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10-0 2年目の始まり

本日もよろしくお願いします。

新年一発目は、ひとまず新章のプロローグを。


 3月中旬。

 昨年から、その日は人類にとって共通の特別な日になった。


 地球さんがレベルアップしたのである。


 これを、『長い歴史の中で見せる惑星環境の七変化』と指摘する者もいるが、定かではない。なんにせよ、人の生き方を大きく変えた大事件であることは間違いなかった。


 各国はこの日を真ん中に、前後1日ずつを休日にした。国や宗教を越えて、世界的な3連休となったのだ。

 日本の場合は、地球さんがレベルアップした日を『地球の日』に、その前を『科学の日』、後を『魔法の日』として、3日連続の国民の休日とした。

 名称こそ変わるが、どこの国でも大きな記念日となったのだ。


 ほかにも地球さんイベントを警戒しているという面もある。超大規模なイベントが起こるのではないかと、全世界の人が思ったわけだ。

 そして、その足並みを揃えるための3連休であった。


 地球さんはこの日に起こることを、少なくとも1つだけ明言している。

 ダンジョン外に出てくる魔物に、魔法を使う魔物が混じるようになるというものだ。


 この日のために、日本はかなりの防衛力増強を図った。

 具体的に言えば、防衛のためのテイム動物を増やしたのだ。

 魔物が出現するのは、紫色の靄が出てから数分の猶予があり、この靄が出てくる気配を動物は敏感に察知できるため、各地に配備されたのである。


 あとは、レベル教育を一巡することにも成功しており、プラスカルマという注釈はつくが、個人の対応力も上がっている。


 一方で、電柱やガス、水道管などの生活インフラを魔物の魔法から守るための準備は残念ながらできていない。日数的に不可能だったためだ。


 そんなこんなで、日本では前夜である『科学の日』が何事もなく過ぎようとしていた。


 深夜23時50分。


 パジャマ姿の命子は、ベランダに出て、お月さまを眺めていた。


「もう1年か」


 世界が変わって0秒でダンジョンに落ち、夢中になれるものを見つけ、それから怒涛の1年だった。


 でも、まだ始まったばかり。

 地球さんはまだまだ変化する。

 自分たちもまた変わっていく。


 最近あったことで命子的に印象深かったのは、風見町に駐屯している自衛隊の戦闘犬がマナ進化したことだ。

 なんと魔力を使用して、ムササビのように滑空できるようになったのである。さらに、なにもない空中を蹴ったりもでき、飛ぶことに特化した進化をした。


 マナ進化した動物は他国でも少しずつ現れているが、地上の獣は走力や攻撃力、賢さを求める傾向が強く、空に進出しようと夢見た個体は初めてのことだった。


 人も動物も、そして地球さんもまだまだ変わる。

 世界はもっと賑やかになる。


「楽しみだなぁ」


 どんな未来が待っているのか、考えただけでワクワクする。

 そして、1年が経った今日、またなにかが始まるかもしれない。


「お姉ちゃん、風邪ひくよ」


「モモちゃん」


 萌々子も自分の部屋からベランダに出てきた。命子の部屋と萌々子の部屋はベランダで繋がっているのだ。


 特別な夜だから、萌々子も窓縁に座ってお月見をする。


「なにか大きなことが起こるかな?」


「どうだろうね」


「なにか起こってほしい?」


「どっちでもいいかな。イベントが起これば楽しめるけど、起こらなくても楽しめるからね。モモちゃんも中学生になるから、これからどんどん楽しくなるよ」


「うん、そうかも」


「みっちゃんもね」


「っっっ!」


 11歳になると初期スキルを得られるため、このタイミングでレベル教育の参加権を得られる。

 だが、小学生はスキルを得られようと冒険者にはなれない。冒険者の解禁は中学生からなのだ。

 萌々子は今年から中学生なので、光子も冒険に連れていってもらえるというわけだ。


 命子はスマホで時刻を確認した。


「あ、日付が変わるよ」


 残り10秒で地球の日になる。

 進む秒数を見つめて少し感慨深く感じているうちに、日付が変わった。


 命子はベランダの柵にちょこんと指を引っかけて、二年目の世界を【龍眼】で見つめた。

 しかし、特に何かが変わったわけではないようだ。


「やっぱりなにも起こらないか」


「まあ、いま日付が変わったのは一部の国だけだしね」


「だね」


 命子はふっと小さく笑った。


「さて、確認も終わったし、歯磨いて寝よう」


「うん。おやすみ」


「おやすみ。モモちゃん、みっちゃん」


 こうして、いよいよ地球の日が始まった。




 朝、家族でご飯を食べていると、ニュースが流れた。

 この日は多くのマイナスカルマ者が黒い炎で燃えたので、めでたいばかりではない。


 日本の場合は、たとえ極悪非道な人間であったとしても死者をさらに貶めるのを良しとせず、慰霊碑が建てられている。各国でスタンスは違うが、大体の国が同じような感じだ。

 死後どうなるか未だわからないが、冥福を祈る行事が各地で行なわれていた。


 一方で、新時代の記念を行なっているところもある。


 とはいえ、大きなイベントが始まるかもしれないので、どちらの行事もテレビ参加型のような形を取っている。


 次いで、本日の過ごし方についてのお知らせが放送された。


 すでに数日前から、地球の日をどうやって過ごしてほしいかの指針が、総理大臣からお願いされていた。

 それは単純なもので、不要不急の外出を避け、可能なら各自治体の方針に協力するというものだ。

 なにせ、生身なら一撃で即死するレベルの魔法を放つキラーマシンが解き放たれるのである。ふらふらとなんてしてほしいわけがない。


 多くの自治体が、自衛隊や警察官、消防団と、冒険者が連携して見回りをする方針となっており、命子たちが暮らす風見町もこれと同じだ。


「お父さんたちの見回りは午前だよね?」


「ああ。午後からは、みんなMRSのビルにいるから、なにかあれば来るんだよ?」


「うん」


 命子パパもほかのパパさんと見回りに参加する。

 一方の命子たちも見回りに参加することになっている。風見町の最強戦力なので。


「お姉ちゃん、気をつけてね」


「うん。まあ馬場さんもいるし大丈夫だよ」




 みんなと集まって見回りを始めるが、特に何も起こらず過ぎていく。


「出てこないねぇ」


「そうね。でも、もともと高い頻度で出てくるものじゃないしね」


 退屈そうな命子の言葉に、馬場が苦笑いして答えた。

 魔物一匹とも遭遇せずに、ただのお散歩みたいになっていた。


「ジューベー、異変はないデスワよ?」


「にゃっ」


「いないって言ってるデスワよ」


 本日は流家にいるキスミア猫、ジューベーが一緒だ。

 メリスは『見習いテイマー』をマスターしているので、意思疎通はばっちりだ。


 地上に出現する魔物の察知は動物を連れていくのが最も効率がいいため、ほとんどのグループがこのようになんらかの動物を連れている。


「今日はなにも起こらないデスかね?」


 ルルが空を見上げて言う。


「起こっても不思議じゃないけどね」


「あれを見るとそう思えますわね」


「でも綺麗デスワよ!」


 風見町の天気は晴天。

 命子たちの視線の先では、そんな青い空を背景に満開の桜が咲き誇っている。


 部長たちの卒業式は3月の上旬に行なわれたが、その時から桜は咲き続けていた。

 去年の桜も例年より少し長かったが、今年の桜はもっと長い気配がある。特に風見町周辺の植生は、植物学者たちから大きな変化の兆候だと注目されていた。


 そして、それは風見町だけでなく、各地のダンジョン周辺から世界中に広がっていくと考えられていた。


「私の入学式はいつも葉桜だったのよね」


 馬場が懐かしそうに言う。


「今年はきっと入学式も咲いてるよ。良かったね、紫蓮ちゃん」


「うん」


 紫蓮が頷くと、丁度、命子の腰のポシェットに取り付けられたトランシーバーに連絡が入った。


『亀沢信号付近に魔物の気配。自衛官2名、冒険者4名で対応します』


 命子はあせあせとトランシーバーを取り外した。


 命子はトランシーバーを両手に持ち、じっと見つめる。

 そんな命子に紫蓮が言った。


「羊谷命子は応答せんでいい」


「『了解、どうぞ』とか言わなくていいの?」


「うん。それは報告をまとめる人や指揮官の役目」


「私、指揮官じゃない?」


「ひら隊員」


「実は?」


「んー……ひら隊員」


「そっかー」


 命子はがっかりした。

 指揮官への道は険しい。


「いい頃合いだし、一度食事に戻りましょうか」


「そうですね」


 馬場の提案を採用して、命子たちは風見第一小学校へ向かった。

 小学校では、給食室を使って、見回りの人の食事を作ってくれているのだ。


 命子たちはラップに包まれたおにぎりと、豚汁を貰った。

 校舎と校庭の間にある数段の階段に座り、それを食べる。


「里芋、うまぁ」


 命子は味が染みた甘い里芋をほくほくしながら食べる。


「メーコ、こんにゃくのお団子が入ってるデスワよ?」


「それは玉こんにゃくだよ」


「もきゅもきゅデスワよ!」


 日本歴が短いメリスは、玉こんにゃくを初めて食べるようで、食感を楽しんでいる。お椀の中を箸で探し、もう一つ見つけてペカーッと顔を明るくした。


「メーコ、こんにゃくってなにでできてるデスワよ?」


「さすがの私も国家機密であるこんにゃくの製法は知らないけど、私の予想だとグミと一緒だね。シュワシュワの粉がつくと私の好きなコーラグミになるの。逆にお味噌とかを入れるとこんにゃくになるんだよ」


「はーっ、さすがお味噌デスワよ……」


「でしょ?」


「原料はこんにゃく芋だが」


 紫蓮のツッコミを貰いつつ、命子とメリスは玉こんにゃくを食べて、うまぁとした。


「やっほー命子ちゃん。ご苦労さま」


 そう挨拶してきたのは修行部の部長だった。


「あっ、部長。お疲れさまです」


「ふふっ、もう部長じゃないんだけどね」


「たぶん、みんなから一生言われますよ」


「カフェとかで言われたら箔がつきそうね」


 部長も見回り隊の一員で、同じく風見女学園の卒業生4名と自衛官1人、柴犬1匹で部隊を作っていた。


「そっちはどう? 私たちはF級を一体退治したけど」


「こっちは一体も遭遇してないですね。馬場さん馬場さん、まだ魔法を使う魔物は観測されてないんですよね?」


 命子は馬場へ質問した。

 馬場は箸を持つ手で口を隠しながら答えた。


「みたいね。海外からの連絡は遅れている可能性があるとしても、少なくとも日本ではまだ出てきてないわ」


 地上に魔法を使う魔物が出てくるのはかなり問題なので、世界的に観測情報を共有している。


「やっぱりお昼過ぎかな」


 部長がそう言って時計を見た。


「いま何時ですか?」


「11時50分」


 日本において、1年前に地球さんがレベルアップしたのはお昼過ぎのことだ。

 ただ、1年は正確には365日と5時間49分となっているため、1年前と同じ時刻になにかがあるとは限らない。

 とにかく一番疑わしいのは、日本時間でお昼過ぎから夕方にかけてである。


 命子たちは部長たちが連れた柴犬をわしゃわしゃして食事の腹ごなしとし、見回りを再開した。




 そして、とくになにも起こらないまま夕方になり、春の夕暮れの中で、それは起こった。


「鳥がおかしいデス!」


 いち早く察知したルルが鋭く注意喚起し、命子たちはそれぞれ武器の柄に手をかけて警戒する。


 ルルの言うとおり、鳥たちの様子がおかしかった。

 電線には仲が悪いスズメとカラスが隣り合って止まり、ブロック塀の上にはハトが乗っている。

 彼らは微動だにせず空を見上げ続けていた。


 命子は【龍眼】を光らせて、鳥や空を観察する。

 超大型イベントのような気配はない。鳥の様子だけがおかしい。


「これは、地球さんの言葉を受け取っているのかな?」


「情報共有。付近の鳥の様子に注視せよ。地球さんの言葉を受け取っている可能性あり」


 命子の呟きを、馬場がトランシーバーで他の見回り隊と共有する。


 それからしばらくして、命子の予想を裏付けるように、鳥たちが一斉にピーチクと鳴き始めた。

 夕暮れともなれば巣に戻っている鳥も多くいるため、鳥が一斉に鳴き始める姿は異様な光景だった。


「空のダンジョンが作られる……?」


 眠たげな目の片方を光らせて、必死に情報を探りながら紫蓮が言う。


 地球さんは、海のダンジョンの次は空だと言っていた。

 鳥だけになにかが起こっているならば、それが今日なのかもしれない。


 その時、命子と馬場のトランシーバーが緊急事態を告げた。


『緊急連絡、緊急連絡! 世界各地で陸地の浮上が観測されています! 風見町でも起こるかもしれません。人や家屋が巻き込まれるかもしれないので注意してください!』


「「「浮遊島!」」」


 ルルとメリスが尻尾をピンとして驚き、その隣で命子と紫蓮が手をブンブンした。


 そんな中で、ささらが冷静にスマホで検索をかける。

 すぐにエネーチケーの生放送を開き、全員でもちゃもちゃと顔をくっつけてその映像を見た。


「「ちっちゃ!」」


 それは命子と紫蓮が思っているような規模ではなかった。

 映像では、幅10メートル程度の大地が空に向かってゆっくりと浮き上がっていく様子が撮影されていた。

 さらに、映像では出ていないが、アナウンサーが焦った声で、海底からも同規模の陸地がいくつも浮上していることを告げた。


 最終的に、それぞれの浮遊島は地表から30メートルから200メートル程度の位置まで昇り、止まるのだった。


「これはいよいよマズいわね」


 興奮する命子たちとは裏腹に、馬場だけが難しい顔をした。


「マズいんですか?」


「そりゃマズいわよ。航空機のルートにこれが浮かんでいたら、当たれば一撃で墜落するわ」


「飛空艇の時代や……」


「残念ながら、まだ準備は整ってないわね。それに飛空艇でもこれに当たれば制御を失うわ」


 飛空艇の開発はまだ進行中だ。

 少人数が乗り回す分にはかなり良い性能に至っているが、一般人も乗る旅客機にするには性能が及ばない。

 手軽な旅行は、向こう数年は無理かもしれない。


「ふしゃー!」


 ふいにジューベーが威嚇の声をあげた。

 それに少し遅れて、ルルがジューベーと同じ方向へ鋭い視線を向けた。


「魔物が出たみたいデス!」


「行こう!」


「みんな、車に気をつけて!」


 すぐに気持ちを切り替えて、命子たちは走り出す。


「ワンワン!」


 近所の犬も異変を察知して、近くの電信柱についているボタンを前足で押した。

 すると電信柱の天辺についている赤色灯がクルクルと回り始め、犬はご満悦。


 魔物は出現気配を発してから実際に出てくるまで時間があるため、いかに早く現場に到着できるかが肝になる。

 人より早く魔物の出現を察知できる動物が光らせるこの赤色灯は、迅速な初動を手助けするために風見町で始めた苦肉の策だったのだが、これがかなりうまく機能しており、今では多くの国で採用され始めていた。


「偉いぞ!」


「ワンワン!」


 犬からの応援を受けつつ路地に入ると、そこには最近建ったマンションとその駐車場が。


 そこに紫色の靄が現れていた。


「メゾン・ファンタジア風見の駐車場にて魔物の出現を確認。敵種類、未確定。馬場隊、対応に入ります」


 馬場がトランシーバーで連絡を入れる中、全員で紫の靄を囲う。

 命子は瞳を光らせ、靄を観察した。


「特にいつもの靄と変わらないね」


 魔物はこの靄が固まって実体化する。

 先ほども言った通り、実体化まで時間があるので、それまでに現場に到着できれば対応はそう難しくない。


 騒ぎを聞いて、マンションの窓から住人が顔を出した。


「ご、ご苦労さまです。大丈夫そうですか?」


 住まいの50メートル範囲内で魔物が出現するのはそう珍しくないため、最近引っ越してきたマンションの住人にとって、むしろ命子たちが来たことのほうに驚いていた。少しワクワクした様子である。


「はい、処置は任せてください。危ないので下には来ないようにお願いします」


 これに馬場が答える。


 いよいよ紫の靄が実体化する。

 それを見た命子が叫んだ。


「樹木小僧だ! 魔法を使うよ!」


 それは東北にある白神山地に存在する白神ダンジョンに出現する魔物だった。


 等級はE級。

 木の骨に葉っぱとツタで肉付けしたような人型で、必ず杖を持っている。


 攻撃手段は、魔法のみ。

 水、土、風、光の魔法を操り、杖によって威力を増幅させてくる。

 魔法特化の魔物であった。


「よく知ってる……っ!」


 紫蓮は命子の博識に感心しながら、分身したルルとともに、万が一のために建物の防衛に入る。


 実際に、命子の魔物に関する知識は非常に高かった。

 命子の趣味はダンジョンの地図集めなのだが、その地図には必ずそのダンジョンの情報を記載した小冊子がつくのだ。妖精店内部のネタバレなどを嫌う命子だが、魔物の情報だけは毎回なめまわすように眺めているのである。特に魔物の写真が好き。


 紫蓮やルルが即座に動き出したように、全員があらかじめ決めていたフォーメーションを取った。

 ささらが盾を構えて前衛となり、今回はメリスが分身をしてアタッカー。


「スネイクバインド!」


 遊撃である馬場の鞭が風切り音を上げ、樹木小僧をその手に持つ杖ごとぐるぐる巻きにする。


 そして、命子は目をピカーッと光らせた。


 馬場の束縛術により、勝負は一瞬でついた。

 樹木小僧は杖を増幅器にして魔法を放つため、この状態になるとなにもできないのだ。

 さらに、馬場は鞭に風属性を纏わせられるため、不審な動きをすればすぐに高速の小ダメージ連打を食らわせることができる。


「ルルちゃん! ごめん、動画を撮影して!」


「「ニャウ! ガッデムショウイチデス!」」


「しょういち氏、無念」


 紫蓮が小さくツッコむ中、ちょっと間違えちゃった本体のルルはすぐにスマホを取り出した。

 そうして、鞭をカッコよく握る馬場を激写した。


「違う違う。敵を撮影して!」


「うみゃっ!?」


 ルルは慌てて緊縛された樹木小僧を撮影。


「オッケー。それじゃあメリスちゃん、とどめをお願い」


「「ニャウ! 行くデスワよ、ジューベー!」」


「ニャーッ!」


 2人のメリスとジューベーが走り出した瞬間、馬場の鞭が生き物のように樹木小僧から離れていく。


 それに間髪容れず、分身のメリスが身を低くして踏み込み、樹木小僧を小太刀で切り上げた。

 メリスはマナ進化しているうえに、樹木小僧は魔法特化なので防御力が低く、それだけで取り返しがつかないレベルで大ダメージになっている。


 しかし、メリスの攻撃は終わらない。

 空中に打ち上げられた樹木小僧に本体のメリスとジューベーによる、エックス攻撃が炸裂した。


 着地し、分身と一つになるメリスの横にジューベーがシュタリと降り立ち、お胸の毛を見せびらかしてお座り。

 その背後の上のほうで、樹木小僧は光の粒を作って消えていった。

 あまりに美しい連撃に、マンションの窓から歓声が上がる。


「解析できる私たちが魔法タイプと遭遇したのは運が良かったわね。命子ちゃん、どうだった?」


「樹木小僧を見たのは初めてなのでなんとも言えませんが、ダンジョンに出てくるE級の魔法タイプと大差ないですね」


「了解。ちょっと報告するわ、ルルちゃーん、さっき撮った動画送ってー」


 馬場が報告を始めたので、命子たちはメリスの連撃について語り合っていたのだが。


「そ、それは本当ですか!?」


 驚きの声を上げる馬場に、何事かとお喋りを止めてそちらへ顔を向ける。

 通話を終えた馬場は、命子たちに顔を向けて言った。


「いくつかの追加情報が確認されたわ」


「なにか大きなイベントが始まりましたか?」


「いいえ。それについては特に確認されてないわ。そうじゃなくて新情報が2つ。1つは地上で魔物を倒していないのにレベルが上がった人が現れたわ」


「おーっ、凄いですね!」


 今までのレベルアップは、必ず、魔物を倒すことに関わらなければならなかった。

 武具を作っても、修行しても、レベルは上がらなかったのだ。

 この法則が1年の節目によって変化した。


 これは非常に大きなことだ。

 レベル教育が一巡した日本だが、魔物が怖かったり、疾病があったりで受けなかった人もいる。こういった人も、日々の暮らしの中でレベルアップして、ファンタジーの恩恵が受けられるようになったのである。


 そして、馬場はもう1つの情報を告げるのだった。


「もう1点は……全人類に無条件で一般系ジョブが解放されたわ」


 地球さんの理は2年目に突入して、さらにパワーアップしたようだった。

読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想ありがとうございます。

誤字報告も助かっております。ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?レベルが日常の経験で上がるっていうことはモンスター湧きのイベントとか強制参加?? 自衛できる程度の実力は必要ですね…… そして、浮遊島……マナ的な要素で飛べなくなるかと思ったら…
[良い点] 〉日本の場合は、地球さんがレベルアップした日を『地球の日』に、その前を『科学の日』、後を『魔法の日』として、3日連続の国民の休日とした。 こういう所にセンスを感じる。作品全体を通してだけど…
[一言] 更新お疲れ様です は~まだ2年目だったですね、濃密な1年でした2年目も楽しみです
感想一覧
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