8-14 小休憩と魔術入門
本日もよろしくお願いいたします。
【情報】精霊を愛でるスレ PART62【求ム】
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507、仮暮らしの名無シッティ
情報がさっぱりなくなったな。
508、仮暮らしの名無シッティ
まだ三保の松原に自衛隊いるの?
509、静岡暮らしの名無シッティ
むしろ増えた印象。
510、仮暮らしの名無シッティ
聞いて聞いて。俺、生で藤堂見たよ。マナ進化して角が生えてラスボスみたいになってた。
511、仮暮らしの名無シッティ
小龍人ってのになったのか?
512、仮暮らしの名無シッティ
ここに書き込むってことは、藤堂が現地入りしたってことでOK?
513、仮暮らしの名無シッティ
ごめん、そう。ちなみに精鋭部隊も来てたよ。
514、仮暮らしの名無シッティ
精鋭部隊が来るってことは結構大事になってんのかな?
515、神奈川暮らしの名無シッティ
今回の件に関係あるかわからないけど、横須賀から海上自衛隊の船がめっちゃ出港してたぞ。
516、仮暮らしの名無シッティ
それたぶん関係あるな。静岡からもヘリが何機も飛び立ってたし。命子ちゃんも海のほうに一度ヘリで移動して戻ってきたって情報がある。
517、仮暮らしの名無シッティ
いま沼津に海鮮丼食いに来てるんだけど、逆に漁港では船の出港禁止指示が出てるぞ。つ【動画URL】
518、静岡暮らしの名無シッティ
理由は言われてないのか?
519、仮暮らしの名無シッティ
それ関連のニュースが始まったぞ。すぐにエネーチケーつけるのをお勧めする。
520、仮暮らしの名無シッティ
えっ、なにこれ全部クジラなの? こっわ。
521、仮暮らしの名無シッティ
フィリピアにオーストイリア、日本近海、太平洋……そこら辺から全部のクジラが移動してるってことなんか?
522、仮暮らしの名無シッティ
全ての個体かどうかは調べようがないけど、尋常じゃない数が移動してるみたいだな。
523、仮暮らしの名無シッティ
海にできたダンジョンに関係していると見た。きっとクジラさんネットワークで、ウマウマなダンジョンの情報が拡散されたのだ(*’ω’*)
524、仮暮らしの名無シッティ
いや、関係しているのは命子ちゃんだろ。今度はトリトンになるんだぜ。ロリトンだ!
525、仮暮らしの名無シッティ
乗り物がでけぇよwww あ、いや、イルカも混じってるみたいだな。
526、仮暮らしの名無シッティ
むむっ、緊急記者会見が始まったぞ? もっとクジラさん見せろ( `―´)ノ
527、仮暮らしの名無シッティ
官房長官は相変わらず死にそうな顔してんぜ!
528、仮暮らしの名無シッティ
今年就任してた運命を呪うしかあるまいて……(;^ω^)
529、仮暮らしの名無シッティ
……はっ? 空中に浮かぶ建物とな?
530、仮暮らしの名無シッティ
ふわわわっ、天空の城キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
531、仮暮らしの名無シッティ
ら、ラピュータキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
532、仮暮らしの名無シッティ
ビビりすぎてポップコーンが気管に入った。助けて……っ!
533、仮暮らしの名無シッティ
これって完全に三保の松原から続いてるシークレットイベントだよね?
534、静岡暮らしの名無シッティ
どうしよう、静岡にインドラの矢が放たれちゃう!
535、仮暮らしの名無シッティ
大丈夫、あそこには命子たんがいるはずだ! ワロスってやって沈めてくれるはず!
536、仮暮らしの名無シッティ
ふむふむ。クジラたちは、この施設から少し離れた場所を目指してるのか。
537、仮暮らしの名無シッティ
っていうか、すげぇ雪降ってるじゃん。まだ11月だけど、こっちのほうの海ってこんなに雪降るの?
538、仮暮らしの名無シッティ
この時期となると異常なんじゃないかな? なにより、こんな狙いすましたタイミングではまあ降らんだろうな。
539、仮暮らしの名無シッティ
っていうか、シークレットイベントってこういうのもあるのか? 明らかになんらかの超文明が関与してるように思えるけど、こうなると割と話が変わってきちゃうぞ。
540、仮暮らしの名無シッティ
たしかに起動したくなっちゃうよな。凄いアイテムとかありそうだし。
541、仮暮らしの名無シッティ
参照:キスミアの精霊石の剣。
542、仮暮らしの名無シッティ
だけど、ネズミーパニックみたいなのを準備せずに引いたら、付近の住民全員死ぬぜ?
543、仮暮らしの名無シッティ
それな。せめて他を巻き込まない造りにしてくれたら良かったんだけどな。裏ダンジョン的な。
544、仮暮らしの名無シッティ
それにしても、カーバンクルライダー精霊ちゃんから、どうしてラピュータを浮上させちゃう事態に発展するのだろうか?
545、仮暮らしの名無シッティ
それがロリッ娘クオリティだ。息をするように意味不明な展開に発展させる。
546、仮暮らしの名無シッティ
なんかイベントを引き込む特殊な称号とか持ってるのかな? いっぱい冒険できて羨ましいんだけど。
547、仮暮らしの名無シッティ
わかる。これこそ俺たちの求めている命の燃やし方って感じだよな。
548、仮暮らしの名無シッティ
命子ちゃんに限らず、イベントの引きが良いやつっているよな。俺の友達にも風見町と鳥取市、そんで今日やってる淡路島の防衛戦にも参加しているやつがいるんだよな。幼馴染の女の子と血の繋がってない妹と。戦死しないかな。
549、仮暮らしの名無シッティ
そんなラノベの主人公リアルにいるの? 戦死しないかな。
550、仮暮らしの名無シッティ
ちなみに、そいつが大学に帰ってきたときに、鳥取市で共闘したって女の子が仲間に加わってて、俺はリアルに足から力が抜けたぞ。辛うじて椅子に座るふりができてプライドを保てた。
551、仮暮らしの名無シッティ
じゃあ次は元気いっぱいの島娘だな。
552、仮暮らしの名無シッティ
たぶん、助走をつけて殴る。
553、仮暮らしの名無シッティ
まあまあ。まだ地球さんがレベルアップしてそんなに経ってないし、死ぬまでにみんな五、六回はでかいイベントに巻き込まれるんじゃないかな? テレビでも見ながら気長に待とうぜ?
554、仮暮らしの名無シッティ
せめてお外に出よ?
555、ダンジョン暮らしの名無シッティ
ダンジョンから帰還してみれば凄いことになってる件。カーバンクルライダー精霊ちゃんってなんだよwwwちょっとロムってくるわ。
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「ここで休憩しよう」
命子たちは、戦闘を重ねながら施設内を移動して、8階の一室で休憩に入った。
命子たちが休憩に使った部屋は、おそらく食堂かミーティングルームか、とにかく大人数が座れる席があった。
やはり床には霜が降りており、この場にも氷の魔物が出てもおかしくない様子ではあったが、魔力の都合でさすがにそろそろ休憩が必要だった。
「予想通り、迷路に作り替えられているね」
作成した地図を見て、教授が言う。
その言葉の通り、施設は氷の壁を使って迷路に変わっていた。
例えば、命子たちは6階からスタートしたのだが、西階段とゲートは封鎖され、東階段のみが別の階層へ行けるルートにされていた。そして、東階段も5、7階にしか移動できなかった。
一行は1階にあるモノリスの部屋に行きたいので5階に移動したのだが、そこもゲートは封じられ、西階段は下の階ではなく、8階にのみ行けるように氷の壁ができていた。
現在はその8階の一室で休憩しながらミーティングをしている状況だ。
いくつかのことを決めてミーティングを終えるが、このパーティのメンバーはかなり最大魔力量が多いため、まだまだ休憩は続く。
「ささら、調子はどう?」
命子が尋ねると、ささらはその漠然とした質問に首を傾げた。
「え? はい、絶好調ですわ!」
ささらはカプセルに入っていたことを心配されたのだと思って、胸の前に両手で握りこぶしを作って元気さをアピールした。滅茶苦茶強くなったのに、手の甲を命子に見せるガッツの仕草は女子女子していた。
「メリスさんはどうですの?」
ささらはそのままメリスに話しかける。
昔は自分のことで手一杯だったささらだが、誰かを会話に混ぜてあげるために話を振ることを覚えていた。メリスの日本語がまだ完全ではないということもあって、ささらの成長を促しているのだ。
「拙者も元気いっぱいデスワよ!」
メリスはささらの真似をしてガッツポーズを取る。そして、ささらの笑顔にちょっとだけ微笑んで返した。
それを見たルルがはわっとした顔をして、二人の間に体をねじ込んで座った。すると、ささらとメリスはルルを交えてキャッキャし始める。ルルは構われて、身をくねらせてテンションを上げた。
そんな三人を見て、命子は慌てて止めた。
「いやいやいや。キャッキャは置いといて。そうじゃなくて、なんかグワーッてなってない?」
「うーん……なってませんわね?」
「ふむ、そうか」
命子は自分の時を思い出す。
たしかに、唐突にマナ進化は始まった。ドックンと来たあとは、一気にマナ進化が始まったように思える。マナ進化の最中はよく覚えていないが、凄く幸せな夢を見た気分だった。
「じゃあ何か最後のキーが必要ってことなのかな?」
ささらやルル、そしてこの場にいるほとんどの人が、その最後のキーを得る段階に至っているだろう。命子は、自分の場合は、強大な敵に立ち向かって魂を全力で燃やしたからのように思えた。
「紫蓮ちゃんもそろそろだと思うんだよな」
「……」
命子の言葉に、紫蓮は小さく頷いた。
紫蓮はまたささらとルルに実力を離されるのがちょっと怖かった。それはメリスも同じだろうけど、紫蓮からすれば下がいるから安堵するなんて考え方はしたくなかった。それは修行せい! と言った女の子のパーティメンバーの考え方ではないからだ。
まあ命子は、ひたすら頑張っているだけの普通の女の子なので、高尚な考えは持ち合わせていないのだが。
「有鴨さん、どうぞ」
「ありがとう」
ちょっとセンチメンタルな気分になった紫蓮に、滝沢がホットミルクティーを渡した。滝沢はにこりと微笑んで、紫蓮の隣に座って静かにお喋りを始めた。
「藤堂さん、角の調子はどう?」
元気いっぱいの命子はうろちょろといろいろな人に話しかけていく。その姿はイベントの合間に仲間たちに話しかけるRPGの主人公のよう。
「すこぶるいいな。覚醒スキルも魔力消費が少なくなったし」
覚醒したスキルは、魔力の消費が多かった。
命子の【龍眼】はこの原因を、力を籠めるあまり無駄に魔力を放出して溢れさせているのだと捉えている。
一方の命子と藤堂は、マナ進化に組み込まれたスキルだけは、この無駄が日を追うごとに少なくなっていた。いきなり無駄がゼロにならないあたりは、修行しろということなのだろう。
しばらく角談義をしていた藤堂が、ふと思い出したように言った。
「そう言えば、実はな、この事件がなかったら雑誌のインタビューがあったんだよ。俺が雑誌って参っちゃうよな!」
藤堂は物凄くまんざらでもなさそうにして言った。
「へえ、なんて雑誌ですか?」
「あれだよ、ほら。最近創刊された『冒険×野郎』ってメンズ雑誌」
「ちょっと藤堂さん。そういうのは守秘義務に触れるかもしれませんよ」
「はわっ、命子ちゃん、今のはなしで」
部下に窘められ、藤堂は顔を青くして命子にお願いした。
「まあ、このイベントは地球さんTVに流れるかもしれませんけどね」
「命子ちゃん、それなら大丈夫だ。地球さんTVで得た情報は基本的に裁判の証拠や守秘義務違反にはならんから」
これは地球さんTVに忖度があまりないからだ。国家の最高戦力の情報だって普通に流れる。
まあ場合によっては信用が落ちるが。
「それにしても、冒険×野郎ですか。メンズ雑誌だし知らないなぁ。女の子のダンジョン雑誌は『FAIRY・白百合』ですよ」
命子が言うと、自衛隊男性陣は全員が、あー、と聞いたことがあるけどよくわかっていない反応をする。昔からティーン向けの白百合という雑誌が有名で、FAIRYは別冊なのだ。
「命子ちゃんたちもたくさんオファーが来ただろ?」
「はい。何回かお誘いが来たみたいだけど、忙しくて断りました」
命子たちも雑誌のお誘いは何回かどころではなく、今でもとてもよく来る。しかし、その全てを断ってしまっている。
その代わりに、地球儀寄贈式典をした時とイメージガールをした時の写真が多くの雑誌で取り上げられた。
FAIRYに限らず、現在の女の子の雑誌では冒険者特集が過熱しており、風見女学園の生徒も何人か街頭モデルになったという話を命子は聞いた。
RPGの主人公な命子は、今度は教授と馬場のところへ行った。
教授は命子から借りた冒険手帳の予備にいろいろとメモしており、その近くではウサギの様子を観察するアイが、ミニ手帳になにやら書いている。そして、そんなアイとウサギを馬場が真剣な目でジッと見つめていた。
「教授、なにしてるんですか?」
「うん? ちょっとメモをね。そうだ、命子君。魔力は結構残ってるかい?」
「はい。【龍脈回復 小】のおかげで私は魔力回復が早いですから」
命子のジョブ『小龍姫』は、龍脈の力を借りて強くなったり、肉体、魔力、魂の回復速度が向上したりする。
「ふむ、それじゃあちょっと聞きたいのだが、君は魔力で空中に文字や絵を書くことは可能かい?」
「よくぞ聞いてくれました! できます!」
【龍眼】で魔力が紫色に色づいて見えるようになってから、命子はいろいろなことをした。その中の一つが『修行者』で覚える【魔力放出】で空中に文字を書くことだった。
普通の【魔力放出】は煙のようにブワッと出る。しかし、今の命子は攻撃にこそ使えないが、指先などからシャープに魔力を放出することができた。
これを利用して、夜、暗い部屋のベッドの上で、天井に向きながらさらさらと文字を書いて、楽しんだりしているのだ。命子的には中二病として当然の嗜みだった。
「ほう、さすがだ。それじゃあ今から説明することを試してみてほしい。いいかい、各辺に3・2・3の魔力を込めて正三角形を描いてみてほしい」
教授は、床の上の霜を削って、かなり正確な正三角形を描き、命子に説明する。
その頃になると、紫蓮やささらたちもやってきて、お話を聞き始める。特に紫蓮は凄く熱心だ。
「ふむふむ。3・2・3か。ちょっとやってみます」
「探索もあるから、あまり魔力消費が多ければ中止だよ」
「わかりました」
命子は教授が床に描いた正三角形を、魔力を込めた指先でなぞっていく。
しかし、頂点を結んでもなにも起こらない。
「ちょっと違うのかな?」
命子は首を傾げて、再度トライした。
しかし、やはり失敗する。
「ちなみに、これは成功してないんですよね?」
命子は結果を知らないので、念のために尋ねる。
「ああ、失敗だね」
「むずいな」
「教授、これはなにが起こる? 結果を想像できたほうがいいかも」
紫蓮が意見を言うと、教授は少し考えて首を振った。
「いや、この実験は命子君が結果を知らないことが大切なんだ」
教授は親切だったころのバネ風船に教えてもらったので、これがもたらす結果を知っている。火が出るのだ。
しかし、この現象を、バネ風船を作った世界の人々は『発見』したのだ。おそらく偶然だろう。つまり、結果をイメージする必要などない可能性が高かった。
もちろん、紫蓮が言うこともあり得ないことではない。イメージにより火が大きくなる可能性はあるが、その実験はあとでいい。今は、結果を知らないということが大事なのだ。
というのも、図形プラス各辺に籠める魔力で魔法陣が完成するとなると、単純な図形でもその組み合わせは膨大な数になる。
そんなものをこれから研究するうえで、結果を知らない地球人でも魔法陣が発動するという証明が教授は欲しかった。
これは今じゃなければならない。なぜなら、この冒険は冒頭から地球さんTVで流される可能性があり、そうすると世の中にこの情報は出回り、結果を知らないという人がいなくなるかもしれないからだ。
「命子君。ステータスを出して、魔力消費を意識しながら描いてみてはどうだろう」
「なるほど、やってみます」
教授のアドバイスを受けて、命子はそれから2回トライする。
教授が描き、命子がなぞる正三角形のそばには、他にもいくつもの正三角形が並んでいた。全てアイが描いたものだ。どうやら遊んでいるようであった。
そして、3回目のことだった。
正三角形の頂点に命子の指が到達した瞬間、その図形が光りだし、中央に小さな火が出現した。
「「「おーっ!」」」「「にゃーっ!」」
日本人勢とキスミア勢の歓声が重なる。
その歓声が収まるよりも早く、火と正三角形の光は消えてしまった。
「こ、これ、教授、これ! いま火がついた!」
「うん。これは魔法ではなく魔術だ。一番原始的な魔術なのだろうね」
興奮する一同を鎮めて、教授は続けた。
「命子君はすでにその世界にいるが、これから君たちは多かれ少なかれ魔力を視認できるようになるだろう。だから、こういった技術の痕跡を探すように意識を傾けてみてほしい。もちろん、安全を最優先にしてね」
教授はそう言って、子供たちに教えるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ニコニコ静画さんにて、本作のコミカライズが始まりました。ぜひ読んでみてください!