8-8 鬼ごっこ
本日もよろしくお願いします。
光の橋を起動した命子たちの瞳に、次の瞬間には見知らぬ場所の光景が映り込んだ。
360度が空と海で、すぐ上にはこちらを覗き込んでいる数人の自衛官がおり、下を見れば円形の床とモノリスがある。
そんな場所を命子たちはゆっくりと降下していった。
「ここはあの建物の中……?」
ゆっくりと落下しながら、紫蓮はそう呟いて周囲を観察する。
上から覗いている自衛官はどうやらこちらに気づいていないようで、おそらくこちら側からしか見えず、彼らは床を調べているのだろう。
「絆の指輪はあっちを指しているデス!」
絆の指輪が示す方角を確認していたルルが言う。
自分たちの位置座標が一瞬で変わったため、当然絆の指輪が示す方角もそれに合わせて一瞬で変わっていた。命子たち三人は、指輪が示す方角に視線を向けた。そこはただ空と海が続くばかり。
「この景色は映像? 羊谷命子、なにか見える?」
「ダメ。この光の橋を作っているっぽい装置の魔法陣がこの下に見えるだけだね」
建物を構成している仕組みなどは【龍眼】で捉えられなかった。ささらがいるはずの方角にも異変はない。
紫蓮は眠たげな目をしながら自分の考えを言った。
「空中に浮いてるし、ここが超文明の施設だと仮定するなら、そこの人間はみんな【龍眼】みたいな目を持っていても不思議じゃない。だから【龍眼】に優しい造りをしているのかも」
「どゆこと?」
「例えば、テレビを見ていて、ちょっと気を抜くとテレビの内部構造が透けて見えたら興ざめ」
「なるほど、たしかにそうだね」
命子は、見えない状態を長く知っているからこそ、後天的に手に入れた【龍眼】が魅せる魔法の世界に魅了された。
しかし、生まれた時から魔力やマナが見える人種にとって、これに魅了されるというのは学者や絵描きなど一部の人間だけだろう。超文明が建築物に魔法技術を使うのならば、そういうところに気をつけて設計していても不思議ではない。
「命子ちゃん、敵の気配は?」
「な、ないです!」
静かに怒っている馬場に、命子はちょっとビクビクして答えた。
言うことを聞かなかったから怒っているのだろうか、と命子はチラチラと視線を向けた。
しかし、命子にだって言い分はある。
馬場に許可を貰っていたら、まず上層部に連絡して指示を貰うわけだが、上層部が即断即決したとしても突入するまでに5分はかかるはずだ。なぜなら命子、馬場、偉い人のいずれも言葉を発してやりとりしなければならないからだ。今までの世界ではあり得なかった事件の概要を説明しなければならないのだから、5分で済めばいいだろう。
魔物との戦闘は1時間も2時間もかかるわけではない。命子たちが戦ってきたボス戦は全て10分程度で終わっているように、倒す時も死ぬ時もその程度の時間しかかからない。
今のささらやメリスと、二人をピンチに追いやる魔物が戦闘をしたならば、命子が馬場に松の木の説明をしている間に数えきれないほど斬り結び、馬場が偉い人に話を通す時間があれば、戦闘はクライマックスを迎えるだろう。
そんな状況でその決断の遅さは致命的に思うのだ。
そして、悔しいが馬場も多くの戦闘をしてきているので、それは理解していた。
命子があの松の木を見つけて自分に報告したとしても、まずは上層部に連絡を入れただろう。
だが、なんにせよ、この件については全てが終わった後にちゃんと話し合う必要があると馬場は考えた。
そうこうしているうちに地面が近づくと、命子はそこに生物の魔力反応を発見した。
「ウサギだ!」
モノリスの陰に隠れていたウサギが姿を現し、顔を知っている命子たちを発見して飛び出してくる。
命子たちが着地すると同時に、ウサギは命子の足にガシっとしがみついた。
すかさず命子の頭の上からアイが飛び立ち、ウサギの様子を見て、ふむと頷き、ミニ手帳に書き書きした。
「お前のせいで教授がここに飛ばされちゃったんだぞ」
「っっ」
ふるふると震えながら涙目で命子とアイに訴えかけていたウサギは、命子のその言葉で耐えきれないとばかりに命子の足へ顔をピトッとくっつけた。教授にも使った得意技であった。
「こいつ、言い訳しようってのか!」
「メーコ! そんなのより二人を助けるデス!」
「ごめん、すぐに行こう!」
「絆の指輪が少し高い位置を指してる」
紫蓮の言葉に命子たちは斜め上を見る。しかし、そこは青い空が見えるばかりだ。
「でも、どうやって行くんだろう?」
「むぅ、ドアが見当たらないデス!」
そう、この施設はドアがない。
教授はたまたまバネ風船が出入りした姿を見たので、壁が開くというのを知ったが、命子たちにはそのヒントがなかった。
「羊谷命子。やっぱり【龍眼】でも見えない?」
「うん。っていうか、おい。離せよ、ウサ公」
「っっ!」
ウサギは命子の足にゴシゴシと体を擦りつけながら、前足でモノリスを指さした。
「触れってか?」
「っっ!」
ウサギは、このモノリスを触った教授が、脱出のヒントを得たことをしっかり聞いていた。
一方の命子は、モノリスがドアに関わることだと勘違いした。
命子がモノリスに触ると、目の前に仮想ウィンドウが出現した。そこにはこう書かれていた。
『龍宮鬼ごっこ。鬼にタッチされたら捕まっちゃう。ゴールを目指して頑張ってね』
「メーコどうデス!?」
ささらとメリスがピンチなので焦るルルが、語尾を荒らげて尋ねた。
「ドアじゃないけど、重要な情報が手に入った。ちょっと聞いて」
今にも走り出しそうなルルを見て、命子が言う。
「この施設のルールが書かれてる」
「命子ちゃん、読めるの?」
「えっ、ば、馬場さんは読めないんですか?」
「命子ちゃん。ひとまずビクビクしないでいいわ。あとでお話があるけど、こうなったらまずは目の前のことを片付けましょう」
馬場の言葉に、命子は頷いた。
「馬場さんが読めないのは、おそらく私が【龍眼】で見ているからだと思います。私も元の文字がかすんで見えますからね。で、この施設はどうやら鬼ごっこの会場みたい。敵にタッチされたら捕まるって書いてあります」
「じゃあシャーラとメリスは捕まってるってことデス?」
「いきなり位置が大きく変わったことがあったし、タッチされたってことだろうね。これだけ転移転移と続いているし、きっと簡単に転移できるんじゃないかな。たぶん、専用の部屋があるんだと思う」
命子の言葉に、ルルはホッとした。
「だけどルル、ホッとするのは早いよ。ここに制限時間が書かれてる」
命子は続く文を見た。
そこには他に二つの情報があり、制限時間はその片方だ。
『警告。マナ不足のため、龍宮は浮遊機能が維持できません。スリープモードまで残り時間298135■■』
命子はそれを読み上げ、最後に付け加えた。
「時間の単位だけ読めないんですが、カウントダウンのスピードから考えて、たぶん、秒数でいいかと。この時間が訪れた時に、中にいる人や捕まっている人がどうなるかわからない」
「にゃー……」
命子の告知に、ルルが顔を青くして鳴いた。
「約30万秒というと……」
「およそ3日と半分」
馬場が考え始めると、紫蓮がすぐさま答えた。紫蓮は中二病なので、一日、一年、一生の秒数を暗記していた。80年を一生とするなら約25億秒しか生きられないのかと、去年の紫蓮は人生の短さを儚んだものだった。
「秒換算とズレがある場合を考慮に入れて、最悪三日ほどと見ておくべきね……」
「それと、もうひとつ」
そう切り出した命子は、時間制限について考える馬場を見た。
「ここに龍宮から脱出しますか、っていう質問が書かれてる。脱出すると参加権は失うとも」
「「「……」」」
沈黙が訪れる。命子の足にウサギが体をゴシゴシしまくる音が静かに流れた。
命子はウサギの首根っこを掴んでペイッと放った。
ウサギはシュタッと着地すると、こいつはダメだと馬場の下へ駆ける。だきゅーと馬場の足にしがみつき、目をウルウルさせて見上げる。
命子は馬場の瞳を見つめて言った。
「馬場さん。私は冒険者です」
「……」
「一緒に冒険して命を預けた仲間がピンチなら、一番に駆けつけてあげたい」
それでなにかがあって、家族が心を痛めたとしても? という言葉を馬場は飲み込んだ。
ダンジョンに潜る冒険者とその家族には、多かれ少なかれそういう覚悟がつきまとう。未成年の命子たちだってすでに遺書を作成しているほどだ。だから、そんな質問をすることに意味はなかった。
馬場は、命子になにを言えばいいのかわからなくなっていた。
礼子だけが行方不明の時は、まだ命子を止める理由があった。国サイドの人物がいなくなった事件に、一般人にすぎない命子がでしゃばるのは筋が通らない。協力を要請することはあるかもしれないが、命子が独断で動くのは大人を信用してないのかという話になる。
しかし、今の状況はその時とは異なっている。
仲間であるささらとメリスが建物内部に飛ばされたあと、全てを命子が切り開いてしまった。【龍眼】で不思議な松の木を発見して、建物内部に侵入し、文字の解読をして。自衛隊が一日かけて掴めなかった礼子の——今では三人の行方とそこへの行き方を、命子は一時間余りで発見してしまった。きっと今頃、件の松の前では部隊編成がされているだろう。
藤堂も【龍眼】を持っているが、どうにも藤堂の【龍眼】の性能は命子ほど優れていないので、どこまであてにできるかわからない。
だから馬場は、行っちゃダメと繰り返し言うが、次第にどうしてダメなのか説明できなくなっていた。なにせ、新世界において、日本政府は人員の数以外で命子に捜査力で勝るところがなかったのだから。そして、この施設はこれからも【龍眼】でなければ解けないギミックが出てきてもなんら不思議ではなかった。
馬場は俯いた。
足元では顔を向けられたウサギが必死に馬場の瞳を見返すが、馬場の瞳はウサギなど映していなかった。
俯いてしまった馬場に、命子が言う。
「馬場さん、一緒に行ってください」
そう言って頭を下げた命子。
馬場は子供に頭を下げさせて、情けなくなった。
大人に任せなさい。
これを言うのは簡単だが、『みんな助けてくれますか』と問われたなら、『一段下がった対応になるから、わからない』という本音を隠して『もちろん』と答えることになる。だって命子のように【龍眼】がないのだから、そういう系統のギミックがあれば詰んでしまう。
ささらたちを万全の捜査体制で助けたいのなら、逆なのだ。頭を下げるほうが。
命子に頭を上げさせ、馬場はその瞳を見て言った。
「あなたのことを全力で守るわ。だから、こちらこそ、みんなの救出に協力して」
「もちろんです!」
そう言ってふんすと口を結んだ命子に、馬場は今回もこの子たちのために命をかける覚悟を決めた。キスミアでの雪ダンジョンから始まり、三頭龍戦、鎌倉ダンジョンと、馬場は毎度のごとくもし死ぬなら自分が最初だと決めていた。
話が決まると、ちょうど上から大勢の自衛官が落下してきた。
命子たちは強制的に帰されるかもしれないと不安に思って馬場を見つめた。
そんな命子の頭をポンポンと馬場が叩き、後続部隊にこの施設の説明を始める。
そんな馬場の様子に、ウサギがこいつもダメだと今度は紫蓮の足にしがみつく。
「毛皮になる?」
「っっ!」
ウサギは最後の頼みとばかりにルルの下へ行こうとして、やめた。
肉食動物の匂いがするのである。
ウサギは結局、一番多く語りかけてくれた命子の下へ行った。
命子はウサギの頭を撫で、お礼を言った。
「ヒントをありがとな。お前も冒険して偉かったね」
命子はそれだけ言うと、ウサギから興味を無くした。まあ教授が転移事故に巻き込まれた元凶だし。
しかし、ある程度言葉を理解するウサギは、鼻をひくひくさせて褒めてくれた命子の顔を見上げ続けた。そんなウサギの様子をアイがふむっと頷いて観察する。
「でも、そうなるとここからどうやって出るんだろう。まさかこの場所だけで鬼ごっこってわけではないと思うけど……」
「たぶんこの景色はフェイク」
「まあモノリスを調べても他に何もなかったしな」
「部屋を移動するのにも転移ゲートみたいなのが必要なのかな?」
命子たちは現代っ子なので、周りの空と海が映像だろうと当たりをつけていた。そして、部屋の移動方法についてSFな予想を始める。
その時、ウサギが走り出した。
景色の一か所で止まり、ぴょんぴょんとその場で跳ねる。
命子たちは顔を見合わせた。
「あそこが出入り口ってことかな?」
「羊谷命子。足元に導線がある」
紫蓮が言うように、よく見ればウサギが向かった方の床に線が引かれており、それは景色の向こうに消えていた。
後続の部隊にこの施設が鬼ごっこの会場だという説明がされ、作戦が練られる。
しかし、後続部隊はスキルが覚醒している人が一人もいなかった。彼らは研修でダンジョンに入り、普段は通常任務についている人たちなのだ。ダンジョンに入れたタイミングが一般人よりもずっと早かったので冒険者よりも強いが、同じ自衛隊の精鋭には及ばないという程度の実力だ。
つまり、ささらとメリスが苦戦する相手は荷が重い。
だが、戦い方は近接だけではない。彼らのような研修でダンジョンに入り、普段は通常任務についている自衛官は万能型が多く、集団で魔法を放ちまくる戦法が使えた。この戦法はある程度の実力があれば、ささら一人よりも殲滅力が高い。
ちなみに、一人ドロップアウトさせて外部にこの施設の説明をさせている。ここもダンジョンと同じように、外部からの電波を受け付けなかったのだ。
「それでは作戦を開始します」
ウサギが教えてくれた出入り口の前で一同は頷きあう。
作戦はいたってシンプルだ。
自衛隊が魔法で露払いし、【龍眼】を持つ命子を守る。
そして、三人を救助して施設から撤退だ。
部屋を出ると、そこは廊下だった。
廊下は壁の片面の全てが空と海を望める窓で、そこから見える外の様子から、この廊下がCの字に緩やかに湾曲しているのがわかった。
『鬼』と呼ばれる敵はおらず、先頭を行く自衛官のハンドサインで静かに外へ出る。
すると部屋を出てすぐに、ウサギが壁の前でぴょんぴょんとジャンプした。その壁は青い線で縁取られている。
青い枠内の壁に触れてみると、壁に線が入り、カシャンと開いた。
全員がその近未来的な光景に驚きの声を上げたかったが、作戦中なので飲み下す。
「なるほど。取っ手付きのドアはないと思ったほうが良さそうですね」
命子は教えてくれたウサギの頭を撫でてやった。ウサギはぴょんぴょんと跳ねた。
部屋の中は特に何もない部屋だったので、一行は作戦を続行する。
特に何も起こらないまま、命子たちは廊下の中央と思しき場所にやってくる。
そこの壁には、青と赤の水が張られたような二つの何かがあった。前時代なら正体不明のものだが、ダンジョンで似た物を見慣れているので全員がゲートだと確信する。
そして、その二つのゲートの真ん中の壁にこの施設の見取り図があった。
「10層もあるのか……」
部隊の隊長が唸る。
「ささらの反応は上を示しています」
命子はそう言うが、何階なのかはわからなかった。
「メーコ。さっきの部屋で落下してきた時に、ワタシずっと見てたデス。きっと3階から5階の間だと思うデス」
この施設に入った際に最初の部屋に一番上から落下してきたわけだが、その際も絆の指輪はささらの居場所をずっと示し続けていた。だからルルの推理は信用できた。
「では、4階から探索しましょう」
隊長の言葉に、命子はなんで3階から順番に調べないんだろうと思った。
「4階で絆の指輪が上を示したら、5階にいることが確定する。3階から始めた場合は、最大で3回移動するけど、4階なら2回で済む」
「紫蓮ちゃんはエスパーなの?」
もちろん、これにはルルの証言が正解という前提が必要だが。
「問題のゲートですが……」
「あっ、それならこっちですね。入り口専用って書いてあります」
隊長の言葉に、命子が迷わず青いほうのゲートを指さした。ゲートの上にそう書いてあるのだ。同じく、赤い方のゲートには『出口専用』と書かれている。
部隊は青いゲートの中に入っていく。
すると、景色は一変して、広い部屋に出る。そこには多くのゲートが青と赤一対になってそこら中に設置されていた。
「なるほど、青いゲートから入ると赤いゲートに出てくるわけね」
「みたいですね。で、この部屋で目当ての階層のゲートに入るって仕組みなんでしょう」
馬場の言葉に、命子が同意する。
部屋の中を歩き始めると、一つの赤いゲートから非常に見慣れた魔物が出てきた。
「バネ風船?」
誰かが疑問符の浮いた声でそう呟いた瞬間、【龍眼】で目を光らせた命子が驚愕して叫んだ。
「あ、あれはダメだ! 急いで全力で攻撃して!」
命子自身もそう告げた瞬間には、角を光らせて魔導書から水弾を放った。自衛官たちもさすがの反応速度で瞬時に魔法を放っていく。
普通のバネ風船ならドロップアイテムすらも粉微塵にしそうな魔法の嵐が襲い掛かる。
倒せただろうと誰もが思う中、命子だけがサーベルを振った。
「やあっ!」
命子が自衛官の真横をサーベルで払った。
弾幕から抜け出して急接近していたバネ風船が、今まさに自衛官にパンチしようとモーションに入っている。しかし、命子の攻撃により、その手で命子の攻撃をパリィする。
庇われた自衛官はお礼を言う暇もなく、すぐさま杖で応戦する。
『魔法使い系』と『棒使い系』はジョブとして非常に相性がよく、自衛官は魔法を増強する杖を近接武器として巧みに使う。
「ルル!」
「任せるデス!」
命子は近接攻撃メインのルルとスイッチする。
ルルと自衛官が二人がかりで連撃を叩きこむが、その全てをバネ風船は丸い手とバリアで弾く。
接近しすぎているため周りは魔法の援護ができない。
そんな中で魔導書の飛距離を延ばせる命子だけが、バネ風船の頭上から魔法で狙撃していく。しかし、その魔法はことごとくバリアによって阻まれた。
「スネイクバインド!」
馬場の鞭がバネ風船の片腕に絡みつく。
その瞬間、バネ風船は片方の手で自衛官の攻撃をパリィして、あえて吹っ飛んだ。そして、その勢いを利用して馬場の下へ猛スピードで接近した。
「強打!」
そこに紫蓮が真横から紫のオーラを纏った龍命雷を叩きつける。
バネ風船はバリアを展開し、かつ丸い手で紫蓮の一撃を迎え撃つ。
「水撃砲!」
紫蓮の攻撃に合わせて命子が水弾と水弾を【合成強化】し、放つ。
紫蓮の攻撃は阻まれるも、強烈な威力の水撃砲がバネ風船の体にヒットし、吹っ飛ばす。
「やったか!?」
隊長が叫ぶ。
しかし、バネ風船は地面で一度大きくバウンドすると、すぐに戦闘に復帰する。
「隊長さん後ろ!」
「うっ!? ぐぅううう!?」
さらに悪いことに、増援が来た。
またしてもバネ風船なのだが、腕にリボンを巻いている。
隊長はロングソードで不意打ちを防いでみせるが、重い攻撃に体が床と水平に吹っ飛んでいく。そして、隊長の体はそのまま8階の青いゲートの中に吸い込まれた。
その時、最初にいたバネ風船が唐突におかしな行動を始める。
頭の上にアイコンを出したのだ。
「(=゜ω゜)ノ」
すると、そのバネ風船の足元から光の柱が出現し、どこかへ消えてしまった。
どういう理由なのかわからないが、一体減ったことで再び戦線は持ち直す。
しかし、再び別のゲートからバネ風船がやってくる。
「嘘でしょ、ここはそういう場所なの!?」
「みんな撤退するわよ!」
馬場はそう叫ぶが、すでに自衛隊部隊の半分が地面に倒れていた。
リボンを巻いたバネ風船がポンと手を叩くと、倒れた自衛官たちが魔法陣に包まれて消えていく。
「みんなこっち!」
馬場の指示に従い、命子たちは一番近くにあった4番のゲートの中に入る。
赤いゲートから出た命子たちは、すぐさまゲートから離れて身構える。
しかし、追ってきて良さそうなものなのだが、バネ風船は追ってこなかった。
「被害は?」
「隊長含め5名です。残りは我々4名だけになります」
馬場は肩で息をしながら、頭を抱えたくなった。
この施設は、レベルがワンランクは違う。自分たちでようやく互角に戦え、バリアの存在で、魔法連打戦法を期待していた自衛官がまるで役に立たなくなっている。
「馬場さん、すみません……」
命子はしゅんとして謝った。
「違うわ。完全に私の見通しが甘かった。魔法を連打すればまず勝てると思ったのは私よ」
実際に、魔法連打は戦術として単純だが非常に強いのだ。ささらが負けた相手でも通じると馬場が考えても不思議ではなかった。それを防ぐバリアのほうが予想外すぎた。
「ひとまず、彼らのことは後で救出するとして。ルルちゃん、ささらちゃんの反応は?」
「上デス」
「5階か……」
はずれを引いて馬場は歯噛みした。
また今の部屋に戻らなければならないのだから当然だ。
そんな中でアイが命子の耳を引っ張り始めた。
「いたたっ。アイ、どうしたの?」
命子が反応したので、アイはぴゅーんと飛んで先導を始めた。
「ついてこいってことかな?」
「行ってみましょう」
今戻ってもバネ風船がいるので、馬場はひとまずアイの導きに従うことにした。
アイは中央から少し離れた壁の前で、ふよふよ浮かび、命子たちが来ると壁の中に入っていった。
命子が壁にタッチしてドアを開けると、そこはたくさんのカプセルがある研究所風の部屋だった。
そして、命子たちは、そのカプセルの中で教授が浮かんでいるのを発見するのだった。
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誤字報告も助かっています。ありがとうございます。