表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球さんはレベルアップしました!  作者: 生咲日月
第11章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

315/433

11-12 封印の武具

本日もよろしくお願いします。


「それじゃあの、トヨ。今度は花を持ってくるのじゃ」


 イヨはトヨの墓へそう言葉を残した。

 目的はお墓参りだったので、一行は物を取らずにひとまず外へ出ることにした。


「すまんの、待たせたのじゃ」


 外で待機していたSPや学者先生にイヨが謝る。


「そっ、ゴホン。それでいかがでしたか」


 学者先生の1人が興奮して上ずった声を訂正しつつ、尋ねた。

 イヨは若干の苦笑いをして、答える。


「良い墓参りになったのじゃ。教授殿が委細承知しているから、墓参りを希望する者は入るが良いのじゃ」


「良いのですか?」


「うむ。しかし、墓は踏まず、中の物を持ち出してはならんのじゃ」


 というわけで学者たちが、教授と共にトヨの墓所へと入っていった。


「良かったの?」


 命子が問うと、イヨは頷く。


「今の世の人にとってヤマトのことは浪漫というやつなのじゃろう? フォーチューブで見たのじゃ」


「まあそうだね」


 命子はそう言いつつ、出番だ、とばかりに紫蓮へ視線をやった。


「日本中のいろいろな地方がヤマトだって予想されてた。あの人たちは人生を捧げるくらいヤマトを追っていたと思うし、イヨさんとトヨさんには申し訳ないけど、お墓参りできて泣くほど嬉しいと思う」


「ふふっ、そんなにか。まあそういうわけじゃしの、そんな者らなら入る資格は十分にあるのじゃ。きっとトヨも喜んでおるよ」


 と、そんなことを話していると、中から歓声が上がった。

 教授が精霊石の板でメッセージを再生したのだ。


「だからまあ、あれくらいは大目に見てやるのじゃ」


「イヨちゃんがそう言うのなら」


 イヨの顔には、双子の姉妹と別れてしまったことへの悲しみの色はなかった。

 命子たちは、その前向きな姿勢を尊敬するのだった。




 馬場の撮影した動画は、同行した学者先生たちのアドバイスで公開された。

 これによってトヨの墓所の発見は世間の知るところとなり、日本中を驚愕させた。


 ただの墳墓ならばこんなことしなかったのだが、イヨのために遺されたアイテムの正当な所有権を世の中に報せるためにも必要だと、学者たちは主張したのだ。

 これは一理ある話で、何も知らされなければ、世の中の人から墓を荒らしたと勘違いされてしまう。


「妾たちは民を導く立場だったからのう。死後にも務めがあるのは、あるいは喜ばしいことなのかもしれんのじゃ」


「無理はしないでね。嫌なら嫌って言っても大丈夫だから」


「この世を生きるのは手探りではあるが、無理はしてないのじゃ。それよりもトヨやヤマトの者らがどんなふうに暮らしていたか知ってもらった方が嬉しいのじゃ」


 と、イヨは墓所の公開について、あまり気にしていない様子だった。

 それどころか、命子にこう相談した。


「もし可能なら、妾はクウミが残した道具の作り方を広く世の人に教えてあげたいのじゃ。命子さまたちもやったじゃろ? フォーチューブでいっぱい見たのじゃ」


「ふんふん、良いかと思います」


 官僚の胃は死ぬが。


「もちろん、日本の利益もあろうからの。そこらへんの折り合いがつかぬのなら無理は言わんのじゃ」


「オッケー。馬場さんに聞いてみるね」


 馬場も巻き込まれる様子。




 こうして、イヨに贈られたアイテムたちは現場の様子が正確に記録された後に運び出された。

 そして、数日後、いよいよ封印が解かれることになった。

 その解放には、イヨの希望通りに多くの国から視察団がやってきた。


 場所は相変わらずの富士駐屯地。


「伝説の武器、封印解除の儀!」


「リアルでそんな言葉を聞く時が来るとは」


 腕組みした命子と紫蓮が、うむうむとした。

 お日柄は大変に良く、絶好の伝説の武器日和だ。


「シレンママ。見るデス、ポップコーンが無料でもらえるデス!」


「塩バターだって書いてあるでゴザル!」


「はわー本当ねぇ。さりさちゃん、塩バターだって。ねえねえ、塩バターだって」


「「シャーラママ、塩バターだって!」」


 キリリとしたささらママが女子たちに絡まれる姿があるように、本日は命子たちの家族やアリアたちキスミアの人たちもいる。これぞエンジョイ勢の呼吸。


「申し訳ありませんが、ポップコーンを10個ほどいただけますか?」


 子供たちを行かせるわけにもいかないので、ささらママは付き添いの自衛官にお願いした。

 本日は一般客がいないので視察団向けの屋台なわけだが、意外にも割と好評な様子。なお、屋台をやっているのは自衛官である。


「アリア、ポップコーンは初めて食べるのれす。美味しいのれすね」


「えーっ、マジか」


 アリアが貰ったポップコーンをもきゅもきゅして言うので、命子ももきゅもきゅしながらほんのり驚いた。


「単純にキスミアでは栽培してないから、トウモロコシ自体も粒々以外に見たことないのれす。強そうな猫じゃらしなのれすよね?」


「あれは強そうなんてレベルじゃないよ。その姿は柔を忘れて剛に狂った猫じゃらし。完全にバケモンだよ」


「トウモロコシを見た人はみんなそう言うのれす。アリアもキスミアに帰る前に見てみたいのれす」


「風見町を探せばあるんじゃないかな? 夏になるとたまに食べるし」


 完全に見学エンジョイ勢!


 一方、このイベントにガチな人たちの姿も非常に多い。

 日本の旧家や他国の視察団はもちろんだが、特に目立つのは古今東西の神職の方々だ。

 彼らがこの場にいるのは、クウミが作り出したアイテムが自分たちの祀っている物のルーツとなるかもしれないからだ。

 そんなわけで、エンジョイ勢な命子たちに反して、宗教的にかなり重大なイベントだった。


 しばらく待っていると、イベントは始まった。

 まずは偉い人の挨拶から。


 命子たちのポップコーンが硬い部分しかなくなった頃、偉い人の挨拶が終わった。


「それではこれより、トヨ様が残した古の道具の解放の儀式を執り行います。一同、ご静粛にお願いいたします」


 司会の人が言うと、前に出ていたイヨが祝詞を唱え始める。

 イヨはイザナミと共に、枝を左右に振った。


 すると、イヨの周りの大地が薄く光り、祝詞が進むにつれて広がっていく。

 その光景に、多くの者が息を呑んだ。


「「「おお……」」」


 不思議なことに対して耐性がある命子たちも感嘆を漏らした。


 その光はとても心地良く、神職者は宗教を越えて神の気配を感じて、中には一緒に祈りを捧げ始める者も現れた。

 別に信仰心が強いわけではない命子たちも、日本人の特性で手を合わせてお祈りに参加した。命子的にはお正月の神社にいるような気分だった。


「勉強になるのれす」


 キスミアの巫女であるアリアもそこら辺に生えていた猫じゃらしをぶっこ抜いて、大真面目な顔でふりふりした。

 萌々子は友人のプレイに、本当に巫女なのか懐疑的な気持ちになった。


 そうしてお祈りが終わると、いよいよ封印の解除に入った。

 なぜお祈りパートが必要だったのか命子にはさっぱりわからなかったが、宗教とはそういうものなのだろうと納得した。


「イザナミよ。頼むぞ」


『なんっ!』


「アイ、補助をしてあげておくれ」


『むーっ!』


 イヨと教授にお願いされたイザナミとアイが、雷弓いかづちのゆみの入っている封印に触れた。


 封印の石がゆっくりと形を変え、やがて雷弓が外に出てきた。

 イヨはそれを両手で受け取った。


「成功だね。どうだい、弓の様子は」


「うむ。見事と言うほかないのじゃ。いったいクウミはどれほどの旅をしたのじゃろうな」


「世界には不思議な伝説が数多く残っているからね。クウミ様はそういうものに触れる旅をしたのかもしれない」


「妾のために苦労をかけてしまったものじゃ」


 イヨは雷弓を撫でてクウミの旅に想いを馳せた。

 フォーチューブでの歴史紹介を見る限り、半ば超人の領域にいた龍の巫女であっても、その旅は決して楽なものではなかっただろう、と。


 その後も順番に封印が解かれていく。

 その際には萌々子やアリアだけでなく、自衛隊と一緒にいる多くの精霊たちが活躍した。


 封印が解かれるにつれ、中の物品に所縁がある様子の人たちから期待の籠った声が上がる。


 そんなふうに午前中は封印解除に時間を使い、午後になるとそれらの性能お披露目会となった。


 武具の正当な持ち主であるイヨが、一部の品を装備して一同の前に現れた。


 白い着物に紫の袴を履き、胸には獣の皮と謎の金属で作られた胸当てをつけている。

 外からは見えないが、服の内側には精霊石の勾玉も装備していた。


「ふぉおおお、可愛い!」


 命子たちが手をブンブンして歓声を上げると、イヨはむふぅとご満悦。


 しかし、本日はお客さんが多いので身内だけで騒ぐわけにもいかず、さっそく次に進んだ。


 雷弓の試射だ。


 試射場にイヨが立つ。

 その背後には医療班がハラハラした様子で待機していた。イヨには雷弓が安全であるとわかるようだが、他の人からすれば心配なのである。


 ダンジョン産の矢を番え、的へ向けてゆっくりと弦を引く。


 およそ1800年の眠りから覚めたとは思えないほど弓はしっかりとしており、弦を引けば短弓は力強く弧を描いた。


 雷弓を遺したクウミ曰く、この弓は放った矢に雷を纏わせるという。

 イヨが矢に想いを込めた瞬間、その効果が発動した。


「なんじゃーっ!?」


 びっくりしたイヨが弦から手を離す。

 弓を使う者として咄嗟に危険行動を回避したようで、矢はみょんと飛び出して、数メートル先に落っこちた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 医療班が飛んできた。


「う、うむ、ちょっとびっくりしちゃったのじゃ。すまんの」


「いえ。しかし、矢が帯電していたようですが……感電などしてはいないんですか?」


「ちょっと言ってることがわからんのじゃが、特に不快なことはないのじゃ」


 昔の人なので、イヨは電気関係の言葉にまだ疎かった。

 そこに教授が助け舟を出して、医療班の人に言う。


「魔法の原則として、自分の魔力から作られた魔法は、自身や魂の繋がった者を傷つけない。つまりそういうことなんじゃないかな?」


 実際にイヨにケガはないわけで、医療班たちはハラハラしつつも後ろに下がった。

 イヨは『これがヒヤリハットの精神なのじゃな』と聞きかじった言葉を思い出して、ひっそり感心した。昔だったら、矢を撃ち損じたら、怒られるかキャッキャしていただろう。


 改めて、イヨは雷弓を引いた。

 また矢へ想いを乗せたタイミングで、矢が帯電し始めた。


 今度はそういうものだと理解しているので、イヨは心を落ち着かせて矢へ想いを乗せていく。


「矢よ。雷を纏って飛べ」


 イヨはそう口ずさみ、矢を放った。

 矢はピッと控えめな音を立てて飛び出した。


 しかし、結果は大人しいものではなかった。

 ドンッと鈍い音を響かせ、矢は藁を巻いた丸太を木っ端みじんにしたのだ。

 矢は後ろの土嚢に深々と刺さって、煙を出しながら止まった。


「これはまた派手だね」


 教授が呆れながら言った。


 新時代の矢なら丸太を粉々にすることはできるかもしれない。しかし、雷弓は通常の矢ではできないことをしていた。丸太や藁を発火させているのだ。


 一方、観覧席から見ていた命子たちはその結果に拍手を送った。


「見えた?」


「見えたデス。木に刺さった瞬間ビャビャッってなって貫通したデス」


「ほう、やはりできる子だ」


 命子たちは矢に起こっていたことを見切っていた。

 ビャビャッと雷ダメージを木に与え、破壊と燃焼を起こしたのである。

 なお、多くの人が文明の利器の力を使い、スロー再生で見ている。


「メーコお姉さまたちは凄いのれすね。アリアはまったく見えなかったのれす」


「適当言ってるだけかもしれないよ?」


「モモちゃん。そこはお姉ちゃんたちを信じよ?」


 アリアと萌々子の会話を聞いて、命子はすかさずちょっかいをかけた。


 何回かの試射を終えると、イヨの番は終わった。

 イヨはそのまま命子たちの下へやってきた。


「皆の者、どうじゃった?」


「超強かった!」


「うむ、そうじゃろそうじゃろ。最初はちょっと失敗しちゃったけどの」


「それは仕方ないよ。誰だって手元で雷が出たらびっくりするもの」


「あっ、命子パパ殿。ちゃんと映してくれたかの?」


 イヨが命子パパに問うた。

 それはそのまま命子パパが管理する三脚に乗ったカメラを通して、録画されていく。


 命子パパからグッドサインを貰うイヨに、メリスが言った。


「イヨ。パパ殿だけじゃなく、リスナーさんにも声をかけるでゴザルよ」


「ハッ、そうだったのじゃ! 皆の衆、見てくれたかの!?」


 イヨは皆の衆に声をかけた。


 トヨの墓参りを終えたイヨは、最近、フォーチューバーデビューした。

 毎日フォーチューブを見ているイヨなので、配信者さんに興味を持ったのは当然の流れであった。というか、現代でイヨが知った職業を順番に並べていくと、5番以内に配信者さんがあった。とんでもない事態である。


 しかし、倫理観が現代人とは違う可能性が高いので、実のところ、今回も含めてライブ放送はまだ一度もやっていない。

 なので、イヨが期待しているような反応は、後日に動画を投稿した後となる。


 そんなイヨの番組だが、1800年前のことや古代の巫女の神秘を語るため、まだ始まったばかりなのに視聴者がとても多い。

 特に学者や神職者の登録者が多く、彼らにとってこの貴重な少女の話を聞く最も簡単な方法がフォーチューブなのだ。


「イヨさん、次が始まりますわよ」


「なのじゃ!」


 ささらに教えられ、カメラの前でうろちょろしていたイヨは、ささらの隣に座った。


 さて、弓の試射に続いて、今度は封印されていた武器の一つである曲刀の試し切りになった。


「馬場さんファイトですわー!」


「馬場さん頑張ってぇ!」


 と、命子たちが声援を送っている通り、あまり剣の扱いが得意ではないイヨに代わって、馬場が演武を行う。


 この曲刀を視察するために、中東圏の人が来ていた。

 なぜかと言うと、この曲刀が伝説的なダマスカス刀だったからである。


 ダマスカス製の刀剣が滅茶苦茶強いというのは、真実であり誇張でもある。

 近代に入るまで比類なき強さを誇ったのだろうが、合金技術が発達した現代ではダマスカス製の刀剣を超える剣は比較的安価に製作できるだろう。ダンジョン素材が手に入る新時代ならばなおさらだ。


 しかし、それは通常のダマスカスの刀剣の話だ。

 世界中の神秘を学んだクウミが作り出したダマスカス刀は、古の伝説にあるような超常的な性能を持っているのではないか。中東から来た人たちは、それに期待しているのである。


 トヨやクウミが遺した物の中には、そのように海外の人の浪漫を刺激するものがいくつかあった。


 馬場が曲刀を真っすぐに立てて、刀身を見つめる。

 美しい木目模様の中に魔法回路が宿っているのは、すでに自衛官の鑑定によって判明している。つまり、これは新時代の武具と同じ魔法の武器なのだ。


 不思議な模様を見つめながら、馬場はドキドキしていた。

 これ、折れちゃったらどうしよう。


「はぁああああ!」


 えーい、こなくそ、とばかりに馬場はカッコよく魔力を込める。バンドをやっていただけあり、馬場もまたエンターテイナーであった。

 馬場の気合に呼応して、刀身の木目模様が緑色に輝き始める。


「「「おぉおおおお!」」」


 中東勢がテンションを上げる中、馬場はドキドキしながら試し切りを始めた。


 巻き藁から順番に硬い物へ。

 ダマスカス刀が折れるのが先か、馬場の心が折れるのが先か。それは唐突に始まったチキンレース。


 しかし、そんな馬場の心配を余所に、ダマスカス刀は強かった。

 ダンジョン産の武器と同様に、分厚いコンクリートだって、まるで野菜でも斬るようにぶった斬ってみせた。

 これにはオジサンたちも大満足。


 馬場は任務からの解放に気持ち良くなりながら、観覧席へビシィッと敬礼して演武を終えた。


「命子パパ殿。馬場殿の雄姿はちゃんと撮れたかの?」


 イヨが心配した。

 配信者さんの鑑である。


 こうして、イヨの希望通り他にも様々な武具の紹介がされ、古の武具お披露目会は終わった。


 ただひとつ、猫神の道標だけは秘中の秘として、しばし大切に保管されるのだった。



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっております。

誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ワープできんの!?が強すぎて、みんなそこに気づいてない。 あの、難攻不落で山のガラパゴスなキスミアを発見していたのかよ!?
[一言] やはリキスミアも訪れてたか。 そしてこの置物はおそらく・・・
[良い点] >柔を忘れて剛に狂った猫じゃらし とうもろこしをそんな風に表現する発想は無かったw [一言] とうもろこし「柔よく剛を制す?そんなものは弱者が自らの非力を誤魔化しているに過ぎん。剛よく柔を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ