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9-6 馬小屋をぶっ壊せ!

■本日2話目です■

長くなっちゃったテヘペロス。

 大会の前日。

 そこには電車に乗って東京に向かう二人の青年の姿があった。

 アイズオブライフの二階堂と一之宮だ。


 その普通の格好からは、彼らが凄腕の冒険者とは早々気づかれないだろう。しかし、武術を知る者が彼らの歩く姿を数歩でも見れば、その身のこなしに隙が無いことに気づくかもしれない。


「わぁ、見て、二階堂君。十番隊のみんなが無限鳥居をクリアしたって」


「むっ、それは本当ですか。ケガなどはなさそうですか?」


「うん。ケガ人はなしだって。楽しんできたよって」


「そうですか。無事、楽しんできたならなによりです」


 二人を乗せた電車が東京に近づくにつれて、車内は混み始める。二人はどちらともなしに立ち上がり、特定ではない誰かのために席を譲った。

 しばらくすると、二人が空けた席に一人の女性と四歳くらいの子供が座った。


「お母さん、明日のドラゴン楽しみだね?」


「そうね。でも命子ちゃんは明後日よ?」


「でも、凄い人がいっぱい出るんだよ。楽しみ!」


 そんなことを楽しそうに話し始める。


「ねえねえ、見て見て。二階……あれ、どうしたの?」


 スマホを見せようと距離を詰める一之宮だったが、二階堂は荷物置きから荷物を下ろして、ドアの近くまで移動してしまった。

 もう到着だったかな、と焦った一之宮もすぐに背伸びをして荷物を取ると、二階堂のあとを追った。ところが、窓の外を通り過ぎていく各駅停車の駅の名前を見て、到着はまだ先であることに気づく。


「どうしたの?」


「……いえ。その、あー……過去が襲い掛かってきました」


 その言葉を聞いた一之宮は、ハッとして先ほどの母子を盗み見た。

 お母さんは二十代半ばほどだろうか。それは二階堂と同じくらいの年齢だった。


「そ、そう……」


 一之宮はしゅんとして、一人でスマホを弄り始める。楽しいお喋りをしたいけれど、元気がない時に無理をさせるのも可哀そうなので。


 無言の二人を乗せて電車は走る。

 時折、上目遣いでチラチラと二階堂の横顔を見る一之宮は、やはりしゅんとしてスマホに視線を戻した。


 電車から降りた二人は、大会出場者指定のホテルに向かって歩き出す。

 駅の人混みを抜けて周りに人がいなくなった頃に、二階堂は一つ息を吐いて、一之宮に言った。


「あまり聞きたくないかもしれないですが、思いのほかショックだったので吐き出させてください」


「う、うん、なんでも話してほしいでござるよ。拙者と二階堂君の仲でござる。さっきのお母さんのことでござろう?」


 一之宮は周りにほかの人がいないと口調が変わる男だった。

 そんな一之宮の質問に、二階堂は少し歩を進めてから静かに語り始めた。


「……初恋の人でした。小学校低学年からずっと好きで、頑張って勉強して追いかけるように同じ高校まで行き、そこで勇気を出して告白したんです」


「うん」


「顔が好みじゃない。ばっさりでした」


「そんなの酷いでござるよ。マイナスカルマになってればいいでござる」


 プンプンとする一之宮に、二階堂は苦笑いした。


「君は自分の味方だからそう思うだけですよ。その程度でマイナスカルマになっていたら、綺麗な顔の善人は生きていられません。高校生だった自分はそれこそ人生が変わるほどショックを受けましたが、彼女だって彼氏を選ぶ権利はありますからね」


「うん……」


「それに自分はお世辞にもいい顔ではありませんでしたし、クラスでもブイブイ言わせていた陰キャでしたが、彼女は告白されたことを誰かに話して、クラスの笑い者にしたりしないでくれましたしね」


 口調は穏やかだが、彼女を悪く言わないでくれと言外に告げているようで、一之宮はしゅんとした。


「ごめん……」


「いえ、こちらこそ怒ってくれてお礼を言います。それに悪いことばかりではなかったんですよ」


「フラれるなんて、悪いことばっかりだと思うでござるよ?」


「そんなことありませんよ。フラれて自信を失ったおかげで、大きな光をほかの人よりも大きく感じられました。その導きが君や仲間たちと出会わせてくれたんですからね。決して悪いばかりではなかったんです」


「に、二階堂君……っ!」


「ははっ、これは一之宮の好感度ゲットですね。ははは、楽しい人生に繋がりましたよ。けど、まあそれは置いておいて。……はぁー。好きだった人が気づけば子供を産んでいて、びっくりするほどショックでした。テンション下がるわー」


 これがNTRかぁ、と二階堂は思う。件の女性と付き合った過去すらないのに。なんなら二階堂は修行場で知り合った女性に告白されれば余裕でOKなのに!


 そんな二階堂の弱弱しい背中に、一之宮が大真面目に言葉をぶつけた。


「に、二階堂君、人間万事塞翁が馬でござるよ!」


 振り返った二階堂は、そのことわざの意味を思い出す。


 この言葉は使いどころで意味が異なる。

 人生における禍福は予測しがたく、訪れた禍福すらもその先の道では幸せや不幸に転じるかもしれない。

 だから訪れた事象に一喜一憂せずに淡々と生きていこうという意味もあれば、不幸が訪れてもそれは幸せのルートに繋がっているかもしれないという励ましにも使われる。

 今回の場合は後者だろう。


 だが、流される人生を送ってきた二階堂にとって、このことわざは今までの自分を見ているようで嫌いなものだった。

 そんな相棒の気持ちを知っている一之宮はすぐに続けた。自分自身もまた流されて生きてきて、悲しく感じることが多くあったから。


「でも、もう自分で馬小屋をぶっ壊すでござる!」


「え、ええ? ははっ、なんですかそれ。それでは受動と見せかけて滅茶苦茶オラオラな考え方じゃないですか」


「そ、そうでござるよ! もう二階堂君は自分の人生を流れに任せるだけの男じゃないでござる! 幸を自分の手で掴み、不幸を払いのけられる立派な男でござる!」


「っっっ!」


「馬小屋をぶっ壊すでござる!」


 顔を真っ赤にさせて、意味不明ながらも一生懸命励ましてくれる友人の瞳を直視できなくなった二階堂は、グッと手を握り締めて空を見上げた。


 こいつ、なんで女の子じゃねえのかなぁ……っ!


 初恋の少女の声が、共同生活で見せた一之宮の無邪気な笑顔や声にかき消されていく。


「馬小屋をぶっ壊す、か……」


 二階堂は意味深長に呟き、カッコつけて空を見上げ続ける。

 脳内で繰り広げられる一之宮をマナ進化で女体化させる計画会議を振り払い、いま口で呟いた意味不明な言葉を噛みしめる。


 人間万事塞翁が馬。

 億が一の確率であの告白が成功していたら、その後のお付き合いでチューのひとつでもしたかもしれない。それどころかその先だってあったかも。

 男と女のことなので、その後には別れてしまっている可能性は十二分にあるけれど、自分の力で女性を射止めた経験は自信に繋がり、きっと今の自分は一之宮とともにこの空を見ていなかっただろう。


 そこまではいいけど、なんで馬小屋をぶっ壊すといい感じの自分になれるのかはわからない。きっと一之宮自身もわかっていないだろう。

 でも、なんだか元気になるセリフだった。


「楽しい人生にしたいですね」


「うん! 拙者だって馬小屋をぶっ壊すでござるよ!」


 にっこりと笑うその顔は、もう完全にヒロインだった。




『魔法の力で強化された彼らが集うこの大会は、まさに超人どもの展覧会。刮目して見よ、これが新世界を駆け抜ける冒険者たちだ!』


 実況とシンクロして、スタート地点周辺で歓声が上がる。


 スタート地点に設置されたステージに上がるのは、6人の男たち。

 全員がお揃いの黒いロングコートを纏い、6人中4人がスポーツ用の眼鏡をかけた集団だ。


 大クラン・アイズオブライフ。

 学校系のクランを抜かせば、いまの日本で最も構成員が多い巨大クランである。日本にある全てのG級、F級ダンジョンを構成員の誰かしらがクリアしており、その攻略の手はE級にも伸びていた。


 そのコートの背中に描かれるのは、全ての原点である『龍覇双眸りゅうはそうぼう』。

 その理念は己の心身をひたすら鍛え、同時に社会貢献に力を入れること。

 日本の防衛戦において、最も多くの人員が各地で戦ったクランでもある。


 この6人はそんなアイズオブライフの一番隊を背負って立つ男たちであった。


 そんな彼らは、沿道を賑わす観客の熱気に呑まれてガクブルした。

 一番隊などと肩書は偉そうだが、基本的に彼らは一年前まで目立つのを恐れて影のようにひっそりと暮らしていた人たちだ。その性格が急に変わるわけがない。

 防衛戦のように守るものが背後にいるわけでもない、ただ自分を見てもらうだけのこの状況に吐きそうだった。


「ひ、人の数ヤバくない?」


「ど、同志三国。おかしなことを言うな。あれは全部かぼちゃだぞ」


「そんなメンタル持ってたら陰キャしとらんわ……っ」


 ガクブルする6人に、スタッフが声をかける。


「出走まであと3分です。音楽が始まって実況が終わったらゲートが上がりますので、出走をお願いします!」


 本当は観客に手でも振ってサービスしてほしいスタッフだが、これは無理だと6人を見て諦めた。


 スタッフへコクコクと頷く6人。

 その中の1人が大きく深呼吸をして緊張を振り払った。二階堂である。


「み、みなの者。もはや賽は投げられました。やるしかありませんよ」


 落ち着いた声で仲間たちに語り掛ける。


「大丈夫です、こんなものは無限鳥居の龍——」


 ところがその言葉が途切れた。


「え、龍のなに? 殺気に比べれば、とかだろうけどなんで止めるの? お前、そういうところやぞ。って、どうした?」


 同志三国がツッコむが、二階堂がガクガクと足を震わせていることに気づいた。

 一之宮がハッとして二階堂の視線を追う。

 沿道の最前列に、昨日の母子がいた。そして、その隣にはあの場にはいなかったおそらく父親であろうイケメンの姿があった。

 子供はとても元気にぴょんぴょんして、母親と父親はそれを笑いながら窘めている。とても幸せな光景だった。


 その瞬間、一之宮の脳がカッと沸騰した。

 一気に潤んだ瞳に力を籠め、一度ギュッと唇を噛むと、仲間たちに声をかける。


「み、みんな、お願いでござる。今回は二階堂君のために戦ってほしいでござるよ!」


 童顔で女顔の一之宮が見せたその目の力強さに、4人の仲間たちがなにかを察する。

 アイズオブライフを創設した面子は、多かれ少なかれ過去のやっちまった経験で今がある。それが自分一人で完結している人もいれば、誰かが関わっている場合もあった。

 この群衆の中に二階堂がなにかを見たのかはわからない。だが、同志が過去を乗り越えるのなら、それを手助けしないやつはこの中にいやしない。


 仲間たちのガクブルがスッと落ち着き、武士もののふの目に変わっていく。


「おう、同志二階堂。初っ端から本気出すぞ」


 同志三国が二階堂の胸を拳で叩いた。

 服の中にしまってあるアイズオブライフのもう一つのシンボルであるミニハサミのペンダント『原初の覚悟』が二階堂の胸に当たり、ドクンと体を熱くする。


「過去との決戦なんだろうが。なにピヨピヨしてんだ、同志」


 同志四堂もまた二階堂の背中を叩いた。


「み、みんな……」


 仲間たちの言葉に、二階堂の足の震えが収まっていく。

 顔を伏せた二階堂はギュッと目を閉じて、コートの上から原初の覚悟を握り締めた。


『ずっと好きでした、付き合ってください!』


 人生最大のトラウマのワンシーンが頭の中を駆け抜けていく。

 何度も思い出してきたそのシーン。下げた頭の向こうから、初恋の人のお断りのセリフが飛んでくるその瞬間、二階堂の頭に過ったのは別の言葉だった。


『馬小屋をぶっ壊すでござるよ!』


 二階堂は、くっくっと笑って肩を揺らした。

 ——なんだよ、馬小屋をぶっ壊すって。


 そして、伏せたその顔を上げた時には、そこには自分の人生に反撃の狼煙を上げることを決意した漢の顔があった。

 二階堂は口角を上げて言った。


「みなさん、命子さまが見ておられます。無様な姿は見せられませんよ!」


「「「「おう!」」」」


「それでこそでござるよ!」


 二階堂の言葉に、一之宮が笑顔になった。


 それと同時に勇ましいアニソンが流れ始め、実況者が6人の紹介を口にする。


『エントリーナンバー1番。DRAGONの幕を切って落とすのは6人の男たち。この時代を作った始まりの瞳・龍覇双眸を背中に背負った猛者どもの名は、アイズオブライフ!』


 口上が終わってゲートが開いた瞬間、円になって話し合っていた6人が一斉に動き出す。

 ぎゅるんと体を回転させてV字に整列すると、それぞれのレプリカ武器を顔の正面にまっすぐに立てて掲げた。


「「「せいっ!」」」


 ピタリと揃った掛け声とともに、全員の体から紫色のオーラが放出された。

 掛け声は風圧に変わり、ロングコートの裾をはためかせる。

 観衆はその迫力に一拍息を詰まらせるが、その後には秋葉原の町が震えるほどの歓声が上がった。


「お母さん、凄い! みんな覚醒冒険者だ!」


「本当ね! みんな凄くいっぱい修行したんでしょうね。カッコイイわね?」


「うん!」


「それにしても、あの人どこかで……?」


 そう話す親子の会話は大歓声にかき消されて二階堂には届かない。


 子供に微笑みかけていたお母さんは、顔を上げて、改めて二階堂を眺める。

 圧倒的なリア充だったお母さんにとって、学生時代にほぼ話さなかった二階堂の顔はすでに忘れてしまうようなものだった。

 どこか面影はあるけれど、今の二階堂は昔よりもずっと自信に溢れ、男として、戦士として成長を遂げていたから。




「あっ、あの兄ちゃんたちは!」


 テレビに映ったアイズオブライフの一番隊を見て、命子が嬉しげに笑った。

 命子は風見町防衛戦で一緒に戦ったのをしっかりと覚えていたのだ。


 生放送なのでスタート直前の待機時間も彼らの姿を映していた。

 それは一切合切サービスのない、言ってしまえばつまらない絵。よく見れば全員ガクブルしているし、こいつら本当に大丈夫かという雰囲気だ。

 けれど、命子はそうは思わない。この兄ちゃんたちはやる男たちなのだ。


 それを証明するように、スタートの合図とともに6人は豹変する。


『『『せいっ!』』』


「「「おーっ!」」」


 テレビから放たれた気迫に命子たちはキャッキャする。

 そんな中で、ルルがピンとネコミミを立てて、窓の外を見た。


「魔力の波動デス!」


 マナ進化したルルは、音に載った魔力をメンバーの中で唯一知覚できた。

 そんなルルが、この気迫の中に魔力の波動を感じたらしい。


 そうこうするうちに、6人の男たちがステージから飛び出して、凄まじい速度で秋葉原の町を走り出した。

 その走り方は体を斜めにしたアニメ走り。そんな走り方なのに、もはや旧世界の人間では超えられない速度を出していた。


 注目すべきは、その全員が魔導書を二冊ずつ携えていることだろう。

 風見町防衛戦から約5か月。彼らは全員がサブジョブとして『見習い魔導書士』を修める命子スタイルの使い手に成長を遂げていた。


『『『【覚醒イメージトレーニング】』』』


 ギンッと6人が瞳に紫色の炎を宿すと、直線だった動きが弧を描いて進み始める。走りながらメイン武器と魔導書を振るうその姿は何者かと戦っている動きだ。


 紫のオーラが尾を引き、凄まじい速度で武器を振るので見た目はとても派手。だが、そこで感想を止めないレベルの者は、6人が同じ敵を見ていることに気づいていく。


「ほう、手を触れずにスキルをリンクさせる域にまで到達しているね」


 さらに命子クラスになると、これがマナ進化に近い者がなしえる技巧であることにも気づく。


【覚醒イメージトレーニング】は他者と手を繋いで発動すると同じ敵と戦うことができるのだが、その魔力パスを遠隔で繋げる方法も存在した。

 それはなにを隠そう魔力パスが見える命子が発見して、攻略サイト『冒険道』にやり方をイラストつきで掲載した技術だった。そして、命子教信者の彼らは魔力視ができないにもかかわらず、試行錯誤の末にそれを体得するに至っていた。




 一団は最初のギミック『十四連三角飛び石』に突入する。

 斜めになった飛び石が向かい合わせになって連なる場所だ。演者である冒険者からは小さな谷のようにも見えるだろう。

 そして、その谷の終わりには破壊可能オブジェである1メートルほどの風船が一つ置かれていた。


 十四連三角飛び石に4人が飛び込むと、お互いが左右交互に飛ぶことで、連続のエックス攻撃を演出した。男たちのアクションに紫の炎が軌跡を残し、消えていく。


 十四連三角飛び石に入らずその手前に残ったのは、一之宮と二階堂。


 この時点まで、二階堂はショートソードと魔導書しか使っていなかった。

 だから、二階堂を知らない者はオーソドックスな命子スタイルだと考えていた。背中に命子の瞳を背負っているし。


 しかし、二階堂の真の武器はショートソードではなかった。

 そのヒントは二階堂のコートの袖口がほかのメンバーよりも広いことにあるのだが、それを初見で見破ることは無理だろう。


「行きますよ、相棒!」


「オッケーでござる、相棒!」


 二階堂はショートソードを腰の鞘に納めると、一之宮の腰を抱き、もう片方の手を斜め上空に振り上げた。


「風弾! マジックフック!」


 魔導書から風弾が上空へ射出され、その直後に袖から一本の鎖が放出された。

 そう、二階堂の真の武器は長い鎖の鞭だったのだ。


 空に放たれた風弾に鎖が絡みつき、二階堂の体が一之宮とともに空中に飛び上がる。


「もう一丁です!」


 さらに同じことを空中で行なった二階堂たちの体は、地上から十五メートルほどにまで至った。


 最大点に達した二階堂は一之宮をリリースして、再びショートソードを抜いた。

 二人はグルンと体を回して頭を地上へ向けると、二階堂が操作した紫色の炎を纏う魔導書に足の裏をつけた。


 二人は同時に顔をグンッと上げて、地上に鋭い視線を向けた。

 それは人が良さそうな二階堂からは、そして可愛い顔をした一之宮からは想像もつかないほど男らしい視線。特に一之宮の眼差しに沿道のお姉さんたちが一斉にトゥクン!


「「合体奥義! 命道・飛天串刺し落とし!」」


 二階堂と一之宮の言葉が重なり、二人は魔導書を蹴りつけた。


 一之宮のジョブは『下忍者』。

 高速移動から繰り出された落下はイカヅチの如し。


 そして、二階堂のジョブは『鞭使い』

 左手から再び伸びた【マジックフック】が地面に設置され、高速移動にも負けない加速を得る。


 その落下の最中に二人の体と四冊の魔導書が幾重にもブレる。それは一之宮のスキル【覚醒忍法・朧分身の術】の効果であった。


 そのまま二階堂のショートソードと、一之宮の二刀小太刀が巨大風船をぶち抜いた。


 巨大な破裂音のあとには、着地の姿勢で残心する二人の姿が。


 スッと立ち上がった二階堂の袖の中にジャランと鎖が飲み込まれていく。

 ニヤリと笑った二階堂に、一之宮は目を細めてにっこりと笑い返し、指ぬき手袋がはまったお互いの拳をトンと合わせる。


「「「わぁーっ!」」」


 その瞬間、二人の絶技に言葉を失っていた観客たちが一斉に歓声を上げた。

 尊い、えもい、そんな少数意見が喝采の中に溶けていく。


「おら、お前ら。まだ始まったばかりだぜ!」


「ははっ、そうでした」


 仲間の言葉を聞いて、そういえばそうだったと二階堂は笑う。

 そんな二階堂の視線が、沿道で歓声を上げる初恋の人の視線と交わった。


 ああ、綺麗になったなぁ、と二階堂は思う。


 10年の恋だった。

 

 もっとソフトなフリ方だってあっただろうと、恨んだことだってあった。

『一押し、二金にかね三男さんおとこ』と言うし、一度で諦めなければ、あるいは楽しい話術を体得したり、お金持ちになれたりしたなら、なにかが変わったかもしれないと自分の弱さを責めたこともあった。


 けれど、もう全ては過ぎ去った昔のこと。

 かけがえのない仲間たちを得た今の二階堂は、初恋の人が幸せな家庭を築いていることを、素直に祝福することができた。


 二階堂は、初恋の人に頭を下げた。

 フラれてしまったけれど、彼女は路傍の石ころほどにもこちらに関心はなかったかもしれないけれど。

 彼女こそ自分の青春の全てであり、この心を形成した人物なのだから。


 頭を下げた二階堂の姿を見た女性は、学生時代に告白してきた何人もの男の中から一人の男の子のことを思い出した。


「二階堂……君?」


 そう呟いた女性の声は周囲の喝采にかき消されていく。

 それはすぐに確信に変わり、いつも教室の隅っこで大人しくしていた自信のなさそうな子がみんなから喝采を浴びるほどカッコ良くなったんだなと、人生の面白さに感動した。


「さあ、同志たち。このアキバの町を大いに盛り上げましょう!」


「「「おう!」」」


 6人は再び東京の町を走り出す。


 アイズオブライフ。

 この日、そのクランの名は多くの人の心に焼きつくことになる。




《Sインフォ:心の試練を乗り越えました》

《Sインフォ:マナ進化をするための魂の器が未完成です》

《Sインフォ:解放済みのいずれかの試練を越えてください》

【解放済み試練】

《超越の試練》 超死闘式試練 確定進化

《激闘の試練》 死闘式試練 短期

《戦いの試練》 連闘式試練 中期

《修練の試練》 修行式試練 長期~超長期

【未解放試練】

《膨大な数》

 探索系、生産系、応援系、回復系、精神系etc……



読んでくださりありがとうございます!


ブクマ、評価、感想、大変励みなっております。

誤字報告も助かっております、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一ノ宮くん、女体化計画……くわしく話をきこうか!!!
[良い点] 読み直してるなう 初恋の人に成長した自分を見せれた。それでいいじゃないか フラれてトラウマ抱いた陰キャには普通その機会も与えられないんやで ありがとう地球さん、ありがとう命子ちゃん、あり…
[良い点] 一番手が彼らですか、いろいろネタ扱いされてる彼らですが実質日本最大クランですし戦い方も堅実でかたいイメージで強いんだけど地味って印象ですがどうでしょうね まあ彼らの順位よりも進化して一之宮…
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