2-2 青空修行道場 2
本日3話目です、ご注意ください。
3日目になると、ささらの他に大学生くらいのお姉さんが2人、一緒に走るようになった。
彼女たちは美容健康のために走っているらしい。
最近、命子たちを連日で見ているので仲良くなりたかったらしい。コミュ力の化身である。
彼女たちの登場で、驚くべきことが判明した。
なんとささらは命子がダンジョン帰還者だと知らなかったのだ。
2人が命子のことを褒めて、やっと知るに至ったらしかった。
「そうなんですの!? 命子さんは凄い子なんですのね?」
「ま、まあねっ!」
命子はドヤッた。
命子は褒められるのが好きだった。
剣の修行の時間になると、イベントが起こった。
「命子お姉さま!」
女の子6人からなる集団の先頭に立つ少女が、命子に向けてそう言った。
「お、お姉さま!?」
「命子お姉さま! あたし達も剣の修行に参加させてください!」
話を聞くと、ダンジョンから帰った当時の命子の中二全開なキメポーズに、この春から小学6年生になる彼女たちはやられてしまったらしい。
なお、妹と同い年だが学区が違った。この河川敷は小・中学校の学区の境目なのだ。
「私たちも素人なんだけど?」
「それでも、何もしないよりはマシです! お父さんは自衛隊や警察に任せれば良いなどと腑抜けたことを言ってゴロゴロしているし、これからの時代、自分の身は自分で守らなくてはなりません! 大人にはそれが分からんのです!」
その言葉に、命子はうむと偉そうに頷いた。
命子の父親も同じタイプなので、シンパシーを抱いたのだ。
そうして、命子が有難いお言葉を口にしようとした時、それに先んじてささらが声を上げた。
「その意気や良しですわ! 強くありたいと思うその気持ち、まっこと見事な淑女の精神ですの! みなさん、しっかり命子さんについてくるのですよ!」
「はい! でも、ええっと、お姉さんは……」
「ワタクシは笹笠ささらですわ。命子さんのゆ、ゆ、友人ですわ!」
ささらが友人部分を強調して、胸を張ってドヤッた。
「分かりました。ささらお姉さま!」
「ささらお姉さま……ん、んふーっ!」
小学生にお姉さま呼ばわりされて、ですわ少女は、悪くないですわ! みたいな顔をした。
そんなわけで、修行仲間が増えた。
この間、命子は偉そうにやや上を向いて口を半開きにした状態で、フリーズしていた。
しかし、命子は一つだけ解せなかった。
なんでか知らんけど、小学生6人の内、4人の身長と胸が自分よりも大きいのだ。
ちくしょうちくしょう!
「無理はしない! お家の用事はちゃんとやる! それが守れる奴だけついてきな!」
命子は内心で泣きながら地面に拳を叩きつけまくり、外面で少女たちの参加を快諾した。
その口調は、何故かアネゴ風だった。
こうして、これ以降、剣の修行の時間には何故か近所の女子小学生たちが集まりだし、その数を増していく。
命子とささらが先頭に立ち、一緒になって100均で買った木の棒を振るうようになったのだ。
遊びではなく、みんななんかガチっぽい。
なお、小学生なのに自分より色々大きい娘が結構いて、命子はプルプルした。
―――――
《とある掲示板より抜粋》
465、名無しの観測者
ぞ、続報……っ!
466、名無しのダンジョントラベラー
どうした!?
467、名無しのダンジョントラベラー
今朝のランニングでへそ出しスポーツお姉さんが増えたばっかりじゃないか!?
468、名無しの観測者
剣のお稽古の時間に、女子小学生と思しき6人組が加入!
内、4名は将来巨乳になると思われたし!
469、名無しのダンジョントラベラー
ガタッ!
470、名無しのダンジョントラベラー
ガタッ!
471、名無しのダンジョントラベラー
あー、そう言えば最近、風見町のおばあちゃんちに行ってないな。
今日泊まりに行こうかな?
472、名無しのダンジョントラベラー
>471 おばあちゃんはネットカフェにお住まいで?
473、名無しの観測者
うぅうう、みんなで声を揃えて、えい、えい、って素振りしてるよぅ(*´ω`)
う、うぁ……っ!
474、名無しのダンジョントラベラー
マジでやめろwww
本当に通報しなくちゃいけなくなっちゃうぞ。
475、名無しのダンジョントラベラー
え? 本当も何も、すでにガチで通報してますが。
476、名無しの観測者
マジでやめてな(;´Д`)
――――――
4日目になると、明らかになけなしの勇気を振り絞ったような痩せた男の人がランニングに参加し始めた。1キロで吐いて帰った。
そんな彼に、女子大学生の一人が言う。
「男なら明日も来なさい。必ずよ!」
その言葉に、男の人は一瞬立ち止まり、振り返らずによろよろと帰っていった。
凄く哀愁の漂う背中であった。河川敷のランニングコースでの出来事なので、後ろ姿をいつまでも晒しているという生き地獄である。
なお、命子は、スポコンなその場面にあわわわとし、ささらは腕組みをしてうんうんしていた。
剣の修行の時間になると、女子小学生が増えていた。
それどころか、女子中学生もチラホラいる。
みんなでストレッチ、筋トレとやっていき、剣の修行に入る。
命子は昨日のうちに、目を保護するプラスチックゴーグルを大量に買っておいた。国から100万円も貰っていたので、資金は潤沢だった。
そのゴーグルをみんなに配る。目に当たったら危ないのだ。
念のために余分に買っておいたので、増員分もなんとか足りた。
「1! 2! 1! 2!」
「「「えい! えい! えい! えい!」」」
うら若き乙女たちの掛け声が青空に溶けていく。
誰一人として実戦剣術など知らないので、本当のおままごとみたいな素振りである。
しかし、ゴーグルの下のみんなの目は真剣で、100均で買った木工用の木の棒を一生懸命に振るっている。
すると、そんな命子たちの下に一人の老人が現れた。
「嬢ちゃんたち。なぜ剣を振るうのかね?」
「自分と大切な人を守りたいからです!」
老人の質問に、命子でもささらでもなく女子小学生が間を空けずにキリッと答えた。命子をお姉さまと呼ぶ、意識高い系女子小学生である。
命子はちょっと出遅れておろおろし、ささらはうんうんと頷く。
「ほっほっほっ、青い。だが、それが良い。嬢ちゃんたち、力が欲しいか?」
「欲しいです!」
「ならばワシが指導してやろう」
「いえ、結構です!」
女子は知らない男の人を警戒するのだ!
それは老人でも変わりなく。
女子小学生のまさかの拒絶に、老人はしゅんとした。
命子は、慌てて女子小学生の類まれなるリーダーシップにストップをかけた。
「じいちゃんは、実戦剣術を知ってるの?」
「むっ、う、うむ。お主は面妖な渦から帰ってきた嬢ちゃんじゃの?」
「うん」
「その木の棒は、嬢ちゃんが渦の中より持ち帰ったサーベルに見立てているな?」
「うん」
「ナックルガードはないが……どれ」
爺さんはそう言って、新しい参加者が来ても良いように買っておいた木の棒を手に取ると、老人とは思えない鋭い踏み込みを見せ、剣を振るった。
目元すら覆うほどの白い眉から、ギンッとした眼光がチラリと見える。
ド素人な集団には、その達人チックな動きはまるで見えなかった。ジジイすげぇという空気が河川敷を満たす。
謎のジジイがみんなの師匠になった。
命子はこの老人を老師と呼ぶようになった。それがカッコいいと思う年頃なのである。
なお、リーダーシップ女子は老師に素直に謝り、誰よりも老師の教えを真剣に聞くようになった。命子より師弟の絆が深そうであった。
――――――
《とある掲示板より抜粋》
777、名無しの観測者
新展開だ!
778、名無しのダンジョントラベラー
777gt
779、名無しのダンジョントラベラー
ゲットできてないぞ。
それで何があった?
780、名無しの観測者
謎のジジイが師匠ポジションに収まった!
781、名無しのダンジョントラベラー
え、薄い本ってこと?
782、名無しのダンジョントラベラー
マジレスなんだが、通報は必要そうか?
783、名無しの観測者
い、いや、ちょっとよく分からない。
784、名無しのダンジョントラベラー
分からないってなんだよ。
785、名無しの観測者
それがさ、部屋から見てたらジジイと目が合った。
300メートル以上離れて、カーテンをほぼ閉めてるのに、ジッと見られた。
786、名無しのダンジョントラベラー
ふぁ!?
787、名無しのダンジョントラベラー
それなんて達人?
788、名無しのダンジョントラベラー
ジジイよりもお前の気持ち悪さにドン引きなんだが。
789、名無しの観測者
ちょっと怖いから、もう少し慎重に観測する。
790、名無しのダンジョントラベラー
それでもストーキングするのかよwww
――――――――
5日目。
昨日の男の人は意外にもランニングに現れた。でも1キロ地点で吐いて帰った。
女子大生にまた激励され、男性は脇腹を押さえてトボトボと帰っていく。
「アイツは強くなるね」
その後ろ姿を意味深長な眼差しで見送る命子は、知ったような口を利いた。
ささらも、ですわ、などと知ったような同意を返す。
剣の修行の時間には、女子高校生も参加し始めた。
この頃になると、参加したい男子が非常に参加しにくい絵面になっていた。謎のジジイの一人勝ち状態である。
高校生の参加に伴い、とある掲示板では女子高校生好きの勢力が熱狂した。
6日目になると話が大きくなり、少女たちの修行に触発された近所のおばちゃんや退職して暇していた爺さん婆さんが命子と共に修行を始めた。
ぞろぞろランニングするのは嫌なので、そこはささらと大学生2人、そして1キロ地点で帰る人と一緒に。その後、自由に集まり、ストレッチや筋トレが始まる。
7日目になると、商店街のおばちゃん連中がお昼ご飯を作ってくるようになった。
ランニングの終了地点で炊き出しが行われ、同じくその場所で剣の修行の後のお昼ご飯も用意された。
この日、初めて中学生男子が5人参加した。それ以上に、女子がどんどん増えていく。
春休みの連休パワーもあってか、その参加人数はマイナーなイベントの会場レベルになりつつあった。
老師が謎の指導力を発揮し、中々サマになった素振りが繰り返される。
しかし、老師の教えは、この素振りに重点を置いてはいなかった。
回避の仕方、足運び、そして逃げ方を重点的に指導してくれたのだ。
これは、少女たちの力では魔物を倒せない可能性が高いからだ。
それなら、回避や逃走を駆使して、大人が来るまでの時間を稼いだほうが良い。
指導されているのが女の子たちなので、その理屈は十分に受け入れられる内容であった。
尤も、一部はつまらなさそうな顔をしたが、命子やささらが必死に回避術を学ぶ姿を見ると、一生懸命やり始めた。
他の参加している老人たちは己の持っているスキルがよく分からないようで、若者にどうすれば良いのか聞き、使い方を覚えていく。完全に孫を見る目である。
命子も、ダンジョンで知り得た情報を、当たり障りのない範囲で教えていく。
カルマに関わることは非常にデリケートなので、馬場からは特に念入りに口止めされていたので、そこは話していない。
けれど、カルマが低くて怯えている女の子には、どうしたらプラスに持っていけるか、みんなで輪になって話し合ったりもした。
ここに女子小学生から主婦、果てはご老人までが参加する、青空修行道場が形成された。
もはや役場に申請が必要なレベルで人が集まっちゃっているので、しっかりした人がそこら辺はやってくれた模様。
なお、男子もチラホラ増え始めた。
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《とある掲示板から抜粋》
215、名無しのダンジョントラベラー
命子タソの青空修行道場に参加したった!
凄いぞ、こんなに心が清らかになったのはいつ以来だろう!
ちな県外な!
216、名無しのダンジョントラベラー
県外www
217、名無しの命子教信者
くっ、なぜ私の住む場所は海を隔てているんだ……っ!
218、名無しのダンジョントラベラー
地方在住かよwww
219、名無しの命子教信者
無礼な! 四国は地方じゃない!
220、名無しのダンジョントラベラー
でも、実際この町は凄かったぞ。
迷宮があるからか、危機意識が強い。
みんなして真剣に修行してた。ビビったわ。
221、名無しのダンジョントラベラー
まだダンジョンができて2週間も経ってないよな。
どうしてそんなことになってんだ?
222、名無しの命子教信者
導きの女神が暮らす聖地ゆえに。
223、名無しのダンジョントラベラー
222は頭おかしいけど、確かに言ってることは一理あるだろうな。
修行始めたのも命子ちゃんだって話だし。
224、名無しのダンジョントラベラー
なんなんだろうな、あのロリッ娘www
いいぞ、もっとやれ!
225、名無しの命子教信者
はぁ、引っ越そうかな。
226、名無しのダンジョントラベラー
お前、ガチだな(;^ω^)
―――――
命子は9日目で終日行う修行は終えた。
翌日から学校が始まるからだ。
しかし、それ以降も朝練だけは続け、時間を見つけては剣やスキルのトレーニングを続けた。
この9日間の訓練中、命子は自分のステータスの変化を教授に測定してもらっていた。
その測定結果は教授を興奮させるに足る素晴らしいものであった。
初めは中学3年生としては中の下にも入れない能力でしかなかったのに、9日間真面目に鍛錬した命子は、中学3年生の中でも十分に部活動で活躍できるレベルの身体能力を得ていた。なお、トップレベルとは言い難い。
この測定でのお付き合いに伴い、教授とはとても親しくなった。
ラーメンくらいなら余裕で食べに行ける間柄だ。担当官として登場した馬場よりもずっと仲良しである。
また、自衛隊駐屯地に通うことで、ダンジョンの情報もチラホラ教えてもらった。
本当は民間人にまだ教える段階ではないのだが、命子との会話で気づくことも多かったため、命子は相談役みたいな感じになっていた。
さらに、命子の【合成強化】も有用で、自衛隊員たちは命子が来るとダンジョン産の自分の武器を格安で強化してもらったりした。一回1000円の女である。
そんなこんなで、命子は自衛隊駐屯地内で、マスコットキャラみたいに可愛がられた。
こんな春休みを終え、命子は高校生になった。
この青空修行道場は凄まじい勢いで日本各地に伝播し始める。
その大きな理由に、参加者の大半が年若い女の子たちだったという点が挙がる。
修行中の風景をプイッターで拡散しまくったのだ。
『修行なう』なのである。
そして、この伝播を強烈に後押しすることとなる事件が命子の身に迫っていた。
本日はこれで終わりです。
読んでくださりありがとうございます。
たくさんの評価、ブクマありがとうございます!
感想も頂いてありがとうございます。返信は少し遅れますが、ご容赦ください。
【修正報告】1-3裏 カルマスレにて。
出生時にカルマが+1000貰えるところを、+500にさせていただきます。
本筋には影響はありません。