特別編 謎の1周年記念
一週間休むと言ったけど、投稿します。
「早いもので今日で一周年だね!」
ダンジョンを探索していると、唐突に命子がそんなことを言い始めた。
命子がよくわからないことを言うのは今に始まったことではないので、ささらはなんの一周年なのか尋ねようと口を開きかけた。
「うん、一周年」
「一周年デスね! ねー、シャーラ?」
しかし、紫蓮とルルが続けざまに命子の言葉に同調したので、ルルから同意を求められたささらは、後ろめたさを感じつつおずおずと頷き、なんの一周年なのか考え始めた。
すると、ダンジョンの壁にドアがあり、命子たちは当然のことのようにそこに入っていった。
そこはパーティ会場で、すでにたくさんの人がいた。
両親や風見女学園の生徒、青空修行道場の人たち、メリスやアリアまでいる。
「ようこそー」
入り口に立っていたのは馬場で、先に入った命子から順番にクラッカーを渡していく。
明らかに用途がわかるクラッカーを渡されて、ささらは困惑した。
いまだに、まったく一周年に心当たりがない。
地球さんがレベルアップしてまだ半年だし、自分たちが出会ったのもそれに合わせて半年ほどだ。
「シャーラ、一周年おめでとうデス!」
「あわわわわ、お、おめでとうございますわ!」
いつの間にかドレスに着替えたルルから改めて挨拶され、ささらは慌てて話を合わせた。
しかし、このままではさすがにマズいと思ったささらは、思い切ってルルに尋ねた。
「ちょっと、ルルさん」
ささらはルルの手を引っ張って、会場の端っこに連れていく。
「どうしたデス? また猫ごっこしたくなったデスか?」
「シィーッ! ルルさん、それはシィーッ!」
ささらは人差し指を唇の前に立てて、必死に黙らせる。
人が少ない所でささらはルルに尋ねた。
「ルルさん、実はワタクシ、この会場がなんのお祝いの席なのかわからないんですの」
「それ尋常じゃないデス! まったくシャーラは!」
「ご、ごめんなさいですわ」
しゅんとするささら。
もう、と言いながらルルは背後に回るとよじよじとささらにおんぶした。
「ちょ、ちょっとルルさん!?」
「今日はバツとしてずっとこれデス!」
「えぇええ!?」
ルルの長い脚がガシーンとささらの腹部をロックして、もはや簡単には外れそうにない。
慄くささらは周りの人たちの反応を気にするが、誰一人としてささらたちに注目していない。
「る、ルルさん、降りてくださいですわ」
「にゃーにゃー。ふにゃー」
「るるるるルルさん、猫ごっこはダメですわ!」
ささらが自由なルルに翻弄されていると、司会席で命子がマイクに向かって話し始めた。
「本日は一周年記念の式典にお集まりいただきありがとうございます。それでは私の友人、笹笠ささらさんの登場です。みなさん、温かい拍手でお出迎えください」
「め、命子さん!? 無茶ぶりですわー!」
叫んだささらは、気づけば壇上に立っていた。
そこから見下ろすと、大勢の知り合いがクラッカーの紐に手を添えていた。
「我、間に合った!」
そこに紫蓮が大砲みたいに巨大なクラッカーを持って駆け込んできた。
「主役のささらさんはこれがクラッカー」
紫蓮にそう言われて、ゴクリと喉を鳴らすささら。
未だにおんぶしているルルがそんなささらの背中をもぞもぞと摩って、にゃーにゃー言う。
「それではささらさんの掛け声に合わせて、みなさんもクラッカーを鳴らしてください!」
命子のナレーションにささらは瞑目すると、全てを諦めた。
ささらはルルをおんぶしながら巨大なクラッカーを会場に向けた。
「みなさん、一周年おめでとうございますわーっ!」
なんの一周年かわからないささらは、そう言ってクラッカーの紐を引く。
「ニンニーン!」
クラッカーからルルが飛び出した。
ルルは空中でくるくる回り、シュタッと着地すると、両手に持った立派な鰹節をカンカン鳴らしてキメポーズをした。
「これぞ、シノビの極意デース!」
「「「わーっ!」」」
拍手が鳴り響いた。
「はぅわーでしゅわ!」
ささらはビクンと体を揺すりながら目を覚ました。
「ゆ、夢オチ……」
するとお腹の上に重みが。
「もうルルさんはまたぁ……」
お互いのお部屋に頻繁にお泊りする二人は、大体が一緒のベッドで寝ている。
そして、ささらが目を覚ますと大抵の場合、ルルが密着している。
本日のルルはささらのお腹を枕にして眠っていた。
ささらはまるでルルがダメみたいな言い草をしたが、天井から見下ろしてみればそれが冤罪であることに気づく。
寝相が悪いささらはセミダブルのベッドを斜めに使っているのだ。完全にルルの寝るスペースを侵食しており、二人で『イ』の字を描くような形になっている。
そして、ルルは寝相が悪いささらがこれ以上動かないように、腰の下に腕を回してロックしているのである。
しかし、寝ぼけ気味なささらは自分がおかしいことに気づかない。
優しい気持ちで目を瞑り、自分のお腹に乗っかった頭をよしよしと撫でながら、くすりと笑う。
「なんの一周年だったのかしら。でも、一周年、二周年、百周年……ずっとみなさんとお友だちでありますように……」
そう願いながら再び眠りに落ちていく。
その顔はとても穏やかで美しいものだが、遠くから見るとギャグ味が強かった。
夢オチシリーズですな。