6-16 風見乙女の詩 後半
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魔法少女部隊の大戦果の後、直ちに自衛官たちが魔物の残存処理を始めた。
500体以上と戦う苦労が、わずか37体にまで減る。
恐ろしく簡単に事が済んでしまった。
「はわわわ、凄い凄い!」
校舎の一角で部長たちの勇姿を見ていた3年生がブンブン手を振るった。
握った手は熱を持ち、振るった腕は心臓をどんどん熱くしていく。
「みんな戦ってる。みんな戦ってるんだ。私も何かしないと!」
でも、戦うのはどうしようもなく怖い。
レベル教育だっていっぱいいっぱいだったくらいだ。
だからこそ、避難所を開設するまでに色々頑張った。
でもでも。それで終わりではダメなんだ。
避難所を開設して終わりじゃないんだ。自分にできる戦いをしなくては!
3年生はふんすと気合を入れて教室を飛び出した。
自分にできること、得意なこと、そんなのは一つしかない。
3年生は自分たちの部室の隣にある準備室に飛び込んだ。
そこには、他にも同じことを思った仲間がいた。
2人は今の感動を、衝動を言葉にできず、ブンブンと手を振って想いを伝えあう。
他者から見れば全く分からないジェスチャーだったが、今の2人には言葉よりも明確にお互いの意志を確認できた。
そんな場面に、さらに2人の仲間が入ってくる。
その2人もわたわたと手を動かして、今の気持ちを先輩である2人に伝える。
そんなことがどんどん続き、顧問の先生もやってきて、あっという間にいつものメンバーが揃ってしまった。
「私たちだって修行部兼部だもんね。やるぞ!」
「「「おーっ!」」」
少女たちは拳を振り上げて気合を入れる。
「全員、班になって活動開始!」
「「「おーっ!」」」
3年生は、仲間たちに指示を出して自身もまた班を率いて校舎に繰り出す。
校舎では、至る所に怯える子供がいた。
魔法少女部隊の活躍は大人たちをとても興奮させたけれど、子供もそうだとは限らない。
気の弱い子は、魔物の行進や鳴き声、魔法の音や大歓声にビックリして泣いてしまっている子もいる。特に赤ちゃんなどは顕著だ。
3年生はそんな子供の下へ行き、仲間たちと共に自分たちのできることを始めた。
それは吹奏楽部による小さな演奏会だった。
3年生は、ユーフォニアムを奏で、他の子もまたそれぞれが管楽器を奏でる。
泣いている子をさらに泣かさないように、とても優しい音色だ。
子供たちは、お姉ちゃんたちが何か凄いのを持ってきたことに度肝を抜かし、次いで自分の前でそれを吹いてくれたことに興味を惹かれていく。
こんな時に何をしているんだ? と疑問符を浮かべた大人たちも少女たちが何をしたいのか理解して、自分たちも観戦ばかりしている場合じゃないと悟った。
各所に散らばった吹奏楽部の少女たちの下に、どんどん他の部活の子が集まり始めた。
ある赤ちゃんの前では、声優部が音楽に合わせてパペット人形をコミカルに動かして。
ある教室では、合唱部のメンバーと共にお年寄りにも分かる童謡が披露され。
またある教室では、吹奏楽部とバンド部のコラボが始まり。
みんな、友達が戦っていることに感じ入り、自分にできる戦いを始めていた。
茶道華道部はのど越し爽やかなお茶を量産して配って回り、料理部では昨日から始めていたご飯づくりを再開し、書道部ではとっておきの大布に応援の言葉を書き。
戦いが苦手な運動部の子は、怖かったレベル教育を終えてから育んだ力をどのように使うか考える。
ある者は勇気を振り絞って武器を持ち、またある者は文化部の子の荷物を運ぶ手伝いを始める。
中庭でも、テイマー少女たちが頑張っていた。
このタイミングで『女子高生』から『見習いテイマー』になったのは、きっと何か意味がある。
そう思った彼女たちは、自分たちがテイムした野良猫、鹿、ウサギたちと今一度、心を繋げる。
戦いてぇっす!
レベル上げしてぇっす!
テイマーとして未熟なので正確には分からないが、そんなことを言っているような気がする。
「待ってね。もうちょっとの辛抱だよ」
そう言い聞かせ、落ち着かせる。
そこに工作部の子たちが青空修行道場のお婆ちゃんたちを引き連れてやってくる。
「急ごしらえだけどなっ!」
手先が器用なちびっこの先輩が魔狩人の黒衣動物版とダンボールの具足をつけていく。
魔狩人の黒衣はカーテンを使用した物で、ダンボールの具足の色は素材のままだ。
防具を借りなかったお年寄りが多い中、当のお年寄りは戦えない自分たちよりも戦力になりそうな獣たちの装備を女子高生と一緒になって作っていた。それが完成したのだ。
なお、ペットは外から搬入された獣装備をつけている。格差ぁ……っ!
「ありがとう、みんな! 良かったね、キャラメル!」
キャラメルと呼ばれた鹿は、身体に魔狩人のカーテンを、脚と首にダンボールの具足をつけ、喜ぶようにジャンプする。
半年前のあの日、地球さんは自分たちにこう告げた。
君たちは自分たちが思っているほど強くない。
魔物は君たちを容易に倒してしまうから、強くなりたいのならば人のやり方を学べ。
人と共にあるも良し、人を観察して独自の方法で強くなるも良し。
そうして、君たちが夢見る力強い生命体を目指しなさい、と。
防具を得て、その一歩目が今なされた。
これで自分たちは凄くなれる。
動物たちは喜ぶけれど、少しだけ勘違い。
彼らに与えられたのはそこまで強い装備ではないので、まだまだ死ぬ可能性は十分にある。
けれど、動物たちはやる気満々でテイマー女子たちの周りに集まるのだった。
今、風見女学園の多くの生徒たちが自分にできる戦いを始めた。
それは新しい世界のスイッチをパチリと入れる。
《Sインフォ・特定の組織が条件を満たしました。魂に称号【風見女学園】が芽生えます》
初めに気づいたのは魔力の回復を確認していた魔法少女だった。
空欄だった自分の称号に、【風見女学園】の文字がひっそりと現れていたのだ。
「ユリ、ユリ、なんかある!」
「サエコちゃん、レベルが上がったからって興奮しちゃメッ!」
「違うよ! 称号になんかあるんだって!」
「えー、もう……ホントだ!」
500の軍勢を落として休憩中の魔法少女たちに、その情報は瞬く間に広まった。
その後、すぐに『水属性魔法団』という新しいジョブが出現していることにも気づく。
それは冷たいお茶を持ってきた茶道華道部の部員に知らされ、今度は校舎内の生徒たちに知れ渡る。
そうして自分たちもステータスを確認してみれば、1人また1人と新たなジョブが芽生えていることに気づく。それは、ダンジョン内ではお目にかかることのない大規模集団連携を主としたジョブだった。
『音楽団』『合唱団』『演劇団』『補給団』……『見習い』というカテゴリーにない新種のダンジョンジョブであった。
【風見女学園】
・この称号を持つ者が一定範囲内に100人以上集まると、その全ての者に【ジョブ性能アップ 超極小】が発動する。
「うむ!」
部長は、腕組みをして大仰に頷いた。
冷静な素振りだが、とんでもなく嬉しい。
修行部として何かお得なことがあると良いな、楽しくみんなで強くなる方法はないかしら。
そんな風に考えて始めた魔法少女化計画。
それはどんどん大事になり、ついにはこんなところまで来てしまった。
その中心で働いてきた部長が、この結果を見て嬉しくないはずがなかった。
わいわいする女子高生たちを見て、部長はひっそりと袖で目元を拭うのだった。
「我ながら凄い学校に入学したな」
命子は、自分の称号にも生えているそれを見て楽しくなった。
命子の知る限り、称号に組織名が出たという情報はない。自衛隊ですらも持ってないのだ。
たぶん、イベントで何かしらの条件を達成しなければならないのだろう、と命子は考えた。
「んふふぅ、無敵の学校に近づいたデスね」
ルルも同じく、確認したステータスを消しながら笑う。
だな、と返す命子は、近くで湧いたF級の魔物の相手を始める。
魔物は小康状態になっているが未だ散発的に湧いて出てくる。
油断はできないのだ。
現在の命子はジョブを『魔導書士』にしているが、【風見女学園】の効果で性能は上がっているのかわからなかった。この称号は、きっと群れとしての総合能力が上がるのだろうな、と命子は考えた。
そんな命子の下へ、ぴゅーんと飛んでくる物体があった。
命子は、魔物かと思って一瞬身構えるが、よく見れば光子であった。
命子は腰のポーチからスマホを取り出し、萌々子に電話を掛ける。
「どした、モモちゃん」
校舎を見れば、萌々子が軽く手を振っている。
『うん。荒れちゃった校庭を直そうかと思って』
「え、できんの?」
『休み休みでなら全部できそう』
「おー、それは助かるね。隊長に言ってみる」
そうして小隊長にお話しすると、是非お願いしたいということだった。
そのためのボディガードは、命子とルル、命子のお父さん、ルルのパパママ、が受け持つ。さらに小隊長も指示役兼ボディガードでそばに来る。
校庭に子供が出てきて、冒険者たちから注目が集まる。
萌々子は若干緊張気味だ。
「光子、お願い、この辺りの地面を平らにして」
萌々子はどのような結果を望むのか、光子にイメージを渡しつつ、自身の魔力を8割ほど渡す。
受け取った光子はわたわたと手を動かしてから、思い出したようにラジャーとおでこに手を置いた。
「こういうのどこで覚えさせてるんデス?」
「お姉ちゃんが覚えさせてます」
「メーコ……今度ワタシも覚えさせるデス!」
光子は、水弾で抉れぐちょぐちょになった地面に手を置き【精霊魔法】を使用する。
すると、ぐちゃぐちゃだった地面から水が引き、抉られた地面の深さに合わすように地面が平らになった。よく見れば、若干斜めになっているが気づかない程度だ。
「すげぇ!」
「「半端ないデス!」」
「おーっ、これは助かりますね」
命子とルル、ルルママが驚愕し、小隊長も手放しで褒める。
萌々子は若干ドヤ顔で、そうでもないよー、などと言っている。
「あっ、お父さん、そいつならお手ごろだから任せた」
「あ、おう。流さん、やりましょう」
「え、ええ」
娘にぞんざいに命令されて、父親2人は出現したばかりのF級の敵と戦い始めた。
萌々子は、特に戦いの要所となる階段下中央付近の15×5メートルを元に戻した。
存在しない土を出現させるのは魔力を多く消費するらしく、先ほどと同じように抉られた深さに合わせる形になる。
これにて萌々子が上げた魔力をオーバーしてしまうようなので、このセットは終わりにしようかと思ったが、命子の魔力もついで60ほどあげて、さらに15×5メートル復元させる。
光子は魔力の好き嫌いが激しいので、受け取らない魔力も多い。だから、これにてこのセットは終わりである。
まだまだ魔法で抉られている部分は多いが、これだけでも大分違った。
また大群が攻めてくれば同じ戦法が用いられるかもしれないが、それまでの間の戦いの疲弊度がかなり変わってくる。服に泥が付着するわずらわしさもなくなるし。
萌々子は、自分も役に立っているんだととても嬉しくなるのだった。
読んでくださりありがとうございます!
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【連絡】今回より隔日更新から、週2回『木・日』更新に変更させていただきます。楽しみにしていただいている中、更新ペースが落ちてしまい申し訳ありません!
次回の更新は木曜日になります。今後もよろしくお願いします。
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