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9-29 1年間のエピローグ

本日もよろしくお願いします。

 DRAGON東京大会が終わって少し経ち。


 早咲きの桜がひらひらと舞う道を、命子はトボトボと歩いていく。


 その道の途中で、命子はたくさんの笑顔と涙を見た。

 手を繋いで歩く女の子たちの姿もそこかしこにある。

 そうやって仲良しな子たちにとって、今日は寂しくも特別な日だった。

 命子にとってもそれは同じで、だからこそ元気な顔をしょんぼりさせて歩いているのだ。


「だぁーれだ!」


 そんな命子に悪戯をする者が現れた。目ではなく角を持って。

 命子はほへぇとした気持ちよさそうな顔をしながら、目尻に涙をじわぁっと浮かべた。


「部長でしょ?」


「すげぇ、さすが命子ちゃん!」


「でしょ? 私、なんでもわかっちゃうんだ」


「おはよう、命子ちゃん」


「おはようございます、部長」


 挨拶を交わして2人は並んで歩きだす。


「今日もいつも通りの時間なんですね」


 夏休みが終わったあたりから、命子は朝の時間を調整して、部長と一緒に登校するようになっていた。

 その待ち合わせのスタイルは、お互いに鉢合わせなければ待たずに行くという淡白なもの。

 一緒に登校したければ起きる時間と出発する時間を合わせなければならず、それが相手のことを朝一番に考えているという体現にもなる、という2人だけの遊びだった。

 そんな待ち合わせなのに、命子と部長はほぼ毎日一緒に登校していた。


「まあね。今日で最後だもの」


 命子の質問に、部長はそう答えた。


 そう、今日は部長たち3年生の卒業式。

 だから、3年生は高校最後の朝日の中を、切ない気持ちとともに友達と一緒に歩いているのだ。


「こういう日は早く学校に行きたくなるものだと思いました」


「そういう子もいるかもね。それで誰もいない教室でチューするの」


「青春じゃん。部長は?」


「私は最後も同じ。いつも見るサラリーマンのオジサンも、信号待ちする緑色の車も、パン屋さんの焼き立ての匂いも、集団登校の子供たちの顔も、みんな今日でお別れ」


 部長はそう言って朝の景色を眩しそうに見つめた。

 命子は背筋をしっかりと伸ばして歩く部長の横顔を見て、しょぼくれた。

 いま挙げたものの中には自分もまた入っているのだ。


「……今日、泣いちゃうかも」


「じゃあ手を繋いでいきましょう! 命子ちゃんとは一度も手を繋いで登校したことないからね」


「完全に泣かせに来てるじゃん」


「そんなことないわ」


 部長の誘いに乗って、命子は手を繋いだ。


 女の子同士で手を繋いで歩いた経験は何度もあるけれど、こんなに素敵な先輩と一緒に手を繋いで登校するのは初めてのことで、命子は嬉しかった。


「命子ちゃん。覚えてる?」


「なにをですか?」


「私たちが命子ちゃんのところに修行部を作るお願いをしに行った時のこと」


「もちろん。調子に乗ってるって校舎裏に呼び出されるのかと思いました」


「ふふっ、あの時の命子ちゃんなら、全員ぶっ飛ばせたわね」


「みんな強くなったし、今じゃあもう無理です」


「みんな頑張ったからね」


「……はい、頑張りました」


「あの日からいろいろあったね?」


「……うん」


「今じゃ世界一の高校だもの」


 命子はじわぁっと目が熱くなってきた。


「ねえ、命子ちゃん」


「ぐすぅ……にゃぁに?」


「私たちの高校生活を最高のものにしてくれて、ありがとう」


「ひぅ、ひぅううう、にゃかせ、ふぐぅ。にゃ、泣かせに来てるじゃん……」


 命子はついにポロポロと涙を流し、繋いでない方の手でグシグシと拭う。

 そんな命子の可愛い姿を見て部長はニヤリと笑うが、悪戯でやったつもりなのに、自分も唇が震え、目頭が熱くなってきた。


「ふふっ、桜の花びらが目に入っちゃった」


「ひぅうう、おっきいですよ」


 部長も慌てて涙を拭い、繋いだ手を大げさにぶんぶん振って歩き出す。


 綺麗な青い空の下、命子と部長は仲良く登校した。




 卒業式には、3年生とその父兄、在校生からは1、2年の代表の30名のみが参加した。

 命子とささらとルルとメリスもその中に選ばれていた。

 ほかにも、修行部の運営でお世話になったスタッフさんたちの席も用意されている。


 式は進んで卒業証書授与となった。

 クラスごとに一人一人の名前が呼ばれ、卒業生が返事とともに起立していく。


 ささらは、親しかった先輩の名前が呼ばれると、ハッと顔を上げてハンカチを目に当てる。

 ルルとメリスも同じで、ネコミミをへにょんとしながら、日本でできた初めての先輩たちの門出なのに元気がない。


 命子はほとんどの先輩の、苗字か名前かあだ名を知っていた。随分可愛がってもらった。起立していく先輩の姿を見るたびに、みんなとの思い出が脳裏を駆け抜けていく。


 クラス全員の名前が呼び終わると、出席番号一番の生徒が壇上まで行き、証書を貰う。

 その際には揃ってお辞儀をするのだが、卒業生も涙腺が決壊して弱りに弱っているため、お辞儀は揃わない。


 お辞儀ができずに隣の子と寄り添って静かに着席する姿を、だらしないと呆れる出席者は誰もいない。

 親は娘たちのそんな姿を見て、風見女学園に入学させて本当に良かったと心から思っていた。


 校歌の合唱とともに、卒業式は終わった。


 命子たちはそっと体育館の出口まで移動し、その立ち位置を生徒会の子たちが持つ花のアーチの終わりに置いた。


 1組から順番に退場が始まり、号泣する親たちの拍手に包まれて花のアーチを潜っていく。


 先頭の子が出口に近づくと、命子とルルは渡り廊下へと続く扉を開けた。

 扉の形に切り取られた春の日差しの中では、卒業生の門出を祝う在校生たちが花道を作ってくれていた。

 その光景を見た1組の相川さんは、一気に涙を滲ませる。


「相川先輩、おめでとうございます」


「命子ちゃん、ありがとう」


 ギャルな相川さんを抱擁し、命子は祝福する。


 卒業生たちは胸を張って外へ出ると、たくさんの拍手と祝福の中を歩いて、教室に戻っていった。


「ささらちゃん。楽しかったわ」


「ルルっち、元気でね」


「メリス、頑張るんだよ」


 先輩たちが、命子たちに言葉をかけて体育館から去っていく。

 誰もがこの奇跡の1年間を、命子たちが運んできたものだと考えてくれていたのだ。


 でも、命子はいつも言っているけれど、それは違うのだ。

 笑っちゃうような修行部なんて部活を作ったのは3年生たちで、命子たちの方こそ、最高の新入生にしてもらえたのだ。


 だから、命子たちは心を込めて、卒業を祝福した。

 そんな中には部長の姿もあった。


「部長。おめでとうございます」


「ありがとう、命子ちゃん。ふふっ、今生の別れじゃないんだから、またいつでも会えるわ」


「はい。いつでも会えます」


 列を作って退場するのがこれほど惜しいと思えることはなく、部長は命子を少しだけ抱きしめて、退場した。


 卒業生たちが体育館からいなくなると、あとには寂しげに鳴る卒業ソングの中で咽び泣く親やスタッフさんたちの姿が残されていた。

 私たちの時もこんなふうになるのかな、と命子は少しだけその姿を見つめた。


「ささら。行こう」


 命子は涙を流し続けるささらの腰に手を回して、卒業生のあとに続いて退場した。




 最後のホームルームが終わり、卒業生たちはいよいよ巣立っていく。

 校門を出れば本当の卒業なのだと思うと、誰もが自然と学舎の中に留まった。


 けれど、そこには在校生の姿は不思議とない。

 もう帰ってしまったのだろうか、としょんぼりする卒業生もいる中で、その校内放送は流れた。


『これより修行部による卒業生の送別会を行います。特別な約束がない方は、ぜひ校庭にお集まりください』


「やべ、時間かかりすぎた。行くよ、ささら」


「ひゃい……でしゅわ……」


 もはやささらは一日付き添いが必要なレベルだった。


 中学生を卒業するまでひとりぼっちの青春を送ったささらにとって、とても仲良くしてくれた先輩たちとのお別れはとても堪えていた。

 ルルとメリスが、その傍らに寄り添って歩みを補助する。


 校庭へ向かう命子は、ふと一つの空き教室の前で足を止めた。


「リコ先輩? 行かなくていいの?」


 そこにいた2年生の先輩に尋ねる。

 教室の窓際にぽつんと置かれた机を撫でていたリコ先輩は、命子に向けて笑った。


「命子ちゃん。私は人を待ってるから。みんなで送別してあげて?」


 命子は、そっかと笑った。


 この学舎に詰まっている思い出は、なにも修行部だけじゃないのだ。

 生徒の数だけドラマがあり、そこには命子の知らない物語だってたくさんある。


 リコ先輩は、プラスカルマだけどレベル教育にすら参加していないという。きっと、こうやって誰かをずっと待っていたのだろう。


 命子は、素敵なことがあればいいな、と思いながらその教室のドアへ一度振り返り、ルルたちのあとを追った。




 卒業生が校庭へ出ると、そこにはどこに隠れていたのか、在校生たちが集結していた。

 多くの子が白銀色のダンボールアーマー・戦乙女の鎧を装着しているその姿は、みんなで頑張った結束の証だった。


 在校生たちはお世話になった卒業生たちを迎え入れ、そこら中で輪ができる。


「こんな素晴らしい卒業式はない」


 校長先生が職員室からその様子を見下ろして、言う。

 新米と言って差し支えないアネゴ先生だけれど、それに同意して頷く。


「あなたも行ってあげなさい。修行部の顧問なんですから」


「はい」


 アネゴ先生は三白眼に涙をいっぱい溜めて頷いた。

 教師という立場上、アネゴ先生は繰り返し風見ダンジョンに入っていた。メンバーはもちろん生徒たちだ。

 アネゴ先生は、敵をボコボコしていたレディース時代を送っていそうな見た目に反して運動は全然得意じゃないのに、もしもの時のために盾職に就いて、冒険者になったばかりの少女たちを守り続けてきた。


 ダンジョン内で自分から巣立っていく姿はもう何回も見てきたけれど、学校から巣立っていく姿にはまた違った感慨が湧き上がる。


 そんなアネゴ先生が外へ出ると、多くの卒業生に囲まれて、お礼を言われた。

 ギュッと閉じた三白眼からポロポロと涙が零れ落ちた。




 別れを惜しむたくさんの青春を遠巻きに見つめている少女が一人。

 教室ではお別れを言ってくれるクラスメイトもたくさんいたけれど、この場ではみんな自分のお別れに気持ちが一杯で、その子の下には誰もいなかった。


 脳裏にふわりと蘇るのは、2年の頃に気まぐれで仲良くなった1学年下の女の子。

 よく懐いてくれていたその子を傷つけ、冷たく突き放して関係を絶ち、そのあとに世界は大きく変わった。

 学校外でつるんでいた悪い友達との関係はあっという間に消えてなくなり、少女に残ったものはなにもなかった。


 少女はその子を探すけれど見つからず、トボトボと校門へ歩いていった。もうホームルームも終わり、高校生活も終わったのだから。これ以上、眩しいものは見ていたくなかった。


「先輩」


 ふいに呼び止められた。

 それはこの学校で一番眩しい存在。きっと自分の対極にいる子。


「羊谷さん……どうしたの?」


「先輩は、リコ先輩を知っていますか?」


「……うん。知ってるよ」


「リコ先輩、ずっと待っていますよ」


 ざわりと胸が騒ぐ。


「……どこで?」


 震える唇でそう尋ねると、命子は「空き教室です」と答えた。

 それを聞いた少女の目からジワリと涙が溢れ、夢中で走り出していた。


 命子はその後姿を見送り、うむと頷いた。

 きっとこれからチューするに違いないと。命子は空き教室にそんなロマンを持つ子だった。




 部長は、修行部部室で自分専用の魔狩人の黒衣(白)を羽織る。

 部長のためにみんなが作ってくれた、まるで将軍が羽織るコートのような金の刺繍が施された素敵な白い衣だ。


 執務机を指でなぞり、部室の景色を目に焼き付けてから、部長は静かにその場を後にした。


 そうして廊下を歩いていると、一つの空き教室に卒業生が飛び込んでいった。

 チューの気配! と部長はドキドキしながらその教室を覗き込むと、床に崩れ落ちて抱きしめあう卒業生と在校生の姿があった。

 卒業生の背後では光り輝く幻想的な花が咲き、それは風見女学園3年生にいた最後の悪っ娘の魂が救われたことを告げていた。


 これ以上は野暮だと思った部長は、開けっ放しだったドアを音もなく静かに閉じてあげた。


 部長は冷たい廊下の壁に指を這わせながら歩く。

 物に感謝するのは日本人の性か、部長の心にはこの学び舎に対する感謝があった。


 友達とお喋りしたり、ふざけて走り回ったりした廊下。1、2年の頃はそんなどこにでもある青春を送った。

 そして、3年生になると、この廊下でダンジョンでのお泊まりの研修をしたこともあった。また、風見町防衛戦の折には、たくさんの人を守ってくれた。


「長い間、お世話になりました」


 部長はそう呟いて、昇降口から春の光に溢れる外に出た。


 そこでは多くの生徒たちが抱きしめ合って、別れを惜しんでいた。

 校庭に下りる階段の上で、部長はその様子を眩しそうに見つめた。


 階段の上に立つ部長の姿に気づいた生徒たちが、少しずつ静かになっていく。

 別に演説をするつもりはなかったけれど、みんなが部長を見つめた。


 黒衣を風に揺らしながら部長は、口を開いた。


「地球さんがレベルアップして1年。私たちは夢中で楽しんだわ」


 よく通る声が、生徒たちの耳に溶けていく。


「無名だった女子高は、誰もが知る女子高になったわ。そうなれたのはね、この場の一人一人が新しくなった世界を全力で楽しもうって、考え、努力し、協力してきたからよ。全員で作ったそんな物語が、いま、私たちの魂に大きな誇りを宿して風見女学園から送り出してくれる」


 卒業生たちの胸に、その言葉がストンと収まった。

 この胸に宿っているのは風見女学園の生徒だったという誇りなのだと。


「3年生に素晴らしい1年間をくれて、みんなありがとう!」


 部長はそう言うと、頭を下げた。

 それに合わせて、卒業生たちも近くの後輩たちを抱きしめ、抱きしめられる。


「2年7組。コンちゃん、こちらに来なさい」


「は、はい!」


 部長から呼ばれて、2年生のコンちゃんが階段の上に上がった。


「すでにみんな知っていると思うけど、修行部の次の部長はコンちゃんよ」


 部長はそう言うと、自分の羽織っていた黒衣をコンちゃんの肩にかけた。

 コンちゃんは部長の温もりを感じるとともに、その華奢な体にズシリと重い物を感じた。


「修行部は決して一人では運営できないわ。みんな、コンちゃんを支えてあげてね」


「「「はい!」」」


 部長の言葉に、在校生たちから元気なお返事が上がった。


「それでは私の最後のお仕事よ。全員、風見乙女の詩、唱和!」


 部長が肩幅に足を開き、背中の後ろに手を組む。

 それと同時に校庭にいる全ての生徒が、流す涙をそのままにして、同じようにザッと姿勢を正す。それはかけ離れた実力を持つ命子たちだって同じだ。


 せーの、とふわふわした部長の掛け声と共に、修行部部訓が謳われた。



『乙女よ淑女たれ。その心に凛と咲く誇りを宿せ。

 乙女よ修羅たれ。その体を暗雲切り裂く刃となせ。

 乙女よ修行せい。己を磨き、新たな時代を華麗に生き抜くのだ。

 我ら風見女学園修行部は永遠なり』



 もしもの際の式典用に作られた最後の文言が、青い空に溶けていく。


「……私は全力で青春したわ」


 部長は風見乙女の詩が消えていった青空を見上げて、そう呟いた。


 その時である。ふいに部長の胸がドクンと高鳴った。

 体が異常に熱くなり、それを冷ますように呼吸も荒くなる。


「「「ぶ、部長!?」」」


「「「先輩!?」」」


 部長だけではない。

 数名の卒業生たちが自分の体を抱えて蹲った。


 すかさず【龍眼】を発動した命子は、大きな声で言った。


「マナ進化が始まってる! みんな吹き飛ばされないように注意して!」


 命子の言葉が正しいとばかりに、心配する生徒たちを弾く突風が吹く。

 部長たちのマナ進化が始まった。




《Sインフォ:パーソナルイベント『群青青春』達成》




 翡翠色の繭の中で、部長は祝福の音色を聞いた。


 その瞼の裏側で見る夢は、とてつもなく大きな存在たちに、自分が暮らした学校の思い出をわたわたと身振り手振りを加えて語る夢。

 けれど、そんな夢みたいな時間が今日で終わってしまったことをしょんぼりと告げた。

 でも、これからは大人の仲間入りをして、また新しい友情を育み、魔法の道を究めるという自分の夢に向けて頑張るのだと、胸を張って伝えるのだった。




 部長を包み込んだ卵型の繭が内部に吸い込まれていく。

 両手を胸の前で組み、目をキラキラさせる女子高生たち。まるで出待ちのファンのようなその表情は最高に女子女子していた。もちろん、部長や他の先輩たちの進化シーンをスマホで撮影している子たちもたくさんいる。


 仰向けになって浮かびながら瞼を開けた部長は、視界に広がる空を見つめる。


 ——ああ、なんて世界は美しいのか。


 どこまでも広がる空の青さに心が揺さぶられる。生まれ変わった肌を撫でる風も、肺を満たした空気も、世界を彩る多彩な音も、全てが魂を熱くする。

 そう感じるのは、きっと最高の仲間たちが周りで祝福してくれているから。


 少女は、青空に向かって手を伸ばして、指先に魔力を宿した。

 情熱的な炎の色を宿した魔力が、空をキャンバスに文字を刻み込む。


『風見女学園 三年 修行部部長 石音いしねえにし


 役職のあとにさらさらと自分の名前まで綴り、それがふわりと空に溶けていく。その様子にクスリと出た笑いには、切なさが多分に含まれていた。


 心配して駆けつけた命子は、部長のセンチメンタルな演出にあわあわした。

 その隣ではコンちゃんもまたあわあわしている。

 あまりに素敵すぎた。


 一連の素敵演出を終えた部長は、羽のように軽やかに地面へと着地した。風を含んでふわりと翻ったスカートの下で、カカトをはすに揃えてカッコ良く立つ。

 そうして、首の後ろで両手をクロスし、マナ進化したことで紐が解かれた長い後ろ髪をサラリとすくい上げた。

 アニメチックな制服を着た部長を中心に、煌めくような黒髪が腕の動きに合わせて大きな扇型を作り、柔らかく腰に落ちていく。


「「「きゃぁああああ!」」」


 まるでシャンプーのCMの如き美麗な仕草に、女子高生たちは黄色い声を上げて我先にと部長へ突撃した。


 部長の素敵演出を見ていた命子は、こそこそと首の後ろで両手をクロスして、後ろ髪を梳き上げた。ショートカットなのでモチャッとした。

 一方、コンちゃんはあわあわと手を右往左往させ、自分の肩に掛った黒衣を部長の肩に戻した。こんな伝説を作った人の後釜は荷が重すぎた。もう一年やらせる構え。


「これはもうコンちゃんのよ。とても似合ってるわ」


 部長はそう言って、正面からコンちゃんに黒衣を掛けてあげる。そうすると必然的にきらめきを帯びた部長の顔が近づいて、コンちゃんの心拍数は急上昇。


「だ、抱いて!」


 コンちゃんは我慢できずにだきゅっと抱きついた。

 ダンジョンのテント内などで隙あらばスキンシップしていたコンちゃんだが、マナ進化したあとの部長の色香はヤバかった。


 マナ進化したばかりの部長にゴシゴシと体を擦りつけるコンちゃんは、みんなから引っ叩かれてペイッと輪の外へ弾かれる。


「「「ふわぁあああ、せんぱーい!」」」


 また別のところでも歓声が上がる。

 特に熱心にダンジョンへ入り、修行を続けてきた卒業生たちもマナ進化しており、後輩たちから羨望の眼差しを受けていた。


 熱狂する在校生たち。

 それがどこでどう変わったのか、お神輿に変わった。


「「「わっしょい! わっしょい!」」」


「「「わっしょい! わっしょい!」」」


 マナ進化をした先輩に限らず、お世話になった先輩を乗せ、卒業生たちのお神輿が学校を練り歩く。


 そこにはお神輿を恥ずかしがっていたささらの姿もあった。

 いつもは乗せられる側だけれど、その肩に今日の主役を乗せ、祝福のわっしょいをする。


 なぜか一緒のお神輿に乗せられた命子へ向けて、部長が満面の笑みで言った。


「ねえ、命子ちゃん!」


「なぁに、部長!」


「さいっこうに、楽しかったわ! ありがとう!」


 世界を熱狂させるほどの伝説を作り上げた風見女学園3年生は、こうして卒業していった。


読んでくださりありがとうございます!


これで一年生編は終了です。

次回から話を飛ばした武具フェスなどの閑話を少し挟んで、二年生になる予定です。


面白かったと思ってくださった方は、どうぞ高評価のほど頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
ショートカットでモチャッとした ちょっと命子ちゃん今いいとこだから……
[良い点] 9章も泣き章ですね目が痛い 可愛くてかっこよくて笑えて泣けるとか最強の小説ですね これまで出会った物語で1番好きな小説かもしれない [一言] 作者様に感謝を。
[良い点] うぅ、こんなんされたら涙で続きが読めない
感想一覧
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