クリスマス特別編
メリクリメリクリ!
【あとがきと活動報告にお知らせがあります!】
「ルルの誕生日っていつなの?」
ある修行の日の昼休み中、命子がそう尋ねた。
おにぎりを美味しそうにもぐもぐと頬張っているルルの代わりに、ささらが答える。
「12月25日ですわよ!」
凄いでしょう、と言わんばかりの顔だ。
「へぇ、クリスマスじゃん!」
そこでようやくおにぎりを飲み下したルルが、レモンティーで口をサッパリさせてから、言った。
「そんなに良いものでもないデス。親から貰えるプレゼントは一つだけだったデス」
「あー、イベントと誕生日が重なった子はそう言うよね。それで、キスミアのクリスマスはどんな感じなの?」
「キスミアのクリスマスは日本に近いデスね」
ルルはそう言うと、キスミアのクリスマスを説明した。
キスミアには、二回の文明開化があった。
一回目は約600年前にペロニャが現れたことで。
二回目は戦後、航空技術が発達したことでキスミア盆地への移動が容易になったことで。
そして、ここで注目したいのが、この二つの文明開化で生じた日付にまつわる問題だ。
600年前にペロニャがふらりとキスミア盆地に現れることになったのだが、この人物はキスミアに不完全な太陽暦を伝承した。
そして、12月25日を神さまにお祈りする日にした。ペロニャが実際のところなににお祈りをしたのかは定かではないが、キスミア人自体は一年で一番フニャルーにお祈りをする日にしたようだ。キスミアの神は、昔からフニャルーなので。
問題は、二回目の文明開化の折だ。
ペロニャが伝えた暦の日付は外の世界の日付と15日分ずれていたのである。
これにより、キスミアには12月25日に相当する日が二つできてしまうことになったのだが、キスミア人にとって祈るべき神はフニャルーだったため、外の世界の12月25日は、世の中に合わせて単なるイベントデーになってしまった。
「なるほど、ジャンヌダルクはおっちょこちょいだったんだな」
「メーコはまーた言ってるデス。ペロニャはフニャルーに叱られて家出した子猫山の化身デス。いい加減にするデス!」
ルルはそう言って呆れると、命子の太ももをペシィと叩く。命子は解せぬと思った。
「ルルさんは今年のクリスマスは、サンタさんに何を頼むんですの?」
「「っっ!」」
ニコニコするささらの言葉に、命子と紫蓮の肩がビクンと震える。
そういえば、ルルは今さっき、『親から貰えるプレゼントは1つだけ』と言っていた。まるで他からは貰っていたような口ぶりだ。表情に出さず、二人は口を引き結んで会話の方向性をまず探った。
「シャーラ。ワタシはもう高校生デスよ?」
あー、さすがにね、と命子と紫蓮はがっかりした。だが、がっかりするには早かった。
「ワタシはもういっぱい貰ったから小さな子にあげてくださいって、去年、お手紙書いたデス」
「そ、そうですわよね? そ、それが一番ですわ」
ルルのしっかりとした言葉に、ささらはちょっと気まずそうに同調した。
命子と紫蓮は顔を見合わせた。
二人は、日本の山奥にペカトゥーがいると思っていたアホの子だ。サンタさんも本当にいると思っているのかもしれないと。
その予感は当たっていた。
そして、ささらは毎年、プレゼントは要りませんから来年は素敵なお友達ができますようにと、夜空に向かってお願いしていた。それは中三だった去年も。
ドキドキしながら会話を聞いていた命子と紫蓮の顔を見て、ルルが言った。
「にゃにゃっ! 二人ともさてはサンタさんがいないと思っている派デスね?」
「派閥扱い」
「ま、まあ、うん。私たちはそっちの派閥に入ってる。いや、ホントあいつら強引でさ。なあ、紫蓮ちゃん?」
「うん。我らもいる派に入りたい。でも、いる派に入ろうとすると石投げられる」
紫蓮と命子はそう言ってごまかした。ささらはそんな恐ろしいことがと驚愕し、ルルは苦労してんだなみたいにコクコクと頷いた。
「あれはワタシがまだ7歳の頃デス」
唐突に語り始めたルルに、命子はホットミルクティをくいっと呷って「続けて」と言った。
「言われなくても続けるデス」
ルルの誕生日であり、クリスマスでもあるその日の晩。
ルルはサンタさんを見たらしい。
「ほっほう!」
「サンタさんに去年のお礼が言いたくて、夜空を見上げてたデス。そしたら、ソリに乗った女の人がワタシの部屋の窓の前にやってきたデス!」
「サンタさんは女だったのか」
「そこはワタシも意外だったデス」
「ニャーニャー言ってなかった?」
「ルネットじゃないデス! 当時27歳デス」
「ルルママではないと」
「そ、それでどうなったんですの?」
命子とルルのやり取りにしびれを切らせたささらが、ルルの服をクイクイ引っ張る。その姿はおばあちゃんにお話の続きをせがむ幼女のごとし。
「サンタさんはあちゃーみたいな顔をしたデス。やっぱり見られるのはあまり良くなかったみたいデスね。でも、仕方ないなぁみたいな顔でプレゼントをくれたデス」
「マジか。なにを貰ったの?」
「本だったデス。絵柄はあまり覚えてないデスけど、四人の女の子が書かれた本だったデス。ワタシはゲーム機を頼んだのにデス」
「おっちょこちょい……ペロニャだ!」
「ニャウ。その可能性はあるデス」
「えぇええ、ジャンヌダルク説は否定されたのに、サンタ説はありなのかよ……」
命子の文句に、ルルはしつけぇなメーコは、みたいな顔でため息を吐いた。
「その本はまだ持ってる?」
紫蓮の質問に、ルルは首を横に振った。
「不思議なことに、朝になったら消えてたデス。代わりに靴下の中にゲーム機が入っていたデス。ワタシが思うに、あの本はプレゼントの種だったデスね。あれを貰うと、お願いしたプレゼントに変化するんデス」
命子と紫蓮は、なんだ夢かと思った。
それをルルは目ざとく察知する。
「なんだ夢かって顔してるデス!」
「いや、違うんだよ。サンタ否定派の圧力なんだ。こうしないと怖い目に遭うんだ」
「あいつらはサンタいる派を憎悪している。我、クリスマスツリーの下で鞭でぶたれている子を見たことがある」
「ハッ、まさか馬場さんも?」
「その可能性は否定できない」
「メリクリメリクリっつって、ウケるぅ!」
ケタケタ笑う命子。馬場が遠くでくしゃみをした。
そんなふざけた様子の命子と紫蓮に、ルルは頬をぷくぅっとさせた。
「むぅ! 見るデス、シャーラのこの目を! ねぇ、シャーラ!?」
「えぇ、それは絶対にサンタさんですわ」
「んふふぅ! やっぱりシャーラデス。メーコとシレンみたいに薄汚れてないデス」
「「薄汚れてる……」」
「シャーラ、シャーラ。クリスマスはうちに泊まりに来るデス?」
「ええ、お邪魔しますわ」
「んふふぅ! 二人はチキンでも食ってろデス」
「なんという暴言」
ドヤァとルルは、命子たちに勝ち誇った顔をして、ささらのお膝にコロンと頭を乗っけた。
命子は、こいつらはクリスマスにどんなことするんだろう、とぽわぽわーんと想像して、二人のぷるぷるな唇に視線を向けたところで、うむと頷いた。仲間のそういうのは想像しないでおこうと。
そんな命子を、紫蓮が誘ってくれないかなぁと思いながらじぃっと眠たげな瞳で見続けるのだった。
おかげさまで2巻の発売が決定しました!
発売日は2021年の3月10日です。詳しくは活動報告に書きましたので、ぜひのぞいてみてください!