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7-3 能力測定会

 本日もよろしくお願いします。

 凄いことをしたいと頑張った命子だが、駄々滑った。

 年若い命子は知らなかったのだ。玄人にしか理解できないことをしても一般人はウケないという事実を。きっとこれが放送される時には、コメンテーターが注釈を入れるのだろう。これは凄いことなんです、みたいな。でもまあ、やっぱり一般人からすれば派手な技を見せてもらったほうが得した気分になるのだが。


 しかも、滑ったうえに、あれ私なんかしちゃいましたのふりを紫蓮に見破られた。

 命子はとっても恥ずかしかった。


「んーっ!」


「すまんかったって」


 ぽかぽかぽかぁと八つ当たりされる紫蓮だが、甘噛みみたいなじゃれつきを楽しんでいる。


 そんな命子がマナ進化したデータは現状でまだ公表の段階にないのだが、先んじて報道陣のカメラに映ったことで、元気いっぱいな姿が世の中にお届けされた。

 これは別に命子のファンサービスというわけではなく、これから自分が関わる不思議現象が怖くないのだと知らせる意味があった。

 特に、自衛官や軍人を家族に持つ人にとって、これはかなり心配の種だったのだ。マナ進化して帰ってきた夫がなんとオークさんに変貌してしまったのです、なんて事態になったら愛が揺らぐ。


 その点、マナ進化した命子の姿は普通に可愛く、角も着脱式。

 これは結構な人を安心させる材料になった。

 まあ、マナ進化したのが昨日の今日なので経過観察が必要なことではあるが。とはいえ、マナ進化していない人だって今までなかった魔力が宿っているわけで、ある意味、全世界の人が等しく経過観察の中にいると言っても良い状態ではあるけれど。


 報道陣の撮影はこれで終わり、命子たちはこれから真の検証会に入る。


 報道関係者はこれからも大忙しだ。直近だと風見町の防衛を指揮した町長、一等陸佐、冒険者協会支部長の記者会見が大きなイベントだ。しかし、その時間が来る前に多くの人にインタビューしたい。すでに町の外の人は帰り始めているため、報道陣はほのぼのとした風見町の人と打って変わって大変な騒ぎである。

 当然、風見町の外でも、各国・各州のトップや国連事務総長の会見、ダンジョンがある自治体へのインタビューなどで目が回るような忙しさになっていた。

 どんな時でもアニメを流すことで有名な大江戸テレビすらも、さすがに一昨日から今日までの三日間はアニメの放送を延期したほどである。明日の深夜はわからないが。

 まあ、彼らの頑張りはさておき。


 


「教授教授ぅ!」


「おーっとっと、角が生えても君は変わらないね!」


「ま、前に進めぬ!」


「社会的に死ぬかもしれないからね」


 いつものようにだいしゅきホールドをしようと駆け寄ってくる命子の頭を教授が右手で押さえたことで、命子は前に進めぬ状態になった。

 さて、そんな風に教授が心配するくらいに、本日はいつもと勝手が違った。いつものように教授を中心にした検証ではなく、他にも面子がいるのだ。多くが外国人である。


「はわ。教授、あの人たちは?」


「各国の研究者や軍関係者だよ」


「あー、お話にあった」


 今回の検証をするにあたり、事前に彼らの見学が可能か命子たちは尋ねられていた。

 深く考えずに了承したが、いろんな国の人が来ているうえに、みんな目がギラギラしているため、圧が凄い。特に、人類の中でも真っ先に命子の後に続くであろう軍関係者の眼差しが凄い。


 そんな中にはキスミアからきた人もおり、ルルを見て敬礼する光景があった。日本の友好国なので、こういった場合の席は優先的に用意されるのだ。


「基本的に彼らは傍聴だね。データは共有するけど、発言自体は我々を通して行われる感じだ。まあ、いつも通りに気楽にしたらいいさ」


「分かりました」


 というわけで、色々と実験が始まった。


 まずは、50メートル走や握力測定など、普通に学校でもやりそうなことから始まる。ただ、測定機材が学校のそれとはまったく違う。

 命子やささらたちは、言われるがままに測定していく。

 その一部を抜粋。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■

羊谷命子

・50m走 5秒12

・1500m走 2分38秒

・走り幅跳び 8m10cm

・垂直飛び 1m13cm

・握力 73kg


笹笠ささら

・50m走 4秒02

・1500m走 2分10秒

・走り幅跳び 10m40cm

・垂直飛び 1m31cm

・握力 154kg


流ルル

・50m走 2秒87

・1500m走 1分28秒

・走り幅跳び 24m14cm

・垂直飛び 4m35cm

・握力 80kg


有鴨紫蓮

・50m走 4秒59

・1500m走 2分28秒

・走り幅跳び 8m55cm

・垂直飛び 1m22cm

・握力 83kg

■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「ずるいずるいずるい!」


 この結果を受けて、命子は駄々をこねた。

 特にルルだ。


「ルル、スキル使ったでしょ!」


「だって教授が全部出して良いって言ったデス! ワタシは悪くないデス!」


「ちげぇねえ! でもでも、私そういうのないんだけど!」


「わがまま言うんじゃありませんデス! 他所は他所、福はうちデス! そんなわがままばかり言うと、鬼は外デスよ!?」


「ひぅうううう、ごめんなさい、ママ……もう言いません……」


「まったく、誰に似たんでしょうねデス!?」


「夢舞子」


 命子はしゅんとして、ルルはうむと頷き、ささらは混乱した。

 ちなみに、夢舞子むむこは命子のお母さんである。


「命子君も十二分に凄い結果だと思うがね」


 教授は女子高生の奇妙なやり取りに苦笑いしてそう言った。

 なにせ、足を使う類のものは軒並み世界記録レベルの数値なのだから。握力に関してだって、ささらが【筋力アップ 小】を一回取得しているだけで、あとは修行だけでこの数値になっている。恐るべき結果である。


 各国の人たちは、この結果を興味深そうに見つめる。


 各国ともに、現状でルルよりも優れたスピードファイターはいない。

 スキルを覚醒させるというのは、そのスキルの効果をさらに引き上げるようだった。

 これは攻撃力や防御力の面でも同じはずだ。つまり、ささらや紫蓮である。

 ちなみに、攻撃力に関しては、先ほどのコンクリート破壊試験のデータがすでに手元にある。


 一方で、マナ進化をした命子だが、この測定では他のメンツに全て劣っていた。

 しかし、だからと言って命子を侮る者はこの場にいない。そういった者は席数の無駄なので相手国だって送ってこない。


「お次は命子君の得意な測定だ」


「ほう、面白い」


 教授に促され、命子は特別製のプラスチックゴーグルを装着した。

 そして、ガス銃を持った自衛官と向き合う。彼我の距離は10メートルほどだ。


「命子君、今からガス銃で撃つから、それに反応してほしい」


「痛くないですか?」


「飛び道具は威力が弱まったからね。痛くはないよ」


 準備が整い、自衛官がガス銃の引き金を引いた。銃口から、エアガン用の玉が控えめな音と共に射出される。初速89m/sの玉が若干ホップアップしながら命子に向かって飛んでくる。


「見切った!」


 命子はペシッと平手で玉を弾いた。

 おー、と感心する見学者たちだが、動体視力も上昇するのが新世界だ。各国共にこれができる部下の顔はすぐに何十人もピックアップできる。しかし、継続される測定で、そのピックアップした顔が徐々に減っていく。


「無駄無駄ぁ!」


 それからも連続で撃たれた玉がペシペシと普通に叩き落とされていき、簡単すぎるな、と舐めプした命子は、腰に付けた和風なポシェットからシャーペンを取り出し、それを使って玉を弾き始めた。


 さらに射撃者が2人になり、命子も負けじと今度はボールペンを取り出す。二刀流だ。

 2本の筆記用具を使い、命子はペシペシしまくった。

 しかし、片や指先をくいくいするだけでいい撃ち手と、片や自分の前面の面積分も腕を振らなければいけない受け手だ。


「ひぅううう、早い早い! スパンが早い!」


 泣き言をいう命子だが、無情にも撃たれ続ける。

 命子は手が追い付かなくなり、足を動かし始めた。本当はその場を一歩も動かずに決着したかったのに。

 またしても強者ムーブが失敗した命子とは裏腹に、足さえ動かせば全ての玉を回避できてしまうことに見学者たちは唸った。


 彼らの前にある機器には、命子がつけている特殊なゴーグルから送られてくる命子の視線の動きや、ガス銃の玉の軌道が記録されていた。

 そこまで視線を動かしていないのに、命子は全ての玉の軌道を正確に見切っている。


『決して我々のスペックとは離れていないのだが、見えている世界が違いすぎる。視覚の覚醒はここまでなのか……』


『可愛い……』


『いったいどのような情報処理がされているんだ? 脳波のデータは手に入らないのか?』


 そうこうしているうちに、マガジンの玉が尽き、測定は終わった。


「まっ、ざっとこんなものかな。ルル、これがスキルの力だ!」


「にゃにおぅ! 負けないデス!」


 というわけで、これに続いたささらたちだが、普通に回避することはできるが、筆記用具で撃ち落とし続けるのは無理だった。1、2発ならできるが、次から次へと飛んでくると処理が追い付かなくなった。

 その代わり、ルルの手さばきは非常に速く、手のひらでなら命子と同じことをやってのけた。


「まっ、気を落とすなよ!」


 命子は測定を終えた順番にポンと肩を叩いて励ましてあげた。


 しかし、測定は終わったが検証自体は終わらない。


「命子君はマナ進化したわけだが、何か変わったことはあったかい?」


 命子をメインにした検証が始まる。


「昨日今日のことなのでまだなんとも言えないですが、いくつかできそうな発見はありました」


「それはこの場で見せても大丈夫なことかな?」


「まあ、一か月もすればマナ進化する人もボチボチ出てくるでしょうし、いいんじゃないですか?」


 命子の予想だと、自分と他者の差はそんなものだった。

 ささらたちなど複数のスキルを覚醒させているし、下手をすれば明日にでもマナ進化してもおかしくないとすら思っている。まあ実際には何かしらのきっかけが必要かもしれないので、案外時間はかかるかもしれないが。それでも世界規模で語れば、このきっかけってものが起こる可能性は当然上がるため、割とすぐにマナ進化をする人は出てくるんじゃないかなという考えだ。


「私はステータス画面に『進化スキル』というカテゴリーが現れ、そこに【龍眼】というスキルが現れました。それは魔力やマナが視えるようになるスキルですね。たぶん、目に魔力を強く宿せた人ならきっかけさえ掴めれば、開眼するんじゃないかなと思います」


 命子は見学者に向けて前提としてそう告げる。

 この情報はダンジョン攻略サイト『冒険道』にも流す予定だ。


「で、昨日からこの【龍眼】を使って色々と見てきたわけですが、いくつかわかったことがありますね」


 命子は、魔導書に水弾を灯した。

 そのまま魔法待機状態にし、その様子をじっと観察する。

【龍眼】を使った瞳は紫色に変化し、くりくりなお目々に神秘性と若干の恐ろしさを宿す。


 命子の目には、自分の胸と魔導書、そして魔導書の上に浮かぶ水弾に一本のパスが繋がっているのが映っていた。このパスには絶えず自分から魔力が供給され続けている。

 命子は魔法待機状態について深く考えたことはないのだが、この状態でも微弱ながら魔力が消費され続けているのだと気づいた。

 この件については、世の研究者の方が先に気づいていたりする。魔法待機状態だと、魔力回復速度が10秒ほど遅くなるのだ。


「ここに魔力の線が繋がっています。私は勝手に魔力パスって言ってますが、これに干渉することで先ほど私がやった魔導書を遠くまで飛ばすことなんかができます。初めてで下手くそだったので、あれだけで30ぐらい魔力が無くなりましたが」


 命子は見学者に、今自分に見えていることを教えてあげる。


「まだ研究中ですが、この魔力パスは結構いろいろなことができるはずだと思います。例えば……」


 命子はいったん水弾を解除して、自分の胸と魔導書に繋がっている魔力パスを手で掴んだ。そうして、手のひらにパスの接続場所を変えてみる。やはりこちらのほうがやりやすい。


 そうして、また水弾を魔法待機状態にすると、手のひらから【魔力放出】を放ち、パスに流し込む。

 しかし、考えていたようにはいかない。水弾が大きくできると思ったのだ。代わりに、魔導書が遠くまで飛ぶようになった。


「ふーむ、何かが違うな……水弾だから水属性の魔力じゃなければならないのかな? どうやんだ、これ?」


 水属性ぇ、と命子は手のひらに水属性の魔力を流そうと頑張った。

 すると、命子の角が水色に光り始める。命子はそれに気づかず、水属性ぇ、とし続ける。


 そうしていると、水弾が1.5倍ほどの大きさに膨れ上がった。

 命子は焦った。

 今まで安定していた水弾の魔力が、荒れ狂って視えたのだ。


「は、発射!」


 射出された水弾は、少し離れた地面に楕円形のクレーターを作った。


『お、音井君! 今のは魔力の上乗せかね!?』


 見学者の質問を受けて、教授が命子に尋ねる。


「今のは魔力を上乗せしたのかい?」


「はい。でも、やり方が間違っているみたいですね。あれ以上の上乗せは研究しないと今のところ無理そうです」


 このファンタジーは何をするにも修行だと理解している命子は、そう答えた。

 教授はふむふむと頷き、質問した。


「その魔力の上乗せは、我々でもできそうかい?」


「いえ、たぶん無理ですね。ささらたちならできるかな? なんというか、みんなまだスキルを使って定量しか魔力を流せていないです。でも、スキルが覚醒した人はこの定量の法則をぶっ壊してます。たぶん、マナ因子ってやつが身体に馴染みつつあるんじゃないかなと思いますけど、よく分からないです」


「なるほど。それじゃあ、ちょっとその角を取って、同じことをしてみてくれるかい?」


「さすが教授だぜ! 私もそれは考えていました」


 命子もこの角が魔力を操作するうえで重要な役割を持っているのではないかと考えていたのだ。

 そして、その予感は当たった。角を外すと、一応は魔力の上乗せなどはできたが格段に難しくなってしまったのだ。


「ふむ、となると、マナ進化するとそういった魔力の制御器官が現れるのだろうか? 天狗の話しぶりだと角が生えるか分からなかった様子だし、そういう場合は臓器になるのか?」


 教授がぶつぶつ言い、同じようなことを見学席の研究者たちも呟く。似た者同士だった。

 なにぶん、分母がロリ一人なのでこれについては確かなことが言えない。

 それから角についてのいくつかのデータが共有される。特に、外した角が一定距離を隔てると命子のもとに戻るという点は知らせておく。これで盗もうと思う人間はいなくなるだろう。


 ちなみに、角の強度試験は行われない。

 もし折れて、新しく生えてこなかったら大問題だからだ。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 身体能力測定の記録がヤバい [一言] 角「………………助かった」
[一言] 今更ながら、ロリッ娘をリスペクトしてマナ進化したらホビットとかハーフリングになる方が現れるのでは?と思ってしまうw
[一言] 命子の回避力、磨けばそのうち相手が撃つ前に避けられるようになったり。 あと、複数魔導書の遠隔操作でファンネルごっことかw
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