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7-18 バージョンアップ

 本日もよろしくお願いします。

 サーベル老師の過去や密かに一般ジョブをマスターしていたことを知った命子たちは、驚きを隠せなかった。手をブンブンし、すげぇすげぇと褒めちぎる。老師は良い気持ちになった。


「しかし、正味なところ、この技をお主らが覚えるために時間を割くのはあまりおすすめせん。わしの場合は、この剣術をすでにものにしておったからの。『マイマー』は最後の確認のような意味で取得したにすぎん。お主らがこれから『マイマー』を始めても、おそらくはパントマイムの技術しか学べんのではないかと思う」


「なるほど。つまり、まずはパントマイムを覚えてから、老師にその技を教わらなければならないわけですね?」


 そもそも、一般系ジョブはダンジョンジョブと違ってパッと出てこないという問題もあった。

 一般系ジョブはその人物の社会的な地位や性質、よく訓練した事柄が現れるため、パントマイムをちょっとやったくらいでは出てこないのだ。


「その通りじゃ。だがの、ジョブやスキルが出現していくらでも強くなる術がある現代において、これは非常に迂遠じゃろう」


「普通のジョブについて強くなったほうが良いということデスか?」


「いいや、ルル嬢ちゃん、何が正解かはわしもわからんよ。お主にしてもわしにしても、今の時代に生きている者は全員が新時代の攻略者じゃからのう」


 特に命子たちやサーベル老師は、最先端の部類にいる。

 選択するジョブ一つとってもテンプレートは存在しないし、連鎖的に修行方法も自分たちで決めなければならない。そこには当然、ビルドを失敗したらどうしようという不安もある。

 地球さんがレベルアップした黎明期となる現代は、先人の知恵を一新しなければならない時代になっていた。


「もしかして老師も何か探してるんですか?」


 ふと命子は気になって尋ねてみた。


「うむ。先ほども言ったがこの技術はわしが夢で見たオリジナルを強引に再現したにすぎんのじゃが、たぶん彼らはパントマイムなど極めておらん。つまり、彼らは虚実の技巧に特化したダンジョンジョブでこういった技術を取得しているのではないかとわしは思うておる。例えば、ルル嬢ちゃんは残像が作れるじゃろう?」


「ニャウ!」


『GE・NINJA』を修めたルルは、その場に残像を残してビュンと移動した。

 命子たちはもう何回も見ているので普通にそれが残像だとわかるのだが、初見の人は大抵驚く。なにせアニメやマンガでしか見たことのない残像という技術を目の当たりにするのだから、魔法並みにワクテカだ。


「わしのものは完全に技術だけで起こしている錯覚じゃが、このように魔法を使って錯覚を起こさせる術も多くあるはずじゃ」


「ふむふむ。いかにもありそう」


「わしはそちらのほうが強いのではないかと思うておる。わしが『マイマー』を取得し、現在『見習い剣士』をしているのも、そのようなダンジョンジョブが出現するのではないかと期待してのことなんじゃよ」


 老師の言葉に、命子と紫蓮は驚いた。

 それは複合ジョブの発想だ。老師の考え方が若い件。


 正統上位ジョブや派生ジョブ、名称が変異するジョブは多く見つかっているが、『魔法剣士』のような複合ジョブは今のところ発見されていない。スキルが覚醒して攻撃に属性を宿せるようになっても出現しないのだ。ましてや、一般系ジョブとダンジョンジョブが複合するジョブも見つかっていない。


 もしこれらが存在するのならマナ進化をして魔力をある程度操れる必要があるのではないかと、教授は言っていた。

 マナ進化した命子が発見できていないのは、マスターしたジョブの組み合わせが原因だろう。おそらくこの件については、異なる系統のジョブを複数マスターしている藤堂辺りが発見するのではないかと命子は予想している。


「うーん、じゃあどうやったら強くなれるんだろう?」


「ですわね……」


 命子たちは腕を組んで、うーんとした。


「わしは少し疑問に思うんじゃが。どうやって強くなるも何も、お主らは日々目まぐるしく成長しているではないか。その成長率は前時代の武術家からすれば異常な早さじゃぞ?」


 老師に指摘された命子たちは、たしかにそうだなと思った。


「それに三頭龍を倒してさらにレベルが上がったんじゃろう? それなら成長の余地はさらに上がっているはずじゃ。まずはそのレベル分を上げてみれば良いのではないか?」


「むむっ、たしかにその通りかも」


 命子たちはキャルメの戦いを見て技術の向上を求めてやってきたが、身体能力が成長する余地はまだまだ多く残されていた。


「じゃあ地道に修行するしかないか」


 命子がそう言って納得すると、老師が尋ねてきた。


「良い修行法を教えてやれんですまんが、一つわしも教えてほしいんじゃが良いかの?」


「え? はい、私が知っていることなら」


 老師としては師匠なのに弟子に教えてもらうのが心苦しいのだろう。とはいえ、先ほども言ったように命子も老師も新時代の攻略者なのだから、時には立場が逆転することもありうる。


「お主らは【イメージトレーニング】もスキル覚醒しておるのだろう? 是非とも使い心地を知りたいのじゃ」


「「「「あっ!」」」」


 老師の言葉に、命子たちは揃って声を上げた。




 町の子供たちと一緒に他の市の訓練に行くという老師と別れて、命子たちは青空修行道場にやってきた。

 現在の青空修行道場には修行者はおらず、いるのは自衛隊の見回りくらいだ。

 あと一週間もすれば臨時休校が終わり、他市の陸上競技場などで訓練している子供たちも戻ってくるため、警備のシステムさえ構築されていればここも再び賑わうことになるだろう。


 子供たちの賑やかな声の代わりにやたらと大きく聞こえる川のせせらぎを耳にしながら、ささらたちは距離を空けてその場で目を閉じる。

 その前で命子は【龍眼】を使って、3人のスキル覚醒が成功したかどうか調べた。


 スキルはたくさん使わないことには覚醒しない。ジョブスキルのスキル化程度では足りず、そのあともよく使う必要がある。一部ルルの氷属性のような特殊な例もあるが、まずこの法則が大前提にあると思って間違いない。


 その点で言うと、【イメージトレーニング】は命子たちが持つアクティブスキルの中で、一二を争うほどに使ったスキルだった。命子たちにとってもはや【イメージトレーニング】はゲームみたいなものなのだ。


【龍眼】を持つ命子は、すでに【イメージトレーニング】がどのような魔力現象か知っていた。

 このスキルはコンタクトレンズのような魔力の膜を網膜に出現させるスキルだ。これに対して、使用者が見る幻の魔物がいる地点には、特に魔力現象は起こらない。


 ささらたちは何回か失敗を繰り返し、その都度、幻のバネ風船を倒す。

 バネ風船を選択している理由は、【イメージトレーニング】のスキル覚醒が未知すぎるからだ。攻撃が当たっても絶対に死なない実戦ができるのが【イメージトレーニング】なわけだが、覚醒することで肉体を傷つけるようになるかもしれない心配があった。


 そして、何回目かの実験でついにその時は来た。


「【イメージトレーニング】」


 スキルに内心で問いかけたささらがカッと目を見開いて、唱えた。

 ささらの目にはバネ風船が一体出現して見えた。


「えーっ!?」


 一方で、それを見ていた命子は驚愕した。

 ささらの目に、紫色の炎が灯っているのだ。だが、命子が放っていた炎とは全く大きさが違い、コンタクトレンズのような円を基点にして小さな炎が灯っているだけである。性能自体も以前の命子の炎とは違うのだろう。


「えっ、め、命子さん。これって成功してますの!?」


「うん!」


 しかし、やはり命子の目にはバネ風船は見えず、ささら自身もあっという間に撃退してしまったため、従来の【イメージトレーニング】と変わった様子は見られなかった。


 その後、ルル、紫蓮、最後に観測者だった命子と覚醒していく。

【龍眼】を得て目に炎を灯すことがなくなった命子も、改めて目に炎が出るようになった。


「覚醒してるけど何も変わってないね?」


 命子は首を傾げる。

 すると、ルルが言った。


「シャーラシャーラ。手を繋ぐデス」


「ふぇ」


 言うが早いかルルがささらと指を絡めて手を繋ぐ。

 ささらはチラッと命子と紫蓮を見て、もじもじする。

 命子は青空修行道場の空は青いなぁと思い、中三の紫蓮はもじもじに共鳴した。


「イッセーノーセで【イメージトレーニング】を使うデス!」


「ふ、ふむ、なるほど。複数人で同じ幻影を見る実験か。たしかにありそうだね」


 ささらはともかくルルはちゃんと真面目に考えていたようで、真っ当な実験だった。

 何をイメージするか相談し、バネ風船を2体出現させることにする。


「「【イメージトレーニング】!」」


 声を重ねた2人の目に、バネ風船が見えた。しかし、使っている本人たちにはこれが成功しているかはわからない。別々の幻影を見ているかもしれないからだ。これを調べるには、ちょっと手間が掛かる。


 2人は恐る恐る手を放し、ささらが前に出てバネ風船の攻撃を回避しまくる。ルルはそれを観戦するだけだ。


「ニャー、シャーラのバネ風船とワタシのが全部リンクしてるデス!」


「ほう! じゃあそれが【イメージトレーニング】の覚醒の効果か」


 冒険手帳にメモする命子だが、実のところ【龍眼】ですでに結果が分かっていた。手を離した2人だが、魔力のラインで繋がっていたのだ。


「羊谷命子羊谷命子、我も発見した! 敵の速さを変えられる!」


「にゃにおぅ! バネ風船召喚!」


 紫蓮の報告を受けた命子はバネ風船を出現させて、動きが速くなるように想像した。

 本来の【イメージトレーニング】は魔物のスペックを変更することができなかったが、紫蓮の言うようにスキルが覚醒するとこれを行えるようになっていた。


 2倍の速さになったバネ風船があっという間に命子に接近する。

 攻撃モーションすらも速く、命子は慌ててコロンと転がって回避した。

 そうして自らの武器を想像し、これを撃退する。


「ヤバい、これ超面白い!」


 命子は一瞬にして【覚醒・イメージトレーニング】の虜になった。


 さらに、その日のうちに命子たちは【魔力放出】を覚醒させることに成功する。

 こちらについては放出速度が早くなっただけで、今のところ活用方法は見つかっていない。


 この日以降、命子たちは【覚醒・イメージトレーニング】を使いまくって修行に明け暮れることになる。




 それから二週間が過ぎ、風見町にひとまずの日常が戻ってきた。

 魔物が出現する際に動物が事前に音を察知できることがわかったのが大きい。ただ、この音は科学的に観測できない音で、動物に頼るしか手立てがないのが現状だ。

 そのため、ペットを飼って家族の誰かが『見習いテイマー』になる家庭が爆発的に増えた。

 再開された青空修行道場にも動物を連れてくる子が多くなり、出張してきた自衛隊の戦闘犬をボスにして、人と同じように修行している。


 一方で、世界では3回目と4回目のイベントが順番に行われた。

 回数を重ねるごとにイベントエリアは増えていき、日本では3回目、4回目が2か所同時になった。

 イベントでは毎回のように多くの英雄が誕生し、注目される市町村が現れる。

 人々が一丸となって音楽を奏で続けた町が出現したかと思えば、命子や部長に触発された学生団が人々を救う姿が連日のように報道された。


 そんな中で、日本はついに冒険者のダンジョン探索制限が大幅に緩和されることになった。

 救助の目安が無くなってしまうために、宿泊可能日数だけは相変わらずそのままだが、基本的に全ダンジョンに入場することが可能になった。

 ただし、入りたいランクのダンジョンよりも下位のダンジョンをクリアしていなければ認められず、ダンジョンのランクが上がるごとにクリアしなければならないダンジョンの数は増えるように調整されている。


 これを受けて、命子たちはあれから数回の探索で25層まで進めていた鎌倉ダンジョンをクリアするために動き出す。

 そして、命子たちがボスを倒すべくダンジョンに突入したその日、2機の飛行機が新たな風を乗せて羽田に着陸した。


 読んでくださりありがとうございます!


 ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

 誤字報告も助かっております。ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 覚醒イメトレはパーティー戦やハードモードが出来るのかぁ [気になる点] 魔力放出……スキル使う時に過剰に魔力を放出して威力上げたり?けどスキル覚醒でそれは出来るしなぁ。スキル覚醒に更に上増…
[一言] 覚醒イメトレ。 敵の能力上昇のみならず、強制的な自身の縛りプレイも可? 例えば重力10倍とか、レベルキャップ(レベル制限)トレーニングとか。 魔力放出は魔法防御にも使えるとか? 自身が放出…
[一言] やっぱり【修行者】は必須ジョブですね。 なんらかのブレイクスルーを起こさないと、いずれはキャルメ団どころか冒険者を生業にしているガチ勢に追い越されそうですね。スタートダッシュ分のアドバンテ…
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