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7-9 VR撮影

 本日もよろしくお願いします。

 今回の探索で全員がジョブを変えていた。

 三頭龍戦は、二次職のジョブスキルを全てスキル化するほどに死闘だったのだ。もちろん、二次職に就いてからの修行やイベントでの雑兵戦が無関係とは言えない。唯一、経験を積みようがなかった命子の【魔導書解放 中級】だけが残ったばかりである。ちなみに、紫蓮だけ『見習い棒使い』をマスターした形である。


 それぞれのジョブは。

 ルルが『見習い氷魔法使い』、紫蓮が『見習い火魔法使い』、馬場も『見習い風魔法使い』となった。

 魔法使いだらけのパーティだが、ジョブそのものにはパラメーターを変化させる効果はないため、ルルだったら依然としてスピード特化だし、ささらだったら攻防速を併せ持った魔法使いになれる。

 ただまあ、このジョブに就いている期間の修行の効果は、魔法関連に多く振られてしまう。


 ちなみに、【成長促進系】は近接系と魔法系で阻害し合うことはない。RPGのように剣士は細マッチョになり、魔法使いはもやしになることはないのだ。おそらく、マナ進化もそのような素敵生物になる。


 命子が世界で初めてマナ進化したため、周りの人はマナ進化について真剣に考えていた。強さだけではなく、素敵な自分になるようにマナ因子を蓄積していくつもりだ。例えば、紫蓮なら『防具職人』、ささらだったら『淑女』といったように。まあダンジョンではやはり戦闘系を取るが。


「氷弾デス!」


 武者人形にルルが氷の球をぶつける。

 武者人形にヒットした氷はたやすく砕けるが、それと同時に確かなダメージを与える。


『見習い氷魔法使い』は、すでに発見されているジョブだった。ちょっとなるのが面倒で、【水魔法】か【風魔法】のどちらかをスキル化し、スキル化していないほうの魔法を何度か使う必要があった。

 ルルはそんなことしていないのにジョブに出現しているのは、研究者の間でも様々な推測がなされている。命子たちは、『フニャルーの因子が氷属性とセットなのではないか説』を信じていた。


 まあ本人はそんなこと別にどうでもよく、無邪気に忍者刀を振るうのだが。

 そこそこの距離を瞬く間に詰めて接近したルル。


「にゃしゅっ!」


 冷気を纏った忍者刀で切られた武者人形は、その切り口から侵食した氷で胸元から顔面にかけて凍った。しかし、実のところオーバーキルのため、属性付加攻撃にあまり意味はなく光に還る。


 続いて、紫蓮だ。


 マナ因子という話を聞いた命子たちは、それぞれのジョブ履歴について話し合った。特に紫蓮は結構頻繁にジョブを変えるため、かなり変則的にマナ因子が蓄積していると思われた。その中でも、ネチュマス戦で使用した『見習い火魔法使い』はかなり蓄積しているのではないかと推測して、今回はこのジョブに就いている。


「消し炭になれ。火弾」


 普通の人は魔法を放つ時、手の指をピンと伸ばして行う。魔法のエフェクトの関係で無意識でそうなる。

 しかし、紫蓮は違う。武者人形に向かって半身で立ち、前方に突き出した手は指を半分開いた形。半身の構えの後方にある手には龍命雷が握られているが、長い柄が背中の後ろへ斜めに構えられており、まるでイラストにでもありそうなポージングだ。


 ルルは「やってるデスな」と頷き、ささらは大真面目に「一見すると隙が多い構えですが……」などと考察し、馬場は中坊の中二病に奥歯がぞくぞくした。

 そして命子は、紫蓮が中二病なのはいつものことなので【龍眼】で魔力の動きを観察する。


 カッコイイセリフとは裏腹に、火弾1発では武者人形は倒せない。しかし、紫蓮は慌てない。


「抗うか、愚かな。火弾」


 魔法使い系の魔法は杖が無くても普通に強いので、2発目で武者人形は光に還る。


 実のところ、紫蓮はこのセリフを他者に聞かせるつもりはなかったので、本人的には口の中でつぶやく程度の音量だった。しかし、ダンジョンは静かゆえに、がっちりみんなに聞こえていた。

 だが、みんな理解があった。ささらに至ってはセリフの芳醇さには気づいてもいない。


「おつかれデース!」


「ぴゃわわっ。ルルさん……んーっ!」


 生温かい目をしたルルが、紫蓮をだきゅーっとして労わる。

 紫蓮は眠たげな目をしつつも身体をくねらせて照れた。ボディタッチが多いルルに、紫蓮も少しずつ慣れ始めていた。


 そんな2人の様子を微笑んで見つめるささらは、くねくねする紫蓮のお腹に視線がいき、ふとこの前ルルと一緒に入ったお風呂でのことを思い出す。じゃれ合うのはいつものことだが、その時はおへそをこちょこちょされたのだ。それを思い出し、微笑むささらの顔がほんのり赤くなり、自分のおへその上に手を置く。淑女のような立ち姿である。


 一方、その隣にいる馬場も紫蓮のくねくねするお腹に目が行く。紫蓮はお転婆シーフ風衣装なため、丸だしなおへそが目立つのだ。どういう戦術を用いれば合法的に羽根でおへそをこちょこちょできるだろうかと、策を練る孔明のような真剣な目つきでおへそを見つめた。


 そんな中で、ロリッ娘は真剣な顔でふむふむと頷いて、冒険手帳にメモしている。

 そこには人体の簡略図が描かれており、どのように魔力が動いたか色ペンで記入した。

 魔力の動きは命子にしか見えず撮影ができないので、絵かCGでないと現状では可視化できないのだ。

 ここ数日、命子はいろいろな人を観察して、この簡略図をいくつも作っていた。


 命子のことは一先ずおいておき、一巡目の最後は馬場だ。


 馬場がささらと同様に『見習い風魔法使い』を選んだのは、鞭と親和性が高そうだからだけではない。マナ進化に取り入れるとしたら風か水属性あたりが素敵そうだからである。シルフかウンディーネというわけだ。

 年甲斐もないとは言うなかれ、それは逆だ。アラサーだからこそ素敵になれるチャンスを一度たりとも無駄にしたくないのである。まあ次元龍の因子が強く出るかもしれないけれど、マナ進化は一回だけではないらしいので、やれることはしていきたい所存。


「風弾……と、一撃か」


 放った風弾で一発で武者人形は光に還った。

 馬場は命子同様に、『見習い魔導書士』をマスターしているため、魔法の威力が他のメンバーよりも高かった。


 あっけなく戦闘が終わり、馬場はチラッとルルを見る。

 ルルはニコニコしながらコテンと首を傾げた。だきゅーっはなかった。


「まだ足りぬか」


 馬場は、より一層の精進を心に決める。

 目指すは、もうルルちゃんはー、などとやれやれするお姉さんだ。しかし、ささらと敵対するわけにはいかないので、ささらとの信頼関係も深めなければならない。紫蓮のおへそもこちょこちょしなければならないし、やることがいっぱいで忙しい。


 そんな煩悩に塗れた大人とは打って変わって、ロリは非常に真剣だった。

 冒険手帳に記録された様々な魔力の動きを確認しつつ、分析する。


「何かわかりましたの?」


 ささらが尋ねる。


「まあ魔力の動きだけはね。今はまだはっきり言えないから、もうちょっと戦ってから言うよ」


 命子はルルの魔力の動きが描かれた図を見て、答えた。

 なんで属性が覚醒しているはずなのに、属性がもろに影響する魔法1発で倒せなかったのかなど、気になる点が多かったのだ。


「わかりましたわ」


「あれ、ところで顔が赤いけど大丈夫? 風邪とかじゃない?」


「え。赤くないですわよ?」


「いや赤いが」


「そ、それじゃあダンジョンに入って血色が良くなったんですわ。命子さんだってダンジョンに入るとほっぺが桜色になりますでしょう?」


「え、なってる!?」


「なってますわよ」


「マジか。チーク要らずの命子ちゃんとはよく言ったもんだぜ」


 自分の頬をもにゅもにゅする命子ははぐらかされた。

 ささらも自分の頬をもにゅもにゅして、顔の熱を分散する。




 しばらく進むと、別の冒険者パーティに出くわした。


「め、命子ちゃん! ほっぺ可愛い!」

「はわ、ささらたん! 15歳なのに完成しとる……っ」

「ルルにゃん!? にゃーにゃー!」

「紫蓮たん!? 眠そう!」


「「「「しょ、翔子お姉さまっ!」」」」


 メンバーは6人で、全員が大学生か新卒ほどの年齢の女性だ。ダンジョン前では見なかったので、命子たちが来た頃にはすでに突入していたのだろう。

 全員が命子たちとの出会いに驚き、そして秘書姿の馬場にときめく。


「馬場さんモテるね」


「まあねっ。分かる人には分かっちゃうのよね。大人の魅力ってやつが。ねっ」


 しゃらんと髪を払う馬場を命子はほぇっと見つめて、クソ嬉しそうだなこの人、と思った。ほっぺは上気してチーク要らずの翔子ちゃんである。


 馬場はこのくらいの年齢の女性に大変モテた。黙っていれば性格が良さそうなできる美女風なので、女性の目標の一つになっているのだ。

 馬場がとても有名になったのは地球さんTVに映ったネチュマス戦からなのだが、それ以降、プイッターで呟くと女性フォロワーが多くリプイートしていく。馬場は上がり続ける『良きかな』の数字を見て、いつもニコニコなのである。


 さて、そんな彼女たちの格好は、どこかコスプレチックなのでダンジョン産の初級装備であることは間違いない。しかし、普通に町を歩いても目立ちそうにない着こなしをしている。ここら辺は高1の命子たちにはないファッションの巧みさがあった。

 尤も、レベルを上げた人特有の肌髪の艶の良さや自信がついて背筋を伸ばした様子から、とても美しく見えるため、その点で目立ちそうではある。


 わぁーっと馬場に群がる女性たち。


「ちょ、もうここはダンジョンよ、落ち着きなさい」


 やれやれ系姉御キャラみたいなムーブでそれに対応する馬場。凄く得意げだ。


 一方の命子たちは、彼女たちが持っていたものに興味津々だった。


「これってVR作るやつでしょ?」


 彼女たちは特殊なキャリーカートを転がして移動しており、その上には荷物の代わりにVRカメラが設置されていた。そのVRカメラの周りで命子がコテンと首を傾げて覗き込んだりしている。その姿は、ジャングルに設置された定点カメラに興味を抱く野生動物にどこか似ていた。

 VRカメラはうろちょろしたり近づいたりする命子をジーッと撮影し続ける。


「うん。『ダンジョンメイドちゃん』」


 こういうのに詳しい紫蓮が即座に答える。しかし、命子はほけぇーと紫蓮を見つめ、こいつはいったい何を言ってんだと思った。紫蓮は命子の眼差しを受けて考えていることを感じ取り、慌てて補足する。


「できるメイドは体を揺らさずに歩く。これも移動中にVRカメラが一切ブレずに撮影し続ける」


「わっかりにくいんだよなー」


 しかし、この商品はMRSのサイトでも広告を出していたりする。佩刀しているメイドさんがこのキャリーカートを引いて淑やかに歩いているイラストが特徴だ。


 ダンジョン探索のVR動画はとても人気があった。

 特に深層になると大人数の戦闘が起こるためかなり見ごたえがあるし、場合によっては【イメージトレーニング】の素材にもなる。

 さらに言えば、ハーレム、逆ハーレムパーティにいるような錯覚も起こす。ダンジョンはおトイレとかがないため、男女混合パーティがあまり作られないことの影響である。


 冒険者は素材だけでなく、こうしたネット活動でもお金を稼いでいた。むしろこっちが相当に稼げるうえにファンもつく。なお、命子たちも攻略掲示板を間接的に運営しているため、この部類に入った。


 さて、そんなVR動画の撮影は当初、頭や補助棒につけてするのが主流だった。そんな中で、これは商機と判断したキャリーカートメーカーが、この商品を世に出した。実はつい一ヶ月ほど前である。


 この商品の凄いところは、独自技術の水平機構によって、よほどの悪路でない限り一切の手ブレを起こさないところにある。そこにカメラそのものの手ブレ補正が加わって盤石の構えとなる。

 さらに、キャリーカートの下部には予備のバッテリーとメモリーカードを搭載できるスペースがあるため、長時間のダンジョンアタックでも撮影を可能にしている。いまや頭装着や手での撮影者を駆逐する勢いでこの商品はヒットしていた。

 唯一の欠点は、魔法の流れ弾に当たると一瞬で大破する点だが、そればかりは魔法産業革命を待つか【生産魔法】を駆使した手作りにするしかない。


「あわわわ、四娘が私のクソブログに載っちゃう……」


 命子たちがVRカメラの前でうろちょろしているのに気づいて、鉈を両腰に下げた女性が言う。


 女性は、喜びと不安が半々だった。

 四娘が映るのに、自分のサイトはあまり適していないのではないかと思ったのだ。


 曲がりなりにもプラスカルマなので外道は行なっていないが、会社で溜まったストレスをダンジョンで吐き出すその様子から、世の中の評判はドS共の集いと思われている。

 いつの間にか自分もその気になっちゃって、今では二丁鉈だし、仲間の一人は鞭にハイヒールだ。ちなみにそいつの本性はMだし、自分自身もMも兼ねた万能型だ。


 女性は、このブログと動画を始めたことで、会社で凄く優しくされるようになったし、道を歩くとたまにビンタを希望する人が現れるようにもなった。その会社のほうは冒険者で食っていくと決めて辞めてしまったが、完全にビビられていたと思っている。


 自分のサイトの傾向を考えて恐縮する女性に対して、命子たちは別に映っていても構わないと軽く答えた。

 しかし、馬場は違った。VRは普通の動画と違ってよりリアルだからだ。特にカメラ周りでうろちょろする命子は、画面に顔を近づけるガチ恋距離まで披露している。VRゴーグルをつけた視聴者は、きっと唇をチューの形にするだろう。それだけで彼女が会社で働いていた頃の年収を超える収益になる可能性があった。


「命子ちゃんたちはああ言ったけど、該当箇所を消すか、MRSに相談しなさい」


「わ、わかりました」


 とはいえ、せっかくなので、みんなで撮影する。

 命子は地上での撮影は基本的にあまり受け付けないが、ダンジョン内ではかなりサービスする子だった。テンションが上がっているとか、仲間意識があるのだろう。


「ふむ、それじゃあ……」


 カッコイイ演出ができるところは貪欲に拾っていくタイプの命子は、すぐに一つのアイデアを出した。

 それを聞いた馬場を含めた20代女性たちは、目から鱗をボロボロ落とす。


 そうして撮影したVR動画は、命子チームと女性チームの計11人がダンジョンメイドちゃんを輪になって囲み、それぞれが20秒間微動だにせずにカッコイイポージングをするというもの。

 命子や他数人の魔導書が魔法待機状態にされ、魔法のエフェクトがそれぞれの武器や髪、瞳を煌めかせる。


 視聴者は360度どこを向いても素敵な美女と美少女に囲まれているという夢の仕様。まるで美少女格闘ゲームのキャラ選択画面みたいな風景がVRゴーグルを通じてリアルに展開される様は、まさに圧巻。

 のちに多くの冒険者が真似をすることになる演出『フラッシュヒーロー』の発祥の瞬間であった。強者風ジジイ仕様も出るぞ!


 なお、結局は命子が無防備を晒す辺りはカットになったが、この円陣だけは配信が許可された。


 風見町防衛戦で一部の冒険者たちが魅せ、そしてその直後にこのVR動画が世に出現したことで、冒険者のヒーロー化が加速していくことになる。


 読んでくださりありがとうございます。


 たくさんのお祝いのコメント大変感謝しております!

 また、変わらず誤字報告をしていただけて助かっています。ありがとうございます!

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