10-14 精霊事件 2
本日もよろしくお願いします。
「それじゃあモグラさん。お世話になりました」
「「「ありがとうございましたー!」」」
「また来ますわ!」
「バイバイにゃん!」
「モグー。まあ頑張るモグよー」
一行は、カウンターに戻っていたモグラ妖精に挨拶をして、宿をあとにする。
カウンターは出入り口にあるため、いろいろなタイプの女子からの挨拶である。
さて、宿の制限時間の都合で男子組はすでに活動を開始しており、セーフティエリアの外では男子組の隊長がお見送りしてくれた。隊長は面倒見のいい大学生のお兄さんだ。
「予定通り、宿の北東方面は9時まで空けとくよ」
隊長が言った。
宿の北東方面はゲートがあるエリアだ。狩りに出発した男子たちは、しばらくはそっち方面以外で活動してくれていた。これは曲がり角での事故を防ぐためだ。
「ありがとうございます。それじゃあ、すみませんがあとのことはよろしくお願いします」
「うん。俺らも遅くても18時には上がるよ。君らも気をつけて」
命子と挨拶をしてキャワワッと思う隊長。
これはいかんと別の場所へ目を向ければ、そこにいるのは精霊さんと戯れる女子女子女子。
凄まじく羨ましい。
「命子ちゃん。本当に一緒に行かなくて大丈夫かい?」
だから、ダメ元で聞いてみた。
ここにいれば精霊ゲットの確率は極わずかだが、命子たちと一緒に行けばその確率が100倍くらいになりそう。
だが、自分が一緒に行ってなにかできるわけでなし。自衛隊との連絡は命子の方が遥かにスムーズだし、武力もまだまだ命子たちが上。
いけるか……っ!?
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます!」
ダメ……っ!
隊長はキャワワッと思いつつ、がっくりした。
この兄ちゃん、さては精霊が羨ましいな、と命子は正確に見抜きつつ、女子たちへ向き直った。
「それでは、撤収陣形の説明をします。今回は精霊を得た人と中学生を挟み込むようにして移動します。精霊に魔力を与えなくてはならないので、魔力を温存するためです」
引率組で話し合ったフォーメーションを中学生たちに伝える。
「最後尾はささらとメリス。最前列は私と紫蓮ちゃんとルルが行います。精霊を手に入れた引率の人もいますが、最優先は子供たちの護衛で。まあ移動は問題になるようなこともないと思うので、気楽に行きましょう」
「「「はい!」」」
「「「了解!」」」
「それじゃあ出発!」
「「「おーっ!」」」
命子の号令で、一行は出発した。
男子の隊長と彼が面倒を見る中学生たちは、その様子をキャワワと眺めて、お見送りした。
萌々子が穴に落ちたキスミアの時とは違い、時間的にはそこまで切羽詰まっていないので、道中は歩きである。
「ニャンコ、ゴー!」
「猫まっしぐらーデス! シュバババー!」
曲がり角で魔物を発見した瞬間、ルルが通路を猛スピードで駆け抜けて、一瞬にして敵を屠った。
戦闘が始まってもいちいち停止せず、露払いのルル以外はひたすら同じスピードで歩く。人が多いので、止まってしまうと全体が歩き始めるまで時間がかかるのだ。
そんな列の先頭で、紫蓮が命子に小さめの声で言った。
「羊谷命子。ちょっとモチベに差がある」
今回の事件で、精霊を手に入れられた子とそうでない子が生まれた。
光子が見つかったと聞いて、良かった良かった、とお風呂へ行かなかった子もいたのだ。
その行動の差に萌々子との友情度合いは関係なく、むしろ、みんなのためにお布団を片付けていた働き者の子だって多かった。
当たり前だが、精霊をゲットできなかった子はしょんぼりである。
これで友情に亀裂が入ってしまったり、働き者は馬鹿を見るなどと本来の優しい性格を歪めてしまったらと、紫蓮は心配だった。
「ふむ、ちょっと行ってくるか」
命子は頷くと、紫蓮にこの場を任せて、列の半ばまで移動した。
紫蓮が言うように、たしかに精霊が手に入らなかった子はしょんぼりしている。
一方、精霊を手に入れた子はキャッキャと楽しそう。
精霊は非常に人懐っこいので、変形を覚えるとまあ可愛い。
光子も精霊たちにカッコイイポーズを教えて回っており、なお可愛い。
圧倒的な格差……っ!
紫蓮じゃなくても胃が痛くなる光景であった。
これはいかんと、命子はナナコに話しかけた。
「ナナコちゃん。ルナちゃんはどーよ?」
「超可愛い!」
ナナコは、命子へニコーッと笑った。
ナナコは別に空気が読めないというわけではないが、舞い上がって周りが見えていなかった。
なお、ルナは現在、ナナコの姿をしている。そのルナを超可愛いとはこれいかに。
命子は、そんなナナコへ気持ち大きな声で言った。
「精霊いいなぁ、超羨ましい! いいないいなー!」
「でしょー!」
「まあ私もいつか自分の精霊をゲットするかんね! 羨ましいのは今のうち!」
「ほかにもいるのかな?」
「そりゃーいるよ。私なんてこの1年で精霊のゲットチャンスは3回あったからね。これからも地球さんは変わるだろうし、チャンスは絶対まだまだあるよ」
「ほへー。命子ちゃんマジ冒険者」
「まあ、その時まで自分を高めて待つよ。新時代は修行に魔法の研究と楽しいことがいっぱいあって忙しいからね」
「ほはー。命子ちゃんマジストイック」
命子は言いたいことが言えたので、紫蓮の下へ戻った。
ナナコは、アイツなにしに来たんだろうと首を傾げた。
「ちょっと眼の光が強くなった」
紫蓮が言った。
「紫蓮ちゃんより?」
「我の目はいつもキラキラ」
「ホント? 半分寝てるけど?」
「そんなことない。むんっ」
紫蓮は、ディスられたのでギュピンと【魔眼】を赤く光らせた。
紫蓮が言うように、中学生は命子とナナコの話を聞き、命子でも羨ましいのだとホッとしたり、精霊を手に入れるチャンスだってまだあるのだと前向きに考え始めた。
なにより、精霊がいなくても、新世界はとても楽しく忙しいことを思い出していく。
ここにいる中学生は、つい最近に冒険者が解禁されたばかりだ。魔法を覚え、能力がドンドン上がり、毎日が最高に楽しかったではないかと。
友達が精霊を手に入れたのは羨ましいけれど、それで色あせてしまうようなレベルの日常ではないのだ。
命子は、ナナコとの会話を使って、中学生にそれを気づかせた。
「あるいは、修行が前向きな精神を育むのかもわからんね。私があのくらいの歳だったら、お母さんに泣きついてるわ。っていうか、猫が飼いたくて実際にやったよ」
「我も昔、母におねだりした。我はね、我はね、鷹が飼いたかった」
「わかるわぁ。鷹、憧れるよね」
「うん。そのあと母と動物園に行って実物を見て、ちょっと我には早いなって思ってやめた。翼を広げると予想の100倍はでかかった」
「紫蓮ちゃんの鷹さんへのイメージがハチドリサイズだった件」
猛禽類の飼育は許可がいるので、そんなにポンとは飼えないのだが、それはそれとして。
こんなふうに中学生の心をケアしつつ、一行は1時間ほどでゲートに辿り着いた。
「入場審査が終わった方はこちらにお並びくださーい!」
「GWキャンペーンが始まっていまーす。買取価格固定品目を割り増しで買い取らせていただくトレジャーキャンペーンです。ぜひご利用くださーい!」
「それでは良い冒険を!」
今日も今日とて風見ダンジョンは大人気。
わいわいがやがやする冒険者を、入場管理員さんたちがダンジョンの渦に案内している。
ちなみに、レベル教育の2周目はGWが明けてから始まるので、今の時期は最後の祭りとばかりに冒険者の予約で埋まっていた。
そんな会場に、帰還者が来ることを示す赤い光が立った。
出てきたのは、なんと小さな英雄・羊谷命子とその仲間たち。
風見町ならファッションセンターしましまとかで普通に目撃できるレア度の少女だが、町外から来た人からすれば話は別。会場が一時騒然となった。
命子、ささら、ルル、紫蓮、メリスが、シュババとカッコイイポーズを取った。
そうして、命子とルルが元気いっぱいの笑顔で言う。
「みなさん、楽しんで冒険してきてねー!」
「「「おーっ!」」」
「命子ちゃーん!」
「ニンジャーのみんな、シュババーってやるデスよ!」
「「「ニンニーン!」」」
「ルルちゃーん!」
大熱狂。
そんな命子たちの背後では、中学生たちが続々と帰還して出口に向かっていた。
大きなリュックを体の前に持つ姿は不自然そのものだ。
「こ、こら、出てきちゃメッ!」
そんなことをリュックに向かって言うのも不自然が極まっている。
小さな声なのでそれは見逃したとしても、帰還してきたこの時間は隠せない。
24時間バラバラの時間に入場する冒険者だが、帰還する時間は夕方付近に集中する傾向がある。朝一に帰ってくる冒険者はもちろんいるが、珍しいのだ。
そんな時間に命子たちが中学生を連れて帰ってきたら、なにかあったのではと勘繰る人も現れるというもの。
しかし、ほとんどの冒険者は命子たちに意識を持っていかれて、それらの事実に気づかなかった。
そう、これこそが命子たちの狙いであった。
「み、みなさーん! えっと、で、ですわよー!」
「「「ですわよー!」」」
「ささらちゃーん!」
ささらも顔を真っ赤にしながら拳を振り上げ、中学生たちが退場する時間を稼ぐ。
「楽しい休日を」
「「「え? わ、わー!」」」
「し、紫蓮ちゃーん!」
「頑張るでゴザルよー!」
「「「ゴザ……? ご、ござるぅ!」」」
「メリスちゃーん!」
そのあとも紫蓮、メリスと頑張り、みんなが退場したのでお役目御免。
なお、紫蓮の声は小さいので、なんと言ったのか誰も聞こえていない。
命子たちは手を振って、その場を後にした。
「さすが紫蓮ちゃんだな」
うむと命子が頷いた。
そう、この作戦の立案は紫蓮であった。
精霊を大量に連れた中学生がダンジョンから帰ってきたら、事態の予測がまったくつかなくなるからだ。少なくとも、風見町と風見ダンジョンに大量に人が来る可能性が高いと、紫蓮は考えた。
「我、軍師」
「待て、すでに終わったが、これは紫蓮ちゃんの罠だ!」
「これぞ囮羊の計」
「私に不穏なワードが入ってる! 猫か鴨にして!」
「それより羊谷命子。電話」
「はわっ、そだったそだった!」
司馬懿ごっこを止めて、命子は慌てて馬場へ電話をかけた。
すかさず意識を逸らされる、これもまた紫蓮ちゃんの罠である。
「あっ、もしもし馬場さん? おはようございます!」
『おはよう、命子ちゃん。どうしたの? 今日はダンジョンだったわよね?』
「はい。ちょっと緊急事態が起こっちゃいまして、帰ってきました」
『え。ケガとかしてない?』
「はい、ケガは一切ないので大丈夫です。それでですね、できれば冒険者協会の買取所まで来てもらえませんか?」
『オッケー。10分で行けるわ』
「すみません。お願いします。あっ、あと教授ってどうしてます?」
そう尋ねている最中には、すでに電話の向こうで行動を開始している音がした。さすが自衛官といったところだろう。
『礼子? たぶん、自分のラボにいると思うけど。必要なら一緒に連れていくわよ』
「それじゃあ教授もお願いします。実は、精霊が大量に発見されたんです」
『ブフーッ!』
電話の向こうで馬場が吹いた。
『すぐに行くわ! あと、精霊はあまり人目に触れないようにして!』
「わかりました、待ってます」
『それじゃあ切るわね! 緊急連絡! シープバレーの発動を——』
電話の向こうで謎の単語が叫ばれながら、通話が切れた。
「シープバレーとな?」
「きっと羊谷の計」
「新戦術現る!」
否、月イチの恒例行事である。
今まで大天幕で行なわれていた買取所は、最近になってついに建物が完成した。
冒険者協会支部と併設されており、非常に大きくて立派な建物だ。
混む時間には冒険者が何十パーティも出入りするので、ロビーは一行が入ってもなんら問題ないほど広い。
ロビーには命子たち以外に冒険者の姿はなかった。
冒険者の帰還が少ない朝の時間帯は順番を待つことがなく、来たそばから買取用の個室に案内されていくからだ。
冒険が終わったらここに来るのは絶対のルールなので、命子たちもひとまず来たのだが。
とりあえず緊急事態を受付のお姉さんに告げようかというところで、冒険者協会支部長の佐藤さんが全力疾走でやってきた。
「あっ、佐藤さん。おはようございます!」
命子は、これ幸いと佐藤さんに事情を説明しようとするが、それよりも早く佐藤さんが言う。
「羊谷さん、おはようございます。さっ、みなさん、どうぞこちらへ!」
なんか知らないけど迅速な対応に、命子は佐藤さんすげぇと思った。これがエリートかと。
中学生たちと一緒に案内されると、その一角が職員の手で封鎖された。『配線工事のため一時立ち入り禁止』の貼り紙とともに。
これぞ、シープバレーの効果である。
本来冒険者が使うのは個室の買取部屋なのだが、大人数の一行は多目的用の大きな部屋に通された。
帰還した冒険者の扱いは手厚い。例えば、買取の待機所になるロビーには熱々のおしぼりが完備され、ドリンクバーも無料で使えたりする。
本来ならセルフだが、案内された中学生たちは職員さんからそれらのサービスを受け取った。
冒険明けに熱々のおしぼりは地味にありがたく、男の子がいないのを良いことに、顔に乗せてほわーっとする子も多い。
この場に通してくれた佐藤さんや職員は特になにも聞いてこないので、命子もおしぼりを瞼に当てて、しばしほわーっとしていた。
ほどなくして、馬場が女性の自衛官と研究員を大勢引き連れてやってきた。全員女性なのは、中学生を気遣ってだ。
それでも大人が大勢やってきて中学生はビビってしまっているので、女性だけにしたのは大正解と言えた。
そんな中には教授もおり、目をキラキラさせていた。
その頭の上にいた教授にそっくりな精霊のアイが、萌々子のそばにいる光子を発見して飛んでいった。
アイはミニメモ帳をバッと広げて、光子に見せる。
光子は自分のミニリュックからペンギンさんのシャチハタを取り出して、アイのミニメモ帳にペッタンとした。
それを見て、アイはふむぅと頷いた。
そのやりとりを見ていた中学生たちは、大人たちの来訪にビビっていた気持ちが随分と和らいだ。
さて、馬場が佐藤さんにビシッと敬礼して挨拶する間に、自由人な教授は命子のもとへ走った。精霊も精霊なら飼い主も飼い主である。
「きゃっ!」
「教授ぅ!?」
椅子に足を引っかけて転びそうになった教授を、命子が慌てて抱き留めた。
クールなお姉さん然とした教授から出た女性らしい悲鳴と、ふわりと命子の鼻腔をくすぐる洗っていない犬のような香り。
「ととと。ははっ、すまないね。ありがとう、命子君」
「もう、気をつけてくださいね?」
「うん。っと、それよりもだ! 精霊を発見したんだって!?」
教授が言うと、冒険者協会の職員たちが目をまん丸にして驚いた。佐藤さん以外は知らされていなかったのだ。
「はい。それもいっぱいです。みんな、もういいよ」
命子が言うと、中学生たちはリュックを開けて、中から精霊を呼び出した。
一斉にリュックから出てきた精霊たちの姿を見て、大人たちが驚愕していく。
「こ、これは!?」
「「「ふぉおおお!?」」」
キスミアから日本に贈られた精霊は、6カワ。
それを遥かに上回る精霊の数に、教授は手をブンブン振った。ほかの研究員も似たようなもので、目を輝かせて手をワキワキとした。
一方で、馬場は遠い目をして官僚公務員たちを想う。やつらからそろそろ死人が出るやもしれないと。
「めめめ、命子君! こんなにどこで!?」
「ちょっとそれを話すと長くなります。それを説明する前に、こちらから緊急のお願いがあるんですが」
「むっ、なんだい!?」
教授は早く聞きたいとばかりに手をブンブン。
今なら国家機密すら話すんじゃないかというほど、そわそわしている。
「タカギ柱の地底湖へ繋がる地下道は、今日開通しますよね? そこへこの場のみんなを通してほしいんです」
命子の言葉に、教授の手がピタリと止まった。
「タカギ柱の地底湖かい? 連れていくにも、あそこはまだ開通してないよ」
「ふぇ?」
教授から出た衝撃の言葉に、命子の口から情けない声が出るとともに、スッと両手が胸元まで上がり、指遊びをスタンバイ。
「だ、だけど、たしか今日、開通する予定だって教授が言ってましたよね?」
「たしかに君に話した時は今日あたりに開通予定だったが、あれから分厚い岩盤に当たってしまってね。これを掘削するのに手間取って、4日ほど遅れてしまったよ。だから開通は1週間程度先になるはずだ」
「「「えーっ!?」」」
「め、命子お姉さま、どうしましょう!?」
「あーわわわわわわ……」
中学生たちの絶叫とクララの焦った声を聞きながら、命子は高速の指遊びを開始した。
「地下に行けないと困るの?」
みんなの尋常じゃない様子に、馬場が問うた。
「あわわぁ……」
言葉を詰まらせる命子の代わりに、教授が顎に手を添えて言った。
「なるほど。察するに、彼女たちの精霊は、精霊石を持っていないんだね?」
今ある情報だけでそう推理してみせた教授に、多くの子たちが眉毛を八の字にして頷いた。
「そして、地底湖に精霊石があると」
教授がそう結んだので、命子は再起動して説明した。
「は、はい。その通りです。消滅までのリミットは最短で2日……いえ、36時間……いや、うーん、念のために30時間くらいです」
モグラ妖精は外に出ると半日ほどリミットが短くなると言っていた。だから、命子は30時間くらいがギリギリだと言っておいた。
「教授、どうにかなりませんか?」
続く命子の質問に、教授は頷く。
「簡単な解決方法は、地下道の行き止まりで、精霊に地底湖へ向けて土の中を進むように教えることだ。精霊は物を透過するから、土の中を潜航するのも造作ない」
「はー、なるほど」
「しかし、この場合、再度出会えるのは最短でも4日先になるはずだ。その時には精霊は君らのことを忘れてしまうだろう」
「はい。それはモグラ妖精さんにも同じことを言われました」
「モグラ妖精? この精霊たちは妖精店で出会ったのかい?」
「そうです。妖精店のお風呂にある魔法陣が関わってます」
「ほう、興味深いね。まあそれはあとで教えてもらうとしてだ。君らもせっかく手に入れた精霊と離れるのは不本意だろう?」
教授の問いかけに、精霊を手に入れた子たちは揃って頷いた。
「なにか方法はありますか?」
「まず聞きたい。君らの精霊はなんの属性の精霊かな? それ次第だ」
精霊を手に入れた子の多くの子がすでに『見習い精霊使い』になっており、ある程度、自分の精霊がなにをできるか理解できていた。
それによれば、土属性と水属性が半分ずつであった。
それを聞いた教授は頷いた。
「ふむ、それならいけるだろう」
「どうするんですか?」
「精霊に土木工事の続きをさせる。残りは10mほどなんだが、精霊魔法ならば、コンクリートなどで補強する必要がない強度を維持して穴を掘ることができるだろう」
光明が差した一同が、おーっと感嘆の声をあげた。
精霊使いになった自分の力でさっそく運命を切り開けるとあれば、無理もなかろう。
「危険はないの?」
馬場が当然の質問をした。
「危険なら言わないよ。アイ、おいで」
「っっっ!」
教授がアイを呼んだ。
そうして魔力を与えると、アイは教授の足元の床に30立方センチメートルほどの穴を空けて「ふむぅ!」と頷いた。
「このように、精霊ならば周りを崩すことなく穴を開けられ、みゃんっ! ひぅうう、い、痛い!」
足を組んで座りながらクールに説明する教授の頭を、馬場が引っ叩いた。
「申し訳ありません、佐藤さん」
「いえ、大丈夫ですから、お気になさらず」
佐藤さんに謝罪する馬場に涙目を向けながら、教授はぶたれた頭を押さえた。
そんな教授の顔を見ながら、アイがミニメモ帳になにやらメモメモ。
命子も、教授のポンコツな姿に激しく萌えた。
「穴を開けられるというのはわかったけれど、シークレットイベントの心配はどうなの?」
馬場が問うた。
先ほどぶたれた教授は、文句を飲み込んで答えた。
「そこまではわからんよ。彼女たちに開通を手伝ってもらい、その後に自衛隊を投入して下調べをするなどすればいいだろう。ただ、その際には精霊との契約に注意してもらいたいがね」
「それしかないわね。まあ、なんにしても、まずは親御さんへの説明会をしなくちゃね……」
時間がないとはいえ、彼女たちは未成年者。
国が関わることに参加させる以上は、保護者への説明は避けられない。
馬場の呟きを聞いた中学生は「親は関係ないのに」と少し不満気だが、馬場は手配を始める。
結局、教授の案は採用され、部長やナナコ、中学生たちの精霊使いとしての最初の戦いが始まろうとしていた。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想大変励みになっております。
誤字報告も助かっています。ありがとうございます。