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8-9 教授救出と鬼ごっこのルール

 本日もよろしくお願いします。

 アイに導かれて、命子たちは部屋の中に入る。

 そこはたくさんのカプセルがいくつかの列を作って並んだ場所で、カプセルの中には見たことのない生物たちが浮かんでいた。


「あ、アイ。ここに入らないとダメなの?」


「っっ!」


 命子の質問に、アイはふむと頷く。

 命子はゴクリと喉を鳴らした。その態度に、馬場が眉根を寄せて言う。


「危険なの?」


「いえ、危険かどうかはわかりませんが、見える範囲の生物がみんなして凄い魔力を持っています」


「……止めておきましょう」


 アイという存在は正直どこまで信用していいのかわからない。なので、馬場はそう決断するが、その時、アイが命子の顔面にべたっとくっつき、ウサギが命子の足にしがみつく。


「どうしても行くべきってこと?」


 引き離したアイに問いかけると、アイはふむと大きく頷いた。ウサギも同じだ。


「……わかったわ。じゃあ命子ちゃんたちはここで待機。二人私についてきてください。二人は命子ちゃんたちの護衛をお願いします」


 馬場はぱっぱと決めると、命子たちを部屋に入ってすぐの場所に残して行動を開始した。


「カーバンクルはここから来たデス?」


「そうかも」


「戦闘をしたとして、さっきのバネ風船とどっちが上なんでしょうか?」


 ルルと紫蓮の会話を聞きながら、先ほど命子と共闘した棒使いの自衛官が命子に尋ねた。自衛官として、もしもカプセルを破って外に出てきた時の気構えが欲しかったのだ。


「うーん、私の目では強さ自体は正確に測れませんので、魔力の量や使い方でヤバいかどうか判断してます。スキルを使っていれば、その人がどの部位を強化しているかとか結構わかるんですよ」


 命子はそう前置きして、続けた。


「それを踏まえて、ここの生物は私たちよりも強そうです。だけど、力を合わせれば勝てそうな強さではあります」


 カーバンクルもその範疇だった。ただ転移という予想外の能力を持っていたため、実際のところは一人くらい死ぬかもしれない。

 なので、ここの生物が特殊な能力を持っていたら、負けるかもしれない。


「でも、あのバネ風船は正直ダメですね。魔力の使い方が複雑すぎてなにも理解できなかったです。たぶん、相当に手加減されていたと思ったほうがいいです」


「そ、そんなですか……。しかし、私の【生存本能】にはなにも反応はありませんでしたよ?」


 自衛隊は『冒険者』の【生存本能】を第一に覚えることを推奨していた。地球さんがレベルアップして切った張ったの危険な任務が非常に増えたため、少しでも生存確率を上げるための策だった。


「……たぶん、鬼としての役割をしている」


 紫蓮の言葉に、命子は頷いた。


「だろうね。死ぬ危険はないんだと思います。バリア以外に魔法を使ってこなかったのも変だし。本気で殺しに来たら、今の私たちじゃどうやっても勝てないと思います。その時にはきっと【生存本能】も警鐘を鳴らすでしょう」


 そんな会話をしていると、すぐに馬場たちが帰ってきた。

 馬場は泣きそうな顔をして命子に言う。


「命子ちゃん。礼子がいたわ」


「ほ、ホントですか!?」


「でも、生きているかわからない……」


「そ、そんな、すぐに行きましょう!」


 馬場の口から告げられた言葉に、命子はギョッとした。

 紫蓮との会話で、バネ風船は鬼に徹していると結論したばかりだ。だが、これはあくまで予想なだけで、鬼ごっこの末に死んでしまったなら仕方ないという考えでもおかしくはない。


 今度は全員で馬場についていく。

 すると、そこにはカプセルに入った教授の姿があった。


「きょ、教授ぅ!?」


 命子が叫び、カプセルにしがみつく。

 馬場が言うように、教授の口からは気泡が漏れておらず、息をしているようには見えなかった。

 命子はすぐに【龍眼】を使うと、教授の体を魔力が通っていることに気づいた。


「だ、大丈夫です、生きてます!」


 命子はそう叫ぶが、実際のところ死者の魔力がどうなっているのか命子は見たことがないので知らなかった。


「羊谷命子! こっちに怪しいのがある!」


 珍しく大きな声で報告する紫蓮。


「これを操作すれば助けられるのかな?」


 命子はさっそくタッチパネルに触った。すると、ウィンドウが命子の前に現れた。


「命子ちゃん、読めそう?」


 馬場が真顔で尋ねた。

 親友がこんな状態なので一番取り乱してもおかしくない立場の馬場だが、それを堪えて、冷静な口調だ。


「は、はい、大丈夫です。ただ私の知らない概念なのか意味がわからない項目がいっぱいあります。……えーとえーと、これかな?」


 命子は『生体管理』という項目を押した。


「……」


 その項目を押して画面が切り替わると、命子は押し黙ってしまった。


「どうしたの?」


「あ、ああ、すみません。このカプセル、マナ進化を誘発できるカプセルらしいんです」


「えぇ?」


「ひ、ひとまず教授を助けましょう」


 命子は一度メイン画面に戻り、操作をやり直す。このページにそれらしいものがなかったのだ。今度は『カプセル管理』を押す。その中に『生物解放』という項目があったので、それを押した。すると、現在のカプセルの様子と、選択後に起こるカプセルの状態が図になって現れた。

 命子は『生物をカプセル外に解放しますか?』という問いと、解放時オプション機能を熟読してチェックを入れていき、『はい』を押した。栄養剤を投与しますか、等の問いは怖いので外しておく。


 すると、カプセル内に魔法陣が現れ、教授の体が消失する。


「だ、大丈夫なのよね?」


 心配そうに聞く馬場に、命子は頷いた。


「はい。今、教授は別の場所で綺麗にされているはずです」


 命子の言葉通り、教授は別の場所にある小さな個室でふわりと目を覚ました。

 それと同時に、体や衣服についた液体が意志を持ったように教授の体からどろりと離れていく。最後に、教授の口から大量の液体が、同じく意志を持ったようにドロドロと流れ出てくる。

 涙目になりながら教授はその液体を観察する。体や衣服についた液体とは違い、やや黒みのある液体だ。


「ご、ごほ……っ! ごほごほ!」


 大きく咽た教授だが、次の瞬間、体に違和感を覚える。

 口、喉、気管、肺と、呼吸器を通る空気がとてつもなく濃厚で美味いのだ。


「な、なんだこれは……どういう状況だ……? いや、そうか。私はバネ風船に……」


 そう呟く教授の下で魔法陣が発光する。

 次の瞬間、教授の目の前に命子たちの姿が現れた。いや、教授が命子たちの下へ転送されたのだ。


「教授ぅ!」


「め、命子君か!? それにみんなも……」


 教授は飛びついてきた命子を条件反射で抱きとめ、周りに目を向ける。


「助けに来たのよ、バカ!」


 馬場がプンプンしながら怒鳴った。しかし、涙目だ。


「なに? ということはカーバンクルか?」


「違うわ。命子ちゃんがここへ来る方法を発見してくれたのよ」


「そうなのか……いや、すまなかった。ありがとう、命子君、みんな」




 命子たちはひとまずその場で情報の共有をする。

 その中でもまず真っ先にやるべきことがあった。


 命子はこの場にいる全員に、例のタッチパネルで中のものをカプセル外に出す手順を教えた。全員が文字を読めないので、画面上の位置をメモして覚える。


「これでこの中の誰か一人でも逃げ切ればなんとかなりますね」


 縁起でもないが、それを見越しての情報の共有だ。

 それから命子たちは教授になにがあったのかを聞いた。


「そう……ささらはやっぱり捕まっちゃったか……」


 教授の言葉に、命子たちはしゅんとした。


「キョージュ殿、メリスはどうデス? 捕まっちゃったデスか?」


「すまないがメリス君についてはわからない。私のほうが早くやられてしまったんでね。しかし、外に出たということでないのなら、やはり捕まっているだろう」


「みゃー……」


 ルルも親友二人が捕まってしまい、しゅんとする。

 命子はそんなルルの肩を抱いて、慰めた。


「だが、おそらくはこのカプセルに入れられるはずだから大丈夫だろう」


「教授、このカプセルの中は液体なんですよね? 呼吸してなかったみたいですが、大丈夫なんですか?」


「それなんだよ、命子君。おそらく私は液体呼吸していたのだろう。先ほど肺から液体をぶちまけたよ。凄く気持ち良かった」


 涙目になって液体を吐き出した教授だが、実は気持ち良さが強かった。別にマゾではなく、そういうふうにできた液体なのだろう。


「液体呼吸? そんなのがあるんですね」


「地球でもその研究は昔からされているが、ここまで完成度の高いものは実用化されているなど聞いたことがないね。しかもだ、凄いことにおそらくこの液体は呼吸器系を回復、あるいは洗浄する効果があると思われる。まるで少女の頃に戻ったように空気が美味しいんだ」


「にゃにゅっ! じゃあシャーラたちは捕まり得デス?」


 しゅんとしていたルルが目を広げて言った。


「そういえば、羊谷命子がマナ進化を誘発させるって言ってた」


「なに? そうなのかい?」


 一同は命子に視線を向けた。

 場合によっては、ルルのいうように一回捕まったほうがいいまであるのだ。

 だが、命子は首を振った。


「ダメです。たしかにこのカプセルはマナ進化を誘発するらしいんですが、凄く時間がかかるみたいです。教授はデフォルトのマナ進化が選択されていましたが、それのマナ進化完了まで4億なんちゃらかかるみたいです。単位は相変わらずわかりませんけど、たぶん秒です」


「4億……秒数なら13年か。それなら普通に活動したほうが早いな」


 教授が一瞬で答えたことで、紫蓮がむむっと目を光らせる。仲間だと思ったのだ。


「なんにせよ。教授の話だとこの施設はまた沈没するみたいだから助け出さなくちゃ」


「命子君、沈没する原因になにかヒントはなかったかい?」


「モノリスにマナ不足って書いてありました。それでスリープモードになるって」


「そういうことか……」


「どういうことですか?」


「このシークレットイベントは起動が早すぎたんだろう。もう少しマナの濃度が高くなれば、常時このイベントに参加できたのではないかと思う」


 教授はそう言ってウサギを見た。ウサギは命子のふくらはぎにピトッとくっついて顔を埋めてフルフルと震えた。得意技だった。


「いや、別にお前を責めているわけではない。実際のところ、どれほどマナ濃度が高くなればいいのかわからないのだから」


 それに、教授はウサギがどのようにこのシークレットイベントを始めたのか見ていなかった。だから、モノリスを触るだけで起動するタイプだった場合、脱出の際に自分自身で起動していただろう。


 それから教授は、命子たちの話を聞いた。


「そうか。あのバネ風船とやりあったか。状況から考えるに、一撃を与えるか、時間制限で別の場所へ転移するのかもしれないな……いや、時間制限についてはささら君がそこそこの時間戦っていたから、あまり信用はできないだろう」


 命子たちの話を聞いた教授はそう推測した。

 バネ風船と戦った命子たちは、最初に現れたほうのバネ風船に一撃を入れた。そのあとにそのバネ風船は、どこかへ転移してしまったのでそう考えたのだ。


 教授の考えを聞いて、命子は頷いた。


「私もそれは合っていると思います。あいつらに捕捉されたら逃げきるのは不可能です。だから、あいつらを強制的に退場させるルールがあるんだと思います」


「あと、戦闘になったフロアからは移動して追いかけてこないかもしれない」


 紫蓮が発言する。

 実際に、転移ゲートがたくさんあった部屋から逃げた際に、バネ風船は追いかけてこなかった。しかし、自衛隊の隊長が命子たちとは別のフロアに飛ばされてしまったので、もしかしたらそちらを追いかけているだけの可能性はある。


「これらについて、念頭に置いて行動するべきね」


 馬場がそう締めるので、全員が深く頷いた。




 作戦を決め、一同は移動を開始した。


「申し訳ありません」


「いえ、気にしないでください」


 自衛官におぶわれた教授がそう言って謝った。

 このイベントは鬼ごっこである。しかし、廊下は遮蔽物などほとんどなく、見つかれば部屋に隠れる暇なんてない。だから、走って一気に行動することにしたのだ。

 その際に問題になったのが、運動神経が息をしていない教授の存在だった。どうやってもみんなの速度に追いつけないし、下手に走らせようものならすぐに転ぶ。

 なので、おんぶしてもらっていた。

 そんな教授の得物は自衛官に貸してもらった水の魔導書である。教授は初期スキルで【魔導書解放】を貰っているので、魔導書と相性が良いのだ。


「うっ、きた!」


 道半ばまで来ると、向かい側からバネ風船が飛んできた。


「戦ってみるわよ!」


「「「了解!」」」「了解デス!」


 一撃を与えれば撤退するかもしれない。

 正直、4階にいる今、探索するのも撤退するのも、これに賭けるしかなかった。


「水弾!」


 自衛官が杖から水弾を放つ。バリア機能が全ての個体に備わっているとは限らないからだ。しかし、その考えは否定され、バネ風船は水弾をバリアで弾いて、スピードを緩めずに突っ込んでくる。


「くるよ!」


 捕捉されてほんのわずかの時間で接敵する。


「にゃにゃにゃにゃ!」


 まず飛び出したのはルルだ。四肢に紫の炎を纏わせ、バネ風船のパンチを忍者刀と龍牙の短剣でパリィする。

 一撃を受けるたびに手に痺れが蓄積する感覚がルルを襲った。


 ルルは綺麗な鼻にしわを寄せ、バネ風船の猛攻を捌き続ける。とてもではないがこの猛攻の隙をついて一撃入れるのなんて無理であった。

 さらに、数合も打ち合うとルルの手から忍者刀が弾かれた。


 その瞬間、バネ風船がルルの体にパンチを食らわせる。

 だが、そのパンチはルルの体をすり抜けた。


「ニンニン! にゃにゃ!?」


 見事に残像の術で引っかけたルルは、さらにバネ風船の足元から水芸が変化した氷柱を出現させる。

 それと同時に、馬場の鞭がバネ風船の目に襲い掛かった。

 しかし、氷柱と鞭はバリアで難なく阻まれてしまい、さらにまるで残像ごっこに付き合ってやったんだと言わんばかりに、バネ風船は背後に回り込んでいたルルへ向けて裏拳を放つ。

 ルルは龍牙の短刀を盾にしてその攻撃を受けると、背後に飛ぶ。


「強打!」


 裏拳を放って背中をみせたバネ風船へ向けて、紫蓮が龍命雷で強打を放つ。


 ギンッ!


「それズルい……っ!」


 通常なら必殺のタイミングで放たれたバックアタックが、バリアで阻まれる。紫蓮は文句を言いながら龍命雷をくるんと回して、柄による打撃に変換する。


 だが、その打撃は攻撃用ではなく、やはりパンチ攻撃に対する迎撃用だ。紫蓮は横薙ぎで迫ってくるパンチを龍命雷でかち上げて軌道を変える。


「火弾!」


【火魔法】をスキル化できている紫蓮は、至近距離から火弾を放つ。

 薙刀である龍命雷を使う紫蓮は、どうにかして近接攻撃と魔法を組み合わせられないか考え、訓練してきた。


 そして、薙刀という本来両手で扱う武器を、手首や肩などで支え、わずかな間だけ片手を空ける動きを編み出した。

 これにより、薙刀の変幻自在な攻撃の中に、魔法攻撃を組み込むことに成功したのだった。


 そして、魔法が放たれるまでの間にも薙刀は紫蓮の周りで弧を描いて動き、魔法を放った直後の手が柄を持ち、次の斬撃や打撃を生み出す。

 命子と同様に、紫蓮もまた新時代の武術を編み出していた。


 だが、無情にもこのバネ風船にはいっぱい修行して編み出した武術でも効かない。武器には手で、魔法にはバリアで対応される。


「やっぱりズルい……っ! うぐぅ!」


 紫蓮は柄で攻撃をガードして、そのまま背後に吹っ飛ばされる。


 紫蓮を追いかけて突進してくるバネ風船を、二人の自衛官が対応する。

 杖術と魔法を習熟した量産型の戦士だ。

 突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、魔力を籠めれば大砲なり、が現代の杖術だった。


 とはいえ、紫蓮のように至近距離からぶっ放す戦術は開発されていない。そもそも近距離なら【棒技】の強打のほうが魔法よりも強いから、魔法を距離戦闘に組み込む意味がなかったのだ。

 紫蓮がそんな変な武術を開発しているのは、ひとえにカッコイイからに他ならなかった。


 自衛官二人がかりでバネ風船の猛攻を弾きまくる。

 紫のオーラを纏えない二人はあっという間に腕の痛みが激しさを増していく。意地と根性で我慢しているが、武器よりも早く手や腕のほうにヒビが入りそうだった。そのうえ、攻撃が速すぎて、もはや半分近くは勘で捌く有様であった。


「水撃砲!」


「アイッ!」


「っっ!」


 命子がバネ風船の斜め背後頭上から水撃砲を放ち、その瞬間に自衛官たちがバックステップし、水撃砲の射線から退いた。

 さっきはこれでバネ風船にダメージを与えられたのでイケると思ったのだが、バリアで防がれてしまう。


 一方、命子と同時に教授も叫んだ。その頭上には水弾を宿した水の魔導書が浮いている。

 教授から魔力を貰ったアイがふむっと頷いて、その水弾に手を添える。すると、水弾が槍になってバネ風船に飛んでいった。


 命子の水撃砲をバリアで防いだバネ風船の背後に槍がヒットする。バネ風船は床に叩きつけられてバウンドした。


 一撃は入れた。


 だが、これで終わりとは限らない。

 すぐにルルと紫蓮が前に飛び出て、復帰しようと身を捻るバネ風船に前後から攻撃を加えようとする。しかし、バネ風船はギュンと体を回転させると瞬く間に戦闘態勢を取り、体を光らせた。

 その瞬間、ルルと紫蓮の体が不可視の範囲攻撃で背後に吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされて大きな隙を作ったルルの横を命子が駆け、カバーに入る。同じく吹き飛ばされた紫蓮のほうでも、馬場と自衛官が構えていた。

 命子たちは、仲間が吹き飛ばされてもクッションになったりしない。今クッションになって、バネ風船が迫ってきたら対応できなくなるからだ。それはルルと紫蓮も承知しているので、吹き飛ばされた先で受け身を取って、自分で立ち上がる。


 命子たちに前後を囲まれたバネ風船は、先ほどまでの好戦的な様子を見せず、代わりにアイコンを出現させた。


「(=゜ω゜)ノ」


 その瞬間、バネ風船はどこかへ転移してしまった。


 全員がバッと背後を振り返ったのは無理もなかろう。アニメとかだと、転移した相手は背後を取ってくるからだ。

 しかし、そんなことは起こらず、戦闘は終わった。

 全員がドッと息を吐き、足をガクつかせる。


「も、申し訳ありません。回復薬の使用許可をお願いします」


「使ってください」


 今回前に出て戦った自衛官二人が、階級の高い馬場に許可を貰う。

 ぶるぶると震える手で回復薬を飲んだ自衛官二人は、ダメージが回復したのを確認しつつ残り魔力を報告した。


「ルル、紫蓮ちゃん。ダメージは?」


「無いデス。たぶんノックバックするだけの技デス。むしろパンチを受けた手のほうが痛いデス」


「我も。ただあの範囲攻撃は防ぎようがないように思えた。あと壁とかに当たると痛いかも」


「一応、二人も低級回復薬飲んどきなよ」


 二人の言葉を聞いて、命子はホッとした。


「それで教授、今の魔法は!?」


 命子が尋ねた。


「今のは【精霊魔法】さ。【精霊魔法】は現物があるほどいろいろなことができるからね。魔導書と相性がいいんだ。まあその分燃費は悪いがね」


「わぁ、カッコイイ」


 目をキラキラさせる命子の足元で、ウサギが教授の強さにビビッた。弱い人じゃなかったのだ!


「しかし、やはり一撃を与えると撤退するようだね」


「はい。それとバリアで防がない条件もなんとなくわかりましたね。たぶん、強力な攻撃はバリア一枚分しか同時に張らないんじゃないかと思います」


 先ほども紫蓮が渾身の強打を放った際にバリアで対応し、同時に放った命子の水撃砲は防がなかった。今回も状況が似ている。

 だが、弱い攻撃に対しては、おそらく複数のバリアを展開するのではないかと推測する。


 ちなみに、強力なバリアを複数『張れない』のではなく、『張らない』だ。命子の目は、そこすらも手加減されていると捉えていた。まあ正直、謎のバネ風船の魔力の使い方はさっぱりわからないので、本当に張れないのかもしれないが。


「じゃあワタシたちは、パンチ攻撃を防ぎながら強力な攻撃を同時に入れるデス?」


 ルルが魔石で武器を修復しながら、命子に言った。


「そういうことになるね」


「じゃあワタシはパリィ要員デス。強力な攻撃がないデス」


 ルルはへにょんとしながら言った。

 スキルが覚醒しているルルだが、一撃の強さはやはりなかった。

 ただ、バネ風船の連撃を一人で回避し続けられるのはこの中でルルだけだろう。命子だって自衛官と二人じゃなければ捌けないし、紫蓮だって早々に吹っ飛ばされた。


「でも、そうなると私の鞭はヒットにならないのかしら? スネイクバインドだって、普通のバネ風船なら絞め殺せるのに」


 馬場がぼやいた。

 たしかに前回の戦いでは馬場のスネイクバインドはバネ風船にヒットしていた。


「一定量のダメージでなければならないのかもしれないね。どんな攻撃でもいいのなら、全員で手のひらいっぱいの砂利を投げつければ勝ててしまうからね」


 命子たちはそう結論し、先に進むのだった。


 読んでくださりありがとうございます。


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 感想の返信が遅れてしまい申し訳ありません。

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何度目かの読み返し中。 自衛官犬の匂いしてるのかなと思ったけど謎の水に浸かってたから分解されてるのかな だとしたらいい匂いになっててちょっと幸せな自衛官と尊厳が守られた教授はWinWinか…
[気になる点] >「じゃあワタシはパリィ要因デス。強力な攻撃がないデス」 たぶん要因じゃなくて要員デス [一言] カプセル内の生物はいったい何なのか、すごく気になる しかし鬼ごっこの罰ゲームが1…
[良い点] 下にも書きましたが 政治家や一部の男児四に入れない人々はこちらに入って安全に進化するように 促すものかな たたじ鬼ごっこは大変だね あと三日か・・・それまでにみんなを助けられるといいね …
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