8章裏 武器の試練
本日もよろしくお願いします。
すみません、1話で終わらせるつもりでしたが無理でしたm(__)m
続きは次回で。
龍宮から帰ってきた命子たちは、国が用意してくれた近くのホテルで一夜を過ごした。
みんな疲れがたまっているにもかかわらず、興奮して眠れない。
女子が五人集まってそんな夜を過ごせば、当然生まれるのはガールズトークだ。
ベッドの上では、ささらがルルの頭を膝枕して、新しく生えたネコミミをコリコリと弄っている。
ベッドに横たわったルルのお尻へ視線を移動させると、メリスのお膝に乗っかっていた。メリスは、ルルのお尻に生えたシッポをシュッシュとしごいて、吟味していた。
二人に弄り回されているルルは、たまに背中やお尻をビクンとさせつつ目をほわーっとさせて、いいご身分を満喫中だ。
一方、紫蓮は目をピカーッと赤く光らせて、全員の武器を見ている。紫蓮の目には命子から聞いていた新世界の真実の姿が見えており、その美しさに夢中だった。
そして、お布団耐性が幼女のそれとたいして変わらないと自覚している命子は、椅子に座って参戦である。
「それでそれで、みんなはどんな感じでマナ進化したの? じゃあまずはささらからね」
命子は、冒険手帳を広げて新時代式のガールズトークを始めた。
「わたくしは御伽姫という種族になりましたわね」
そんなふうに始まったささらの話を、命子たちは時に質問を交えつつじっくりと聞いた。
フニャルーがどんな内容の試練を出したのかも興味の対象で、どうやら全員が違う試練を受けたようだった。
すっかりささらの話を聞いた命子は、ペンを置いてドッと息を吐いた。
「そっかぁ。でもサーベルが戻ってきて良かったね?」
「はい。思い出のサーベルですから」
ささらは、ビクンとするルルの背中をトントンと優しく叩きながら、紫蓮の手元にある桜色の刀身を持つサーベルへ目を向ける。
ささらは今回の件で少し思うことがあった。
バージョンアップして強くなったサーベルも、きっといずれは使わなくなるのではないかと。では、ギリギリまで使って役目を終えてしまうのと、どこかのタイミングで引退してもらいずっと残しておくのと、どちらがいいのだろうか。
でも、ずっと残しておくにしても、武器ロッカーの中にしまっておくのはあまりにかわいそうだし……。
ささらはこんなことを考え始めるようになっていた。
ささらからお話を聞いた命子は、次に紫蓮へ話を向けた。
「紫蓮ちゃんはどうだった?」
命子へ顔を向けた紫蓮は右目をピカーッと光らせたままだ。
「我は」と切り出した紫蓮の言葉を遮って、命子が言う。
「あっ、紫蓮ちゃん。慣れるまであまりマナの世界を見ないほうがいいよ。変なことになっちゃう可能性があるから」
「うん」
命子の注意を聞いて、紫蓮の目が通常の黒色に戻った。
異常を来たすことの立証はもちろんされていないが、今まで普通の人の身であった命子たちに、マナの世界は美しすぎた。
ダンジョン自体はない静岡市ですら幻想的に見えるため、よりマナが満ちている風見町は魔眼の類で見ると、もはや異世界に来たような光景になる。
命子には、特に紫蓮のようなアーティストタイプの人間が危険に思えた。
実際にどんな危険があるのか国が調べてくれるまでは、危ない橋を渡るべきではないと命子は思うのだ。
改めて、紫蓮が口を開く。
「我は【魔眼姫】になった」
紫蓮はそう言って、また目をピカーッと光らせる。
しかし、今回は自制が利いているようで、顔に手を添えて中二ポーズの演出として使っている。
そんなふうにして、紫蓮の話が始まった。
■■■【紫蓮の回想】■■■
龍宮10階層で、猛烈な吹雪に襲われた紫蓮たちは、自衛隊に守られながら移動を始めた。
視界が1メートル先すらも見えない中で、命子の声がすぐ近くで紫蓮の耳に届く。
「みんなちゃんといる!?」
「我、いるよ!」
紫蓮は真っ先に叫んだ。
人見知りな紫蓮は、アクションを求められたら誰かの出方を窺うのが常で、こういった拙速を求められる状況でもそれは変わらなかった。
だけど自分を仲間の輪に入れてくれて、いくつもの冒険を一緒にクリアしてきた命子たちに対しては真摯に向き合いたかった。誰かがそうしたから自分も声を出すなんてことはしたくないと、最近の紫蓮は積極的になっていた。
だから一生懸命声を張り上げ、自分の無事を伝える。
するとすぐにささらたちからも無事を伝える声が続く。
今までの冒険でもそうだったが、紫蓮はこういった連携の中に自分が入っているのがとても嬉しかった。
龍命雷を握る手にギュッと力を籠め、もっとみんなのために強くなろうと密かに誓い直した。
「いてっ、ウサ公は畜生だから元気いっぱいだな! 冬眠すんなよ!」
元気いっぱいなのは命子だ、と紫蓮は思いながらこんな時でも楽しい雰囲気にしようと頑張る命子の姿勢に、口角をあげる。
「羊谷命子、大体のウサギは冬眠しない」
紫蓮がそう返した折に、ふわりと吹雪が一瞬弱くなった。
耳の奥がジンとするような吹雪の中で、命子の細いふくらはぎとぽっくりが視界の斜め前方に見える。
その足先を頼りにして、紫蓮は慌てて進む道を変えた。
唐突に沈黙が訪れた。
鼓膜を震わせるのは吹雪の音と自分の息遣いばかり。
もともと沈黙をそう苦にしない性質だった紫蓮だが、この沈黙に恐ろしさを感じた。
「ひ、羊谷命子、我、こんな凄い吹雪初めて!」
紫蓮は前方を歩く命子に向かって声をかける。
私もだよ、と元気に返してくれるはずだったのに、命子は沈黙したまま歩調を緩めず進んでいく。
聞こえなかったのかも、と紫蓮はしゅんとして、それでも命子についていけば間違いないと歩みを進める。
それに、自分たちが歩いているのは広大な雪原ではない、龍宮の通路なのだ。ホワイトアウトしようとも、はぐれるはずがないという気持ちがあった。
――白き世界は真実と虚像を曖昧にする。
「え……? ぴゃっ!?」
不意に聞こえた謎の声とともにひと際強い風が吹き、白かった世界が煙を払うように晴れ渡った。
紫蓮は突風から片手で顔を守るも、吹雪が止んでいることに気づいてすぐに視界を確保した。
その瞬間、紫蓮に複数の驚きが押し寄せて、なにから処理をしていいのか脳が混乱する。
「ぴゃわ……」
周りに誰もいないのだ。それどころか通路ですらなかった。
さらに、部屋に入った紫蓮の手からは、強く握っていたはずの龍命雷がなくなっており、その代わりに部屋中の壁に龍命雷そっくりの武器がたくさん刺さっていた。
入り口は分厚い氷に覆われて脱出も無理そうである。
「ひ、羊谷……っ」
紫蓮の口から命子の名前が出てくるが、いきなりひとりぼっちにさせられた緊張で喉が渇いて最後まで言い切れない。
紫蓮はギューッと目を閉じた。
弱気でどうする。みんなと一緒にこれからも冒険を楽しむのなら、これくらい自分一人で切り抜けなくてどうする!
紫蓮は自分を奮い立たせて、カッと目を開いた。眠たげな瞳の中に、強い意志の力が宿る。
その目で、部屋の中央を睨みつけた。
そこには、巨大な氷の塊が鎮座しているのだ。
「理解した……」
ルールはおそらくこうだ。
『本物の龍命雷で氷の塊を破壊しろ』
多くの漫画を読んできた紫蓮にとって、そう推理することは容易かった。
リュックを入り口の近くに置いた紫蓮は、たくさんの龍命雷の中から一番近くにあるものを手に取った。
取った瞬間、その武器が龍命雷ではないとすぐにわかった。
明らかに龍命雷よりも強い武器なのだ。
「どういうこと?」
紫蓮は困惑した。
普通、こういう展開の時の偽物はハリボテなのだが、本物よりも強い武器をいきなり引き当ててしまった。これなら普通に氷の塊を斬れそうに思える。
「ルールを勘違いした?」
紫蓮は首を傾げながら、氷の塊の前に立つ。
紫蓮はグッと腰を落として、武器に魔力を纏わせる。
「強打!」
紫色のオーラを纏った謎の武器を、氷の塊に叩きつける。
その瞬間、紫蓮の手に強い衝撃が加わり、謎の武器が弾き飛ばされた。
紫蓮は転がるようにその場から離脱して、状況を観察する。
氷の塊に反撃するようななにかは見られない。
しかし、弾き飛ばされた謎の武器が空中に浮き、紫蓮へ向けて切っ先を向ける。
「ひ、火弾!」
紫蓮は慌てて火弾を放つが、謎の武器は炎を突き破ってこちらに向けて飛んできた。
「ぴゃ、ぴゃわっ!」
大きく横っ飛びで回避した紫蓮が今までいた場所に、謎の武器が突き刺さる。
それっきり動きを止めた謎の武器にホッとしたのもつかの間、今の攻撃で試練が始まったようで、触ってもいない遠くの武器が浮かび上がり紫蓮に向けて飛んできた。
「こ、こいつ」
紫蓮は咄嗟に近くの武器を手に取った。
今度は明らかに龍命雷よりも弱い。
この武器で耐えられるのかと不安に思うと同時に体は動き、飛んでくる武器を弾く。
意外にもあっさりと弾くことができたが、それと同時に自分が持っている武器も弾き飛ばされる。
そして、今度はその二つの武器が紫蓮の敵に回った。
「き、きつい……っ!」
紫蓮は飛んできた謎の武器を、真横に飛んでがむしゃらに回避した。紫蓮が飛んで通過した場所に、ガガッと二本の謎の武器が突き刺さる。
一方、紫蓮が回避した先には床に突き刺さった武器の刃がぎらついていた。慌てて身体を捻った紫蓮は、受け身を取れずに肩から落ちる。
今の紫蓮にとって受け身を取れなかったのは大したダメージにはならないが、心に焦燥感が生まれる。
慌てて立ち上がり、周囲を見回す。
どの武器が動くかわからない。
「ち、違う」
紫蓮は首を振った。
「襲ってくる武器を見つけるんじゃない。本物の龍命雷を見つけ出す」
紫蓮はそうやって確認の言葉を口にしながら、新たに飛んできた武器を回避した。
「ふぅ、ふぅ……違う、違う……」
頬とわき腹から血を流す紫蓮は、薙刀が生えた室内を走り回る。
「うっくぅ! 違う、これも違う……」
紫蓮は飛んできた武器を回避しながら、周りの武器に目を向ける。
謎の武器は、多少触れることは可能だが、握ってしまえば最終的に襲ってきた。
だから今の紫蓮は迂闊に武器を握れず、心が命じるがままに武器を判別していった。
何回かダメージを食らって血を流しながら武器の十分の一を確認した頃に、それは起こった。
氷の塊からぶわりと風が巻き起こる。
「ぴゃ、ぴゃぅうううう……っ!?」
紫蓮はなにが起こってもいいように片目だけは必死に開けて、異変をやり過ごす。
突風が止むとその片目を閉じて目の渇きを直し、今まで閉じていた片目を代わりに開いた。
そんな紫蓮の瞳が、室内の変異を捉えた。
武器の配置が全て変わっているのだ。
「つらたん」
紫蓮はこの瞬間、一本一本探すのを諦めた。
というよりも、試練の意図が違うのだと理解した。
「羊谷命子……」
かつて命子は、覚醒した瞳で次元龍の魂を覗き込んだ。そのことで、命子はマナや魔力の世界を見た。
【生産魔法】を使って作り上げられる物を誰よりも近くで見てきた自分にだって、それができるのではないか。
「我はできる子……」
紫蓮は眠たげな目に、むーっと力を入れた。
そんな紫蓮へ向けて謎の武器が垂直に飛んでくる。
集中する紫蓮は少し体を逸らして紙一重で回避する。
「龍命雷……っ」
紫蓮は呟く。
命子たちに譲ってもらった龍の牙を使って、自衛隊の職人さんに作ってもらった薙刀。
紫蓮はこの武器を手に入れた時、嬉しさと悔しさがあった。
新参者の自分に、当時ではとても貴重だった龍の牙をくれた命子たちの優しさ。
そして、自分が作ったものではない武器を使う悔しさ。
だから、この武器を超える武器をいずれは自分の手で作りたいと、毎日毎日、一生懸命手入れをして、その構造の全てを勉強してきた。
そういうと自衛隊の職人さんが凄いみたいに聞こえるが、それは違う。職人さんも紫蓮も、世界に溢れたダンジョン武器についてなにも知らない。ただ、レシピ通りに作っているにすぎないのだ。
だから紫蓮は、日本の法律が許す防具作りから始めた。
魔狩人の黒衣や戦乙女の鎧を作って一から勉強し、絆の指輪を作り上げ、ほかにもレシピで見つかるおもちゃなどをたくさん作って腕を上げてきた。
風見町防衛戦を迎えるころには『見習い防具職人』もマスターし、それからも時間があれば魔法のアイテムを作ってきた。
その全ての時間を思い出し、紫蓮は眠たげな目をギンッと見開いた。
「龍命雷……っ!」
紫蓮の瞳に、ぼわりと紫色の炎が宿る。
その瞬間、紫蓮の視界が変化した。
「ぴゃわぁ……」
それは優しい翡翠色と淡い紫色、そして冷たい氷色が混ざった世界。
それは命子が見ている世界とは、少し異なっていた。
【龍眼】を得た命子は満遍なく世界の真の姿を見通すが、覚醒した紫蓮の瞳は特に物体に宿った魔力やマナを強く見通した。
ザンッ!
「ぴゃっ!?」
まるで紫蓮を正気に戻すかのように、足元に謎の武器が突き刺さる。それは的確に紫蓮を狙っていた今までの様子とは、明らかに違った挙動だった。なにせ今の紫蓮は無防備で、絶対に避けられなかったのだから。
正気に返った紫蓮は、紫のオーラを宿した瞳で周囲を見回す。
そして、一つの事実に気づいた。
全ての武器が明らかに龍命雷ではない。
氷色のオーラを纏った武器なのだ。
その中でたった一本だけ、紫色のオーラを纏った武器がある。
「ずっとここにあった」
紫蓮は唇を小さく上げて笑った。
こういう演出が紫蓮は大好きだった。
飛んでくる武器に向けて、紫蓮は初めからずっと握っていた龍命雷を振った。
バキンッ!
飛んできた武器を弾くと同時に、全ての謎の武器が砕け散る。
キラキラと氷の粉屑が舞い散る中で、紫蓮は龍命雷をその場に立て、両手で握りしめた。
「我が力を以て、真の力を見せろ。龍命雷!」
【覚醒・見習い棒使いセット】に内包されたスキルたちが紫蓮の右手から柄に流れ込み、龍命雷が光り始める。
今の紫蓮の瞳には、スキルたちが龍命雷の内部に存在する魔力の回路を力強く起動していく姿が見えていた。
さらに【覚醒・生産魔法】がその回路に満ちる魔力をさらに強靭なものに変えていく。
そこまでは紫蓮にとってもはや造作もないことだったが、初めて見る魔力回路の姿を見て、紫蓮は多くのことを理解していった。
「まだだ!」
だが、それだけでは終わらない。
紫蓮は知っている。武器は覚醒した属性魔力を宿せることを。
【火魔法】を得ている紫蓮だが、まだ覚醒には至っていなかった。
でも、自分にならできる!
紫蓮は初めてダンジョンから帰り、自分でもできるのだと、自分を信じることを学んだ。
命子たちと出会ったことで、そんな自分の考えが正しいのだと自信を持った。
だから、自分でもできるのだ!
紫蓮の右目がずきりと痛む。
それでもここで終わらせてなるものかと、龍命雷の魔力回路へ向けて意識を集中する。
すると、ジワリと魔力回路が真っ赤に染まっていく。
この光景を命子が見たならば、ルルや藤堂が使う属性剣とはまったく違うものだと気づいただろう。彼らの属性剣は表面に属性を纏わしているのだ。だが、それを知らない紫蓮は内部に力をこめ、これが正しいやり方なのだと誤認した。
魔法回路が赤く染まりあがると、龍命雷の切っ先が炎に包まれる。
「はぁあああああああ!」
紫蓮の気合に呼応して、龍命雷の刀身がさらに赤く輝きを増していく。
そして、紫蓮は炎を宿した龍命雷を片手で天に向かって掲げ、そのままスッと振り下ろした。昔のインドアだった紫蓮の体では支えることすら難しかった龍命雷が、ピタリと止まって切っ先を氷の塊へ向ける。
他者から見ればこのポーズに意味など見いだせないだろうが、紫蓮にとってはこれが自分の全てなのだと宣言する大きな意味があった。
氷の粉屑が煌めく中で、紫蓮は氷の塊に向けて走り出す。
「炎魔」
大きく踏み込んだ紫蓮の瞳が、紫色の尾を引いて氷の塊を睨みつける。
「龍命撃っ!」
それは【生産魔法】【見習い火魔法使いセット】【見習い棒使いセット】と、多くの覚醒スキルを混ぜ込んだ一撃だった。
赤熱する刀身が炎の尾を引き、大きな弧を描く。
赤熱する刀身が氷の塊をバターのように切り裂き、内部で『強打』の衝撃波をもたらす。さらに遅れてやってきた炎の尾が氷の塊を舐めるように包み、溶かした。
龍命雷を振り切った姿勢のまま、紫蓮はコクリと頷いた。
それと同時にキリリとした目つきがポンと元に戻り、いつもの眠たげなお目々がこんにちは。
「炎魔・龍命撃……食らった者は等しく死を迎える」
そのキメゼリフとともに、氷の塊に一気に亀裂が入り、粉々に砕け散った。
龍命雷をくるんと回してトンと床を突いた紫蓮は、ふんすぅと胸を張った。
「我にかかればこんなもの」
戦闘に勝利していい気持ちになった紫蓮だが、不意に心臓がドックンと脈打つ。
「ん?」
コテンと首を傾げつつ、早くみんなと合流しようと振り返る。
そうそう、ちょっとケガをしたから低級回復薬を飲んでおこう、と腰に付けたホルダーに手を添えたところで、視界がブレるほどの脈動が紫蓮を襲った。
「ぴゃ……?」
紫蓮はガクリと膝をつき、細い体を必死で抱きしめた。
混乱する紫蓮だが、マナ進化が始まったのだとすぐに気づいた。
これからマナ進化が始まるのだと思うと、脳裏に、命子や仲間たちの姿と、そして大好きな母親の笑顔がよぎった。
「羊谷命……ささ……ル……母、母……ママ……」
マナの風が吹き荒れ、翡翠色の帯に包み込まれる中で、紫蓮は気を失った。
卵型のマナの中で、紫蓮はどこかで聞いたことがあるような優しい音色を聞いた。
それは紫蓮ママののんびりとした歌。かつて紫蓮を妊娠していた頃に紫蓮が毎日聞いていた歌だった。
そんな音色に包まれて、紫蓮はとてつもなく大きな存在たちから祝福される夢を見た。
紫蓮が瞼の裏側で見る光景は、その大きな存在たちに向かって、自分が小さい頃から今に至るまでに作ってきたたくさんの物を発表したり、仲間との冒険譚や家族のことをわたわたと説明したりする光景だった。
【宣伝】3月10日に【地球さんはレベルアップしました! 2巻】が発売されました。これも皆さんのおかげです。
またコミカライズもニコニコ静画さんで連載中ですので、良かったら見てください!