番外編 超組織・風見女学園修行部 2
投稿が遅れました!
風見ダンジョン23階層。
ダンジョンに降り立った部長は、愛用の杖を持って構え、シンと静まる通路の両端を油断なく見つめた。魔物が出てきたら直ちに魔法を放てる構えだ。
その瞳からは高校生の子供らしさはなりを潜め、冒険者としてのプロ意識が宿りつつある。
続いてダンジョン入りした三年生が片膝をつき、やはりすぐに魔法を放てるように杖を構えた。片膝をつくのは部長の射線を確保しているのだ。
ダンジョン入場時や階層移動時は、敵と急にエンカウントする場所には出ないのだが、稀にその直後に曲がり角から出てくることがある。
滅多にないことなのだが、今回はその稀なケースに該当した。
「ふあっ、魔物よ!」
「はい!」
魔物の数は五体。部長たちの姿を先頭ダンボールさんが発見すると、わらわらと曲がり角からやってくる。
対する味方はまだ二人、いや、たったいま三人目。
「「水弾!!」」
二人の杖から水弾が射出される。いきなりの戦闘にびっくりした三人目の子は、ぴょんと軽く跳ねてからすぐに戦闘に参加する。
真っ先に狙ったのは魔本。
しかし、片方の水弾はダンボールさんに当たって防がれる。ダンボールさんはダンボール部分に当たると、火魔法以外はあまり効果がないのだ。
幸い、部長が放った方の水弾はヒットして、光に還す。
その頃になると全員が揃い、その中の一人が叫んだ。
「ぶ、部長! 逆方向からも来ました!」
G級ダンジョンは基本的に一度の戦闘で五体の魔物までしか出ない。だが、別の通路からほかの魔物グループがやってくることで、複数エンカウント状態になることもある。
「挟撃対応! 私たちは新手を殺るわ!」
「「「はい!」」」
部長の命令で、六人は部長と副部長のチームに分かれて戦い始める。
事前に複数エンカウントした場合はどうするか決められており、その作戦が初めて決行された。
三×三で分かれ、お互いに背中合わせになって全員が一発ずつ水弾を放つ。
『見習い魔法使い』系の魔法は強い。杖を使うとさらに威力を増す。
そのためあっという間に魔物の数は減っていき、部長たちは残った魔物に向けて走り出す。水弾は魔力を使うし強すぎるので、近接戦闘も混ぜているのだ。
「コンちゃん、やってみなさい」
「わ、わかりました!」
部長に言われて、二年生のコンちゃんが残った二体の魔物と接近戦で戦い始める。
背後でも副部長が同じように二年生の子に接近戦をさせている。
部長パーティにいるだけあって、両者ともに危なげなく魔物を撃破した。
「ふぅ、面白いハプニングだったわね」
戦闘が終わり、部長たちはホッと息を吐く。入った瞬間には戦闘が始まっていた形の四人は、まだちょっとドキドキして興奮気味だ。
「なかなかないことだったけど、みんなよく対応できたわね」
「そりゃ校舎であれだけ練習したもん」
「やはり私の練習は間違ってなかったか……」
副部長の言葉に部長はうんうんと頷いた。
風見女学園の校舎の廊下は、放課後になるとダンジョンに見立てられて訓練に使われている。そこかしこで壁にササッと背中を預け、曲がり角から顔を覗かせる女子高生が見られるぞ!
ほかにも、廊下を使用してダンジョンキャンプを模したお泊まり会もされている。
冒険者免許をゲットした子でなくても参加できるのだが、見張りをちゃんと立てるというガチっぷりである。遊びのように見えるが、遊びではないのだ。
最初こそハプニングがあったものの、部長たちは順調に探索を行なった。
魔法使い系はG級ダンジョンでは猛威を振るうため、まったく危なげない。しかし、それだけではタメにならないので、近接戦闘も混ぜて活動していく。
日程にかなり余裕があるため、23階層をじっくりと探索していると、宝箱を発見した。
「ふぉおおお! 初めて見っけた!」
テンションが上がった部長たちはわーいと駆け出す。
スマホでキャッキャとウィンシタ映えする女子高生たちだが、みんな若干ながらきょろきょろと周りを見ている。
「たしかに命子ちゃんが言ってたみたいに、貰っていいのか戸惑うわね」
宝箱とは家具である。初見の人はそんな物を前にすれば、中身は誰かの物なんじゃないかと錯覚するのは無理もない。命子の心が失った初々しさである。
まあそんなことを考えていても、最終的には貰うのだが。
部長が代表して藤堂方式の開け方で宝箱を開いた。
「袋が入ってます!」
「袋イン宝箱! そんなに大事なのかよー、ふひゅひゅ!」
「えー、なになに!?」
藤堂方式で寝転がっていた部長を置き去りにして、ほかの子が騒ぐ。部長も慌てて立ち上がってその輪に混ざった。
副部長が中身を確認すると、ぱぁーと顔を明るくした。
「ギニーが入ってる!」
「おーっ、当たりだ!」
「いくらですか!?」
ギニーは割と出やすいものだったが、1000ギニーの時もあれば1万ギニーの時もあり、金額は振れ幅が大きかった。
高額ならば普通に武具をゲットするよりも得なのは間違いないのだが、重要なこととして『パーティで等分できる』ので人気があった。世の中には野良パーティがかなりいるためである。
今回は7000ギニーが入っており、大勝利である。
ホクホクしながら探索を再開した部長たちは、たっぷり時間をかけて23階層のエンド(階層の終わり)に到着する。
部長たちの今回の日程は1泊2日で、本日はここで大人たちのパーティに混じって一晩泊まる予定であった。
冒険者は入場時間がバラバラなため、キャンプ場となるエンドはどの時間に行っても、ほぼ必ずと言っていいほどキャンプをしているパーティがいる。部長たちが到着すると、やはり5組のパーティがキャンプを張っていた。
とはいえ、夜の時間がなんだかんだで一番混むので、これから混雑し始めるだろう。
すでに何回もキャンプを行なっているため、全員がテキパキと準備を始める。そんな中で部長は挨拶係だ。
「お隣を使わせてもらいます。よろしくお願いします」
「えっ、部長ちゃん!? あっ、こちらこそよろしくお願いします」
先にキャンプをしていた人たちへ挨拶に行った部長に、女性が驚きつつも挨拶を返す。
高校生や大学生冒険者が多く現れ注目されていく中で、部長は抜きん出て有名だった。というか修行部で冒険者になっている子は、探索風景を撮影した長時間の動画に登場するため大体が有名である。
「テントの設営終わったよ」
「じゃあこっち手伝ってー」
「おトイレの設置終わりましたー!」
「じゃあ、ミカちゃんは杖の【合成強化】おねがーい。コンちゃんは私と一緒に料理ね」
「「はい!」」
テントの設営、エアマットやエアクッションの準備、水の準備、料理、トイレの設置、【合成強化】——等々、みんなでわちゃわちゃと働く風景が、撮影係の子に撮影される。ちなみに、コンちゃんとミカちゃんは二年生なので、ほかが三年生だから敬語を使う。
すっかり準備が整った頃にはほかにもキャンプするパーティが増え始める。
キャンプの設営が終わったパーティからご飯を作り始め、辺り一帯にははしゃぐ声と食欲をそそる香りが満ちていく。
冒険者たちが活発に活動するようになり、世の中はダンジョン飯ブームが到来していた。
限定された料理機材、かつ各ダンジョンで獲れる食材を使っていかに美味いご飯を作るかに、多くの人が熱中し始めたのだ。
野良パーティマッチングアプリで、『ダンジョン飯作れます!』と紹介すれば、引く手数多な感じである。
風見女学園でもこの手の趣味にドハマリした生徒がチラホラと現れており、このパーティの副部長も個人的にブログを作っていい感じに成功していた。
昨今のダンジョン料理は固形燃料を使う人がほとんどだ。
ガスボンベは攻撃がヒットすると破裂する恐れがあるため、メーカーがダンジョン用では売りに出さなくなったのだ。
料理機材の点で言うと、ソロキャンプブームによって開発されてきた道具の携帯性が、三人~六人用ダンジョンキャンプ用品に転用され、キャンプ業界は大いに盛り上がっていた。
部長たちが持っている料理機材は、横長の三人用の網が二枚と専用の火台が二つ。全て折り畳み式だ。そこに固形燃料を並べ、バーベキューが始まった。
乗っているのは、歌ガエルの太もものタレ漬けとカラコロニワトリに塩を振ったもの、あとは食パン。
ジュージューと油とタレが滴り、育ち盛りの女子高生の目の色が変わっていく。
そんなこんなでいざ実食。
日本の女子高生が熱々の歌ガエルの肉から真っ先に手をつけるあたり、みんなダンジョンに適応していた。
「もぐもぐ、んまぁー!」
「先輩このタレめちゃくちゃ美味しいです! 甘うまぁ」
「もう一本ずつ漬けてあるから言ってね」
蕩けるような顔で歌ガエルのお肉を頬張るコンちゃんに、副部長はニコニコして言う。
「カラコロニワトリの塩焼きおかわり!」
「なにこのパン超美味いじゃん!」
「それ、小西さんところの米粉パンだそうですよ」
「えっ、世界的な発明なんだけど」
キャッキャである。
ちなみに、小西さんは風見女学園の購買にパンを卸している風見町のパン屋さんである。
一日目のキャンプを無事に終え、翌日のお昼前にはボスがいる25階層に到着した。
ボスの階層は3組のパーティが滞在できる。
最近では多くの人がボスに挑戦できるまでになっているが、部長たちが入ったDサーバーは準備部屋には誰もおらず、ボス部屋で戦闘が起こっていた。
準備部屋に降り立った部長パーティには、緊張や興奮がごちゃ混ぜになったような雰囲気が漂っていた。
部長は仲間たちへ振り返る。
見回した仲間たちは、引き攣った笑みを見せていたり、口数が多くなっていた。
ああ、これが命子ちゃんの見た光景か。
部長は、かつて命子が龍滅戦を行う前に見た光景に直面していると感じた。
そして、今の自分の心境もまたその時の命子と同じなのだろうとも。
すでに全員が、一人で五体の魔物を葬れるまでに強くなっている。
装備レベルは龍を倒したかつての命子たちよりも上。無理そうなら撤退も可能だ。
一番怖い必殺技も動画で確認できるため、初見殺しとは言えない。
しかし、ボスだ。
部長パーティの半分が、風見町防衛戦でボス戦を体験している。だが、あの時は前衛を大人が守ってくれていたので、死ぬ心配はまずなかった。
防具が強いので今回も死ぬ心配はまずないし、全国的にも今のところボスに挑んで亡くなった冒険者はいない。でも、なにかの要素で最初の一回目を引くかもしれない。
部長を以てしても、怖い。
だが、部長は恐怖を全く外に出さずに、五人の仲間へ向けて両手を差し出した。
ビビるあまりに引き攣った笑いを浮かべるコンちゃんが、なにかに導かれるように部長の手に手を重ねる。
「なになに、部長なになに?」とそわそわしながら早口で言うミカちゃんも、同じように手を重ねた。
多かれ少なかれ怯えている三年生メンバーも同じだ。縋るようにみんなの手の上に自分の手を重ねていく。
「みんな、やっとここまで来たわね」
天真爛漫な光を宿す瞳が、仲間たちを見つめる。
吸い込まれそうな眼差しを見て、全員がキュンとする。彼氏持ちの副部長とミカちゃんでさえもキュンとする。ちなみに、ミカちゃんは青空修行道場で出会った大学生が彼氏で、副部長は同じく青空修行道場で出会った小学6年生が彼氏である。
この時、すでに仲間たちの中から緊張や不安は消し飛んでいた。
——ベロチューされてぇ。代わりにそんなセリフが脳裏に過ったとか過らなかったとか。
仲間たちにそんな興奮を植え付けた代わりに、今、一番緊張しているのは部長だった。
仲間にもしものことがあってはならない。その重圧が部長に圧し掛かっていた。
部長は己の弱気を拭い去るように、すっかり心身が仕上がった仲間たちに気づかず、いい感じのことを言う。
「今日までみんなで頑張ってきたことをいつも通りにやれば、こんなの簡単に越えられるわよ」
部長はそこで言葉を切り、一人一人の瞳をしっかりと見つめる。キュンが五つ並ぶ。
そして、部長は口角を上げて野性味を帯びた笑いを浮かべて言った。
「だって、私たちは、世界一の高校を作った無敵の修行部なんだからね」
「抱いて」
思わずコンちゃんの口から願望が駄々洩れる。「はい!」と元気に言おうとしたのだ。それがちょっと噛んじゃったのだ。コンちゃんは冒険をして自分を変えたいと思っている頑張り屋さんなので、そんなことは言わないのだ!
コンちゃんの頭が引っ叩かれ、場はリラックスする。
部長はそんなコンちゃんを見て、ほう、と内心で思う。
場を和ませるためにあえて道化を演じる素質。これが片鱗というやつか。誤解である。
前のパーティの戦闘が終わり、冒険者たちは部長たちを応援するようにグッと拳を握って見せた。
部長たちもグッと拳を握って頷き返す。
彼らは男性パーティだったため、女子高生とそんなアイコンタクトっぽいふれあいをして、ダンジョンクリアと相まってめっちゃテンションが上がった。
「さあ行くわよ!」
「「「おーっ!」」」
気合を入れた部長たちは、準備部屋とボス部屋を仕切る緑の膜を越える。
すでにセッティングを済ませておいた撮影機材を、リュックとともに入り口付近に並べる。ものの数十秒で準備が終わり、部長たちは部屋の中央に向けて歩き出す。
すると、床に光が現れ、そこから大量のブロックが噴出し始めた。
ブロックオブジェ。
かつて命子たちも戦った風見ダンジョンのボスである。
ブロックオブジェは変わったボスで、オブジェ状態の時には一切のダメージを与えられない。オブジェから分離して飛んで襲ってくるブロックなら破壊することができる。
喩えるなら千本ノックである。ノックするコーチは倒せないが、飛んでくる球は処理できる。全ての球を処理したら勝ちだ。
対する部長たちは、全員が『見習い水魔法使い』。
ダンジョン探索は水が命なので、今後のことを考えてこのジョブをマスターしたいという考えからだ。
ブロックがオブジェを作り出したのを見て、部長が指示を飛ばす。
「扇陣形!」
「「「はい!」」」
六人でブロックオブジェを120度囲うようにして散開する。
陣形が完成して間もなく、ブロックオブジェが完成した。
『ゴォオオオオオオオオオオオ!』
ブロックオブジェが咆哮を上げる。
「覚悟しなさい!」「怖くない!」「ぶっ殺す!」
「こなくそーっ!」「うぉおおお!」
「やっつけてやるですぅ!」
ボスの咆哮を切り裂くように、全員が杖をブンッと振るって気合を入れる。
全員が力強い目をして、恐怖を跳ね返す!
前哨戦が終わり、ブロックオブジェの体がバコンと分解した。
分解されたブロックは、獲物に狙いを定めるかのようにオブジェの周りで一時滞空する。その瞬間を部長は見逃さない。
「二連射撃!」
「「「水弾! 水弾!」」」
部長の号令とともに、それぞれが二発ずつの水弾を発射する。
滞空するブロックの数が一気に減るが、生き残りが各員に飛んでくる。
「遅い!」
ギンッと目つきを鋭くした部長が、杖を使って飛んできたブロックを破壊する。破壊した瞬間には片手を離し、空いた手で水弾を発射してブロックを撃墜した。
ブロックの速度は約120km程度。威力は人によるが、ハリセンで本気でぶっ叩かれる程度の痛さだ。一撃では死なないが、連打を食らうと危ないダメージになる。そんな理由もあり、このボスはスピード&連続攻撃系のボスに分類されている。
一方、部長たちは、ここに辿り着く冒険者よりも防具が充実している。妖精店で買った防具の上に『戦乙女の鎧』を着ているのだ。
このため、先ほどのたとえのハリセンよりもダメージが少ないと予想できた。
仲間たちも必死でブロックを壊していく。その中でも、部長とコンちゃんの動きが抜きんでていた。
「やあ! でやぁ! 水弾!」
「水弾! このぉ! やあ! 水弾!」
杖術で的確にブロックを破壊、あるいは弾き、一瞬の隙をついて水弾を放つ。
水弾はオブジェから新しく分離して滞空状態になっているブロックを、発射前にまとめてぶっ壊す。
「あいたっ! うっく、こいつ!」
どんどん飛んでくるブロックに追いつかず、ミカちゃんが被弾する。
その痛さは、ミカちゃん的にはハリセンで本気で叩かれる程度と、世間の主観とあまり変わらない。あくまで人の主観によるのだ。
一年前なら痛くて怖気づいてしまったかもしれないが、今のミカちゃんは涙が滲みそうな目にグッと力を込めて、次に飛んできたブロックを破壊して持ち直す。
被弾するのはミカちゃんだけではない。部長を含めて全員が頭部以外のどこかしらにダメージを食らっている。頭部だけは昏倒する可能性があるので、なにがなんでも回避するように徹底していた。
「陣形反転! 回復薬飲む子は飲んで!」
全てのブロックが攻撃を終えると、部長たちの背後に破壊されずに残ったブロックで作られたオブジェが完成する。
六人はそのオブジェに対して、また扇型の陣形で対応する。その陣形に移動する際に、腕にヒットした副部長が低級回復薬を服用した。副部長の目には涙が滲んでいるが、歯を食いしばって頑張る。
「二連射撃!」
「「「水弾! 水弾!」」」
ブロックが分離し、すかさず水弾が二発叩きこまれる。
額に汗を浮かべ、全員が必死に戦う。
校庭で何度も動きを練習した成果が如何なく発揮されていた。
何セットかの攻防を繰り返し、ついにその時は来た。
ブロックオブジェが真っ赤に輝いたのだ。
「全員全速後退! 全速後退!」
部長はそう叫ぶと、逃げ出したい気持ちをグッと堪えて、仲間たちの動きを確認する。
「あっ!」
「っっ!」
ミカちゃんがつんのめったのを見た部長はそちらに走り出す。
「だ、大丈夫です!」
「オッケー! 逃げるわよ!」
なんとか転ぶのだけは防げたミカちゃんの横に並んで、部長は走る。
部長たちの背後で、真っ赤に輝いたブロックオブジェが一気に分裂する。
時を置かず、百前後のブロックが広範囲にわたって大回転を始めた。
割と余裕を持って範囲外へ抜け出した部長は、滑るように反転して全員に指示を出す。
「一斉掃射!」
「「「はい!」」」
全員が渦巻くように飛ぶブロックへ向けて水弾を発射しまくる。
ブロックハリケーンと名づけられたこの技は、内部でブロックがぶつかり合って数を減らす。そこに水弾をぶちこまれ、さらに数が減っていく。
残り二十個ほどになってしまったブロックは、オブジェにならずに一回停止するとそのまま部長たちに向けて飛んできた。
「ラストスパート!」
それぞれが杖を振るい、残りのブロックを壊していった。
「これで終わりよ。水弾!」
部長は最後のブロックに水弾を発射する。
狙いたがわずブロックが撃ち抜かれ、部長はドーパミンがドバッと出た。水弾で決着をつけた理由はカッコイイからである。
「や、やった!」
「ふぇ、うぇえええ……」
初のボス戦に勝利して感極まったミカちゃんが一瞬で泣き始めた。
それはあっという間に仲間たちに伝播し、部長たちは誰ともなしに六人で抱きしめ合って、キャッキャと笑いながら涙を流した。
「て、てやんでぇい……っ」
「尊い……っ!」
新しく準備部屋に入場していた男性冒険者たちが、そんな女子高生たちの青春を目の当たりにして、グズゥと鼻を鳴らして涙を拭う姿があった。
ダンジョンクリア報酬をゲットした部長たちは、いよいよ帰還することになった。
部長たちは、先ほどの冒険者たちがしてくれたように、緑の膜の外で順番待ちをしている冒険者たちに、両手でグッと握りこぶしを作って応援した。
男性冒険者たちは勝利を確信した。
手を繋いで黄金のゲートに入った一行はニッコニコだ。
「最高の冒険だったわね!」
「「「はい!」」」
部長の言葉に、みんなが元気に返事をする。
黄金の光に包まれた先は、風見ダンジョン入場ゲートのすぐそば。
職員さんにとってはもはや珍しくもなくなったダンジョンクリア者の帰還だが、多くのレベル教育者や冒険者にとっては初めて生で見る光景だ。
さて、命子が事あるごとに名乗りを上げているせいで、世の中の冒険者の中に名乗りの文化が流行ってしまっていた。
特に海外はかなり盛んなのだが、日本でもやる人は多い。この場にはダンジョン入場前から撮影をしている人もいるため、単純に売名になるのだ。
パチパチパチと拍手される中で、部長は高々と言った。
「風見乙女の詩!」
部長の言葉に、五人はハッとした。
今までなんだかんだ恥ずかしさがあった慣習だが、テンションがマックスな女子高生たちは元気いっぱいに風見乙女の詩を諳んじる。その顔は自信に満ち溢れていた。
「我ら風見女学園修行部乙女部隊、故郷に現れし始まりの試練を越え、いま帰還せりっ!」
部長の宣言とともに、それぞれが同時にバシーンとキメポーズ。
風見ダンジョン防御砦が震えるほど盛り上がった。
読んでくださりありがとうございます!
ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。
誤字報告も助かっています。ありがとうございます。