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2-4 休日の偶然

話のキリが良いので、本日は2話投稿します。

よろしくお願いします。

 高校に入学して、1週間が経った。


 命子は凄い人気だった。


 クラスでは速攻で話しかけられ、ほぼ全員とお話しアプリの『ルイン』交換をする。

 みんなダンジョンの事やスキルのことを聞きたいみたいで、馬場や教授に吹聴するなと言われたことをしっかり守って、青空修行道場でも話した当たり障りのない事だけを話す。


 魔物は、攻撃力がとにかく強そうだったので、バネ風船や魔本を外で見つけても、近づいちゃダメだよ、と教えてあげたりしたのだ。

 画像は渡していないものの、その話だけがネット上に流れ、若者たちは『バネのついた風船』と『空飛ぶ本』に不用意に近づかないと学ぶ。もちろん、見つけたら倒すと意気込む血気盛んな者も現れたけれど。


 クラスメイトは良いとしても、別のクラスの子や先輩たちまで見物やお話しに来る始末。

 ちょっとした芸能人みたいな感じである。いや、初めてダンジョンから帰ってきた少女というネームバリューは世界中に轟いているため、日本だけで通じる芸能人よりもよほど有名であった。


 各部活動のお誘いも凄かった。

 春休みが終わっても時間を見つけて修行を続けている命子は、高校生の部活でもある程度の戦力になれるレベルにまでなっていた。

 勧誘者たちは、まだ学校で体力測定が行われていないのでその事実を知らないにもかかわらず、命子のネームバリューだけでお誘いに来ているのである。ダンジョンから帰ってきたんだし凄いよね、みたいな感じだ。

 けれど、部活動に出る時間があれば修行をしたいので、全てのお誘いをお断りした。


 そんな中で困るのはカルマ相談だった。


 確かに青空修行道場でカルマが低い子を、どうすればプラスになれるかみんなで考えたことはあるけれど、それはそれだ。

 相談に来る全ての人に真面目に対応していたら、時間がいくらあっても足りない。


 しかし、この年頃でカルマがマイナスだったことは、少女たちにとって衝撃的だった。意地悪だったという子もしゅんとしてしまうレベルだ。

 自業自得という側面もあるけれど、校長が言ったように、命子たちはまだ若いのだから、やり直しは利くのだ。意地悪だった子が、将来、おばあちゃんをおんぶして歩道橋を登るようになる日が来るかもしれない。


 同じ学校に通い、自分を頼ってきたそういう子を放っておくのも可哀想だ。

 けれど、自分の時間は十分に取りたい。

 なので、命子は一計を案じる。


 カルマ相談をしてきた奴は全員、青空修行道場にぶち込んだのだ。


 ジジババや小中学生たちが修行しているあそこで過ごせば、邪気も落ちるだろう。

 少なくとも、命子は青空修行道場で修行したり率先して働いていたりしていたら、9日間でカルマが+130増えた。

 そんなわけで朝練と学校終わり、さらに休日に行くようアドバイスしてみた。


 結果がどうなるかはまだ分からない。

 ダリィとか言って2日目にはいかなくなるかもしれない。

 そうなってしまったら、命子もそれ以上関わるつもりはなかった。




 青空修行教室にしょんぼり系の悪っ娘共をダース単位でぶち込んだ週末。


 命子は朝からパパの視線にうっとうしさを覚えていた。


 シューズを履いている時には背後の壁に隠れてジッと命子を見つめ、かと思えば、小さな庭でストレッチを始める姿を、カーテンの隙間からこそこそと見つめてくる。

 キモッと言われる父親の典型であった。


「あんなことしてるなら、お父さんも修行すればいいのに」


 あれで、もしもの時は俺が守る、などとは片腹痛しさんである。

 言うは易し、口を動かせば良いのだから。けれど、それを実現するにはそれ相応の下地が必要だ。

 その下地が、父にあるとは思えなかった。身代わりになって守る、などと考えているのだろうか。


 少しプンプンした命子は、今日は気分転換に山の麓の農道を走ることに決めた。


 ささらと合流して、ランニングを開始する。


 命子は笹笠ささらを結構気に入っていた。

 付き合いはまだ短いけれど、ですわ口調も可愛いし、修行を真面目に行うのも好感が持てた。

 本当は学校でもお話ししたいけれど、命子の人気が凄いので、ささらとお話しできるのは学校以外の時間が多かった。


 命子の住む町は、山あり川ありの日本では割とポピュラーなそこそこの田舎町であった。


 しかし、最近はこの町も少しだけ有名になった。

 ロリっ娘迷宮があるからだ。


 自衛隊や警察官が色々な場所から研修にやってきて、ダンジョンに潜っていく。

 ダンジョン周辺は土地が買い上げられて、ダンジョンから出てくる魔物からの脅威に備えるために大きな塀や防衛基地が、昼夜も休日も問わずに急ピッチで作られている。そのため、工事車両なども多く見かけるようになった。


 そうした変化を見ていると、やはりダンジョンがこれからの生活に大きく関わることになるだろうと、命子は確信できた。


 父はそう考えないのだろうか。危機感を覚えないのだろうか。

 それとも、サラリーマンになってしまうと、休日が大切過ぎて、牙を研ぐ時間もおしくなっちゃうのだろうか。


 その一方で、家族のために一生懸命働いてくれている父の姿も確かにあるのだ。

 学校が終わった後に、バイトをせずに修行できるのは父のおかげであることは間違いない。


 でも、仕事の前に海でサーフィンしてから行く人や、仕事が終わったらボクシングやボルダリングに行く人もいると、テレビで見たことがある。


 サラリーマン……サラリーマンってなんなんだろう。


 農道の中間にある小さな駐車スペースで、眼下に広がる町の中でダンジョン防衛基地を築く様子を眺めながら、命子は息を整えつつそんなことを考えた。


「この町も賑やかになりそうですわね」


 一歩踏み間違えれば父ディスりを始めそうな命子の思考を、ささらの言葉が引き戻す。


「うん。難易度の低いダンジョンがあるから、きっと日本でも有名な修行の町になるよ」


「一般人が入れるようになったら、命子さんがワタクシにレクチャーしてくださいな?」


「ふふっ、その頃には立派な指導員が居そうだけど。でも、そうだね。誰かに教えられるくらい強くなりたいね」


 命子はぶっちゃけ雑魚だ。

 ダンジョンから帰れたのも、運が良かっただけである。

 それを自分でも分かっているからこそ、こうして修行していた。


 そうして、再び農道を走り出した命子たちは、向かう先に見知った顔を見つけた。


 身長170センチくらいのスラッとした身体と、絹糸のような金色の長い髪。

 雪のように白い肌と、元気さを現したような大きな青い瞳。


 流ルルであった。


 チェック柄のワイシャツにオーバーオールを着たルルは、リュックサックを背負って山の林道に入っていった。


「ルルちゃんだ」


 思わぬ人物を目撃して、命子は驚いた。


「本当ですわね。この辺りに住んでいらっしゃるのかしら?」


「どうだろう。声を掛けてみよう」


「そうですわね」


 なんにしても、これは僥倖だ。


 命子はルルとお友達になりたかった。

 自己紹介で拍手をした時に見せてくれたあの嬉しそうな笑顔に、命子はトキメキに似た感情を覚えた。北欧系に弱い日本人である。


 けれど、この1週間で、ささらと同じようにルルともお話しする機会はあまりなかった。

 やっぱり命子が人気過ぎるためだ。

 ルルはルルで、お昼休みになるとふらーっとどこかへ行ってしまうので、せっかく隣の席なのに、全くお話しできていないのである。


「ルルちゃーん!」


 命子はててぇと走り寄り、声を掛けた。

 少し遅れてささらが駆けてくる。

 林道に入りかけていたルルは振り返って命子を見つけると、花の咲いたような笑顔を見せた。


「こぉんにちはー、メーコ!」


 少しイントネーションがおかしい日本語で、挨拶してくれる。


「奇遇だね!」


「ニャーウ! メーコとシャーラはシュギョー中デスか?」


 猫ちゃんの鳴きまねを飛ばしてきたルルに、命子は仲良しになれる気がした。

 しかし、それは命子の勘違い。ニャーウは、キスミア語で、『はい』であった。正式には『ニャウ』だ。気軽な返事だと伸びる。


 ささらはシャーラと呼ばれて、どこか嬉しそうにしている。


「そうだよ。いつもは河原のほうを走ってるんだけど、今日は気分を変えてこっちのほうを走ってたの」


「ルー!」


 よく分からない返しに命子は若干戸惑いつつも、うぉおおグローバルコミュニケーション! と気合を入れて、会話を続ける。


「ルルちゃんは何してたの?」


 朝も早くから林道に入る系女子なのだろうか?

 珍しいタイプだなぁと修行系ロリは思った。おまいうである。

 しかし、ルルの答えは斜め上を行った。


「ワタシは、ペカトゥーを探しに来たんデース!」


 スレンダーなのにちゃんとお山になっている胸を張って、ルルはドヤり顔で言った。


 命子はゴクリと喉を鳴らす。


 ペカトゥー。

 日本のゲームやアニメで活躍する有名なキャラクターにして、世界でも愛されるマスコットキャラだ。

 ペカーッ! と愛らしい声で鳴き、ペカッと光る。


 そんな、空想上の生き物である。


 こいつぁ面白おもしれぇ逸材に出会っちゃったぜ!

 命子は自分の強運に恐れ戦いた。


「ワタシのパパがデスね、ペカトゥーはニッポンの山奥にいるって言ってマシた。だから、探しに来たんデース!」


「ほ、本当ですの!? ペカトゥーは日本にいるんですの!? ワタクシ、てっきり外国の生物だとばっかり思っていましたわ」


 ふぇー、マジかよ!

 生粋の日本人である友人から飛び出た発言に、命子は驚喜した。

 そんな内心を押し殺して、命子は綺麗な目でコクリと頷いた。


「うん。丹沢の奥地とかにいるの」


「本当デスか!?」


「そんなに近くにいるんですの!?」


 はわー、と目をまん丸にする美少女二人。

 ルルは身長170センチちょいで、ささらは165センチくらい。

 それをからかう命子は145センチ程度。


 命子は自分よりも大人びた二人を手玉に取っている状況にゾクゾクした。


「うん。だけど、野生のペカトゥーはアニメみたいに人には滅多に懐かないんだよ。狂暴だから、近づいちゃダメ。襲われたら逃げるか、戦うんだよ?」


「ルー、そうなんデースね。アニメのグフカルは可愛いデスけど、実物は怖いデースからね。わかりマシた!」


 うんうん、と納得するルル。

 引き合いに出したグフカルは、今、日本でやべえ害獣として名前が挙がっている奴らだ。水でなんでも洗っちゃう可愛さや見た目の愛くるしさとは裏腹に、獰猛なのである。


 なお、命子がペカトゥーの居る場所を丹沢としたのは、もう少し北に行くとクマとかが出そうだからだ。

 丹沢にも稀にいるらしいが、遭遇率は東北に比べれば圧倒的に低いはず。


 それにこのお話はもしかしたら現実に起こりうるかもしれない。

 ダンジョンができた今、ペカトゥーに似た生物も出てくるかもしれないのだ。

 故に、ルルが近寄って食べられないように、危険も合わせて教え込んでおく。


 それなら最初から本当のことを教えろと言いたいところだが、それをするにはルルとささらはあまりに可愛すぎた。

 ペカトゥーが本当にいるって……っ! ププーッ!

 萌えであった。

 まさかロリッ娘に萌えられているとは思ってもみない大人びた系女子二人は、良い情報を聞けたと上機嫌であった。


「これから山に入るの?」


「ニャウ! せっかくですから探検してきマース!」


 ルルの返答に、命子はささらを見つめた。

 ささらはニコリと笑い頷く。


「私も一緒に行っていい?」


 これも修行になるし、ルルも心配だし。


「メーコもデスか? もちろんデース! 実は一人はちょっと怖かったデスよ、んふふっ!」


「ささらはどうする? 一緒に行く?」


「もちろんですわ。ルルさん、いいですわよね?」


「もちろんデスワヨ!」


「真似しないでくださいまし!」


「んふふぅ!」


 こうして、命子とささらは、ルルのペカトゥー探索の予行練習に同行することになった。


―――――――

★キスミア語辞典


・ニャウ 『はい』のような肯定の女の子言葉。ニャーウと伸ばすことで、気軽な感じになる。


・ルー 『へぇ!』『そっかぁ』『そうなんだぁ!』みたいな相槌。



読んでくださりありがとうございます。

この後、10分後くらいに次話を投稿します。

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― 新着の感想 ―
猫の祖先のミアキスと関係があるのかな?
ペカトゥーって何かと思ったらピカチューかwww
[一言] キスミア逝ってみたいなー
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