10-6 E級ダンジョン攻略 後編
本日もよろしくお願いします。
翌日、34階層終点。
ゲート前には命子たちが一番に到着していた。
次の階層でボス戦になるが、命子たちはすぐに下りず、やってきた魔物を修行モードで倒したり、お喋りしながら体を冷まさないようにストレッチをしてキャルメ団を待った。
今回の合同探索では、こうして待つことが重要だった。
レイドの腕輪は、親機の腕輪を持つパーティが必ず各階層へ一番に入らなくてはならないのだ。そうしなければ子機の腕輪を持つパーティはその恩恵を受けられないのである。
だから、全ての階層で集合してから、親機の腕輪をはめている命子が一番に次の階層へ行くことになる。知らない人の目にはクラン特有の儀式みたいに見えるかもしれないが、そういう仕様だ。
「はぁーあ。今日でこのダンジョンともしばらくお別れかー」
命子はダンジョンの床をなでなでしながら言った。
このダンジョンは、石作りの遺跡に木々が侵食したような、冒険心をくすぐる造りをしている。
そういうダンジョンなので、平野部にあるダンジョンよりも来るのが大変な場所にあるのに、特に男性冒険者から大人気だったりする。
命子は女性冒険者だが、中二病なのでこういう雰囲気も大好きだった。
「いずれ来る気満々」
『しばらく』という言葉を拾って、紫蓮が言う。
紫蓮はドロップでパンパンになったリュックを脇に置き、その中に入っているドロップの使い道を考えてワクワクしていた。
「そりゃ紫蓮ちゃん。人生は長いんだから、いずれまた来るよ。一回攻略したら終わりじゃもったいないよ。ねー、ダンジョンさん?」
命子は、今度はダンジョンの壁をぶち抜いて生えている木の根っこをペシペシと叩いて、ダンジョンさんに語りかけた。暇をするといろんなところをやたら触っちゃう子である。
「ふふっ、次はいよいよD級ダンジョンですわね」
ささらが言うように、命子たちはこのダンジョンをクリアすると、D級ダンジョンの探索許可が得られる。
風見町防衛戦が終わり、時勢は強い冒険者が多く誕生することを望んだ。
冒険者協会はダンジョンの探索制限をなくす代わりに、各ダンジョンに入るための条件をつけた。
D級ダンジョンへの挑戦は、E級ダンジョンを2つ以上クリアすること。
世界的にも高い評価を得ている命子たちでも、それが覆ることはない。
命子たちはすでにE級ダンジョンを1つクリアしており、これが2つ目であった。
「その前に、次はモモコたちとダンジョンデス!」
「そうですわね。ふふふっ、楽しみですわ」
ルルの言葉に、ささらがとても楽しそうに笑った。
小学校を卒業した萌々子やクララは、この春に中学生になった。
冒険者免許は春休みから取得できたので、多くの子がその間に免許を取得している。
「あの子たちもいよいよ冒険の日々かー」
修行の最初期から命子やささらと一緒に修行している小学生たち。
彼女たちとの修行の日々には、命子お姉さまたちと冒険したい、というお願いもされた。その約束をついに果たす時が来た。
行くのはもちろん風見ダンジョンで、命子たちには物足りないダンジョンだが、それでも楽しみで仕方なかった。
もちろん、その際にはレイドの腕輪がまた活躍するだろう。
「お待たせしました!」
しばらくするとキャルメたちが続々とやってきた。
みんなケガもないようで、年下ばかりなのに冒険者としての安心感は非常に高い。
ちなみに、キャルメたちはすでにこのダンジョンをクリアしており、今回は一緒に冒険したいという要望を得て、合同探索をしていた。
全員が集まってしばらく休憩をしてから、命子は太ももを叩いた。
「さてと。それじゃあボチボチ行こうか!」
「ニャウ!」
命子の言葉に、座って休憩していたルルがそのまま後ろに倒れ込む。
右手を首の左横に置いて、まるで重力を感じない動きで倒立する。
仰向け状態から倒立すれば本来ならみんなに背中を向けているはずなのに、右手を首の左横に置いたことで倒立時に自然と体が半回転して、みんなの方に顔を向ける形になった。
「そういうのめっちゃカッコイイんだけど」
「んふ。ニンッ!」
ルルは片足を曲げて『逆4』の字を作り、片手倒立をしながら天地逆転ニンニンの構え。
しかしながら、そうするとミニスカ着物の裾がずり落ちてしまうので、ささらが赤い顔をしながら裾を押さえている。
そんなささらの首筋をルルのネコシッポがシュルンと撫でるものだから、さらに赤い顔になっていく。アウ……セ、セー……いや、アウトである。
実際に、キャルメ団の女子も男子も顔を赤くしているし。
35階層、ボス部屋。
「それじゃあ約束通り、ボスは私たちが最初に倒すね?」
「はい、見学させてください」
ダンジョンは、ボスを倒すと引き返せない。
このため、最初にボスを倒すパーティは後続の見学ができなかった。
キャルメの光翅のほかにも、キャンプ中にほかのメンバーの戦いを見せてもらったので、ボス戦はそのお返しに命子たちの戦いを見せようというわけだ。
「みんな、良さそう?」
「ニャウ! オッケーデス!」
「準備万端デスワよ!」
「ワタクシも大丈夫ですわ」
「我も」
「よし、それじゃあ行こうか!」
「「「「おーっ!」」」」
気合を入れ、命子たちはボス部屋へと突入した。
もう何回もボス戦をしているので慣れたもので、命子たちはテキパキと撮影機材をセットしていく。現在では素早いルルとメリスがいるので、カメラの設置場所をバラケさせた撮影も可能だ。
さらに、今回はキャルメたちも外にいるため、そちらでも撮影してもらっている。
設置を終えて中央に集まった命子たち。
その視線の先で、大量の紫の靄が集合していく。
「やっぱりボスを形作る魔力は凄いね」
「ザコ敵の何十倍もある」
命子と紫蓮は目をピカーッと光らせて、ダンジョンが起こす現象を目に焼きつける。ここからなにかがわかるわけでもないが、閃きもあるかもしれないから。
やがてそこに現れたのは、一本の朽ちた巨木。
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『変化樹』
飛騨ダンジョンのボス。
このボスの特徴はドストレートなその名の通り、体を他の生物の形状に変化させるところにある。
仮に異世界に実在する魔物をモデルにしていると考えると、その生態への想像はいろいろと膨らむが、ボスとして登場するこの変化樹は10個のフォルムのいずれかに変形する。
そういった性質があるが、一番厄介なのは目がない点。
しかし、なんらかの方法で全方位が見えているようで、隙が非常に少ない。
弱点は火属性。
ただし、火属性を食らうと体に着火し、生命力を燃やす代わりに攻撃力とカウンター性能がE級ボスのトップクラスになるほどに増し、近接攻撃が現実的ではなくなる。
基本的に、火属性を使わずに戦うのが良い。
ドロップは軽さと強度に優れた木材。武装木人が同様に木材を落とすが、これの上位互換である。
武具に高い適性があり、さらに現在だと飛空艇の材料にもなるため、めちゃくちゃ高値で取引される。
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変化樹がまるでスライムのように体を流動させ、木製の巨大なイノシシの姿に変化した。
このボスの変化は質量が変わらないため、どんな動物になったにしても大きい。
木目柄のイノシシの姿は美しく、見る人によっては芸術的に思えるかもしれない。
この変化が終わった瞬間、戦闘が始まった。
「ガードフォース!」
ささらが全員に防御の魔法をかけ、それぞれの体から赤いオーラが湧き上がる。
この魔法は、防御力が10から15に上がるようなものではない。ささらが使った魔力の分だけダメージをカットしてくれる優秀な技だ。
しかし、ささらの魔力負担が非常に大きいため、ダメージを食らわないようにしなければならない。
「強化風弾! 強化土弾!」
命子が展開する風と土の魔導書から、強化された風弾と土弾が飛んでいく。
ダーンッ! ゴシャッ! と大きな音とともに巨大イノシシの頭が弾かれた。
しかし、そこはさすがに突進が得意なイノシシのフォーム。頭の防御力は非常に高い。
そう、変化樹は変化した動物の特性をある程度使えた。
確実にコピーできるのは、攻撃、防御、敏捷だ。知性と魔法技能についてはコピーできていないと考えられているが、詳細は不明だ。
命子の魔法を皮切りに、それぞれが動き出す。
イノシシは突進するよりも早く詰め寄ってきたルルに、頭を振って、硬い鼻と長い牙で攻撃する。
バキンッ!
鼻に叩きつけられたルルの体が砕け散る。
「奥義・氷瀑人形のじゅちゅ」
側面に回り込んだルルが忍者刀で木目に沿って斬撃を加えながら、技の名前を口にする。
砕け散ったルルの体がイノシシの顔面に飛び、当たった場所を凍らせていく。
これぞ『残像の術』と『マナ因子:氷属性』を合わせたカウンター技、氷瀑人形の術。DRAGONで見せた煌びやかな氷の切りくずは魅せ技で、これこそが本物の氷瀑人形の術だった。
普通の魔物ならこれで視界を奪うことができるのだが、変化樹はそうならない。
前述の説明の通り、このボスは全方位を知覚できるのだ。現在はイノシシの体をしているが、目は飾りなのである。
だから側面からの攻撃は隙にならない、と言うと、そんなことはない。
全方位視野を持つものの、攻撃方法はイノシシのそれなのだ。だから、側面からの攻撃には弱い。
それを狙って紫蓮が踏み込んだ。
「龍命撃!」
紫蓮が薙刀・龍命雷を叩きつける。
魔力によりコーティングされて一時的に攻撃力が上昇した龍命雷と『強打』の組み合わせ技だ。
高いノックバック性能を持つこの技に、重量級のイノシシがほんのわずかに浮かんだ。
「ルミナスアイシクル!」
ささらが新必殺技を繰り出した。
光の柱を生み出す強烈な切り上げ技『ルミナスブレイド』。この技は、発生する光の柱が仲間の魔法属性をすくい上げる特性があった。
龍宮で戦った巨大猫戦では教授が使った火の属性を纏ったが、今回はルルの氷属性だ。
ただし、ルルは教授ほど魔法が得意ではないので、ルミナスアイシクルの強さは普通のルミナスブレイドとさほど変わらない。だが、青い光の柱はそれだけで超美麗な技に見えた。
冷気を纏った光の柱が、滞空するイノシシの体に白い霜をつけながら、さらに浮かせる。
それを待っていたのは、NINJA技『天井張りつき』で天井に張り付いていたメリスだ。
天井まで伸びたルミナスアイシクルの陰から、メリスが急降下する。分身の術を使い、その数2人。
「「奥義・フニャルーのちゅめ」」
滞空するイノシシの側面を通過して、すちゃりと着地したメリス。
その手に握る二刀小太刀がメリスの落下した軌道に冷気の帯を作り、メリスの着地と同時にぶわりと白い靄になって広がった。
2人のメリスがシュバッと離脱すると、その場にイノシシが横腹から落下した。
一連の連携で本体から分離した木片が、光になって消えていく。
開始1分と経たずに大ダメージを受けたイノシシの体が、どろりと変化した。
「くるよ!」
命子の注意喚起とともに、5人はすぐに背後へ駆けた。
変化樹が完全に溶け、木目色のジェルといった様子で床に広がった。
その範囲から逃げきった命子たちは意識を集中して、深く構える。
一瞬の静寂。
次の瞬間、木目色のジェルが爆発的に膨れ上がり、広範囲に茨の蔦を出現させた。
ダンジョンのボスは、例外なく、なにかしらの必殺技を持っている。
変化樹の必殺技は『茨の森』。
一撃死する類の技ではないのだが、まともに食らうと体全体に大小多くの切り傷を作り、戦闘力を大幅に下げられてしまう技だ。
攻撃密度が高すぎて防御するのは極めて難しく、攻撃範囲から逃げるしかやり過ごす方法はない。
「ふむふむ、なるほど。誘導性があるっぽいね」
「茨状態でも我らのいる位置を正確に捉えてる」
「だね。私たちのいるところへの攻撃密度が高いね」
命子たちは安全圏から茨の森の様子をよく目に焼き付ける。
特に命子と紫蓮の魔眼の魔力視性能は高いので、どのように魔力が使われているのかも観察対象だ。
実のところ、命子たちの実力なら、このボスに必殺技を使わせずに倒すことも可能だった。
命子は先ほどの連撃の合間に2つの魔法を組み合わせて龍化魔法を放つことができたのだ。
さすがにDRAGONで見せたような3種類の魔法を合体するには時間が足りないが、2種類でも確実に仕留められただろう。
なぜそうしなかったかと言えば、必殺技を生で見たいからだ。
ボスの必殺技を生で見る機会は少なく、余裕がある戦闘なら率先して見ていくべきだと命子たちは考えていた。そうでなければ、今後のボスの必殺技に対応できなくなってしまうからだ。
もちろん、回避が難しい必殺技やギリギリの戦いでは、そんなことするべきではないが。
「攻撃再開!」
命子はそう言って、目の前に広がった茨をサーベルで切り裂き、魔導書からも魔法を放って茨を蹴散らしていく。
他のメンバーも必殺技を使って茨を除去していった。
斬られた茨の破片は光の粒になって消えていく。
茨の森は広範囲の必殺技だが、自分の体を細くして繰り出しているため、その後の防御力が非常に下がるのだ。
変化樹自身もそれを理解しているようで、命子たちが攻撃するとすぐに茨を解除して一つにまとまっていく。
変化樹の次のフォームは、牛のような角が生えた木目柄の狼。茨の森でかなりダメージを与えたので、その体はイノシシフォームよりも小さなものだ。
「むむっ、一番厄介なフォームだ」
全方位に視野を持つ変化樹は、身軽なフォームほど厄介と言われている。中でも角が生えた狼は一番厄介だそうだ。
「ここからは全力で行こう!」
命子はそう言って、『覚醒:龍脈強化』を展開する。
緑色のオーラが体を包み込み、深い集中状態に入っていく。
狼の動きも、仲間の動きも全て【龍眼】が捉える。
分身化したルルとメリスの4人が、狼に変化した出頭に正面から突っ込んだ。
狼は深く身を屈め、犬型の生き物と同じような攻撃態勢に入る。
4人は狼の間合いすれすれで左右に分かれ、狼の側面へ回り込む。
変化樹は視覚を持たないため、視覚効果に惑わされることはない。このため、狼の思考は誰に食いつくのがベストかというもの。
マズルから牙を剥きだしにした狼は、体を高速でひねり、分身のメリスへロックオン。
しかし、これはルルとメリスがそのように仕向けたことだった。
「食らうがいい」
紫蓮がすかさず土と水の魔導書から魔法を放った。
最近の紫蓮は属性コレクターになっている。
マナ進化したことで『付与術士』にジョブチェンジできるようになった紫蓮だが、このジョブは属性のマナ因子と非常に相性がいいためだ。
あと、変化樹には紫蓮が得意な火属性が使えないというのも大きい。
分身のメリスに食いつく寸前で頭を弾かれた狼に向けて、ささらがサーベルを振るう。
「フェザースラッシュ!」
飛ぶ斬撃『スラッシュソード』と斬撃の両サイドに等倍威力の斬撃を生み出す『フェザーソード』を組み合わせた必殺技が、狼の腹に3つの傷を作った。
ささらは体を高速で回転させ、その結果を背中で感じる。
度重なる戦闘の中で、ささらは間合いの中で起こる出来事の気配を、なんとなく感じられるようになっていた。これは気配に敏感なルルやメリスもできるが、命子や紫蓮にはまだ不完全な領域であった。
再び正面に体を向けた瞬間、下段からサーベルを切り上げる。
「ルミナスブレイド!」
シャンッと小気味いい音を奏でて、必殺技の連撃を叩きこんだささらは、空中でスッと目を細めた。
「……」
変化樹は回避力が高い身軽なフォームほど強いと言われているが、たしかに狼のフォームはこの連撃の出だしに反応していた。
結果がこうなっているのは、フェザースラッシュが速すぎて回避できなかっただけだ。
自分たちが未熟なのか、変化樹が強いのか。
なんにせよ、母が運営する『冒険道』に掲載しておくべき情報ですわ、とささらは心にメモした。
4人の連携に最後のピースがぱちりとハマる。
ギンッと目を光らせた命子が、狼の姿を見つめる。
「土龍」
命子が放ったのは2つの強化土弾を【魔法合成】し、変化の魔導書で龍化させた魔法。
土龍はあっという間に狼を締め上げ、木の体をバキバキと圧砕していく。
変化樹は、土色の龍の中で大量の光の粒をまき散らして消えていった。
「ぐすぅ……」
一方、ボス部屋の外ではキャルメ団の女の子が涙を滲ませて、命子たちの戦いを見ていた。
1年前に世界と自分たちの暮らしが一変し、それから今の自分たちへ導いてくれた女の子たちの戦いを生で見ている。
地球さんTVが映し出されたタブレットを、みんなで団子になって夢中で見た日のことや、ラクートのダンジョンで死に物狂いに頑張った思い出が蘇り、自然と涙が出てしまったのだ。
リーダーのキャルメはそんな女の子の頭を撫でて、あやした。
「キャルメについてきて良かった」
「僕のほうこそ、君たちが僕と同じことに感動してくれたから、この光景に辿りつけたんだよ」
みんなと頑張ったから。
終わりの子との夢の狭間でみんなが声を届けてくれたから。
キャルメはこの場で命子たちと交流を続けていられる。
キャルメは1人でもガンガン強くなれる類の天才だったが、それではこの人生には決して辿りつけなかっただろう。
だから、キャルメはみんなに感謝していた。
「さあ、涙を拭いて。勉強させてもらおう」
「うん」
キャルメは、みんなと一緒に命子たちの戦いを見学させてもらった。
命子は世界で初めて、ささらとルル、紫蓮もかなり早い段階でマナ進化した。
だから『新しくなった自分』の使い方をよく理解している。
命子と紫蓮はそれぞれ性能が違う魔眼で観察を。
ささらは種族スキル【触れ合う心】を利用し、魂で繋がり合った仲間たちの魔法を利用して必殺技にまで昇華し。
猫系の進化をしたルルは、視覚聴覚バランスの向上を制御し、スピード特化なのに安定感は抜群だ。
メリスもキャルメ団とほぼ同じタイミングでマナ進化したのに、キャルメ団のメンバーよりも新しい自分の使い方が上手い。
それはルルの存在と、猫を極めるお国柄の影響が大きいだろう。
ネコミミやネコシッポが生えても、キスミアっ子は戸惑いがないのだ。
世間から天才と言われるキャルメでも、マナ進化への慣ればかりは命子たちに及ばなかった。
キャルメ団と命子たちとの実力はかけ離れたものではないが、学ぶことは凄まじく多かった。
いよいよ戦闘は佳境に入り、フィニッシュに向けた連携が決まっていく。
「速い。凄い!」
命子とほぼ同じジョブビルドの女の子が、命子の【魔法合成】の速さに、不慣れな日本語で驚きを表す。
2つの強化土弾を【魔法合成】して作られた巨大な土の塊が、変化の魔導書で龍の形に変化していく。
茶色の龍が木目柄の狼を包み込み、圧砕した。
C級下位ボス相当と考えられている龍宮の巨大猫を、ダメージを受けていた状態とはいえ葬った火炎龍と同レベル帯の魔法だ。
これにE級のボスである変化樹が耐えられるはずもなく、一瞬で決着がついた。
それでも命子たちは初ダンジョン攻略報酬の宝箱が出てくるまで、誰も油断しない。
宝箱が出てきた瞬間に、命子のお尻からブンブン振られた犬のシッポがにょっきりと生えたような気はするが、それでも一気に油断したりはしない。
同じく、変化樹がドロップする大きな木材を見て、紫蓮のお尻にも幻影のシッポがにょっきりと。
6速から5速、5速から4速と、ギアを少しずつ落とすように、ゆっくりと残心を解いていく。
それに反比例するように命子と紫蓮のソワソワ具合が高くなっていくが、きっと気のせいだ。
ボス部屋と待機部屋では、音のやり取りすらもできない。
ボスを倒した命子たちは、外にいるキャルメたちに手を振って、倒したことをにこやかに示した。
キャルメたちも中に音は届かないけれど、パチパチと手を叩いて、それを祝福するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。