表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/430

9-16 メリス出走

本日もよろしくお願いします。

■設定変更のお知らせ■

『9-12』のルルママと一緒に出走したキスミア猫は、ジューベーだけに変更いたします。

ご了承ください。

 時間になり、命子たちは最後の待機所に移動した。

 最終待機所はスタート地点であるステージの裏側にある陣幕で、呼ばれたらすぐにステージに上がれる位置となっている。


「みなさんは最後の選手の演武が終わったあとに一度全員揃っての紹介があります。予定では16時になりそうです」


「わかりました!」


「その時になりましたらご案内しますので安心してください」


 スタッフさんが陣幕から一旦出ていき、命子たちは5人、その場で待機することになった。

 すでに最終の選手は出走しているので、今のスタッフさんももうすぐにでも戻ってくることだろう。


 陣幕なので外からの歓声がガンガン聞こえてきており、人によってはこの時間はなかなかプレッシャーになっていたかもしれない。

 しかし、命子たちの中にこんなことでプレッシャーを受ける子などはいやしな……否、いるっ!


「シャーラ、大丈夫デスワよ?」


「え、なんのことですの?」


 メリスの質問に対して、ささらは「別になにも気にしてないですわ」みたいな顔でツンとした。しかし、そのすぐあとにほかの選手に向けられた歓声を聞いてビクンと肩を揺らす。


 命子とルルはそんなささらの姿を見てから顔を見合わせると、胸の前で手をカギ爪のように曲げてわしゃわしゃと開閉した。


「な、なんですの?」


 たじろぐささらだが、その顔からは明らかにキャッキャを望んだ気配が漂っている。


「なんデスのじゃないデース! 行くデス、メーコ!」


「合点承知の命子クラッシャー! ぎゅるるるるる!」


「ひゃーん!」


 後ずさるささらに命子が日常遣いの必殺技を放つ。

 揃えた両手をぎゅるんぎゅるんとさせながら、ささらのわき腹を強襲する命子。

 それにルルとメリスが参戦して、こちょこちょが始まった。


 命子クラッシャーはそのまま軌道を変え、紫蓮にもその牙をむく。

 陰キャ気味な紫蓮もまたささらほどではないが緊張した面持ちで、お姉ちゃん属性の命子はそれを察知していたのである。


「ぴゃ、ぴゃわわ、む、む、無駄っ!」


 しかし、紫蓮は命子クラッシャーをひらりと回避して、そのまま命子のお腹を抱っこして技を封じる。こうなってしまうと命子は紫蓮の腕の中でビチビチするしか術はない。


「みなさん、準備はよろ……おっくっ」


「「「はわっ!」」」


 スタッフさんが陣幕へ入ってきて、命子たちのキャッキャを目撃する。

 頬を真っ赤に染めたささらがルルとメリスの頭をポカァと引っぱたき、紫蓮の腕の中で命子がビチビチしまくった。


 そんなこんなで命子たちの紹介が始まった。


 ステージ上に立った命子たちの姿を見て、観客から大きな歓声が上がった。

 その歓声に、社交的な命子とルルとメリスがにこやかに手を振って応える。

 ささらも頑張って笑顔を作って、紫蓮は無表情で小さく手を振った。


『みなさんお待たせいたしました! 大会の最後を飾るのは五人の少女たち。彼女たちこそ新世界が生み出した生きる伝説! その偉業にもはや説明は不要でしょう!』


 ステージの前では各テレビ局で最強のカメラマンたちが撮影しており、その中には命子たちでも知っている有名なカメラマンもいた。例えば、大江戸テレビの人気番組『大冒険者時代』のレギュラーカメラマン・神谷龍一などだ。

 これは命子たちのスペックがどれほどかテレビ局側がわからなかったため、ダンジョンに通い慣れた最強のカメラマンを投入したわけである。


 出走順に紹介が始まり、まずはメリス。


『エントリーナンバー396番は、メリス・メモケット選手! キスミアからやってきた留学生の彼女は流選手の幼馴染です! その実力は間違いなく冒険者最高峰であります!』


 本日のメリスは、風見町の職人に作ってもらった白地に緑のラインが入ったクノイチ装束を着ていた。それがメリスの銀髪ととてもよく合っており、キスミア女性の美しさと相まって、観客席からは感動の籠ったため息が聞こえる。


 ちなみに、ちゃんとした職人がレシピを基にして作った装備は、ダンジョンの店売りの装備よりも一段階強い特徴があり、まさにこの装備はそれに分類された。


 紹介を受けたメリスは前に出て、ぴょんとジャンプして着地と同時に四肢を広げて『大』の字を表した。左右に広げた腕を上と下からゆるゆると回転して、胸の前で合流するとビシィッとにゃんのポーズを作った。


 テレビではメリスの姿を映すとともに、どこのチャンネルで追いかけるかデカデカと明記されていた。これはほかのメンバーも同じだ。


『エントリーナンバー397番は、有鴨紫蓮選手! 最高の冒険者と最高の職人が両立することを証明した有鴨選手の種族は魔眼姫! ご覧の通り、本日の有鴨選手は装備を一新しての出場です!』


 紹介の通り、紫蓮もまたメインとする体の装備を変更していた。

 以前はヘソ出しの『お転婆シーフ風衣装』だったが、命子たちの和装に合わせてレシピから作成した装備を纏っている。

 丈の短いミニスカ着物で、その下にはスパッツを穿いている。黒地に紫色のアクセントが入っており、レシピによれば『法師風衣装』という名称らしい。

 本来ならこの上に胸鎧を纏うが、本日は着用していない。


 紹介を受けた紫蓮はメリスと入れ替わりで前に出ると、指貫手袋がはまった手を顔に添え、右目を赤く光らせる。それと同時に長い黒髪の毛先もまた赤く輝いた。


 使い古されたシンプルなポーズだが、リアルに体の一部が発光するため、その神秘性は抜群だ。まあやっている本人は神秘性とはかけ離れて、凄くドキドキしているのだが。


『エントリーナンバー398番は、笹笠ささら選手です! 武術とお淑やかさの両天秤である彼女の種族は、絆の力を増幅させる御伽姫! 鮮やかな着物袴を武装した姿はまさに御伽噺の姫君のようであります!』


 ささらはお淑やかに頭を下げてから、再び上げた顔を少し傾げてにっこりと微笑む。

 ぎこちなかったかも! と本人は内心でビクビクするが、控えめなその様子がたまらない層がいることも世の理。


『エントリーナンバー399番は、流ルル選手! その種族は夢とロマンを詰め込んだ猫人姫! ぴょこぴょこお耳と侮るなかれ、彼女こそNINJA OF NINJA! 繰り出す絶技は冷気を纏いて敵を切裂く!』


 ルルはシュバッと背後を向いて、観客にシッポを見せびらかす。長い足とキュッと引き締まったお尻の上でシッポがくねくねと動く。そうして半身を切って、にゃん!

 赤いクノイチ衣装でそんなことをするものだから、黒船来航以上の衝撃を以てして日本人の網膜にズドンと直撃する。見てください、これが新世界という奴なのです!


『そして、本大会最後の出走者、エントリーナンバー400番は、新時代が生んだ風雲児・羊谷命子選手です! 全世界で初めてマナ進化したその種族は小龍姫! その剣は時代を切り開き、魔導書に灯す光は世界を明るく照らし続けてきました!』


 ルルと入れ替わり、最後の命子が前へ出る。

 ビシッと天へ向かって人差し指を突き立てる、その体の周りを魔導書が螺旋を描いて上昇していく。

 ドヤと決めた顔の上で、角がピカーッと光を放つ。カッコイイポーズの研究に余念がない命子である、最近では無意味に角を光らせる術を覚えていた。


 今までの選手たちも凄かったが、一線級で活躍する彼女たちはいったいどれほど強いのか。観客たちの期待が否応なしに高まっていく。なにより可愛いし。


『これからの出走ですが、ゆっくりと見ていただくために同時並行しての出走がなくなります』


 実況者さんの言葉の通り、命子たちの演技は少し特別扱いされていた。全員での紹介もそうだが、出走が被らないようになっている。つまり演武が終わるまで次の出走はしないことになっており、内容にもよるが大体ひとり10分程度もらっていた。

 現状でマナ進化している冒険者が命子たちだけということもあっての待遇だ。


 これに対してずるいという考えを起こす人はほとんどいない。

 スター性というのは確かにあるが、命子たちの姿は自分たちの近い未来の姿であり、当然、そのスペックをじっくりと見たい人は多いからだ。


 スタッフさんに声を掛けられ、最初の出走であるメリスを残して命子たちは裏に戻ることになった。


「それじゃあメリス頑張ってね」


「メリスさん、ファイトですわ!」


「頑張って」


「キスミア女のぜちゅぎを見せつけてやるデス!」


「ニャウ! やったるデスワよ!」


 仲間たちの応援を受け、メリスはニャンハンドを作る。それを見た命子たちはなにを求めているのか理解し、ニャンハンドを作った。

 5人のニャンハンドが真ん中でコッツンコ!


 観客が沸いた。




 そんなわけで、いよいよメリスの演武がスタートした。


「行くデスワよー!」


 キスミアからの留学生である自分はいわばキスミア代表。

 ここで凄いところを見せられなければ、キスミアの冒険者たちに申し訳ない。


 紫色のオーラを四肢から放出させたメリスが、腰を落として構える。

 次の瞬間、メリスがステージから跳んだ。その速度は凄まじく、あとには紫色のラインが一本残るばかりであった。


 虚をつかれた形になった観客たちは、視野の中心から大きく外れたメリスの姿を慌てて追った。

 とはいえ、時速200kmの速度で走るバイクでも遠くからなら目で追うことは容易なように、メリスの動き自体もハッとしたあとに追跡するのは可能だ。

 しかし、人がこれほどの速度で動けることに驚愕を隠せない。


「にゃふしゅ!」


 観客に驚きを植え付けたメリスは、たった一回の跳躍で15メートルほどの距離を跳ぶと、開脚回転を加えながら着地した。一直線だったオーラの残滓が、二刀小太刀と足の軌跡に合わせて複雑なラインを描く。


 慣性の法則に則れば、メリスはこのまま走るなり滑るなりする必要がある。しかし、メリスは着地と同時に、その場に残像を残して真横に跳んだ。


 この動きの秘密は『高速移動』だ。

 高速反復横跳びができるなど、この技はある程度の慣性をキャンセルする恐るべき効果があるのだが、スキル覚醒させることで強い慣性でもゼロにすることが可能だった。出ている速度に応じて上乗せする魔力が多くなるが、『NINJA系』のスキルの中で利便性がずば抜けて高かった。


 真横に移動したメリスは、残した残像の少し前方に向けて滑るように通り過ぎる。

 それがなにを意味したアクションなのかは一目瞭然だろう。

 対戦者は空中連撃を食らったあとに反撃を試みるも残像に惑わされ、それに本物のメリスが攻撃を加えた——という演武だ。


 上手い。

 一連のアクションに自衛官の採点者も唸らずにはいられない。

『GE・NINJA』が覚える残像の術は平時なら宴会芸だが、恐ろしい速度で展開する戦闘の中に組み込まれると本物との判別が本当に難しくなる。

 自分があの連撃を受けたなら、確実に引っかかるだろうと分析する。まあ、そもそも連撃をさせないように立ち回るが、実物の対戦者がいたのならメリスの動きもまた変わるので、これは無意味な議論だろう。


 初手のアクションを終えたメリスは指をパチンと綺麗な音で弾いた。それと同時に残像が消えていき、大歓声が上がる。


 その様子をテレビで見ていた命子は、みんなに見えないようにこっそりと指をペスンと擦った。なにがいけないのか……っ。

 それはさておき。


 ステージ付近での大きなアクションは、この大会の恒例になっていた。その流れを作ったのは第1走者だったアイズオブライフだ。この大会のチャンネル配分の特性上、ここで目立つことで、そのあとの演武を続けて見てもらえるかが決まると言っていい。


 演武が終わるまで独占中継という待遇を受けている5人にはあまり関係ない話だが、仮にメリスの順番がほかの選手との間だったとしたら、視聴者を独占してしまっただろう。

 アニメから飛び出てきたような銀髪ボブカットのメリスが超絶アクションを見せれば、当然の話である。


 こうして、メリスは多くの人を魅了すると、東京の町を走り出した。


■本日はもう一話あります。数分後に投稿いたします■


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 多分命子ちゃん親指と人差し指で鳴らそうてしてるから鳴らないんだろうなぁ
[良い点] >メリスは指をパチンと綺麗な音で弾いた ペスンと鳴らない不思議。 命子「(><)」
[一言] 紫蓮ちゃんの衣装が書籍版に追いついた感じですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ