2-7 2人の初戦闘
本日はちょっと早く投稿させていただきます。
本日も1話だけです。
それでは、よろしくお願いします。
第一の敵を撃破し、探索を再開する。
すぐに新たな杵ウサギが現れ、命子はこれを魔法で撃破した。
ドロップアイテムは、やはりウサギの毛皮と魔石だ。
すぐに、ささらの上ジャージに合成する。
ウサギの毛皮は、中々に大きい。
40センチ四方くらいはある物だ。
もしあぶれ始めたら、マントとかを作ったら防御力が高そうだな、なんて命子は思った。
まあ、まだまだ先の話だ。
探索は、命子とルルがメインで警戒し、ささらにマップを描いてもらう。もちろん、ささらにも多少は警戒はしてもらう。
そんな布陣で進むと、今度は後ろから杵ウサギがやってきた。
基本的にぼーっとしている敵が多かったG級ダンジョンでは、あまり見なかった現象だ。
命子はこれも魔法で倒す。
今度のドロップは、ウサギの毛皮と杵ウサギが持っている杵の柄部分だった。
ちゃんと直線になっているので、そこらに落ちていた木の棒よりは良さそうだ。
事実、合成用鑑定では『0/100』とあるので、レアリティも上。
命子はこれを『杵柄ソード』と命名し、ささらに渡した。
そして、ウサギの毛皮は、ささらの下ジャージに合成する。
「合成はどれくらい強くなるんですの?」
ささらの質問に、教授と一緒に検証したことを思い出す。
『100/100』のパーカーは、刃物での斬撃を完全に防いだ。
さらに、金属槍での攻撃も貫通せず、打撃耐性もあった。
少なくとも、それらを行った命子と教授の腕力ではビクともしなかった。
とはいえ、教授はインドア派である。
攻撃すると目を、(><)にする程度には雑魚だ。カッコいい喋り方をする大人なのにそんな醜態を見せた教授に、命子が密かに萌えたのは内緒だ。
ただ、それらはあくまで雑魚共がやった攻撃であり、ダンジョンで鍛えた自衛官にやってもらうと普通にパーカーを貫通した。
検証のために自分から提供したものの、結構お気に入りのパーカーだったため、命子は涙目で服の裾をギュッと握った。ゴリラみたいな人はズゥいよ……
心優しきゴリラ自衛官のあたふた加減は凄いものだった。その後、新しいのを買ってもらえたので、セフセフ。
その後、構成繊維を調べてみても、同じ市販のパーカーと強靭さ以外は全く同じで、なんらかの不思議な力が加わっているとしか思えなかった。
この一件が、命子に駐屯地内での合成強化によるお小遣い稼ぎを呼び寄せることになった。一回1000円の女の誕生秘話である。
命子的にはめっちゃ高額! と思っているが、やってもらうほうからすると凄まじく安価で装備が強化されて、まさにWin-Winだった。
話を戻そう。
防御力はどれくらいになるのか、というささらの質問には答えられる。
しかし、これを答えてしまうと、ささらは前線に立つようになりそうで怖い。
まだささらやルルの性格を全部理解したわけではないけれど、きっと彼女たちは自分と一緒に戦いたいのだと、命子の目には映っていた。
「合成強化には強化値っていうのがあってね、ささらのジャージ上下とルルのオーバーオールは今『55/100』なの。それだとたぶんウサギの攻撃を受けたら、大変なことになっちゃう」
「そうなんですの……」
「そうデスか……」
しゅんとするささらとルル。
けれど一方で、2人も戦ったほうが良いかもしれない、という気持ちは命子にもあった。
必ずしも、1時間後に命子が生きているとは限らない。ダンジョンだけに、普通にあり得る話だ。
後に残された2人が生き残るには、やはり実戦経験が必須ではなかろうか。
それに命子の魔力の問題もある。
非常に消費が早いのだ。
これを抑えるためにも、一緒に戦ってもらえたら……
命子は逡巡する。
自分は割と冒険にダイブしちゃえるけど、2人にそれをさせて良いのだろうか。
……分からないことは聞けばいいか。
「2人も戦ってみる?」
「戦いますわ!」
「ニャウ!」
凄く嬉しそうであった。
どうやら、かなり戦いたかったらしい。
「うん。だけど、まずは一緒に戦おう。敵が弱ったところを一緒に戦う感じ。それでいい?」
「もちろんですわ!」
「ニャウ! ニンニンで倒すデス!」
そういうわけで、2人も一緒に戦ってみることにした。
そう言えば、とふと気になって命子は尋ねた。
「2人のステータスって見せてもらえる?」
「ニャウ、いいデスよ」
そう言って、まずルルがステータスを出して、見せてくれた。
―――――
流ルル
15歳
ジョブ なし
カルマ +1699《共に戦いたい+30》
レベル 0
魔力量 18
・スキル
【見習い忍法】
・称号
【地球さんを祝福した者】
―――――
ルルのカルマは命子よりも高かった。
ここからも、ルルの善性が窺えた。
「おー、ルルも地球さんを祝福したんだ」
「メーコもデスか?」
「うん。ほら」
命子も自分のステータスを開示した。
―――――
羊谷命子
15歳
ジョブ 見習い魔導書士
カルマ +1490
レベル 5
魔力量 17/62
・スキル
【合成強化1】
・ジョブスキル
【魔導書解放】
【魔導書装備枠+1】
【魔導書装備時魔攻 小】
【魔導書操作補正 小】
【魔導書作成・入門編】
【魔導書士の心得】
・称号
【地球さんを祝福した者】
【1層踏破者・ソロ】
―――――
人間誰しも、最初はレベルが0だと教授が言っていた。
敵を倒して初めてレベルが上がる。
検証の結果、自力で倒す必要はなく、どうやら貢献度が重要なのだとか。
今のところ2人は何もしていないので、レベルも0だ。
これはあかん。もっと早く気づいてあげればよかったと命子は猛省した。
一方、命子のステータスは、レベルが1つ上がり5になった。
青空修行道場のおかげでカルマ値も上がっている。
ジョブスキルのスキル化はなされていない。一朝一夕では無理なのかもしれない。
それは良いとして、問題はやはり魔力量の減りの早さだ。
開始早々で、すでに魔力が17しか残っていない。
魔力は、水弾は一発で5使い、合成強化でも5使う。
一回の戦闘で15、ドロップを合成強化してさらに5。合計20。
1分間に1ちょい自然回復するわけだが、敵の出現に回復が全く追い付いていない。
そんな風に危機感を覚える命子とは裏腹に、ルルは目をキラキラさせて命子のステータスを眺めた。
「ニャモーテス! メーコはちっちゃいのに強いデス!」
「ち、ちっちゃくないし」
「ちっちゃいデスよ?」
「ちっちゃくないよ!」
「ふぇえええ、おこデス?」
「ちょっとだけ」
「ごめんなサイデース!」
むぎゅー!
命子はスレンダー美女に憧れるロリであった。
一刻も早く合成牛乳を試さなくては。
ルルの胸の中で命子は敗北感を味わいながら、そう決意した。
「そ、それでささらのステータスは?」
ルルの抱擁から抜け出し、ささらに問う。
ちょっとつまらなさそうに唇を尖らせていたささらは、命子に話しかけられてすぐに機嫌を直した。
命子はジゴロだった。
「ワタクシのステータスはこんな感じですわ!」
―――――
笹笠ささら
15歳
ジョブ なし
カルマ +1552《共に戦いたい+30》
レベル 0
魔力量 16/16
・スキル
【防具性能アップ 小】
・称号
【地球さんを祝福した者】
―――――
「あれぇ! ささらも地球さんを祝福したんだね?」
「もちろんですわ。やり遂げたという方を称賛するのは淑女として当然のことですもの」
「うっ!」
命子はささらから放たれたピュアな光に目が眩んだ。
それに比べて、命子が褒めたのは完全になんとなくだった。
なお、ルルは地球さんが嬉し気だったので拍手したらしい。ピュア勢だった。
そして、ささらもまた命子よりもカルマが高い。
これがピュア勢の力……っ!
探索を再開して、敵とエンカウントする。
やはり杵ウサギだ。
杵ウサギが多いのだろうか。
ロリッ娘迷宮はバネ風船と魔本が半々くらいの頻度で出てきていたが、ダンジョンによって違うのかもしれない。
まだ4匹目なので、なんとも言えないが。
命子は水弾を2回放った。
1発目はボディに入り、2発目はよく狙って杵を持つ手に当てることに成功する。これにより、杵ウサギの手から杵が弾き飛ばされた。
「ささら、ルル、行くよ!」
「は、はいですわ!」
「ニャウ!」
今までは離れた場所から攻撃していた命子は、2人に呼びかけて前に飛び出す。
左手にはハサミを、右手にはそこら辺で見つけた良い感じの木の棒を、さらに周囲には魔導書を装備。
ここで命子たちは幸運な発見をする。
杵ウサギは杵がないとダメな生態なのか、近づいてきた命子たちに構わず、手放した杵に向かって移動したのだ。
杵を持たないその動きは、本来のウサギより若干遅い程度の十分に俊敏な動きだったが、隙だらけという点においては言うことなかった。
命子は全力ダッシュで距離を詰めると、魔導書アタックで杵ウサギの頭を横殴りで強打する。
ウサギさーん、にぱぁ! とか言いそうな顔をしているのに、その所業はウサギさーん、ドゥラァ! そこに躊躇いは一切なし!
もう少しで杵まで届きそうだった杵ウサギは、その一撃で道脇の鳥居の柱に叩きつけられた。
横に転がって鳥居の柱にぶつかった杵ウサギに、ささらが力強い踏み込みで突きを放った。
柱に押し付けるような形で杵ウサギの喉に突きがめり込む。
踏み込みにより舞い踊った亜麻色の髪がふぁさりと背中に落ち、しかし休む暇もなくまた舞い踊る。
一撃で倒せなかった杵ウサギを、ささらは杵柄ソードで殴りまくった。
杵を手放しているとはいえ、反撃に出ない保証はない。
だから命子はいつでも魔導書アタックで援護できるように、集中する。
そんな攻撃の末に、杵ウサギは光になって消えていった。
「ふぅーふぅー……っっっ」
ささらは、杵ウサギが消えていった場所を見つめながら、息を整え、込み上げてくる何かを堪えるように下唇を強く噛んだ。少し勝気な印象の目の端には涙が溜まっていた。
その姿に、初めてバネ風船を倒した時の自分の姿を重ねた命子は、ささらの背中を摩った。
ささらは大きく一つ深呼吸してから、命子に笑顔を向けた。
「完全勝利ですわ!」
「ふふっ、うん、そうだね」
命子は、震えながらも明るい声で言うささらの姿に、強い子だな、と思った。
命子たちは再び歩き出す。
「それにしても、ささらは剣の扱いが上手だね。最初の突きなんて、シュバーってなったよ、シュバーって」
「ええ、これも老師様の教えの賜物ですわ」
「なるほど、そうかも」
青空修行道場の老師は、良い先生であった。
力のない女子たちにまず真っ先に教えたことが、逃走術だったのだから、立派な人であろう。
次いで、回避術等の体捌きを教え、剣での攻撃は今のところそこまで本腰ではない。
今回見せたささらの一撃は、そんな中で少しだけ習った攻撃方法の一部だった。
命子の初めての泥臭い死合で見せたものとは大違いの、スタイリッシュな一撃であった。
杵ウサギ撃破により、ささらはレベルが1上がった。
それだけではなく、今回の戦いは得たものが大きかった。
杵ウサギの杵への執着だ。
ささらが殴っている間も、杵を取り戻すことを最優先にして、反撃をする素振りが一切なかったのだ。
あの個体だけがそうなのか、全個体に共通するのか。後者ならば、戦闘はグッと楽になる。
魔力の減りが早すぎるので、今回得たウサギの毛皮の合成強化は見送り。
そうしてしばらくすると、また杵ウサギとエンカウントした。
今度はルルの番だ。
ささらの使っている杵柄ソードをルルに渡し、バトルが始まる。
命子はよく狙いを定め、水弾を放つ。
見事に杵を弾き飛ばし、杵ウサギは慌てて杵を取りに走り出した。
「っっっ!」
やっぱりそういう生態なのか!?
命子はこの大きな発見に、決して小さくない快感を覚えた。
なにせ、この執着がさっきの一体だけのものだった場合、詰んでいた可能性が非常に高かったのだ。
命子たちが現在も五体満足でいられるのは、ひとえに魔法という遠距離攻撃で対処しているからに他ならないのだから。
まさに活路を見出す発見、これが嬉しくないはずがない。
杵ウサギがこうなることを予測・検証していただけに、命子は1回目よりも早く反応して飛び出した。
十分に余裕を持って、杵ウサギの頭に魔導書アタックを入れる。
次いで飛び出したルルが、石畳の上で目を回す杵ウサギに杵柄ソードで一撃を入れる。
ルルは自分のやっていることが恐ろしいのか、殴りながら、涙をこぼした。
大人びた風貌だけれども、ルルだって15歳の女の子なのだ。
「が、頑張れですわ、ルルさん!」
杵ウサギが立ち上がり杵に向かって走り出すと、命子が魔導書アタックで吹き飛ばし、ルルがボコボコに殴りまくる。
そんなルルの奮闘を、ささらは自分の時よりも目に涙を溜めて、いや、涙を流して応援した。
ささらの時とは違い、今回は水弾を一発しか当てていない。
だから、中々倒れない。
何度も何度も殴りつけ、ついには杵ウサギは光になって消えていった。
「くっ、うぅうう、ぐずぅ! か、カンゼンショウイで、デーシュ。ぐしゅーっ!」
杵柄ソードを握りしめ、袖で涙を拭きながら、ルルは言った。
こんなの余裕だよ、だから心配しないで―――『カンゼンショウイデス』という言葉の中にそんな気遣いを2人は感じ取った。
同じ経験をした2人はルルの気持ちが痛いほど分かり、その場に座ってルルを慰める。
しかし、甘えを許さないのがダンジョンだ。
ルルのことはささらに任せ、命子は涙ぐんだ目で警戒に立った。
「も、もう大丈夫デース! メルシシルー、シャーラ」
「いいえ、ワタクシのほうこそ怖かったんですのよ。だからお相子ですわ」
しばらくすると、ルルも気が落ち着き、しょんぼりタイムを終える。
「メルシシルー、メーコ」
「ううん。女の子だもん、泣いちゃうよ。私だって前に泣いちゃったし」
「でも、今のメーコは強いデス」
「魔物に水弾で攻撃されたからね。偶然転んでなければとっくに死んでるよ。それがあったから、魔物は敵だって2人よりも簡単に思えるだけだよ」
「……そうなんデスね」
「ルルはいっぱい攻撃してウサギを倒したけど、ウサギは放っておけばもっと強い力で同じことをルルや私たちにするよ。だから、悲しまなくて良いんだよ」
「ニャウ……ニャウ! ダンジョンは怖いところデス。ヤキニクコーシャクなのデス!」
「焼肉公爵……」
きっと焼肉やるとうるさい人だろう。
目に炎を灯らせた友人の決意に水を差すまいと、命子は口の中で呟き、飲み込んだ。
「分かりマシタ、メーコ。ワタシはこれよりシュラになりマース!」
「それならワタクシも修羅になりますわ。ルルさんだけにカッコはつけさせられないですわ」
ルルは両手で握りこぶしを作り、ふんすと。
ささらは、優雅に髪の毛を耳にかけ、キリッと。
女子2人が修羅入りした。
「ふっふっふっ、ウェルカム・トゥー・ニューワールド」
命子は、両手を広げた劇場型の香ばしいポーズを見せ、日本人らしい発音で修羅ッ娘たちを歓迎するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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とても励みになります!
【修正報告】……2-1にて、『助教授』から『准教授』と文章を変更しました。大筋には関わりません。
ご指摘ありがとうございました。