗い場に座った。

 するとすぐに仲間たちがガヤガヤとやってくる。


「あーっ、洗いっこしてるデス!」


「拙者もシャーラママ洗うでゴザル!」


 やってきた猫たちが「わーっ」とささらママの下へ殺到した。


「お、お母様はワタクシが洗いますわ。お二人はルネットさんを洗って差し上げてください」


「じゃあ我も母を洗う」


 そんなやり取りが聞こえてきて、そこで命子はハタとする。

 娘に洗ってもらったら母親は嬉しいものなのでは、と。気恥ずかしいとか言うてる場合ではないのでは、と。


 ルルたちのせいで洗いっこに変なイメージを抱いていたけれど、考えてみればこれも親孝行。自分もやってあげようと。なお、実際に大本が誰のせいかは先ほど本人が自供している。


「紫蓮ママ、あとは私がやるよ」


 母の髪を洗ってくれていた紫蓮ママにそう言って、命子は母の後ろに立った。


「命子ちゃんが洗ってくれるの?」


「うん。たまにはね」


「ふふふっ、ありがとう」


 母の嬉しそうなその声を聞いて、命子も嬉しく思った。

 隣では紫蓮ママが椅子に座り、同じように娘に背中を流してもらっている。


 最近はダンジョン中心の生活だったけど、たまにはこういうのもいいかもなと命子は母親の髪を洗いながら思うのだった。


「すまんのう!」


「ううん、いいんですよ」


「イヨお姉様は髪が長いから一人でやると大変なのれす」


 イヨは萌々子やアリアに髪を洗ってもらっている。


 そんないつもとはちょっと違った洗いっこを終えて、命子たちは湯船に浸かった。


「はわー、いい気持ち」


「素敵なお風呂よねー」


 紫蓮ママと命子ママがうっとりしながら感想を言う。

 そのそばでは紫蓮や萌々子たちがほえーっとした顔でお湯に浸かっている。


「お母様、お父様がこんな大きな魚を釣ってたんですのよ」


「まあ。あの人は釣りをするんですね。知らなかったわ」


「お母様も知らなかったんですの?」


「ええ。私と出会った頃にはまったく」


 そんなことを話す笹笠母娘を見て、命子は友人が家でどんなことを親と話しているのか知って珍しく思った。


「待たせたね」


 そう言って湯船に入ってきたのは教授だった。

 少し前に浴場に来たのだ。


「龍神苔はどうでした?」


「ああ、採取は問題なく終えたよ。問題が起こるとすればこれからだろう」


「ツバで枯れちゃうってやつですね。イヨちゃん、どのくらいで枯れるの?」


「ツバがついていれば明日の朝には萎れておるのじゃ。完全に枯れるとなると明日の夜くらいかのう?」


「なるほど、そんな感じか。問題はあの地下室の前で私がちょっと喋っちゃったことですね。影響がなければいいですけど」


「生えている場所があそこだけということはないと思うよ。妖精店も10島分あるという話だしね。だからまあ心配することはないさ」


「何か発見したデス?」


 命子たちが話していると、ルルママが尋ねてきた。


「龍神苔っていう凄く珍しい苔を発見したんです。イヨちゃんが」


「にゃんと。古代ニッポンさんの植物デス?」


 ルルママの質問に教授が答える。


「調べてみなければ確かなことは言えませんが、話を聞く限りかなり繊細な植物のようなので、私はすでに絶滅したか、地下洞窟などでひっそりと残っているような植物なのではないかと考えています」


「おー。イヨ、お手柄デスね」


「たまたま知ってただけなのじゃ」


 ルルママに褒められて、イヨは少しはにかんだ。


「でも、大体の病気が治せるって凄いですよね」


 命子が言うと、ささらママたちがびっくりした。


「それも調べてみなければわからないが。イヨ君には悪いが、古代でどれほどの病が認識されていたかもわからないし、万能薬のような効果は期待しない方がいいと私は思う。むしろ現代ではすでに克服された病の薬の可能性もある」


「うむ、教授殿の言うことは正しいのじゃ。実際に龍神苔から作った薬を飲ませても治らん者はおったのじゃ。妾たちはそれならばもう天命と考え、薬がどのような病に効かないのかは詳しく調べなかったのじゃ」


 イヨの話に耳を傾ける一行は、古代の生活を思い浮かべて納得した。


「はー、でも、やっぱりダンジョンは凄いのねぇ」


「ねえ、どんどん世界が変わっていくねぇ?」


 そんな感想を言ったのは紫蓮ママと命子ママだ。

 その中心にいるのが自分たちの娘というのに気づいているのかいないのか、のほほんとした二人からはわからない。


 教授からの報告を聞きつつ、命子たちはダンジョンで家族との団らんを楽しむのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に知るところとなったお風呂の洗っ子! まあ構わずで良いのですがw
[一言] 龍神苔から出来る薬が風邪薬だったらすごいですね 対症療法薬じゃなくてガチで治すヤツ
[一言] ついに明かされた(当人たちだけが知らなかった)驚愕の真実! なんか親御さんが居ない所だと普通に洗いっこしそうな予感。
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