8-4 アイの冒険と命子の答え
本日もよろしくお願いします。
【ウラヤマに】精霊を愛でるスレ PART55【死す】
201、仮暮らしの名無シッティ
なあなあ、お前らこの動画見たか? キスミアの精霊使いの動画なんだけど、超可愛いぞ。つ【動画URL】
202、仮暮らしの名無シッティ
は? なにこれ反則じゃね?
203、仮暮らしの名無シッティ
キャワワワワワワ!
204、仮暮らしの名無シッティ
精霊がなれる形態って人と動物だけじゃないのかよ!?
205、仮暮らしの名無シッティ
まあ、アニメキャラも厳密には人型だけどな。
206、仮暮らしの名無シッティ
じゃあ、この人は歌戦姫のアルティメット雷華先輩(ミニチュア)と一緒に暮らしてるわけか? 羨ましすぎて吐きそう。
207、仮暮らしの名無シッティ
うわぁあああ、『イカヅチの花』のメロディに合わせて踊ってるぅカワ(・∀・)イイ!!
208、仮暮らしの名無シッティ
キスミアのガラパゴスっぷりが極まってるな。もうテーマパークにしちゃえよ。
209、仮暮らしの名無シッティ
こんな子と暮らしてたら、こいつ絶対に結婚できないじゃん。
210、仮暮らしの名無シッティ
その書き込み定期。
211、仮暮らしの名無シッティ
昔、アイドルオタクの友人に「アイドルとなら確率的に0じゃないが、アニメキャラはどうなんだ? ん?」って憐憫の眼差しで言われたことがあったが、あいつの顔面にこの動画を叩きつけてやりたい。
212、仮暮らしの名無シッティ
ま、まあ、やはりこれもガワだけではあるけどな(;´・ω・)
213、仮暮らしの名無シッティ
寝食ともにしてずっと一緒にいるパートナーやぞ? ガワだけじゃねえだろ、ぶっ殺しゅじょじゃれぇあ!
214、仮暮らしの名無シッティ
す、すみません。失言でした!(`・ω・´)ゞ
215、仮暮らしの名無シッティ
踊った後に魔力を吸わせてる姿が……くっそ、こいつのふにゃり顔ぶん殴りてぇ……っ!
216、仮暮らしの名無シッティ
ニュースニュース! 日本で精霊が目撃されたぞ!
217、仮暮らしの名無シッティ
キスミアからプレゼントされた個体だろ? 近くに精霊使いがいるよ。
218、仮暮らしの名無シッティ
たしか現在6カワいるんだっけ? 【※『〇カワ』マニアの中の精霊の単位】
219、仮暮らしの名無シッティ
俺もそのうちの1カワはイベント中に見たし、一緒に写真も撮ったよ。
220、仮暮らしの名無シッティ
あー、それかぁ。なんか緑色の変な動物に乗って、もののけな姫さまごっこしてるらしいよ。つ【プイッター動画】
221、仮暮らしの名無シッティ
えーっ(;゜Д゜)!
222、仮暮らしの名無シッティ
海岸か。これどこ?
223、仮暮らしの名無シッティ
静岡県の御前崎市だな。
224、仮暮らしの名無シッティ
よくわかるな、お前。
225、仮暮らしの名無シッティ
御前埼灯台が映ってるじゃん。
226、仮暮らしの名無シッティ
わかるかよ!
227、仮暮らしの名無シッティ
しかし、御前崎ってダンジョンもないし精霊使いが行く要素はないぞ?
228、仮暮らしの名無シッティ
まあ自衛隊が行くのはダンジョンがある地域だけではないしな。精霊使いさんと遠乗りしてんじゃない?
229、仮暮らしの名無シッティ
無くはないが……貴重な存在だし任地からはあまり離さないと思うけどな。
230、仮暮らしの名無シッティ
っていうか、この子が乗ってるの魔物じゃね?
231、仮暮らしの名無シッティ
カーバンクルと命名しよう。
232、仮暮らしの名無シッティ
俺も同じ名前を連想した。これが概念流れってやつか。
233、仮暮らしの名無シッティ
待った、そのプイートちょっと情報が古いぞ。こっちのほうが新しいみたいだ。つ【プイッター動画】
234、仮暮らしの名無シッティ
いやいやいや、これはさすがにCGだろ?
235、仮暮らしの名無シッティ
めっちゃ海の上走っとるじゃん(;´・ω・)
236、仮暮らしの名無シッティ
御前埼灯台のあとってことは駿河湾の海岸沿いか?
237、仮暮らしの名無シッティ
その後、陸地でも爆走している模様。つ【動画URL】
238、仮暮らしの名無シッティ
カーバンクルライダー精霊ちゃん(水陸両用)。
239、仮暮らしの名無シッティ
すげぇパワーワードだぜ(; ・`д・´)
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【にわかに賑やかになったスレ。精霊と謎の魔物の情報が続々と入ってくる。※スレッドナンバーが一つ進む】
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516、仮暮らしの名無シッティ
すげぇ、マジで興奮してる俺がいる!
517、仮暮らしの名無シッティ
最高にファンタジーだよな(*^▽^*)
518、仮暮らしの名無シッティ
面白い世の中になったよなぁ。
519、仮暮らしの名無シッティ
これまでのまとめ。※以下の時間は画像情報があがった時刻。
AM6:46 御前埼灯台付近で初目撃
AM7:13 駿河湾西部海岸沿いを爆走して北上
AM7:33 国道150号に乗り北上
AM8:00 大井川の水面上を駆け抜けている姿を目撃
AM8:03【謎1】南安部川橋の欄干を爆走する姿を目撃【転移?】
AM8:00台 静岡バイパスを爆走する姿が多く目撃される
【ここからNEW!】
AM8:45【謎2】三保の松原にいきなり出現とのこと。休憩中?
AM8:45同刻 精霊が小さな手帳に筆記している姿を撮影。高度な知能あり?
520、仮暮らしの名無シッティ
【謎1】と【謎2】は距離的に転移確定かな?
521、仮暮らしの名無シッティ
筆記しているってことは、精霊ちゃんははぐれの可能性が低いのかぁ……。
522、仮暮らしの名無シッティ
でも、キスミア以外で精霊が発見されている可能性もあるぜ?
523、仮暮らしの名無シッティ
え、秘匿大先生がいるってこと?
524、仮暮らしの名無シッティ
この精霊ちゃんはどこに向かってるのかな? ダンジョンか?
525、仮暮らしの名無シッティ
いや、ダンジョンなら一番近い浜名湖ダンジョンに行くだろ。
526、仮暮らしの名無シッティ
もしくは樹海ダンジョンか?
527、仮暮らしの名無シッティ
俺、この方向に住んでる凄い子を知ってるんだ。
528、仮暮らしの名無シッティ
俺も(=゜ω゜)ノ
529、仮暮らしの名無シッティ
風見町の自衛隊駐屯地が昨日少し騒がしかったんだよな。気のせいかもしれないけど。
530、仮暮らしの名無シッティ
それじゃね?
531、仮暮らしの名無シッティ
AM8:57 箱根湯本に出現!
532、仮暮らしの名無シッティ
は? 転移疑惑があったけど、そこまで飛ぶの? 直線距離で7、80kmはあるだろ。
533、仮暮らしの名無シッティ
ホントだ、観光地だけにクッソ情報が出とるよwww
534、仮暮らしの名無シッティ
関係しているかわからないけど、気になる動画を見つけたぞ。つ【動画URL】
535、仮暮らしの名無シッティ
これは海上? 漁師の人が撮ったのか?
536、仮暮らしの名無シッティ
やっぱりめっちゃ海の上走ってる(; ・`д・´)
537、仮暮らしの名無シッティ
明け方の海を走る赤と緑の光……完全に一致ですねありがとうございます。
538、仮暮らしの名無シッティ
時間と場所は?
539、仮暮らしの名無シッティ
いまプイッターで質問してるけど返事がない。
540、仮暮らしの名無シッティ
御前埼灯台で初目撃されたってことはやっぱり駿河湾かその沖か?
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その後、箱根での目撃情報を最後にカーバンクルライダー精霊の情報はぷつりと途絶えるが、このスレは謎の究明に盛り上がり続けることとなる。
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「もぐもぐ……」
お弁当をもぐもぐする命子の姿に、ささらたちは首を傾げる。明らかに元気がないのだ。
特にメリスが来たばかりだし、しょんぼりしているというのは不思議だった。命子のことだから、メリスのダンジョンでの活躍をたくさん聞くだろうし。
「命子さん元気ないですわね。なにかありましたの?」
「え……あ、ううん。ちょっと疲れちゃっただけ」
「まあ風邪ですの!?」
「そうかも……いや、ごめん、嘘ついた」
命子は嘘を吐いたが、ささらたちに嘘を吐くのは不誠実に思って止めた。どのような行動を取るにしても仲間なんだから知る権利はあるだろう。
「実は教授が行方不明になっちゃったんだよ」
「にゃっ!? それは誘拐とかデスか?」
「ううん、違うよ。ほら、精霊を使ってタカギ柱でキスミアへ瞬間移動できるじゃん?」
命子の言葉に、メリスが目を見開いて驚いた。
「藤堂さんっているでしょ? あの人が小龍人にマナ進化してね。その角を使って実験してたみたいなんだけど、過程はわからないけど事故ったみたい」
「つまり、キスミアにも教授さんは出てこなかったってことですわよね?」
ささらの質問に、命子はうんと頷いた。
隣で見ていたルルは、助けに行かないんデス? という言葉をグッと飲み込んだ。いま命子がここにいるということは、それができないということだろうから。
そして、命子が行動できない理由の一つに自分たちの存在も含まれていることに気づく。
この半年でいろいろな冒険をして生涯の友とさえ呼べる仲になった仲間がいなくなれば、みんなの心に重く圧し掛かるだろう。
事実、三頭龍でお互いに半殺しにされたルルとささらは、一緒にいる時間が非常に増えた。毎晩どちらかの家にお泊りし、一緒にお風呂に入り、ベッドで寝ている。昨日メリスがルルの家に迎えられたことで、およそひと月ぶりにささらは自分の家で一人で寝たくらいだ。
さらに、今回の出来事がまた問題だった。転移事故が起こるとどうなるのかわからないのだ。土の中や海の中、宇宙空間に出たら、即死もあり得る。広い世界の地表というわずかなスペースに出られるというのはきっと『特別』なことのはずだ。転移事故にこの『特別』が作用するか誰もわからないのである。
無理して助けに行けるはずがなかった。
「天狗さんに会いに行ってはどうでしょうか?」
「無限鳥居に? それはダメだよ。あそこに行けば情け容赦はないと思う」
「いえ、風見ダンジョンへですわ。最下層で呼べば来てくれるかもしれませんわよ?」
「あっ! そうか、風見ダンジョンでももしかしたら会えるかもしれないのか……」
命子はすぐにスマホを取り出して、風見ダンジョンの入場の予約状況を見る。当然のごとく満員だった。しかし、命子の権力を以てすればそんなことは関係ない。
「もしもし、馬場さんですか?」
『どうしたの?』
スマホから馬場の声がする。
昨日窘められただけに命子は少し怯むが、頑張ってお願いをした。
「風見ダンジョンに入りたいんですが、これから1時間後にどうにかねじ込んでくれませんか?」
『それは礼子の件ね?』
「はい。天狗さんに会えるか試してみたいんです」
『それはすでに自衛隊で試して無理だったわ。無限鳥居の昼間にも派遣しているけど、こちらの結果は明日になる予定よ』
天狗からは2回助言を貰えた実績があるので、自衛隊もこの程度のことは思いついていた。しかし、風見ダンジョンでは空振り、現在は無限鳥居へ行った部隊の帰還待ちとなっている。かなり強い部隊が向かったため、2日で帰ってくる予定だ。
「でも、もしかしたら私なら会ってくれるかもしれません。なんだかんだ目をかけてもらってますから」
『天狗は決して友達ではないでしょう? 仮に呼び出しに成功したとしても、殺されない保証がないから駄目よ。実際に、以前命子ちゃんたちが情報を貰った時は危なかったじゃない。あの時はあちらの都合だったから手を抜いてもらえたけど、こちらが呼び出せばどうなるかわからないでしょう?』
「そ、それは……で、でも自衛隊は試したんですよね?」
『私たちはそれが仕事であり使命だからよ』
「で、でも私は教授の友達です」
『私はあいつの高校からの親友よ』
「っっっ!」
『命子ちゃん、今回の件は私たちに任せなさい』
「……」
命子はしゅんとして電話を切った。
零れてきた電話の内容を聞いていたささらは、自衛隊のスタンスを正確に読み取っていた。自衛隊は教授を探しはするけれど、命子の命が最優先だと考えているのだろう。教授と命子の命を天秤にかけることがあるのなら、即座に命子の命を優先する。
「無理やり突入するデス?」
ルルが目をキラキラさせて言った。
しかし、命子は首を横に振った。
「いや、しないよ。ルール違反になっちゃう」
「「……」」
苦笑いして言う命子に、ささらとルルは顔を見合わせた。そんな三人のやりとりをメリスは羨ましそうに見て、しゅんとした。
ご飯を食べ終わった命子は、こっそり学校を抜け出して家に帰った。
ダンジョン装備に身を包み、家を出る。
するとそこには、ささらとルル、メリスと紫蓮がいた。
「みんな……」
驚く命子に、ささらたちは笑いかける。
「命子さん。一人ではダメですわよ?」
「そうデス。ワタシたちも行くデスよ」
「ワタシも行くデスワよ! 仲間外れはダメデスワよ!」
「我も協力する」
四人の言葉に命子はたじろぎ、門扉の階段に腰を下ろして項垂れた。
「みんな。私は天狗に土下座しに行くつもりだよ。攻撃の意志がない生き物を魔物は襲わない。このルールにすがるつもり」
厳密にはもう命子にはこのルールは適用されないのだが、相手は話せる魔物なのでそれに賭けてみることにしたのだ。
「それならワタクシも地面に頭を擦りつけますわ」
「にゃふふ、ワタシもデス!」
「土下座デスワよ? へへぇデスワよ?」
「そうデス!」
「女子五人からの土下座。天狗もきっと倒せる」
「みんな……」
命子は自分が正しいのかわからなくなった。
教授を見捨ててでも、この仲間たちにリスキーな真似をさせるべきではないと思い始めたのだ。家族、仲間、教授、いろいろな大切なものが心の中で混ざり合って、もうどうすればいいのかわからなくなってしまったのだ。
そんな命子にまた声をかける人物が現れる。
「もう。こんなことだろうと思ったわ」
「ば、馬場さん……」
腰に手を置いた馬場は、口から出そうなため息を飲み込んで命子の前で腰をかがめた。
「命子ちゃん。礼子を大切に思ってくれてありがとう。あいつの友達として、心からお礼を言うわ」
馬場はそう言って命子を抱きしめる。
「ば、馬場さん、私は……」
抱きしめられる前に見た馬場の悔しそうな表情に、命子は自分が思い上がっていることに気づいてしまった。
『どうすればいいかわからない』じゃないのだ。それは何かをすれば解決できる力を持っている人が考えることだ。たくさんの人の力を借りて今がある自分には、そもそもそんな力はないのだ。
そして、馬場は自分以上に親友である教授の無事を祈っていることを。
命子はここで初めて自分の役割に気づいた。
馬場の胸から顔を上げた命子は、馬場の目を真っすぐ見つめて言った。
「あとで精霊を連れてきてください。この二本の角を自衛隊に託します。きっと実験に役立つと思います」
「それは……本気なのね?」
「はい」
馬場は、命子の瞳に本気さを見て取った。
角は魔法制御の要だ。これがなくとも魔法は発動するが、マナ進化する前よりも弱くなる。それは冒険者として活躍したい命子にとって痛い制限だった。
「わかったわ」
「お願いしま……え……?」
頷く馬場に頷き返す命子だったが、ふと視線が横に逸れる。
それは空間の違和感。
怪訝に思った命子は、【龍眼】を使用した。すると、命子はその違和感の中にどこかの森林の風景を見た。
次の瞬間には空間にできた違和感とともに森林の風景が消失し、その代わりに一体の魔物と一体の精霊がその場に現れていた。
「なっ、ま、まも……あ、アイ!?」
それは教授と同じ姿をした精霊アイだった。出会った頃はアリアの姿をしていたが、最近では教授の姿をしているのだ。命子はアイと何度か会って可愛がっていたので、見間違えるはずがなかった。
アイは謎の魔物を操って命子のそばまで来ると、ミニチュア手帳を命子に向かってバッと広げて見せた。
命子は目を凝らしてそれを見るが、まるで意味がわからなかった。
全員が謎の魔物に注意を払う中、アイはふむと教授っぽく頷いた。
その瞬間、その場の全員が命子の家の前から姿を消した。
瞬きをするほどの間に、命子たちが見ている景色が変わる。
不意打ちを食らった全員が、その場に尻もちをついた。
「ここは?」
「み、湖デスワよ?」
紫蓮が地面の土をすくい、メリスが初めて近くで見る海にギョッとする。
「こ、ここは……み、三保の松原ですわ!?」
そして、ささらが雄大な富士山と松林を見て、驚愕の声を上げるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告もありがとうございます!