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6-26 教授と女子高生

 本日もよろしくお願いします。

 教授はウハウハしていた。


 最初、教授は休耕地を使って様々な実験をしており、その実験の様子はエネーチケーによって生中継された。


 魔物が湧きやすいポイントにテントを張ったら湧かなくなるのか。

 ダンジョン内の魔物と違うのか。

 ダンジョン内とイベント地域で物理法則が変化しているか。

 そんなソフトな実験をやったかと思えば……


 耐久力が高い自衛官をブロック塀で囲んだり、大勢乗っても大丈夫な物置きに閉じ込めたりして、それを魔物が気づくか調べたり。

 やはり耐久力が高い自衛官に目隠しやヘッドホンを付けさせてこのイベントにおける『認識』の概念を調べたり。

 成体でも攻撃性能が低いウサギがターゲッティングされるか調べたり。

 公共放送とか放送倫理とか知らねっ、と言わんばかりの割と酷い実験も行なった。もちろん、自衛官はマゾを選んでいる。


 この放送の視聴者は非常に多かった。

 一般人もそこそこ視聴したが、研究者の視聴がかなり多かった。もちろん各研究施設が一丸となって全ての放送を見ているが、教授の実験は特に有益だった。


 再検証も必要だろうが、これらの実験の結果によって無駄な作戦の立案は少なくできるし、さらに発展させた実験をする際のベースにもできる。

 後に実験結果は開示されるが、それを待たずに各研究員が結果を知れたのは初動に大きく関わるため、高い評価を得た。


 とまあ、そんなことをしていた教授率いる実験班だが、魔物がたくさん出始めたので近くにある風見女学園の防衛に参戦することになった。防衛が最優先なので実験班は人数が少なかったのだ。


 教授は学園でもウハウハだった。

 大規模集団で共通の称号や、ダンジョンでは恐らく出現しないであろう『〇〇団』という新しいジョブを得た女子高生がたくさんいたのだ。躍進する女子高生たちに教授の魔の手が迫る。

 そして、嬉しくなって後先考えずにそれらのジョブについちゃった女子を捕獲して、お話を聞く。


「ほっほう! つまり水魔法限定で魔法を融合できるジョブなんだね?」


『水属性魔法団』になった女の子は、はい、と答えつつ、逃げ遅れた野良犬でも抱えてきたのかしら、と教授を不思議そうに見つめる。


「あっ、魔物がまた来たみたいです。これで失礼します」


「うん、気を付けたまえよ」


 お話を終えて持ち場に戻る女子高生を見送り、教授はメモ帳を眺める。

 そこには、『水属性魔法団』のスキルがメモしてある。

―――――

『水属性魔法団』

・ジョブスキル

【水魔法】

 水弾と水生成が使用可。

【水魔法融合】

 このスキルを持っている者同士の魔法が融合可能になる。ただし、同じスキルを持っていてもなんの繋がりもない者とは融合不可。どのような条件かは検証が必要。

【魔法団の心得】

 魔法団の成長補正スキル。魔法系の成長が促されると思われる、要検証。

【増幅】

 魔法を融合する度に威力・射程が増幅する。その代わりに魔法の維持が大変になる。

―――――

 このジョブは、一般ジョブではないはずだが4つのジョブスキルしか存在しない。

 それだけ強力なのか、それともネタジョブなのか……


「魔法少女部隊、滅・魔法流星の陣!」


「「「おーっ!」」」


 女子高生たちの元気いっぱいな声に、教授は顔を上げて新生魔法少女部隊の活躍を観察した。


 部長が高々と指示を出し、魔法少女たちがそれぞれ魔法を展開する。

 今の魔法少女たちは2つの部隊に分かれている。


 1つは、このイベントのために『見習い水魔法使い』にジョブチェンジした娘たちの隊。ジョブは24時間変更不可なので、『水属性魔法団』に変えられなかった娘たちである。校舎前と校庭の間にある階段の一番上に配置され、普通の水弾を準備する。


 もう1つは、『水属性魔法団』にジョブチェンジした娘たちで、階段の一番下に配置。この娘たちは6人1組で魔法を使う。

 6人が杖や手を前方へ掲げ、それぞれの水弾を融合していく。1つ重なる毎に水弾が大きさを増していく。

 この時、魔法の維持に高い集中力と余分な魔力が必要で、今の彼女たちには7人目が水弾を融合すると同時にその場に留めておけなくなり、前方に飛ばしてしまった。これは失敗で、魔法の軌道がズレたり大きいだけで威力のないハリボテ性能だったりしたため、最大6人編成としていた。


「水撃砲、撃てぇ!」


「「「水撃砲!」」」


 部長の指示で、やってきた魔物たちに滅・魔法流星の陣が炸裂する。


 階段の下、つまり魔物と同じ高さから放たれた巨大な水弾・水撃砲が、直線状に飛んでいく。

 水撃砲は群れを成す魔物をふっ飛ばし、先頭の魔物がE級以外なら確実に光に還り、そのまま貫通して後続の魔物を光に還していく。先頭がE級ならばボウリングのピンのように激しくノックバックさせて後続を巻き込み、水撃砲自体はやはりそのまま後続を光に還していく。

 敵に当たる毎に威力は減衰していきさすがに途中で消えるが、それでも一撃が残した爪痕は大きい。


 前列は1発撃ち終えるとすぐに階段を駆け上がり、すぐ後ろにいる自衛隊や冒険者たち前衛組とスイッチする。

 そして、彼らは魔物の残党と戦う……と思いきや、今度は階段の上から全魔法少女による水弾の嵐が発射され、魔物は殲滅されていく。

 この作戦が確立してからは、残る魔物は水属性に強くさらに運が良かったE級のみになっていた。


「ううむ、恐ろしい娘たちだな。しかし、これは……」


 教授は、魔物を撃退してキャッキャする女子高生たちに感心しつつ、この作戦による弊害を考えた。


 現在、風見町に魔物が出現し始めてから8時間が経っていた。

 どこの避難所でも大なり小なりの大群がラッシュで攻めてきており、最前線の自衛隊は当然のこと、中衛や後衛を守る民間人もかなりのスピードで強くなっていた。

 中衛の冒険者パーティなら、風見ダンジョンのボスくらいなら余裕を持って確実に倒すだろう。ヤマタノオロチ幻影体は、恐怖心を煽る『恐慌の咆哮』を使ってくるので場合によっては全滅するかもしれないが、それでも練度的にはかつての命子たちよりもずっと楽に倒せる水準にいるはずだ。


 だが、この風見女学園だけは違った。

 魔法少女部隊が強すぎるため残党狩りを自衛隊がやるレベルになっており、配属された冒険者はスマホを弄っていて良しなくらいに何もやることがなかった。強いていうなら、最前列で巨大な水弾を放った『水属性魔法団』を万が一の事態から守る役割くらいだ。そして、自衛隊が強いため、そんな万が一もまあ起こらない。


 つまり、魔法少女部隊と一部の魔法が使える冒険者だけがどんどん強くなり、近接戦闘部隊は自衛隊も含めて全体的に他の避難所よりも弱くなっていた。いや、他にも建物の中で活躍している人たちも強くはなっている。一番強くならなければならない近接防衛ユニットだけが成長できていないおかしな現象が起こっているのだ。


「問題はイベント後半の難易度だが、300人弱の魔法使いが揃っていて越えられない戦いのはずはないと思うが……」


 魔法使いを運用する立地条件の良さもある。

 これでダメなら他の避難所もダメだろう。


「だが、彼女たちに頼るということは、この場の魔法職は常に戦い続けることになる」


 現在、魔物が出てきて8時間だ。会社勤めなら定時である。

 しかし、このイベントの定時はこの後さらに16時間先のことだ。魔法少女部隊や一部の魔法使い冒険者は、残りの時間を戦い続けられるのか。

 1回の戦闘で1人当たり3発ほどしか魔法を使わないので魔力的には恐らく大丈夫だろうが、空腹度や精神的にはどうだろう。


 その点を比較すると、他の避難所の民間人は交代して回すことで休憩もできる。それを可能にするだけの冒険者とダンジョン指導員の数を各避難所は保有しているのだ。

 戦える民間人の保有人数は風見女学園も変わらないのだが、それをなんら使えていなかった。


 後半も変わらずこの難易度ならば魔法職が疲れたら近接職の民間人と交代すれば良いだけの話だが、難易度が変化した場合はこれができなくなる。

 そして、イベントのルールではボスクラスの魔物の存在が言及されていたので、このままの難易度というわけではない可能性が高い。

 そう判断した教授は作戦本部に風見女学園の問題点を伝えた。


 町役場にある作戦本部ではその報告を熟考する。精査や考察ではない。後半戦がどんなものか誰も知らないので、精査もくそもない。考え、決断するだけだ。

 結果、魔法少女部隊はしばらくお休みになった。


「はぁー、やっと一息吐けるわぁ」


「私たち超つよつよじゃねぇ?」


 などと、女子高生たちのドヤ顔が極まっている。

 ほとんどの者がレベル6を超えてしまったため、長期休憩は3階や4階を使って魔物の誘引を避ける。

 そんなドヤドヤな彼女たちに、この避難所で撮影しているテレビクルーたちのインタビューが始まるのだった。


「やっと出番ですね」


「はは……ええ。どうして最近の女の子は強いんでしょうね」


「命子ちゃんが原因ですね」


「いや、それを言ったらルルちゃんもその一端を担ってますからね?」


 魔法少女部隊と入れ替わりで戦うことになった民間人の中には、命子とルルのお父さんの姿もあった。女子高生にほぼほぼ活躍を持っていかれていた二人は、魔物が来る度に女子高生と虚しく前後交代する役割をしていた。そうして交代しても最後の最後まで残った魔物は自衛隊が狩ってしまうので、本当に入れ替わるだけであった。

 しかし、ここからは活躍の時間だぜ。二人はふんすと気合を入れる。

 手始めに多くの民間防衛隊と共に、流れてきた50体前後の魔物と戦い始めるのだった。


 教授が風見女学園でやった仕事は多かった。

 魔法少女部隊の活躍ばかりが注目されるが、素晴らしい逸材がここには多くいた。


 子供の心を癒した吹奏楽部の子たちはやはり嬉しくて新ジョブ『音楽団』『合唱団』『演劇団』になっており、その有用性に教授はにやりと笑い、どれほどの効果を発揮するか調べたり。

 魔物のウェーブの間では、校庭を直している萌々子が使う精霊魔法を調査したり。


 今もまた迷えるモルモットが教授の下へわざわざやってきてくれた。


「あーっ、教授さん!」


「むっ、君らは昨日の子だね。ちなみに、私は教授ではないが」


 教授に声を掛けてきたのは、昨日の夕刻に命子と共にお話ししたテイマーになっちゃった子たちだった。

 彼女たちは教授の言葉をドスルーして、教授教授と言いながら話す。


「動物たちが戦いたいっておねだりしてくるんです。教授さん、戦わせてあげられませんか?」


 ふむ、と教授は顎を撫でる。

 そんな教授の様子を見ながら、女子高生たちは、え、やだっ私たち犬臭い? と動物のお世話をしていた自分たちの匂いをこっそり嗅いで首を傾げる。変わらず良い匂いである。おかしいな。


 とりあえず動物たちの様子を見てみようと中庭に行くと、なんと多くの動物たちが装備を着用していた。

 そして、今もまた修行部生産部隊の女の子が、首にスカーフを付けたウサギの頭に一角獣の角みたいな装備を付けていた。下手をすれば間違えて討伐されるフォルムへと大変身だ。


「ほっほう、これは強そうだね」


「え、ま、ま、まあなっ、ですなっ!」


 生産部隊部長の女の子は、教授の言葉に小さな身体をドヤッと反らした。教授は白衣を着てなんかそれっぽい人なので、女の子はちょっとドキドキだ。

 女の子は少し命子に似た雰囲気をしており、教授は小さく笑う。


 教授は、テイマー女子たちに動物側の心構えをちゃんと教えたかなど問う。

 昨日のうちに自衛隊のテイマーからその辺りのことはしっかりと聞いているので、女子高生たちは頷いた。

 ちなみに、これらの動物は必ずしもイベント後も彼女たちがお世話する必要はない。自衛隊のテイマーなどに預けてお別れすることもできる。自衛隊としてはなりゆきで彼女たちにテイムしてもらったので、むしろそういうつもりだった。特に鹿などの大型動物は。


「よし、それじゃあ上に掛け合ってみようか」


 教授は小隊長に掛け合い、小隊長は頭を抱えた。


「これらの動物は、このイベント後に重要な役割を担うことになるよ。断言しよう。今のうちに彼らと絆を深めておいたほうが良い」


 教授はそう言って、小隊長を説得した。


「そ、それでは少しずつ戦闘に参加させてあげてください。ただ、こんな状況ですから問題を起こす個体なら即座に斬り捨てますよ?」


「そうだね。未来のことよりも今の人命が最優先だ。不都合が生じればすぐに引き上げさせよう」


 こうして、動物たちも校庭の端っこでG級の魔物と戦い始める。

『見習いテイマー』の女子たちは、『テイマー』の自衛官に教えてもらいながら、多くの動物たちに指示を与えて、G級の魔物をボッコボコにしていく。


 防具を与えられた動物たちは、直撃を受ければ怯えて女子たちに助けを求める。けれど、逆にいえばそれで済んでいた。

 かつては自衛隊だって、G級の一撃で戦闘ができないくらいに酷いダメージを受けていたので、助けを求めて逃げてくることができるのは、やはり防具の効果が大きいと言えるだろう。




 そうして、各所で戦闘が繰り広げられる中。

 日が昇ってから12時間が経過した。


 夕刻はすでに始まっており、西の空で太陽が赤々と燃えている。

 陰影がくっきりと浮かび上がるこの時間は、子供たちにとってバイバイを言い始める頃だ。

 けれど、今日は違う。

 未だに風見町全体で戦いは続いている。


 そんな中で、陽気な声が響いた。


『みなさん、お疲れ様。地球さんでっす!』


 地球さんであった。

 疲弊が見え始めたイベント参加者の多くが陽気過ぎるその声に、軽くイラっとするのだった。

 読んでくださりありがとうございます。


 ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

 誤字報告も助かっています。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで丸一日かと思ったけど夜行性の動物とかいるからかぁ……
[一言] 地球さんのテンションが変わらない件について。 イラッとするのは仕方ないな。ずっと戦ってて疲れてる所に、雰囲気無視の陽キャラだしねwww。 〉『みなさん、お疲れ様。地球さんでっす!』  地球さ…
[一言] 地球さんの煽り(対象をイラつかせる)スキルは割と高いのかな?w
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