6-33 マナ進化
本日もよろしくお願いします。
魔法陣に飛び散った三頭龍の鱗や血液が光の粒になり、それに遅れて身体が大きな光の柱となって消えていく。その光景に、魔法陣の下では……いや、イベントエリアの外からさえも大歓声が上がった。
戦った本人たちは大きな達成感と共に夜空に向かって伸びる光の柱を見つめる。
「う……くぅ……っ」
そんな中でカッコつけた命子の身体がぐらりと崩れる。
慌てて馬場が支えようとするが、その手が見えない何かに弾かれた。
命子は膝をつき、自分の身体を抱きしめた。
身体が燃えるように熱く、爆発してしまうのではないかと思えるほど激しく血が脈動する。小刻みに息を繰り返しながら、命子は玉の汗を浮かべながらマナ進化が始まったことを悟った。
「命子さん!?」
「メーコ!」
「羊谷命子!」
駆け寄る仲間たちの身体も馬場と同様に弾かれ、命子を中心にして風が巻き起こる。
その風に呼び込まれるようにして辺りから翡翠色の帯状の何かが命子の周辺に集まっていく。
「こ、これはマナというやつか……?」
風の中で目を凝らす分隊長が呟く。
人はマナが何色をしているのか厳密には知らない。地球さんTVやタカギ柱、そしてこのイベントで翡翠色の光を目撃しているがそれが本当のところなんなのか分かっていないのだ。
しかし、分隊長を含め次元龍の魂を見た九人はこれがマナであると確信する。しかも肉眼で見えるほど濃度の高いマナだ。
そんなものが命子の周りに集まっていく。
翡翠色の帯は命子の身体を包み込んで淡い光を放つ卵型へと変わって、ふわりとその場に浮かんだ。
風が止み、ヘリコプターの音が妙に大きく聞こえる中で、九人の仲間たちは三頭龍を倒した余韻を忘れて絶句するしかなかった。
先ほどまでの身体の変調は嘘のように静まり、命子はとても良い気持ちになっていた。まるでふわふわなタオルケットに包まれながら母に抱かれているような、絶大な安心感が身体を満たしていく。
目を開けることすらできないほどの心地良さの中で、命子の耳に不思議な音色が聞こえてくる。
聞いたことのない音で紡がれるその音色は、まるで命子の生を心から祝福してくれるような旋律に思えた。
初めは一つだけだった音色が、どんどん増えていく。その全てが命子を祝福するように聞いたことのない音で歌ってくれている。
極上の旋律に包まれる命子は、嬉しくなってにぱぁと笑った。
瞼の裏側で夢見る光景は、満面の笑顔で万歳をする自分の姿。
ぴょんぴょん跳ねて、歌ってくれた果てしなく大きな存在たちへ笑顔を振りまくのだった。
「ど、どうなってるんですの!?」
「分からないわ。でも、きっとこれがマナ進化なのでしょうね」
慌てふためくささらに、馬場が難しい顔をしながら答える。
他の自衛隊メンバーも地上に連絡したりと軽くパニックだ。
そんなことをしているうちに命子を包んだ翡翠色の卵に変化が訪れる。
思いのほか早い変化に、一同はとにかく目に焼き付けようと、全てのことを後回しにして注視する。
殻の一部が強い光を放ち、中に吸い込まれていく。それはどんどん広がっていき、やがてみんなの目も何が起こっているのか分かるようになった。
上向きになって脱力する命子の胸に、翡翠色の卵の殻が吸い込まれているのだ。
しかし、それが悪い現象でないことは命子の顔を見ればわかる。まるで楽しい夢でも見ているように、微笑を浮かべているのだ。
全ての殻が命子の身体に吸い込まれてしばらくすると、命子はふわりと目を開けた。
何かとても心地良い夢を見ていたようなそんな気分だった。
でも夢から覚めてしまったことを悲しくは思わない。これからの人生をもっと強く、もっと楽しく、精一杯生きようと、そんな清々しい気持ちになった。
すぅっと息を吸うと空気が肺を満たしていく。まるで新しく生を受けたと錯覚するほど身体が呼吸をすることを喜んだ。
それだけではなく、呼吸と共に自分の身体に満ちていくものを感じた。命子はそれがマナであり、身体の中で魔力に変換されているのだと理解した。
命子の足が地につく。
《Sインフォ:あなたはマナ進化しました。この世界における当該種族の始祖に認定されます》
命子は自分の手のひらをギュッギュッと開閉した。
いつもと変わらない手だ、別に力が漲っているわけではない。
その手でふっと前方の空間を撫でると、水と火の二つの魔導書が三メートル先まで螺旋を描きながら移動する。本来は自分を中心に二メートルまでしか移動させられない魔導書が、そこまで離れた場所まで動く原因を命子は理解していた。自分と魔導書を繋ぐパスを強靭にすればいいだけなのだ。
なるほどと命子は頷く。
マナ進化をしてもすぐには変わらないのだろう。
ここからさらに力を付けたければ、やはり修行しなければならないのだ。
けれど、その成長限界はきっと上がっている。命子はそんな風に思った。
そんな超越者然とした命子の姿を、一同は驚愕して見つめた。
ささらは手を前に出してあわあわし、紫蓮は眠たげな眼をキラキラ輝かせ、そうしてルルが代表して口を開く。
「メメメメーコ、つ、角が生えてるデスよ!」
ルルの言葉に紫蓮がブンブン手を振って頷きまくる。
当の命子は悟りを開いた人みたいな目をしてルルの言葉を聞くと、これまた圧倒的強者みたいな余裕に満ちた動きでコメカミの辺りを触る。そして、ポンッと通常の顔に戻って涙目になった。
「つ、つ、角が生えとる!」
そう、命子のコメカミの少し上に、小さな角が後方へ向かって生えていた。
あわあわして弄っていると、その角がぽろっと取れた。
「あーわわわわわわわ、と、取れちゃった。あ、あれくっついた」
しかし、もう一度同じ場所にくっつけると元に戻った。
着脱可能だった。
ホッとして良いのかまだまだ慌てるべきなのかよく分からない心境になる命子と、普通に混乱しまくる仲間たち。そして、命子たちの様子を上空から撮影された映像で見守る風見町の人たち。
そんな彼らの下に次元龍の声が響く。
『よくぞ我が試練を乗り越えた』
角が気になりいじいじと触っていた命子は、次元龍の話に耳を傾ける。
『特にそこな童よ。マナ進化見事であった。褒美にお主が始祖となるその種族に名を授けよう』
始祖という単語に命子は、ほわぁと顔を輝かせた。超素敵。
命子は気づかない。命子と同じようなスキルビルドにしない限り、地球さんの上の生き物は大体が始祖となりうることに。
『マナ進化の道を歩み始めた幼き者よ、お主が成った始まりの種族は小龍人なり。世界に偉業と認められた功績を遺すお主は、これより【小龍姫】を名乗るが良い』
「ちょっと待っもがぁ」
そこは龍人で良いじゃない!
小さいという文字が入っているので嬉しさがしゅんと引っ込み、物申そうと腕まくりする命子の口が、それを敏感に察知した馬場の手で塞がれる。
次元龍からの贈り物を拒否するとかどんなことになるのか想像がつかないため、馬場は命子に涙を呑んでもらうことにした。
『幼き者よ、魂を鍛え、良きマナ進化を重ねるのだ。他の者も我が因子を覚醒したくば我を感じよ。我を見つめよ。地球殿と同様に我は常にお主たちのそばにいる』
そう言い残すと次元龍の気配が霧散していく。
馬場の手の中でジタバタする命子はプラーンと脱力した。散々モガモガしていたので馬場の手はぬくぬくだ。
そうこうするうちに、魔法陣が光り始める。
「地上に戻れるってことかしら?」
命子をリリースした馬場は、口元に手を置いて考える素振り。やっぱり考える時はこのポーズが普通なのである。
「はっ、そうだ!」
命子は小さい呼ばわりされたことを一先ず脇に置き、すぐに目に意識を集中して魔法陣を見回す。
命子は一つ気になることがあった。
三頭龍との戦いで、ルルがなぜか氷属性を操っていたことだ。
仲間のスキルビルドは分かっているので、覚醒しうるマナ因子も予想がつく。
スキル【NINPO】により『水芸』『微風』『気弾』が使えるルルが属性系で覚醒するとしたら水属性か風属性、それと存在するなら無属性しかないはずだ。火の魔導書を貸して『見習い火魔法使い』を出現させたことがあるので、あるいは火属性もありえなくもないが、それ以降で使っているところを見たことないし可能性としては低い。
では、氷属性はいったいどこからやってきたのか。
考えられるのは、フニャルーのマナ因子しかない。
フニャルーのマナ因子は氷属性がセットになっているのではないかと命子は考えたのだ。
そして、命子が得たのは次元龍のマナ因子。
明らかに次元系の属性が使えそうなネーミングだ。
人の身で操れる属性かは分からないが、なんにせよ、その片鱗だけでも見ておきたい。
この魔法陣の上に連れてこられた際には、まばたきをした瞬間にここへ立っていた。まさしく瞬間移動。つまり次元属性の片鱗を見るなら今が絶好のチャンスだ。
命子は目をかっぴろげて意識を集中する。
すると元気いっぱいの黒い瞳が紫色に光り始めた。
紫蓮はその様子をばっちり捉え、顔を赤く染めてぴゃわぴゃわした。中二病患者の心に直撃なのである。
「羊谷命子。我ね、角をね、あのあの角をね、触っていい?」
「ちょ、紫蓮ちゃん今は待って」
「ぴゃ、ぴゃわー……しゅん」
しゅんと言いつつもめっちゃボディタッチをしてくる紫蓮をスルーして、ひたすら集中する命子は、それを見た。
命子たち十人の身体と地上との間に、緑色の線が繋がったのだ。
その瞬間、命子の視界が一変する。
「ここは……タカギ柱の観測所?」
馬場が言うように命子たちの前にはタカギ柱の観測テントがあった。
先ほど一首龍を倒した際に天まで届く柱を作ったタカギ柱だが、今はテントの中に納まっている。
命子の目はすでに緑色の線を見失っており、代わりにいくつかの不可解な現象を捉える。
唐突に空間が小さく裂けそこに置いてあった小さな機材が吸い込まれ、別の場所にその機材が出てくる。
さらに、極小の魔法陣がその機材を吸い込み、同じく別の場所に現れた魔法陣から出てくる。
『くっくっくっ、次元属性の道は遠いぞ』
命子にだけ囁かれたその声と共に、不可思議な現象は起こらなくなった。
命子は今の現象が次元龍からのヒントであると理解した。
たぶん空間跳躍あるいは次元移動は多くの方法があるのだろう。それはそう、命子たちが使う魔法が今のところ魔導書を頼りにするか自力で使うか選べるように。
そして、そんなヒントをもたらすということは、命子でもどれか一つくらい使えるようになるということのはずだ。
空に描かれた巨大な魔法陣が光の粒子になって霧散していく。
まあとりあえずボチボチやろうと命子は空を見上げて思った。
次元龍なんて巨大な龍が使う属性だし、すぐに使えないかもしれない。というか危ない魔法の可能性だってある。それこそ石の中に出てしまったり、異世界に飛び立とうと思ったら宇宙空間に投げ出されたり、十分にあり得る話だ。
そこまで考えて、命子は周りの様子に気づいた。
やたらと自衛官がいる。この辺りは山に近いため避難所などないのだが。
「ごめん、聞いてなかった。どうしたの?」
「我ね、角触りたい」
「紫蓮ちゃんの欲望についてじゃねえよ。まあいいけど、ほら、触っていいよ」
ぴゃわぁと紫蓮は角に触った。ルルもすぐさまそれに便乗して両サイドからさわさわされる。
命子はなんか気持ち良くなってきた。着脱可能だし神経は通っていないはずだが、確かに気持ちがいい。神経とは別の何かが働いているのだろうが、命子はふわふわして考えられなくなってきた。
「カッチカチでスベスベ」
「色も綺麗デース!」
「分かる。カッコいい。これの上にお刺身置いたら絶対美味しい」
「発想がヤバいデース!」
紫蓮とルルを両サイドに侍らせて、命子はなんか無性に気持ち良くてもじもじしながら、改めて同じことをささらに問うた。
「町中のボスが全部倒されたので、今度は山の中のボスを倒すそうですわね」
命子の質問に、ささらが答える。
ささらは答え終わると背後に回り込み角をサワサワし始める。
地上では、命子たちが意識を飛ばしている間に風見町内のボスは全て倒されていた。
G級、F級のボスを倒した自衛官が別のボス戦に合流し、人海戦術で倒したのだ。
しかし、ボスは風見町内だけにいるわけではない。町中よりもずっと少ないが山中にも出現している。
その討伐任務にあたるのは当然自衛隊だ。ボス戦であぶれた者からすでにどんどん山中へ投入されていた。
はぁー私も戦いたいなぁ、と命子は日向ぼっこしている幼女のような目をしながら思った。
すると、地上にいた自衛官に話を聞いていた馬場が帰ってくる。
「え、なにそれ。私も混ざりたい」
「報告してください」
ぬぅ、と唸ってから馬場は真面目な顔をして説明した。
「どうやらすでに魔物が溢れて町へ向かってきているらしいわ。ここは各山から下りてきた魔物の進攻ルートみたいね。まあ300名の自衛官で迎え撃つ予定だから余裕ね。その間、他の部隊がボスを叩く感じね。すでに近隣のボスとは交戦しているみたいよ」
各避難所の防衛も残されているが、町中ではもう湧かないはずなのでその数はずっと少ない。その削減した分をここの防衛に回される予定で、すでに各部隊がこちらに移動中のようだ。
河川敷ではなく、風見女学園でもなく。
どういうわけかこの場所に転移させられた命子は、にやりと笑う。つまり戦えと。……本人はにやりと笑ったつもりだが、完全にへにょへにょな顔だ。
「ねえ、命子ちゃん、それ気持ち良いの?」
「え、ぅうん……ふえ? なに?」
命子は意識がふわふわして馬場の問いを聞いていなかった。
これはいかんぞと思った命子は、3人の魔手を振り払い、ぺしぺしと角を叩いてリセットし、しゃきっとした。
「じゃあ私たちも戦えますか?」
「別に止めはしないけど、あなたたち大丈夫なの?」
そう言う馬場自身も命子の変化を見てみたかった。
マナ進化したことでいったいどんなことになっちゃったのか。ブゥンと移動して剣の一振りで魔物が三十体くらい爆散するかも分からない。そういうのをちょっと見てみたい。
とはいえ、4人の身体が心配なのも事実。
特にささらは三頭龍の攻撃を盾でガードしている。実際に、多くの攻撃を耐えた騎士自衛官は、もう本日は戦えないくらいに消耗している。覚醒してやっと勝負になる三頭龍の攻撃にさらされただけあって、防御特化の彼でもボロボロだった。
命子たちは自分たちの身体をチェックする。
ささらは左腕を負傷しており、さらに命子以外の3人は魔力がかなり消耗していた。
命子だけは全快しているうえに、魔力量自体もほんのちょっと増えていた。
「マナ進化すると魔力が増えるのか。それに覚醒したスキルは魔力をバカ食いする? でも私の目の炎はそうでもなかったし……覚醒した内容によるのか?」
命子は考察する。
特にささらの魔力消費量が非常に多かったことから、『武具を強化して攻防に使う』『必殺技の威力を高める』の2点がかなりの魔力を消費するのではないかと考えた。
「じゃあちょっとだけ戦って帰ってこよう。ささらは見学でも良いし」
命子の提案を受けて、全員が頷いた。
命子のやる気も凄いが、自衛官たちのやる気も凄い。覚醒した力を存分に発揮したいのだろう。騎士自衛官だけ回復薬を飲んで魔力がほぼ空になったためお留守番である。
いざ出陣である。
自衛隊の特殊車両の照明で照らされる山の谷間から、魔物がぞろぞろと現れる。
「山の魔物はあまり多くないみたいね」
町中に出現した魔物よりも明らかに少ない。
しかし、それもそうだろう。ダンジョンは人が独占しているため、獣の領域で魔物が大量発生したら獣にとってムリゲーが過ぎる。
天狗の話ではこのイベントはお祭りらしいので、人間だけでなく獣もまたレベルアップの機会が設けられているのだろう。もちろん、人間同様にヘマをすれば死ぬのだろうけど。
なんにせよ、300人の自衛隊にとってかなり楽な規模だ。
正直命子たちが出る幕はないのだが、共に町を守ってきた自衛官たちも自分たちの行く末がどんなことになっちゃうのか興味がある。後学のために命子に出番が譲られた。
「おっ、鈴木さんだ。風見町にいたんだな。奴も運が良い男よ」
命子は掃討戦をリポートしに来ていた大江戸テレビのクルーを発見し、手を振る。
鈴木はズレないはずの眼鏡がずれるほど驚き、ブンブンと手を振った。
「ご、ご覧ください! 先ほどまで上空で戦っていたみなさんです!」
などとカメラに向かって説明している鈴木は置いておき。
命子は馬場から水の魔導書を借りて、火の魔導書と入れ替える。
二つの魔導書が宙に浮き、すぐさま青い炎を灯し始める。
命子は、二つの魔導書に魔法を準備させると意識を集中した。
すると命子の瞳が紫色にぼんやりと光り、側頭部の2本の角が水色に輝きだした。
「っっっ!?」
その姿に、目撃した全ての人が息を呑む。
世間の人も大江戸テレビの放送にかぶりつきである。ご飯の時間なので箸の上の白米を落とす人が続出するが誰一人として拾ったりしない。そんな場合じゃない。
命子は二つの魔導書を自分以外に見えないラインで結び、共鳴させる。
その現象を中心にして、草が倒れ、命子の髪や服が背後へたなびく。
「合成強化」
二つの魔導書の真ん中で浮遊する水弾が合体し、三倍ほどの大きさに膨れ上がった。
大きな水の塊は命子の角と同じ水色の光を放つ。
紫蓮と馬場がわたわたと手を振り、ささらとルルがキラキラした目で見つめる。
控えめに言って超カッコ良かった。
「水撃砲!」
女子高生たちの合体技を一人で作り上げた命子は、水撃砲を前方に向けて射出する。
水弾を超える速度で一直線に飛んでいく水撃砲。
それは今の女子高生が6人で作り上げた物よりも、見た目こそ小さいが、高い破壊力を持っていた。
50メートルほど先で走ってくるE級の魔物に着弾すると、その身体がくの字に曲がり水撃砲と共に飛んでいく。後続を巻き込み、水撃砲が消える10メートル奥まで一斉に光の粒が立ち上がる。
歓声が上がる中、命子は今の結果を他の人とは別の角度で見つめていた。
他の人は魔法の威力だけに驚いていたが、命子は魔法から減衰していく魔力が見えていた。
魔法は高い威力が期待できる射程がある。
魔法発動者から近いほど強く、そこから練度ごとにそこそこの破壊力を維持できる距離・有効射程があり、その維持ラインを越えると急激に威力が弱くなる。
命子が放った水撃砲は、恐らく100メートル以上は有効射程となるだろう。
しかし、魔導書から放たれた瞬間から尾を引くようにして普通に魔力が流れ出ていた。
きっとこのロスをどうにかすればもっと飛距離は延びるはずだ。
命子はまた一つ魔法の仕組みが分かって嬉しかった。
「よし、者共、接近戦だ!」
「あんな戦いの後なのに元気いっぱいね」
「メーコは元気いっぱいなのデス」
馬場とルルの言葉を背中で聞きながら、命子は両手にサーベルを握って走り出す。
ささらたちも遅れてなるものかとそれに続いた。
命子以外の全員が紫の炎をどこかしらに灯し、魔物とぶつかり合う。
ささらは白刃を煌めかせ魔物を一刀のもとに斬り伏せていき。
ルルは忍者刀と小鎌で連撃を入れ、それがE級なら切り口からバキバキと氷が侵食する。
紫蓮は龍命雷の声を聴きながら、遠心力を利かせた斬撃と殴打の舞を踊る。
命子たちと共に戦った自衛官たちも注目の的だった。
紫の炎を武器に纏わせた一撃は通常の攻撃よりも強く、殲滅速度が明らかに違う。
ドヤ顔がマッハだ。
が、しかし。
早々に、命子以外が魔力切れを起こした。
試運転なので全員が満足し、その場を自衛隊の人たちに任せて、命子たちは風見女学園に帰ることにした。
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