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9-23 キャルメの秘密

本日もよろしくお願いします。

 大きな交差点に咲いた巨大なタンポポ。

 その出現によるものか、キャルメが放出する赤黒い光が少なくなった。


 キャルメの周りに集う人々の頭の中に、優しげな声が響いた。


『この少女は、いま、命を終えようとしています』


「「「っっっ!?」」」


 突然告げられた恐ろしい告知に、全員が息を呑んでキャルメを見た。

 先ほどまで元気だったのに、あの赤黒い光の放出現象はそこまでの出来事だったのかと。


「キャルメ!」「お姉ちゃん!」


 カシムたちが神獣の畏怖を振り切って、キャルメの体へ手を伸ばす。

 その手は命子の時とは違ってキャルメの体に届き、仲間たちに抱き留められた。

 仲間から抱きしめられると、キャルメから放出される赤黒い光がさらに減っていく。


『この悲しき花を助けたいですか?』


 それに続く質問に、馬場たち自衛官はヒュッと息を呑む。

 その脳内では周りへの被害とキャルメの命を天秤にかけ始めた。

 破壊の限りを尽くすことは今までの経験上ないと思うが、風見町防衛戦で見たような巨大魔法陣の上で大規模レイドをするといったことは十分に考えられる。


 それは命子も、冒険者たちも同じだ。


 尻もちをついたまま言葉を詰まらせる命子。

 そんな命子に、カリーナが縋りついて涙を流しながら訴えた。


「しとさま! お姉ちゃんを……あぁああ、お姉ちゃんを助けて……っ!」


 その悲痛な叫びは、静まり返った町に溶けていく。


 馬場が目を瞑り、唇の裏を噛んだ。

 カリーナのお願いを聞いた命子が、覚悟を決めた顔をしているからだ。


 命子がカリーナの頭を撫でながら立ち上がった。

 いつまでも尻もちついたままじゃいられない。


 それに続いてキャルメと親しいメリスが、そして、ささら、ルル、紫蓮も立ち上がる。


「女の子一人救えねえで、冒険者は名乗れねえ!」


「ったりめえよ! 女の子を救ってこその冒険だ!」


「報酬は少女の笑顔、プライスレスだな」


 威勢の良い声が上がり、神獣の畏怖を振り切って、一人、また一人と冒険者たちが立ち上がっていく。


「みんな、覚悟を決めなさい」


 やはりすでに立ち上がっている自衛官たちに馬場が言う。

 もはやこうなってしまえば拒否はできない。

 だからこそ、どんな化け物が出てこようとも、まずは真っ先に自分たちが先陣を切って盾となるのだ。


 DRAGONに出場した一級の戦士たちの姿に、キャルメ団の子供たちが涙に溢れた瞳を輝かせる。


 ――みんな親切で優しくて、いい国です。


 キャルメのために立ち上がった大勢の人たちの顔を見て、命子はキャルメの言葉を思い出す。

 命子はフッと口角を上げた。


 ならば、そう言ってくれたキャルメちゃんのために、やってやろうじゃないか!


「はい。キャルメちゃんを助けたいです!」


 タンポポに向かい、命子が宣言する。


 タンポポはその大きな体を揺らした。

 それはまるで愉快なものを見るように。


『ではお行きなさい。崩壊せし心の中へ』


 タンポポにそう告げられた瞬間、不敵に笑っていた命子の意識がフッと途切れた。


「命子ちゃん!?」


 馬場が倒れる命子を抱き留める。


「しとさま!」


 命子に縋りついていたカリーナも、びっくりして目を広げた。


『これより現れる魔法陣に描かれた12の円に乗りなさい。あなた方の魔力により、2つの花の命が保たれます』


 タンポポの言葉を冒険者たちは静かに聞く。


『私にできるのはここまでです。世界を彩る花々よ、どうかこの悲しき花を救ってください』


 そう告げたタンポポは、光の粒になって消えていった。

 その光の粒はアスファルトに降り注ぎ、キャルメを中心とした複雑な魔法陣を描き、光り輝く。タンポポが告げた通り、その魔法陣の縁には12の円があった。


「ぴゃあっ!? ばば、馬場さん! 羊谷命子の体から魔力がどんどん抜け落ちてる!」


 右目の【魔眼】を光らせた紫蓮が命子の異変にいち早く気づき、叫んだ。


 ステータス上の魔力が0になれば、次はパッシブスキルを起動している内在魔力を消費し始める。その次は修行で強くなった体を維持する魔力、そして最後に生命維持の魔力が消費されると研究でわかっている。生命維持の魔力を少しでも消費すると生物は一気に衰弱していき、死ぬ恐れがある。


 馬場は仰天して命子を見ると、すぐに自衛官に命じた。


「至急、円の中に入りなさい!」


 自衛官たちは転がるようにして12個の円の中に入る。

 すると魔法陣は光を強めた。


「どう紫蓮ちゃん!?」


 馬場自身も瞳を光らせて魔力視をしているが、より深く見える紫蓮に尋ねる。


「これは……はい、大丈夫。相変わらず魔力がどんどん出ていっているけど、その分、魔力が流れ込んでいます」


 その答えを聞いて、馬場はホッと息を吐いた。

 おーっ、と周りで聞いていた冒険者たちもやるべきことを理解した。


 しかし、ホッとするのは早かった。


「「「ぐぅううううううう!」」」


 円に入った自衛官たちが、滝のような汗を流しながら苦悶の声を上げたのだ。


「おい、大丈夫か!?」


 周りにいる自衛官が尋ねるが、説明できるような状況にない。

 これはいかんと、その自衛官はすぐに円の中の自衛官の服を掴んで外に引きずり出す。


「お前は至急報告だ!」


 そう言って、自身が円の中に入った。


 その途端、自衛官は仲間の苦悶の意味がわかった。

 全身に虚脱感とも痛みともつかない、今まで感じたことがないダメージを受けたのだ。

 必死にステータスを表示させると、残りの魔力が高速で減り続けている。

 1秒で5点は消費されているだろう。


 その事実は外に出た自衛官により馬場や上官、周囲の冒険者に告げられる。


「これは民間人には危険すぎるな」


 二巡目の自衛官と交代された馬場と上官が話し合う。

 すでに応援も呼んでいるので、すぐにでも来るだろう。

 しかし、わずか1分で12人もの魔力が300点ずつ減る以上、いったい何人必要なのか。


 そうこうしているうちに増援の自衛官がやってくるが、その時である。


「お疲れさまですわ。交代いたします」


 ささらが自衛官を退かして、円の中に入ってしまった。


「さ、ささらちゃん!?」


 驚愕する馬場に、ささらは歯を食いしばって笑う。

 慌ててささらを出そうと駆け寄る馬場の前に、ルルが飛び出した。


「友達のためデス! ババ殿、手出しは無用デス!」


 その後ろ円の外には、紫蓮とメリスが並び、次は自分だと列を作っていた。

 先ほど出走したばかりの5人は残り魔力も少ない。しかし、だからと言って黙って見てなどいられない。


 ささらたちだけではない。


「よう、交代だ。お疲れさん」


「ぐぅうう、がはっ、はあはあ……き、君は赤い槍の?」


 赤い槍が円の中で苦悶する自衛官の襟を掴み、外に出し、自分が中に入ってしまった。


「命子さまとキャルメたんの血肉となるならば、我が魔力など惜しいものか」


「むしろ光栄の極み。こういう時のために魔力を鍛え続けたのだ。全て絞り出そうぞ」


「二階堂君、60秒くらいで引きずり出すでござるよ」


 悠然と前に進み出たのはアイズオブライフ。

 赤い槍と同様に、自衛官を外に出し、なんのためらいもなく円の中に入っていく。

 が、赤い槍も二階堂もカッコつけられたのはそこまで。円の中に入って一拍後には、ガクリと膝をついて苦悶の声を漏らす。


「娘のために、ありがとうございます」


 そう言って自衛官と交代したのは、観客の中から姿を現した命子パパだった。

 まるで魂を強引に絞られているような得も言えぬ苦痛が体に襲い掛かるが、命子パパは歯を食いしばり、うめき声一つ上げずにそれに耐える。その視線が向かう先は、娘とその新しい友達の姿。


 そんな命子パパの後ろには、各家の親も並んでいた。


「聞いたわね、1秒で5点よ! 各円に計測係を用意して中の人を管理して! 中に入ると動けないほどの圧が掛かるみたいだから、ギリギリにせずに30点残して救出しなさい!」


「「「はい!」」」


 部長の指示に、風見女学園の生徒たちが、秒数測定用のスマホを片手に12個の円に走り出す。さっそく次の人の魔力量を聞き、システマティックに管理し始めた。


 自衛官が止める間もなく、大きな交差点には冒険者たちによる長い列が出来上がっていた。


 その光景を見たカシムたちは、涙を流しながら頭を下げた。


 キャルメの下へ戻ったカリーナは、赤黒い光を漏らしながら気を失うリーダーへ向かって、心の底から絞り出すようにして言った。


「キャルメお姉ちゃん……みんな、優しい人たちだよ……だから、戻ってきてよぅ……っ!」




 命子は、ハッとして意識を取り戻した。


「ここは?」


 そこはビルの内部非常階段のような場所だった。

 電気は点いておらず、明り取りから零れる赤い光だけを頼りにした少し気味の悪い階段だ。


「こえー、ゾンビが出てきそう」


 そう言って立ち上がる命子の視界に、淡い光に包まれた小さなタンポポが映った。

 先ほどのようなプレッシャーはないものの、普通のタンポポとは一線を画す存在感があった。


「タンポポの神獣さんですか?」


 命子の質問に、タンポポは静かに揺れて答えた。


『タンポポというわけではありませんが、この世界におけるタンポポとはよく似ていますね。さあ上にお行きなさい』


 タンポポはそう言うと、光になって消えていった。

 静かになった非常階段で、命子は周りを見回した。


「え、これは私だけでやるの? ……今日が命日になるんか?」


 命子が不安に思いながら階段を上がり始めると、次の踊り場ですぐにタンポポを見つける。


「ここはどこですか?」


『ここは心の中。2つの花の心が交わる場所』


「私とキャルメちゃんってこと?」


『いいえ。あなたはあなた。この場を作るのは今を生きる花と消失した未来の花です』


「なるほど。わからん」


『終わりの子。それが彼女の辿るはずだった未来の姿です』


「終わりの子……? 私は始まりの子っていう話だけど……」


『始まりの子は地球さまが決めますが、終わりの子はその者を取り巻く全ての環境が生み出します。この世界において、終わりの子は2人います。キャルメとウィードという男です』


 タンポポが光の粒に変わったので、命子は再び階段を上がっていく。

 その後も踊り場に出るたびに、タンポポは語っていく。


『彼女は特殊なのです』


「天才だよね」


『それには理由があります。その理由をお見せしましょう』


 その言葉とともに、命子は一つの映像を見た。


 それは1人の女性だった。

 全身が砂埃で汚れ、容姿も歳もわからない。

 女性は荒野を彷徨い、ついには倒れてしまう。

 飢餓と喉の渇きが限界に達していると見て取れる姿に、命子は悲しい気持ちになった。


 もう死ぬばかりのはずだった女性だが、その時、鼻先にある石の下が濡れていることに気づく。

 震える手でその石を退かすと、そこには翡翠色に輝く小さな水たまりがあった。

 水というには恐ろしい色合いだが、女性にとってそんなことはもはや関係なく、死に物狂いでその水に口をつける。

 すると不思議なことに、喉の渇きどころか空腹感も立ちどころに消え去ってしまった。さらに一瞬の飢餓からの解放だけでなく、数か月は十分に栄養を摂ったかのように元気な体となっていた。


 そこで映像が終わった。


「この水は……」


『私の魂から漏れ出た水です。この水を飲んだ彼女は数年後に身籠り、そうしての花、キャルメが誕生します。彼女はこの水を飲んだ母から、私の力の欠片を受け継いだ花なのです』


 その話を聞いた命子は、日本昔話にも似たものがあることを思い出す。

 とある夫婦が山に湧き出た水を飲むと、子宝に恵まれたという話だったか。その子供は非常に優秀で、大きな手柄を立てたと記憶している。


「タンポポさんが降臨したのも、これが理由ですか?」


『はい、その通りです』


 神獣は個体を贔屓する場合があると命子は考えていた。それが可愛い子供なのか、飼育しているアリの巣に現れた金色のアリンコみたいな感じなのかはわからないが、とにかくお気に入りの個体はあるのだろう。

 自分の力の一部を持つキャルメを、タンポポの神獣は気にかけているようだった。


『私の力の欠片を持つことは、今の世界にあってはそこまで特別なものではありませんが、以前の世界では努力さえすれば他を隔絶するほど圧倒的なものになります』


 タンポポはそう言って消えていくので、命子は次の踊り場へ駆け足で向かった。


『本来なら、地球さまのレベルアップはまだ先のことでした』


「いま明かされる驚愕の事実! そうだったんですか!?」


『はい。地球さまが次に目覚めた時を予定していましたが、あの日、終末の鐘が鳴ったことで予定が変わりました』


「終末の鐘……?」


『地球さまが己の身に危険が迫った時に鳴る警鐘です。実際に鐘の音が鳴るわけではありませんけどね』


「地球さんの危機……つまり地球さんは未来も見えるんですか?」


『いいえ、見えません。これは危機回避の本能のようなものです。例えば、あなたの身に強力な攻撃魔法が放たれたのなら、あなたはその後の死を予測できるでしょう? それと同様に、何十億年も生きる地球さまの場合は、数年ほど先までなら自分の危機がわかるのです』


「ふむ、なるほど」


 地球さんの危機……終わりの子……神獣の力の一部を継承したキャルメ。

 命子は階段を上りながら考える。


「つまりキャルメちゃんが地球さんに致命傷を与えるってことですか?」


『少し違います。彼女は地球さまを死の星に変える引き金を引いてしまうのです』


「どういうことですか?」


『あの日、彼女は悪しき者に連れ去られていました。その後の彼女がどのような人生を辿るのか、それは我々にもわかりません。地球さまでも未来は見えないと言ったように、過程はわからないのです。しかし、直前の出来事はわかっています』


 命子はゴクリと喉を鳴らして、タンポポの姿を見つめる。


『キャルメはウィードという男を殺害します。その瞬間、この世界にあるほぼ全ての大量破壊兵器が射出されることになります。ウィードの命とシステムが直結していたのでしょう。これは地球さまのレベルアップがなければ、キャルメが連れ去られて5年後に起こっていたことです』


「ご、5年後……」


 命子はゾッとして、思わず指遊びを始めた。

 ニコパと笑って生きてきた人生は、20歳になる頃には終わっていたのだ。


「だから、地球さんは兵器を土に還したんですか?」


 ウィードという男を殺すと世界が滅ぶなら、カルマ式ステータスシステムの発動と同時に世界は滅ぶことになる。もちろん、ウィードが悪だったならの話だが。だから地球さんはレベルアップして、真っ先に兵器を土にした。命子はそう推理した。


 しかし、タンポポはこれを否定した。


『いいえ、地球さまが大量破壊兵器を嫌ったのは、単純にオシャレが破壊されるからです。オシャレとは、森や花々や生き物はもちろん、人が作るお家や道路もそうです。あなたも自分の服に大きな穴を空けてしまう虫がついたら、その虫の都合など考えずに排除するでしょう? そういった地球さまの都合が理由です』


 地球さんは最初からそう言っていたな、と思いながら、命子は静かに頷いた。

 おそらくウィードと兵器を繋ぐシステムを無効にすることは、レベルアップした地球さんなら普通にできたのだろう。だって大量破壊兵器を全て土にしてしまったのだし。


「……えっと、その未来は地球さんがレベルアップしたから、もうないんですよね?」


 兵器は全部土に還ったが、それでも衝撃的すぎて聞かずにはいられない。


『はい。地球さまの自衛能力は格段に上がり、さらにカルマシステムが起動した世界で、死の星を作るほどのことを行なうのは極めて難しいですから。我々も力を行使できますしね』


 タンポポが消え、命子は指遊びをしながら、しょんぼりして階段を上る。


 いったい連れ去られたキャルメはどんな人生を送るのか。

 大量破壊兵器を発射するシステムと自分の命が連動する頭おかしい存在は、たぶん秘密結社シスターガルに関わる人しかいないだろう。おそらくは総帥や黒幕、あるいは専属の科学者か。

 なんにせよ、そういう存在と関わってしまい、復讐するほどの人生を想うと、命子の足取りは重くなった。


「地球さんはキャルメちゃんを殺そうとしているんですか?」


 指遊びする命子は俯いた顔でチラチラとタンポポを見ながら、尋ねた。


『いいえ。今の彼女にはなんの罪もありません。彼女の命が燃え尽きようとしているのは、彼女が本来辿るはずだった未来から憎悪が流れ込んできているからです。今の彼女からすると理不尽な話ですが、母なる星が育んだ生命のほとんどを消し飛ばす運命はそれだけ強烈なのです』


「ああ……」


 命子は昨日屋上で見たキャルメの背中を思い出した。

 キャルメは赤い万華鏡の中に、滅びの世界を見ていたのかもしれない。


『あの小さな花の中で、未来から流れ込んだ莫大な憤怒の炎が燃え盛っています。この炎がついに魂を壊し始めました』


「そんな……それじゃあ、私はどうすればいいんですか?」


『わかりません』


「ふぇええええ!? どうして!?」


 命子の指遊びが加速する。


『通常、終わりの子は生まれないのです。星は普通にレベルアップし、そうしてカルマシステムが宿った世界で世代を重ねた生物からは、終わりの子はまず生じません。つまり、私たち神獣も地球さまも、未来から憎悪が流れ込む存在を正常に戻す方法を知らないのです』


「……知らない? ちょっと待ってください。じゃあ私がここにいるのは?」


『彼女の魂があなたを求めたからです。彼女の人生で、あなたはとても重大なピースなのでしょう』


 タンポポが消え、命子はトボトボと階段を上った。


「……なんで私なんだろう?」


 キャルメには苦楽を共にした素敵な仲間たちがいる。

 それに対して、命子はわずか2日の付き合いだ。それに、日本でぬくぬく過ごしたこの人生が、キャルメの手助けになるとは思えなかった。


 ついに上り階段はなくなった。

 その片隅でタンポポが揺れる。


『申し訳ありませんが、私はここから先へは進めないようです。小さな花よ、あなたに花々の加護を』


「……ありがとうございます」


 タンポポが消え、そこには指遊びをする命子だけが残った。


 正直、まったく自信がない。

 でも、いまさら後戻りはできないし、仮にそれができてもそうすればキャルメはきっと死んでしまう。


 やるっきゃない。


 命子はその指遊びを解き、ギュッと拳を握る。


「笑って生きてきた私を呼んだのなら、深刻な顔をしても仕方がないか。私には深みのある人生なんてわからないんだから、元気に笑った女子高生として頑張るしかない」


 命子はそう言って、自分のスタンスを再確認した。


 それから持ち物を確認し、服の中に忍ばせてある魔導書ポーチが使えることに気づく。

 もし、拳法の達人であるキャルメと戦いになったら、魔導書だけが自衛手段になる。


 どうなるのか見当がつかない。

 でも進むしかない。


「行くぞ!」


 命子はふんすと気合を入れて、目の前に佇むドアを開くのだった。


読んでくださりありがとうございます!


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告も助かっております、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 好きなお話なんだけどね 先生の他の作品のタンポポ共を見てるとねwww別のもんが飛び出してくるんすよwww 爆散!爆散ですぅ!!!!
[気になる点] もしもあった世界からの憎悪が時空を超えて飛んでくるってすごいなぁ
[一言] クロノクロスってゲームで「殺された未来が復讐にきた」っていうフレーズがあったけど、それかな?
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